東京電力福島第1原子力発電所事故を巡り、福島県内から首都圏への自主避難者ら47人が国と東電に慰謝料など約6億3千万円の損害賠償を求めた集団訴訟の判決が16日、東京地裁であった。水野有子裁判長は国と東電の双方の責任を認め、原告42人に対して約5900万円の支払いを命じた。

国と東電に賠償を求めた集団訴訟の判決は5件目で、東京地裁を含めた4件で国が敗訴。地裁段階では事故を防げなかった国の責任を認める流れが定着しつつあり、高裁の判断が注目される。

 水野裁判長は判決理由で、2002年に政府の地震調査研究推進本部がまとめた巨大地震の「長期評価」によって、国や東電が02年中には10メートル超の津波の襲来を予見すべきだったと指摘。「原子炉建屋の水密化などの対策で原発事故を回避できた」と述べ、対策を取らせなかった国の対応が違法だったとした。

 訴訟では、避難指示区域外からの自主避難者に対する慰謝料の金額も争われた。

 東電などは、国の指針に基づく慰謝料(原則1人12万円)を超える賠償責任はないと主張。これに対し、判決は「健康被害の危険から自主避難した判断は合理的だ」とし、「原告らは居住地を自由な意思で決める権利を侵害された」として最大200万円の慰謝料を認めた。

 家財の購入費なども含めた賠償額は1人当たり42万〜約406万円とした。

 原告側の弁護団によると、判決は原告4人が避難後に小学校でいじめを受けたと認定し、慰謝料を増額した。

 判決後、記者会見した原告の女性は「子供を守るために避難したが、精神的に苦しかった。ようやく(勝訴の)判決が出て、言葉が出ない」と声を震わせた。

 原子力規制委員会は「国の主張について裁判所の十分な理解が得られなかった。関係省庁と対処方針を検討する」と説明。東京電力ホールディングスは「判決内容を精査し、対応を検討していく」とコメントした。

 国に賠償を命じた判決は17年3月の前橋地裁、同年10月の福島地裁、今月15日の京都地裁に続いて4件目。17年9月の千葉地裁判決は東電だけに賠償を命じ、国への請求は退けた。いずれも控訴審で争われている。

 国と東電の双方を訴えた集団訴訟は約30件。ほかに東電だけに賠償を求める訴訟もある。このうち、福島県南相馬市の住民らが起こした訴訟では、2月の東京地裁判決が東電に11億円の支払いを命じた。
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