先日、日帰り出張で大阪へ行った帰りに、新幹線の乗車時間まで少しあったので、改札前にあるアレを買いに行ったところ、長蛇の列ができていたので泣く泣く断念した。

そう聞くと、出張族の方ならばピンとくるのではないか。そう、「アレ」とはほかでもない「551蓬莱」の豚まんのことだ。

 関西圏の方ならば子どものころからテレビCMなどでおなじみのこの豚まんは、東京から訪れる観光客やビジネスパーソンにとって「定番」といってもさしつかえない土産物になっている。

 平日の夕方から夜にかけて新大阪駅を利用した方ならよく分かると思うが、駅構内にある「551蓬莱」を扱う売り場には、「チルド豚まん」を友人や家族への土産に買い求める方や、できたてのホヤホヤの豚まんを、座席で一杯やる際の「おつまみ」としたい出張族のおじさんたちが列をなしているのだ。

 という話をすると、必ずといっていいほど「そういう無神経なバカがいるからこっちは迷惑するんだ!」とかみついてくる人がいる。ご存じの方も多いかもしれないが、実はいまこの「豚まん」を新幹線の車内で食うべきか、食わざるべきかという大論争が起きているのだ。

●「反豚まん派」の主張が実現する日

 食うべからず派の主張としては、豚まんのように強烈な臭いのするモノを車内で広げられたら、気分が悪くなる人もいるし、目的地まで眠りたい人の邪魔になる、というのだ。逆に食欲がそそられるので、「豚まんテロ」などと呼ぶ人もいる。いずれにしても一定数の方たちが、車内で「551蓬莱」を食すのは重大なマナー違反で禁止すべきだと声を上げているのだ。

 「はあ? そんなことでいちいち目くじらをたててたら駅弁はどうすんだよ」という反応の方も多いことだろう。新幹線車内でハイボールを飲みながら、豚まんをほうばることを出張の楽しみにしている筆者もまったく同感だが、個人的な思い入れを差っ引いてみると、おそらくいずれはこのような「反豚まん派」の主張が現実のものになってしまうのではないかと考えている。

 根拠は、「551蓬莱」が新幹線利用者にここまで人気となったプロセスのなかにある。

 関西ではもともと人気だったこの豚まんが出張族からいまのような支持を集め始めたのはいまから20年ほど前のことだ。『大阪学』なんて本がスマッシュヒットとなり、「大阪ブーム」が起きた1994年の『日経流通新聞』(1994年5月3日)には以下のような記述がある。

 「JR新大阪駅や、大阪駅の店舗は週末になると、出張帰りのサラリーマンや、旅行者の行列ができるほど。それぞれ93年度(93年4月ー94年3月)は前年度比9.4%増、13.2%増の高い伸びを示した。夕方、上りの新幹線の車内は、「ぷーんと豚まんのにおいが漂っている」といううさわが広がっている」

 この時点で既に車内の「豚まんをつまみに一杯」は定番化しており、出張族の間に確固たる地位を築いていたことがうかがえる。

 蓬莱のWebサイトにある歴史をみると、大阪駅に出店したのは1981年、新大阪駅に出店したのは85年なので、このあたりから東京からの観光客や出張族の間でじわじわと浸透していった。人気の理由はよく言われる「ひとつひとつ手作り」「安いのにボリュームもあってジューシー」「直営店展開のみで関西圏でしか購入できない」などがあるが、「旅のお供」としてここまでの大ブレイクを果たしたのは、実は「ライバル」の栄枯盛衰が大きく関わっている。

 それは「たこ焼きの車内販売」だ。

●車内で「たこ焼き」を食べることが禁止に
「豚まん」の臭いを不快に感じている方たちからすれば卒倒しそうなほど気色の悪い話かもしれないが、実は1987年から東海道新幹線(東京ー大阪間)で「たこ焼き」が車内販売されていたことがある。

 『東海道新幹線の約半数の列車で車内販売を担当しているジェイ・ダイナー東海の大阪営業所だけで、1ヶ月間に計3万-4万個、ゴールデンウィークなどの混雑期には1ヶ月で8万ー10万個は売れるという。(中略)子供や女性客に人気のたこ焼きだが、「酒のつまみに最適」と男性客もファンが増えている』(日本経済新聞 名古屋版 1989年5月4日)

 バブル華やかなりし80年代後半、新幹線のなかで「たこ焼き」をほうばるのは、多くの日本人にとって当たり前の行為だったのだ。車内のレンジでチンをするモノだったが、温めてソースをかければ当然、たこ焼きの臭いがむわっとたちこめる。これを車内販売で扱っていたわけだから、東海道新幹線車内がどんな状況だったのか、というのは容易に想像できよう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180313-00000026-zdn_mkt-bus_all