子供を有害な情報から守るための青少年インターネット環境整備法の成立から今年で10年。携帯端末の閲覧制限(フィルタリング)機能の普及を柱とした対策は、SNS(交流サイト)の広がりで曲がり角を迎えている。優良サイトを認定する第三者機関、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の岸原孝昌理事に聞いた。

――閲覧制限の利用率は40%台で低迷しています。

 「スマートフォン(スマホ)時代に入り、ツイッターなど認定を受けていないSNSや制限対象のアプリでも、保護者の判断で部分的に解除できるなど選択肢が多様化したが、親にとって見極めは容易ではない。またアップルが自社独自でアプリの利用を制限するなど、閲覧制限の提供が通信事業者だけでなくなり、手続きが格段に複雑になった。利用者が明確に判断できるようなわかりやすい仕組みが必要だ。たとえば新しいアプリが登場したら、いち早く特徴を分析してリスクも含めた評価を中立的に提示する機関だ」

 ――整備法の成果をどう総括しますか。

 「改正法が2月に施行され、閲覧制限の普及強化策が盛られた。閲覧制限が重要である点は変わらないが、青少年保護対策には保護と健全育成の方向性が異なる2つの要素がある。保護・安全だけでは、将来リスクに対処できない大人を作ることになる。法成立時からEMAはそのバランスを課題にしてきた」

 「性的マイノリティーの子供が悩みについての情報を得られるサイトを制限して構わないのか、といった問題は当初からあった。なるべく細かな分類基準を採用する配慮が必要と、閲覧制限ソフトを提供する通信会社にも働きかけてきた。保護者や社会の声だけを反映すれば過剰制限になり、迷惑を被るのは当の青少年だ。結果、閲覧制限離れが起こり、事業者は優良サイトとして個別にEMA認定を受けるメリットを感じなくなる」

――国際的な企業への対応は。

「端末の基本ソフト(OS)で独自に制限するアップルは日本では通信会社の閲覧制限ソフトと、アプリの年齢制限で対応してきた。最近、OS機能で両方に対応することも技術的に可能となり、このOS機能で出会い系サイトの対象年齢を引き上げた。『OSは世界共通』という姿勢だったが、中立機関のEMAが働きかけ、『18歳未満は利用できない日本の法律を尊重する』という考えが共有できた。アップルの制限機能全体を簡易に活用できる可能性が出てきた。またツイッターがアップル向けアプリの利用年齢を引き上げる動きもあった」

「反対に、アニメなどで日本では問題にならない表現が、宗教的価値観の違いからか若年層に制限されるケースがある。日本企業同士で分かり合っても、確たる理念と方針をもつ国際企業には通じない。日本文化を理解してもらう努力があって解決策が見つかる」

――神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件はSNSが悪用されました。

「社会全体のセーフティーネットの欠如を浮き彫りにした。すべての関係者による公共的な取り組みとしての青少年保護の仕組みを日本は生み出していかなければならない」

「特定サイトなどの事業者に対応を押しつけがちだが、個別利益を考えていては表現の自由、日本の文化的価値観が知らぬ間に社会全体で失われていく。昨年、LINEなどSNS事業者が協議会を立ち上げた。青少年対策の先発サイトが新しい事業者と経験を共有していくことに期待したい。行政も権限を独占するのでなく、事業者がメリットを実感できるような官民協働の参加システムを構築するよう意識転換してほしい」(聞き手は編集委員 田原和政)
2018/3/4 22:49
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27682520U8A300C1000000/