国や地方自治体による受動喫煙の撲滅に向けた動きが、思わぬ余波を広げている。

 2月22日に開かれた自民党の厚生労働部会で、受動喫煙対策の強化を目的とした健康増進法改正案が了承された。医療施設や小中高・大学、行政機関は屋内に限らず敷地内を禁煙にするとともに、飲食店やホテルは“原則”屋内禁煙にする方針だ。

この記事の写真を見る

■一定の条件下では喫煙可能

 禁止されている場所での喫煙は、行政機関による指導などに従わなかった場合、最大30万円の過料を科すほか、禁止場所への喫煙設備の設置や設置基準を満たさない喫煙室の使用は、施設管理者に最大50万円の過料が科される。閣議決定を経て、今国会に法案が提出される見通しで、2020年の東京オリンピック・パラリンピック前までの全面施行を目指している。

 飲食店などで「原則」という但し書きがあるのは、完全に煙が外に漏れないようにした喫煙専用室を設ければ喫煙が可能となるからだ。

 さらに、飲食店は「個人経営か資本金5000万円以下」で「客席面積100平方メートル以下」の小規模店について、「喫煙可」などの表記を行えば喫煙が可能であるとした。

 では、客席面積100平方メートル以下を規制対象外とした場合、どの程度の飲食店が喫煙可能になるのか。

 国に先んじて、すでに受動喫煙防止条例を施行している神奈川県と兵庫県でも「客席面積で100平方メートル以下」を対象外としており、両県では8割程度の飲食店が「喫煙可」などと表示があれば喫煙可能になっている。

 国の試算によると東京都・山形県・愛媛県の調査を参考に、最大約5割強の飲食店が喫煙可能になるとみている。ただ神奈川や兵庫の例を踏まえると、喫煙できる飲食店の割合は地域によってバラツキが出る可能性が高い。

 こうした国の動きで”待ちの姿勢”に転じたのが、東京都だ。東京都は条例案を2月から始まる定例会に提案、都議会で議論が行われる予定だった。

 だが、検討していた条例案と国の法案とで規制対象となる施設などの区分が異なることを受け、「条例施行後に混乱をきたさないため、国の法案の詳細が固まるのを待ってから条例案を提出することにした」(東京都)。

現状では国の法制化の動きを踏まえたうえで、6月の東京都議会の定例会で条例案が議論される予定だ。

■改装の判断ができない

 この先送りによって右往左往しているのが喫茶店や居酒屋などの飲食事業者だ。都内を中心に喫茶チェーンを運営する企業の幹部は「規制の詳細が決まらないと、出店や改装をする際に分煙でもいいのか完全禁煙にしないといけないのか判断ができない」と吐露する。

 別の居酒屋関係者は「分煙にする際は単純に壁を作るというだけではなく、給排気の設備などそれなりに投資をする必要がある。ルールが決まらないと、新規出店の際も分煙でいいのか、完全禁煙にするべきか迷う」と話す。

 これらの飲食店が最も気にしているのが、喫煙可否を判断する飲食店の面積基準だ。というのも、国の案では客席面積100平方メートル以下を喫煙可能とするのに対し、東京都は昨年秋に店舗面積30平方メートル以下のみを喫煙可能にする方向で検討を開始しているからだ。

 仮に30平方メートル以下を基準にした場合、都内の飲食店の約3〜4割が規制対象外(東京都の「飲食店における受動喫煙防止対策実態調査」)になり、国の法案や他県の条例よりも喫煙できる飲食店の割合は少なくなる。

 組合員の多くが中小飲食店で組織されている東京都飲食業生活衛生同業組合の宇都野知之事務局長は「規制対象外が30平方メートル以下になってしまうと、多くの店が原則屋内禁煙になる。金銭的にもスペース的にも喫煙室を設ける余裕がない所が多く、禁煙となれば一時的でも客数減は避けられない」と危機感をあらわにする。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180227-00210273-toyo-bus_all