仏ルノーは15日、カルロス・ゴーン氏が最高経営責任者(CEO)として続投すると発表した。日産自動車や三菱自動車を含む3社連合のかじ取りも引き続きゴーン氏に託される。CEOとしての任期は4年。日産とルノーの経営統合論もくすぶる中、ゴーン氏だけに依存しない新たな3社連合の形を作れるかどうかが問われる。

ゴーン氏は今後4年間の目標の一つとして「3社連合を持続可能なものにすること」を挙げる。ルノーの筆頭株主である仏政府も3社連合の「深化」を求めている。ゴーン氏は仏AFP通信の取材に対し「全ての選択肢があり、タブーは無しだ」と3社連合の持ち株比率を変える可能性にも言及した。

 ゴーン氏は続投受け入れに当たり、報酬30%の減額にも応じたという。2016年には約700万ユーロ(9億3千万円)の受領が決まっており、高すぎるとの指摘が一部にあった。

 今回の人事案では、ゴーン氏の後継者候補として現在はものづくり部門の責任者を務めるティエリー・ボロレ氏を空席となっていた最高執行責任者(COO)に指名した。報酬を減らすのは、ボロレ氏に徐々に権限委譲する意向を象徴的に示すためとみられる。

 1999年に資本提携したルノーと日産は2014年に「研究・開発」「生産技術・物流」「購買」「人事」の4部門の機能を統合するなど、あたかも1つの会社であるかのような状態まで関係を深めてきた。

 プラットホーム(車台)や部品の共通化などによるコスト削減や売り上げ増などのシナジー(相乗)効果は16年度に前年度比16%増の50億ユーロ(約6600億円)に達した。どちらか一方が資本の論理で支配するのではなく、独立した企業が経営資源を補い合う「緩やかな連携」を、ゴーン氏が両社のトップを務めることで実現してきた。

■中国でカーシェアも

 ただ、カーシェアリングの普及や自動運転技術の進化などに伴い、自動車業界の競争軸はものづくりから顧客基盤の利活用へと移りつつある。

 米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は35年には自動車業界のプロフィットプール(市場全体の営業利益の総和)の4割は自動運転車やカーシェアリングなどの新たな製品・サービスが生み出すようになると予測する。

 特にカーシェアリングが生み出す営業利益の総和は35年に760億ドル(約8兆円)に達し、エンジン車やハイブリッド車(HV)など従来型の新車販売が生み出す営業利益(600億ドル)を上回ると見込まれている。BCGのトーマス・パルメ氏は「既存のプレーヤーに競争優位性のない領域が拡大する」と指摘する。

 ゴーン氏らも手をこまぬいているわけではない。3社連合の技術担当役員として通信業界出身のオギ・レドジク氏を任命。今年2月には中国のライドシェア最大手、滴滴出行と提携し、中国で電気自動車(EV)などを使ったカーシェアリング事業に参入すると発表した。

■ルノー・日産統合「メリットない」

 4億5000万人を超える顧客基盤を抱える滴滴と組むことで中国におけるEVの販売増につなげる狙いだが、3社連合はあくまで滴滴が同時に提携した中国EV最大手比亜迪(BYD)など自動車メーカー12社の中の1陣営という位置づけだ。完成車メーカーが提携相手を自由に選べる時代は終わり、主導権は事業の基盤となる製品やサービスを握る「プラットフォーマー」に移りつつある。

 ゴーン氏に依存せず、こうした環境変化に対応するためにも、3社連合は新たな提携戦略が必要になる。ルノーと日産の経営統合について日産の西川広人社長は「メリットが見えない」と否定的だ。マクロン仏大統領は過去に経営統合を進めようとしてゴーン氏と衝突した経緯があり、再度の呼びかけはしにくい雰囲気だ。当面は別々の会社として協力関係を深めるアプローチが続きそうだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26999970W8A210C1000000/