政府は来年の春闘において、3%の賃上げを実現するよう経済界に強く求めています。企業側もある程度、応じる姿勢を見せていますが、賃上げが実現しても実際には年収は増えないとの声も聞こえてきます。給料が上がっても、年収が増えないというのはどういうことなのでしょうか。

安倍首相は10月末に開催された経済財政諮問会議において賃金について言及、企業側に3%の賃上げを実施するよう強く求めました。

 中国のような社会主義国家は別として、資本主義の国において政府トップが企業の賃金に介入するというのは異例の事態ですが、日本では数年前から政府が民間の賃金に介入するのがごく当たり前の光景となっています。企業側は慎重な姿勢を崩していないものの、ある程度はこの要請を受け入れる方針と言われます。

 政府が企業に賃上げを強く求めるのは、言うまでもなくインフレ目標を達成するためですが、仮に3%の賃上げが実現したとしても、現実には年収は増えないとの指摘も出ています。その理由は、働き方改革によって残業代が大幅に抑制されるからです。

 政府は働き方改革を掲げており、企業に対して長時間残業を抑制するよう求めており、罰則付きで残業時間の上限規制を導入する方針です。大和総研の試算によると、この上限規制が導入された場合、日本全体で8兆5000億円の賃金が抑制されるとのことです。これは日本の労働者が受け取る賃金全体の約3.2%に相当します。仮にこの試算通りになった場合、何もしなくても労働者の年収は3.2%減ってしまいます。ここで3%の賃上げを実施しても、元の水準に戻るだけで現実の年収は増えないという状況になります。

 年収を増やすという観点で考えれば3%の賃上げではまだまだ不十分であり、もっと高い水準の賃上げが必要という話になりますが、企業側が3%以上の賃上げに応じる可能性は低いでしょう。

 それでも労働者にとっては、残業が減っても年収が減らないのは良いことといえます。年収が維持されるのであれば、残業の抑制で余った時間を余暇への消費に使うという選択肢が生まれてきます。

 ただ、この政策によってインフレ目標が達成できるかどうかはなかなか難しいところでしょう。賃金をめぐる政府と経済界の綱引きは当分続きそうです。
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