日産自動車が完成車を無資格者に検査させ、116万台のリコール(回収・無償修理)を届け出た問題に新たな疑惑が浮上している。

 国土交通省によると、資格のある検査員がやったと装うため、書類上では正式な立場の者の判子が押されていたという。さらに、有資格者の印影の異なる複数の判子が使用されていた形跡もあった。

 西川広人社長らの「現場の認識不足」という説明とは異なり、組織的な偽装工作の広がりをうかがわせるものだ。消費者の信頼を裏切る重大な背信行為とも言える。

 リコールで約250億円の費用がかかるが、さらに経営への打撃となる恐れがある。消費者のモノづくり企業への不信も招きそうだ。

 自動車メーカー各社は道路運送車両法に基づき、完成車の出荷時にブレーキやライトなどを最終的に点検する。国による品質チェックを代行する制度であり、各社が研修などを通じて認めた検査員にしかできないことになっている。

 ところが、日産では国内全6工場で、資格のない補助検査員が日常的にやっていたことが、国交省の抜き打ち調査で明らかになった。

 西川社長は記者会見で「検査そのものは確実にやっていた」と強調したうえで、「検査工程の意味が現場で十分に認識されていなかった」と釈明した。しかし、偽装工作の疑いは、不正な検査をしていることを現場が熟知したうえで、隠そうとした可能性を示している。

 国交省は同じような問題がないか自動車メーカー各社に確認を求めるとともに、日産の管理体制などを厳しく問う方針だ。

 日産も第三者を交えた組織で調査し、再発防止策をまとめるという。いつから誰の指示で不正が始まったのか、なぜ改められなかったのかなど、実態と経緯の解明は欠かせない。

 日産は、仏ルノー出身のカルロス・ゴーン会長による改革を進め、コスト削減や省力化とともに規模の拡大を追ってきた。こうした経営のあり方が背景にあるのではないか、との見方を西川社長は否定する。

 安全性と品質を担う現場に効率化ばかりを重んじる空気が広がっていないか、そんな視点から経営を再点検することも必要だろう。
https://mainichi.jp/articles/20171009/ddm/005/070/043000c