外食企業によるM&A(合併・買収)が活発化している。
居酒屋「はなの舞」を展開するチムニーは、同じく「酔虎伝」を展開するマルシェと資本業務提携した。
チムニーは関東圏に強く、マルシェは関西圏や郊外に強い。
なぜ地域補完を急ぐのか。
そこには「人手不足」という根深い事情がある――。

■外食企業大手がM&Aを積極的に活用

外食企業でM&A(合併・買収)や資本業務提携が活発に行われている。
6月27日、「はなの舞」「さかな屋道場」などを展開するチムニーが、「酔虎伝」「八剣伝」などを展開するマルシェの株式の11.2%を取得し、筆頭株主となると発表した。
出資額は8億円。
これにより、店舗数は両社合計で約1220店となり、国内居酒屋チェーンでは有数の規模になる。

チムニーは今回の資本提携について、「人手不足が深刻化し人件費が上昇するなか、食材の仕入れや物流面などに大きなシナジー効果がある」と説明している。
特に、関東圏に強いチムニーと関西圏や郊外店に強いマルシェの資本業務提携は、互いの強みを補完することになり、今後相互の発展に寄与するとしている。

地域の補完を目的としたM&Aは、ほかにも事例がある。
4月27日、「わらやき屋」などを運営するダイヤモンドダイニングが、中国地方を中心に飲食店を経営している商業藝術を完全子会社化すると発表した。
ダイヤモンドダイニングは、昨年8月、ハワイアンレストランなどを展開するゼットン(ZETTON)をM&Aしており、現在は約340店の飲食店を展開している。
ここでも、ダイヤモンドダイニングが積極的に参入していない中国地方に強みをもつ商業藝術を傘下におさめることで、地域の補完やエリア展開の拡大を目的としている。

7月27日には、「丸亀製麺」などを運営しているトリドールホールディングスが、立ち飲み居酒屋「晩杯屋」などを展開するアクティブソースの株式を約10億円で取得し、グループ化すると発表した。
時代のニーズに適合した「晩杯屋」の業態力とトリドールの資金力や店舗開発力などのノウハウが加わることで出店速度を加速させ、早期に国内500店舗を目指すという。

この他、17年4月、「杵屋」や「そじ坊」などを展開しているグルメ杵屋は、銀座の老舗そば屋「銀座田中屋」を買収している。
さらに16年6月には、吉野家が人気ラーメン店である「せたが家」を買収している。
背景には、飲食業界において新業態開発のニーズが上がっていることがある。
これまで飲食チェーン店の強みは「同一業態同一名称」だったが、顧客ニーズの変化によって、より「個店化」しなければ生き残れなくなっている。

こうした顧客ニーズの変化は、SNSによる影響が大きい。
スマホの普及で、「食べログ」をはじめとした口コミサイトや、インスタグラムやフェイスブックといったSNS経由で来店する客が増えている。
このため、今までなかなか入りづらかった「個店」が身近な存在に変わり、一方でチェーン店は「個性に欠ける」として避けられつつある。
こうした「個店化」の流れに対し、すでに成功している店舗やブランドを買収することは非常に効率的な戦略と考えられる。

■だれも「居酒屋」では働きたくない

このように外食企業のM&Aが活発化している背景はなんだろうか。
ひとつは慢性的な人手不足だろう。
リスクモンスター社が2017年3月に発表した、「第3回 就職したい企業・業種ランキング調査」 によると、「小売・外食」は就職したい業種ランキングで最下位となっている。

人手不足は、飲食業界における大きな課題となっている。
人がいなければ、新店舗を出すこともできない。
人手不足は企業成長のボトルネックになってしまう。
だが、すでに人材のいる企業をM&Aできれば、人も店舗も同時に手に入る。
企業の成長を考えた場合、M&Aは当然の戦略であると考えられる。

また、飲食業界は「規模の経済」が働きやすい業界でもある。
ある一定の地域に集中出店している店舗を一気にM&Aしたほうが、1店舗ずつその地域に出店していくよりも、あらゆる面で効率的である。
自社が出店していない空白地域や弱い地域などの企業をM&Aすることは、競争戦略として非常に有効だろう。

加えて、吉野家やグルメ杵屋のように、新業態開発やブランド補完のために、M&Aを活用していくことも今後増加していくと考えられる。
今後、飲食業界においては、M&Aはますます増加していくことが考えられる。

プレジデントオンライン 2017/8/9(水) 18:50
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170809-00022739-president-bus_all

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