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2017/6/14 13:31

 トランプ米大統領が応援する石炭産業への逆風がやまない。英BPが13日発表した世界エネルギー統計によると、2016年の世界の石炭生産量は前年比6.2%減の36億5640万トン(原油換算)となり、過去最大の落ち込みとなった。なかでも米国は19%減と深刻だ。競合の天然ガスと再生可能エネルギーが競争力を高めており、トランプ氏の思惑通りに石炭産業が盛り返すかは不透明だ。

■石炭の運命が暗転

2016年の米国の石炭生産量は19%減った(ワイオミング州の炭鉱)=ロイター
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2016年の米国の石炭生産量は19%減った(ワイオミング州の炭鉱)=ロイター
 「過去数年間、石炭の運命が暗転する速度はとても厳しいものだった。石炭が世界の(エネルギー)需要増で最も多かったのはわずか4年前だ」。BPのチーフエコノミスト、スペンサー・デール氏は13日の記者会見で、16年の最大の特徴は石炭だと説明した。デール氏は、浮き沈みはあっても石炭の減少トレンドは続くと予測。もちろん、トランプ氏が石炭産業を支援する方針を示していることは織り込み済みだ。

 16年まで世界の石炭生産量は3年連続の減少となる。石油やガス、再生エネなども含めた1次エネルギーに占める石炭の比率は28.1%と、04年以降で最低になった。消費サイドでも明確。世界の石炭消費量は1.7%減の37億3200万トンと、2年連続で減少した。

 とりわけトランプ氏のお膝元、米国は象徴的だ。米国は世界の石炭生産の約1割を占めるが、主要産炭国では最大の落ち込み。石炭消費は8.8%減の3億5840万トンと3年連続で落ち込み、10年で4割近くも減っている。最大の理由はシェールガスだ。00年代から技術開発が進んだ結果、増産が続き米国のガス価格は低下。米国の16年の天然ガス消費量は7億1630万トン(原油換算)と10年で2割増えた。

■シェールガスに次ぎ再生エネも競合に

 さらに太陽光や風力の再生エネも発電コストが下がり、米国での発電量は増え続けている。トランプ政権は石炭産業の低迷は地球温暖化対策が原因と訴える。だが、カリフォルニア州などでは再生エネが石炭火力発電並みにまで低下してきた。割安さが魅力だったはずの石炭が市場競争でエネルギーに敗れているのが実態に近い。

 欧州では、石炭火力発電所の全廃方針を決定済みの英国が半減、ドイツは4%強の落ち込みで3年連続のマイナス。欧州連合(EU)全体では8.9%の減少となり、米欧は「脱石炭」が進む。ただし世界4位の消費国、日本は0.2%減と小幅マイナスどまり。経済協力開発機構(OECD)全体では6.4%減となった。

 新興国が石炭需要を支え続けるというシナリオも変わってきた。最大の消費国、中国の16年は1.6%減の18億8760万トンと3年連続で減少。政府が大気汚染と地球温暖化への対策を進め、国内の石炭の過剰生産を見直した影響が広がっている。

 世界2位のインドが3.6%増の4億1190万トンと突出したのが目立つが、中国の減少傾向は続くとみられる。トランプ氏が温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明したが、中印を含めて他国は協定を順守すると表明済み。温暖化ガスを多く排出する石炭への逆風は続く。

 再生エネは16年の全体の純増分の3分の1を占め、成長率は高い。もっとも1次エネルギー全体に占める比率はまだ4%どまりだ。当面は化石燃料の間で石炭からガスへのシフトを加速させながら、再生エネ普及を待つ形になりそう。BPのボブ・ダドリー最高経営責任者(CEO)は13日、「我々は炭素排出量を減らすための努力を続ける必要がある。BPは(パリ協定の)目的を支持する」と強調した。

(加藤貴行)