http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ06HMH_W7A600C1000000/

2017/6/6 16:39

 住友金属鉱山が金鉱山投資に踏み切った。6日、1億9500万ドル(約210億円)を投じ、2017年度前半にカナダの産金会社から金鉱山の権益を27.75%取得すると発表した。チリ・シエラゴルダ銅鉱山で累計1400億円超の減損損失を計上し、16年3月期と17年3月期の連結業績が連続で最終赤字に沈んだ住友金属鉱山。この反省を生かせるか。

カナダの金鉱山プロジェクトへの投資について会見する住友金属鉱山の土田直行取締役(6日、東京都中央区)
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カナダの金鉱山プロジェクトへの投資について会見する住友金属鉱山の土田直行取締役(6日、東京都中央区)
 同日、都内で開いた記者会見で資源事業本部長の土田直行取締役は「フィージビリティ・スタディ(FS=事業化調査)から参加しているので我々の管理能力でリスクはコントロールできる」とシエラゴルダ銅鉱山との違いを述べた。

 今回投資をするのは、カナダの産金会社アイアムゴールド社(IMG社、トロント市)が92.5%保有するコテ金開発プロジェクト。開発対象の鉱床はカナダ・オンタリオ州ティミンズ市の南南西120キロメートルに位置する。埋蔵量からみて、鉱山の寿命は約17年という。21年に生産を始める予定。今回の投資で同社の金の年間生産量は3トン増えて18トンになる見通し。

 国際政治の混乱に備えて「安全資産」といわれる金。銅、ニッケル、金の3本柱で資源事業を営む住友鉱山にとって金鉱山の権益積み増しは、収益の浮き沈みが激しい資源ポートフォリオの安定につながる。21年度までに金生産量を現在の倍の30トンにする目標を掲げて世界中で金鉱山を探していたが、「銅など他のメタルと異なり、金鉱山の権益が市場に放出されることはまずない」(証券アナリスト)。

 金鉱山投資が進まない中、銅鉱山で暗雲が漂い始める。11年から参画しているシエラゴルダ銅鉱山開発費の膨張だ。14年の生産開始時から生産効率が想定を下回った。予定していた拡張工事は見送り、技術者を急きょ現地派遣するなど住友鉱山は操業率の改善に追われた。想定外の遠因になったとささやかれているのがパートナー会社KGHMとの意思疎通問題だ。KGHMはポーランドの共産党政権下で生まれた国営企業でシエラゴルダ銅鉱山に55%出資している第1位株主だ。住友鉱山の出資比率は31.5%で参画した時点でFSはほぼ完了していた。FSは鉱床の位置や品位などを分析し、開発計画を決める重要な役割を持つ。思うようにいかない開発に「最初からうちがやっていれば…」(住友鉱山関係者)と恨み節も漏れる。

 今回のカナダの案件で、土田取締役はパートナーとなるIMG社について「尊敬できる会社だ。互いに技術の補完ができる」と褒めちぎった。菱刈鉱山(鹿児島県)とポゴ鉱山(米アラスカ州)を持つ住友鉱山は金生産量34位。一方、IMG社はカナダ、南米、アフリカに4つの金鉱山を保有し金生産量は世界25位と住友鉱山の上位に立つ。

 金の国際価格は約1カ月半ぶりの高値圏にある。指標のニューヨークの先物価格は日本時間5日の時間外取引で1トロイオンス1280ドル台で推移。5月上旬につけた直近の安値と比べて6%程度高い。土田取締役によると、この水準で経済性を評価しており、「金価格が暴落してもヘッジができる」とリスクの低さを強調する。

 住友鉱山は18年3月期の最終損益は630億円の最終黒字になると公表している。シエラゴルダ銅鉱山の赤字は縮小する見立てだ。銅鉱山、金鉱山の操業を収益につなげ、21年度には売上高は16年度比27%増の1兆円に、純利益は1000億円を目指す。「世界の非鉄リーダーになる」という住友鉱山の悲願が達成できるか、真価が問われている。

(安原和枝)