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[東京 28日] - 北朝鮮情勢を巡っては焦点とされたタイミングこそ通過したが、かつては距離感のある言葉だった「地政学リスク」を実感せざるを得ない状況は今も続いている。

もちろん、今後の事態の展開を予想することは筆者の能力を超えるが、万が一、有事の際に中央銀行がどのように対応できるか、あるいはすべきかを整理する面ではお役に立てるかもしれない。

<国内の決済や市場の機能維持>

物理的被害を伴うか否かにかかわらず、不安心理が広まれば「予備的動機」あるいは「決済手段」としての現金への需要は高まる可能性がある。銀行システム全体として巨額の超過準備を抱える現状は、少なくともマクロ的にはこの課題に対応しやすい面がある。

もちろん、問題が地域的な偏りを伴って発生した場合の対応には工夫が必要だが、金融機関同士で中央銀行当座預金や現金の融通を促すだけでなく、中央銀行が特定の金融機関に資金を貸し出し、また現金を手当てすることは可能であるし、これまでの自然災害のケースでも実績がある。しかも、中央銀行が早期の段階でこうした措置を採る用意を示すことは、金融市場だけでなく国民の不安心理を抑制することにも貢献する。

より広い意味で資金決済システムの運行を維持することも中央銀行の重要な役割だ。なぜなら、いかなる事態でも経済活動を止めるわけにはいかず、そのためには資金の受払いが不可避的に伴うからである。

フィンテックが進展した将来はともかく、現在の日本の資金決済は、最終的には中央銀行が運営する中央集権的システムによって支えられている。実際、中央銀行は金融機関と共同でさまざまなシナリオによる訓練を行っており、大規模な被災に備えたBCP(事業継続計画)も準備している。

そうしたシナリオは、本稿で想定する「有事」そのものでないとしても、短期かつ局所的な課題から長期かつ広範な課題に関わるとみられ、それらの中には、先に見た資金供給の仕組みと相まって、資金決済システムの運行維持に資する要素が含まれる。

ただ、これらを通じて経済活動の維持に必要な資金の融通が実現しても、金融市場は不安心理などを背景に不安定化するかもしれない。この課題に対処する上でも、中央銀行が政策金利を極めて低位に維持し、国債を大量に買い入れている現状は、少なくともマクロ的には好適な面がある。

もちろん、特定の市場が不安定化した場合の対応には別途の工夫が必要となる。この課題には、最終的には政府の経済対策の発動といった根本的対策が求められるが、中央銀行も、過度な不安心理の払拭(ふっしょく)や市場流動性の短期的な維持といった観点では直接的に資産を買い入れることが考えられるし、実際、金融危機への対応を通じて経験を積んでいる。
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井上哲也
(編集:麻生祐司)
2017年 4月 28日 4:28 PM JST