海苔の不作が続いている。輸入分を合わせても国内需要を満たせるかどうかだという。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がレポートする。

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 海苔の価格が高騰を続けている。2012年から2016年までの4年連続の右肩上がり。その間に平均単価は約1.5倍となった。

 生産量自体はやや不作だった昨年から微減程度。だが、供給にゆとりがあるとは言えない。年間の国内需要は年間で約85億枚とされる。ところがこの5年間でもっとも豊作だった2012年でも生産枚数は82億枚にとどまった。翌2013年は凶作で、危うく70億枚を割り込みそうになった。地球温暖化が原因と思われる高水温や、天候不順による病害など複数の要素が毎年のように作柄にダメージを与えている。2015、2016年も約74億枚と国内需要を満たしていない。

 足りない分は中国や韓国など近隣のアジア諸国から輸入されるが、このところ中国産は、価格もさることながら生育環境の悪化などで減産を余儀なくされている。結果、ニーズが韓国に集中することになってしまい、韓国産も暴騰するという連鎖が起きている。

 そもそも中国、韓国からの輸入海苔でまかなえるのは日本国内の需要に対して10〜15%と言われていた。昨今の国内生産量では、輸入分を合計してもぎりぎり需要を満たせるかどうかという瀬戸際にある。しかも過去の国内の海苔の生産量が落ち込んだ後には、それから数年内に大豊作があったが、昨今は豊作と言える年もない。

 そうした「凶作」の影響でこの春、各海苔メーカーが相次いで海苔の規格変更を発表した。ニコニコのりは4月1日出荷分から家庭用海苔製品、約60アイテムで値上げを実施。大森屋も市販用・業務用の海苔製品を5月1日から値上げし、6月には市販用海苔23品についても値上げや減量など新たな規格で販売する。原料高によって海苔メーカーは苦境に立たされている。

 救いなのは海苔の生産者にシワ寄せが行っていないことだ。例えば、この40年で絶対価格が下落しているもやしなどは流通の下げ圧力が強く、薄利ここに極まれりという状態に。全国に230いた生産者は8年間で100社以上が廃業した。この春には工業組合もやし生産者協会が「もやし生産者の窮状について」という異例のプレスリリースを発表するに至っている。流通の仕組みが異なることに加えて、海苔はもやしほど価格勝負のアイテムではない。もやし生産者ほどの窮地にまでは追い込まれていないところは不幸中の幸いなのかもしれない。

 もっとも原料不足自体は続くわけで、海苔業界も安穏とはしていられない。4月19日付の日本食糧新聞は海苔消費について「CVS(コンビニ)おむすびが消費の3割以上とみられ、業務用中心で原料高の市場安という構図が深まる」と報じた。もしかすると最近のコンビニおにぎりから海苔が巻かれていないタイプが目立つのは、そんな理由もあるのかもしれない。

 流通の下げ圧力は、いつも強い。そしてその下げ圧力を生んでいるのは、「コスパ」という言葉が大好きなわれわれ消費者である。コスト意識は確かに大切かもしれない。だが、正当な対価を支払うことはさらに大切なことだ。その原資は、最終的に労働の対価になるはずのものだからだ。極論を言えば、正当な対価を支払おうとする者のみが、正当な報酬を手にする資格を得られる。そう言っても、決して言い過ぎではないはずだ。

2017.04.23 16:00
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