2018年10月11日 (木) 20:30

 6月23日に開幕した第4期叡王戦も予選の全日程を終え、本戦トーナメントを戦う全24名の棋士が出揃った。

 類まれな能力を持つ彼らも棋士である以前にひとりの人間であることは間違いない。盤上で棋士として、盤外で人として彼らは何を想うのか?

 ニコニコでは、本戦トーナメント開幕までの期間、ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』作者である白鳥士郎氏による本戦出場棋士へのインタビュー記事を掲載。

 「あなたはなぜ……?」 白鳥氏は彼らに問いかけた。
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叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー

『なぜ藤井聡太はフィクションを超えたのか?』


 私は2015年から『りゅうおうのおしごと!』という、将棋界を題材にしたライトノベルを出版している。
 第1巻出版当時、13歳の藤井聡太は奨励会二段。中学1年生だった。
 まだ世界は藤井聡太の存在を知らず……私もほとんど意識していなかった。



 ここで『りゅうおうのおしごと!』について説明しておこう。
 中学3年の秋にプロ棋士となった主人公が、その1年後、16歳で『竜王』のタイトルを獲得する……というところから物語は始まる。
 そしてその竜王位を狙うのが、永世七冠・タイトル100期を目指す絶対王者『名人』。
 主人公は、小学生の幼い弟子と共に様々な苦難を乗り越えて成長し、名人と激闘を繰り広げる……というストーリーである。

 当初、その設定に対して世間の声は厳しいものだった。

『16歳で竜王とか将棋バカにしすぎ』
『現実感がない』
『ラノベ特有のガバガバ設定』

 だが、藤井の登場によって状況は一変する。
 史上最年少となる14歳2ヵ月で四段昇段。
 そしてデビュー後無敗の29連勝で全世界を震撼させると……どういうことか、私と作品への評価も変わってきたのだ。

『りゅうおうの作者、ちゃんと調べて書いてたんだな』
『ラノベが現実になっとる』
『予言者かな?』

 ……今まで荒唐無稽とバカにされていたのが『予言者』などと呼ばれ、先見の明があったと評価され始めたのである。テレビの取材まで受けてしまった。
 イエス・キリストも真っ青な掌返し……。
 とはいえ私は「ありがたいなー」と感じていた。
 2018年1月から始まった『りゅうおうのおしごと!』のアニメ放送にとって、藤井ブームの盛り上がりは確実に追い風になってくれていたからだ。
 しかし……事態は私の予測を遙かに超える展開を見せる。

 アニメも佳境に入った2月。
 藤井は佐藤天彦名人と羽生善治竜王を連続撃破し、決勝戦では今期の竜王戦挑戦者ともなった広瀬章人八段にも完勝。
 朝日杯将棋オープン戦という全棋士参加棋戦に史上最年少で優勝し、これによって五段昇段からわずか16日で六段になる。
 もう『りゅうおうのおしごと!』どころではない。
 15歳で羽生に勝って棋戦優勝。
 完全にラノベを超えてしまった。

『現実に追い越される程度の想像力』
『作者震えてるだろこれ』

 設定に現実感がないと叩かれていた私だったが、今度は想像力がなさすぎると叩かれるようになっていた……。
 だが確かにこうなってくると、作家としては立つ瀬がない。
 現実のほうがフィクションよりも面白いのであれば……フィクションは必要ない。
 藤井ブームの後に始まった将棋漫画が次々と連載終了に追い込まれるのを横目に見つつ、私は背筋が寒くなるのを感じていた……。

 藤井は竜王戦でも快進撃を続ける。
 2年連続の決勝トーナメント入りを決め、これにより七段へと昇段。


 だがその後、藤井は竜王戦決勝トーナメントで増田康宏六段に敗れる。
 16歳の竜王は誕生しなかった。
『りゅうおうのおしごと!』はその一点においてのみ、フィクションとしての役割を果たしたのだった……。

 ホッとしつつも一抹の寂しさを感じていた私のもとに、ドワンゴからこんな依頼がもたらされた。

『叡王戦本戦に出場する24名の棋士にインタビューして、記事を書いてほしい』

 藤井にも直接インタビューできるという。
 インタビューする人数の多さに驚きはしたものの、私はその依頼を受けた。
 確かめたいことがあったからだ。それは――
     ===== 後略 =====
全文は下記URLで
http://originalnews.nico/139502