2018年9月30日 7時0分
ざっくり言うと

日本の歯科技工士は、過酷な労働環境、安い診療報酬の犠牲となっている
長時間労働・低賃金に耐えられずに離職していく若い技工士は、8割を超えた
このままでは入れ歯が作りたくても作れないという状況は避けられないと筆者


入れ歯危機到来か、若い歯科技工士の労働環境過酷で離職8割
2018年9月30日 7時0分 NEWSポストセブン
 素材や価格、技術にも格差のある「入れ歯」だが、入れ歯先進国のドイツでは、高い技術をもつ歯科技工士に国家がマイスターの称号を与える。

 日本人第1号となったのが、大畠一成氏(デンタルラボア・グロース代表)。歯が何本か残っている場合、大畠氏が勧める入れ歯は、ドイツ式“テレスコープクローネ”だ。

「残っている歯に冠(金属の土台)をつけて、それにぴったりと合った筒を人工歯側に組みます。そうすると茶筒缶のように、垂直方向にしか外れない入れ歯になります。外から金具が見えないし、口蓋部分もないので“取り外しの利くブリッジ”とも呼ばれています」

 歯科技工士の身分が保証されているドイツと違い、日本の歯科技工士は、安い診療報酬の犠牲となっている。保険医協会のアンケートに寄せられた入れ歯作りの実態は凄まじい。

「毎日午前3時、4時まで仕事をして、30代で脳溢血で亡くなった技工士がいる」

「とんでもない低料金で、人間性を無視した納期で作らなければならない」

 こうして技工士が、極端な長時間労働・低賃金に追い込まれ、入れ歯の品質自体にも影響が出ている。耐えられずに離職していく若い技工士は、8割を超えた。

 このままでは、完全に技工士不足となり、入れ歯は数年待ち、もしくは作りたくても作れないという状況は避けられない。

 ヨロヨロと杖をついていた高齢者が、入れ歯をつけると背筋が伸びてスタスタと歩いた、というケースは珍しくない。認知症の人が、入れ歯で劇的に改善したこともある。

 このように生活全般や、命さえも左右する「入れ歯」は、歯科技工士の存在が鍵を握っていることを、ぜひ知っていただきたい。

●取材・文/岩澤倫彦(ジャーナリスト・『やってはいけない歯科治療』著者)

※週刊ポスト2018年10月5日号

http://news.livedoor.com/article/detail/15377136/