★肉道場入門!・赤身肉の焼き方(1)

 焼肉店に行くと、ときどき不思議な気持ちになる。
店にいるほとんどの人は「焼肉はごちそうだ」と思って鉄板や網の前に座っているはずだ。


 なのに、皿の上の肉をドバーッと鉄板や網にぶちまける人がいる。


 肉の(それも間違えた)うんちくを語り、場をうんざりさせる人もいる。


 必要なのはまず基本を知ることだ。難しいことではない。


 「赤身肉は、こんがりとした焼き目をつけ、
ホルモンは適度な加熱で内部から脂(水)分を抜く」


 これだけ覚えれば、店選びから焼き方まで目安が決まる。
最初決めるべきは肉の軸だ。
食べたいのはカルビやロースなどの赤身の正肉か、ホルモンか。


 さて本日は赤身肉の焼肉編その(1)。
まずは店選びだが、できればスリットの入った鉄板ロースターの店を選びたい。
炭かガスかはどちらでもいい。


 「きちんと熱された一定面積以上の接地面」があり、
「鉄板上に脂が溜まらない構造」にさえなっていればいい。


 なぜか。赤身肉の焼肉において重要なのは「表面に香ばしい焼き目をつけ」、
「内部を好みの加減にあたためる」ことだからだ。


 焼肉にとってのおいしさの重要な要素は焼き目だ。
これはメイラード反応という化学反応の成果物である。


 肉やタレに含まれる糖とアミノ酸の反応で複雑な香りが生じる。
さらにタレに含まれる糖がカラメル化することでも香ばしいにおいが生成される。


 しゃぶしゃぶでは感じられない、
そしてホルモン焼きのにおいともまた違う、
あの香ばしさこそが赤身焼肉の醍醐味と言っていい。


 その香気を生むために、高温になる接地面の大きい鉄板と、
焼き目の邪魔になる脂を落とすスリットが必要なのだ
(一部の高級焼肉店の径の太い網でも可)。


 鉄板上の肉に目を凝らし、火力を調整し、
最適だと思える場所へ肉を移動させる。
焦げから逃げられなくなったら網を交換してもらえばいい。


 したり顔で「肉をいじってはならぬ」などと
上から目線で語る輩を気にしてはならない。焼台の前では誰もが平等だ。


 平謝りするふりをしながら
「僕、この加減が好きなもので」と心のなかで舌を出しておけばいい。

 肉の正解は、試行錯誤の果てにしかない。
焼いた数だけ肉はうまくなるのだ。

 ■松浦達也(まつうら・たつや) 
編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しく、
専門誌での執筆やテレビなどで活躍。
「大人の肉ドリル」に続く新著「新しい卵ドリル」が好評発売中。

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