【バーチャルYoutuber】個人勢アンチスレ Part293
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・スレを立てるときは先頭に「!extend:none:none:1000:512」を三行いれよう
・スレ立ては>>950
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※前スレ
【バーチャルYoutuber】個人勢アンチスレ Part291
https://egg.5ch.net/test/read.cgi/streaming/1547191480/
VIPQ2_EXTDAT: none:none:1000:512:----: EXT was configured 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) Q1.アンチスレッドとは?
A.その物のアンチを対象、批判する目的で書き込むスレ。
Q2.アンチスレッドは何故あるの?
A.これが嫌いだ、嫌いになったと愚痴を言い合うため。言論の自由はあるが過激な発言は逮捕や訴訟に繋がります。
Q3.何故アンチスレッドは界隈に広めてはいけないのですか?
A.純粋に楽しんでいる人たちにとって批判や不満は邪魔になるからです。ここはゴミの掃き溜めだと思ってください。
Q4.どうしてアンチスレッドを見ていると公言すべきではないのですか?
ここはバーチャルyoutuberのアンチスレッドなのでその前提を頭に入れてください。
5chはワッチョイやIDこそありますが匿名書き込み掲示板であるためVtuberに対してネガティブな発言や誹謗中傷などを行う行為、
またステルスマーケティングなどを匿名で行えます。
あなたが視聴者であれVtuberであれ「私はここを見ている」と宣言すると「私はここに書き込んだことは無い」という事が
証明出来なくなります。その結果、周囲からあなたは他のアンチスレ住民たちと同じように誰かの悪口を言って
盛り上がってる奴という認識になり評判が悪くなるためお勧めしません。
また、あなたが公言したことにより興味を持ったファンが好奇心に敗北し覗きに来ることも考えられます。
アンチは対象の揚げ足取りや不満を言うために様々な情報を集めてきます。その中には演者、中の人の顔や
個人情報などもありそれはバーチャルを楽しんでいる人たちにとってリアルを突きつけて夢を壊す事です。
アンチスレに触れると周りの人間がアンチスレを認知して荒らす
荒れたらその分言及したやつが嫌われる
だから常識あるやつはアンチスレに触れない
最後に
アンチスレはあくまでも一つの意見であり正論ではありません。
勘違いをしてここが正しいなどと思いこむのは止めましょう。 む!=『流れ』などを想起させるワード、想話題が出た時
む!俺だ!=自分の話題が出た時
で!で!=興奮して話を続けたい時
すいません気を付けます=謝りたくない時
難しい問題じゃよね=難しい問題が出た時、または話題に触れたくない時
デブリ様うま=デブリ様がうまい時
"ヤバい"="ヤバイ"時
10%の確率で〜〜=確率の話題、想起させる話題の時
祈ることしか出来なくてすまない!=祈ることしか出来なくてすまない時
95%は〇〇、私は残りの5%の方=5%の時
ギャハハハ=メイカ
ところでアカリちゃん!=話題を逸らしたい時 >>1 さん、おはきぃずー!
スレ立てありがとうなのだー! おはきぃず
っておはようキッズどもをもじってんのかな? 神楽めあ本気で大嫌いだけどクソ生意気な口にチンポ突っ込んで喉奥ぶち壊すイラマチオしたい 女Vtuberなんて面白くもないしオタクの性欲に訴えかけるしか能がないんだから全員大人しくASMR配信だけしてればいいんだよ
つーかASMRしか伸びねえんだから自分らがダッチワイフレベルの価値しかねえことを自覚しろ 前スレのパリィが女ファンから裸の画像送ってもらったってマジなん? セイジ@miyamiyaseiji
1時間1時間前
誰か、牡丹きぃの心配をしてやれ - culture’s diary
https://fashionculture.hat
enadiary.jp/entry/2019/01/12/013917
https://twitter.com/miyamiyaseiji/status/1083765346618695680
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) パリィと神楽めあはパコっただろ
ヘラったセフレをパコって大人しくさせた痴話喧嘩だよ
踊らされてる囲いが哀れで仕方なかった 鳴神裁による神楽めあ関係者リークの結末
147名無しさん@お腹いっぱい。2018/12/18(火) 13:26:00.89
1000万の話は高槻がキャスで勝手に言ってた事からでしかなさそうだけどな
契約さえすればどんな無茶でも通るわけでもないし噂話程度じゃ宛にはならん
197名無しさん@お腹いっぱい。2018/12/18(火) 18:34:36.85
高槻は個人の意見として言っただけ
勝手に事実と捉えてそういう偏向報道をするのが悪い
157名無しさん@お腹いっぱい。2018/12/18(火) 14:03:53.91
女性の裸云々はくろみやからのリークだと思う
こいつじぶりぃるの垢でもなんかそれっぽいこと言ってたし
178名無しさん@お腹いっぱい。2018/12/18(火) 14:41:44.46
でもじぶがそれ言いだしたときはじぶの絵師とトラブってた時の話だし
パリィが関係あるのか? シロのとこの淡井もそうだけどなんでV周りの絵師はネカマムーブするんだ?
マグロナぐらい堂々としろよ気持ち悪い 女のゲーム実況って何であんなつまんねーんだろ
どいつもこいつも変なキャラ付けしてピーピー騒ぐしか脳がねえのか そりゃあお前ゲームしてる可愛い私を見てって思考だからだろ
配信なんてオタサーの姫したくてやるんだから
女ってだけで中身ゴミなのにチヤホヤしちゃうオタクが悪いよ >>25
悪代官とガワ入れ換えてやってたらどうなってたんかな 鳴神っさんバズってるけどアフィブログが食い付いてないんだよな
あいつらが無視するってのはちょっと気になるな お前らVtuberの誰とセックスする妄想したことある? >>33
そりゃガワの良い方よ ただ鳴神っさんに悪代官のガワに合う声が出せなさそう 去年はVtuberアンチスレに張り付いて消費しちゃったけど今年はバイトも決まったから頑張ってお金ためるわ
あと風俗で脱童貞する そしたらオフパコへの嫉妬も少しは減りそう めあの顔ってあの毛先がピンクのあれ?あれ本当にめあなの? >>38
鳴神の絵師の作品だぞ
それを基に依頼を受けて書き直したのがなるさば 学生で染めてるやつって学校行ってないの?
社会性も無さそうだし配信一本でやってける力量もない神楽めあのこの先の人生が気になる >>39
おう、頑張ってな ここに来なくなるくらい充実した生活が送れるよう祈ってるぞ >>42
うん
俺が見たのが本当にめあの画像かは知らないけど >>44
こういう女ってどうするんだろうな
実家ニートしながら投げ銭で生きてくのか男とパコって養ってもらうのか風俗堕ちするのか気になる >>44
めあは通信か定時制とかじゃないの?普通科通ってたけど退学したみたいな話は聞いた もこう「コラボは本来、もっと慎重にやるべき いつもは配信者と視聴者の向かいあった関係なのが
コラボだとやり取りする相手を一方的に見るだけで視聴者が疎外感を感じてしまう
ある程度配信を続けて視聴者との間に信頼関係を築けていない段階でのコラボはある種の裏切り行為
これは本田翼だけじゃなくて、すべての配信者に言えることやからマジで慎重に
仲が良い奴と絡めば良い、数字ある奴と絡めば良い、そんな浅はかな考えは視聴者置いてきぼりにするだけやからな 配信者は自分と、大事な視聴者とじっくり向き合え」 >>39
俺も4月から仕事だわ
ネットでイキリ散らしてアニメ絵のおかげでチヤホヤされてるのを自分の実力だと勘違いしてる馬鹿共より幸せになってみせる >>43
知らないわ👺
なるさばの魂あってこその尊さなのにそっくりの魂のない人形見せられても困る >>44
学生で染めてるのは底辺高校か逆に偏差値高くて校則が緩い所
どっちかは君が判断しろ >>40
お前が見たってのがどんなもんかは知らんが愛繋璃は一時期髪ピンクだったはず 歳いってるけどまことは可愛いし乳デカイし声いいし理想なんだよな
歳いってるけど まんのファンアートリツイートしてたけどあの芸風で女のファン付くのか… >>57
基本やらかすのが女Vtuberだから女リスナーからしたら他人事なんじゃね
叶とかがやらかしてネタにしたら手のひらクルーしそう パリィはコミケで見たけど身長高い男だったぞ
めあは超絶ブサイクなのは有名だが・・・ もこう好きだからゲーム部が媚びてきてるのくっそ腹立つわ
まぁまだVの中ではマシな部類だけど >>57
有産まんの者は意外とああいう毒舌路線好きだぞ、逆にホスト営業やってるとこは萌え声女Vと同じように厄介とか生みやすいらしい ブスであのイキリってヤバない?
やっぱ容姿による自己肯定感の低さが人格を歪ませるんか もこうバーチャルさんボロクソに酷評してたよな許せねえ 俺様系がオタク女に人気がある時点でね
毒が強いのが好きなのも多そうや キャス主連中集めて地下アイドルみたいなことやってるしな 女オタってオフパコとかそういうシモの不祥事に厳しいからな
アンチ化するととんでもない
まぁV界隈に不満もってる奴って今やどこにでもいるし鳴神が伸びても不思議じゃない
未だに優しい世界とか言ってる奴はいないよな? >>62
でももこうはVのこと酷評してくれるから好き 最初はガチでハマってたぽかったけどな
やっぱにじさんじ系が増えてから嫌になったのかな 毒舌()の刀也が人気やし女はあーいうの好きなんかねぇ…
よー分からん じゃあなんで加藤純一には女視聴者いねえんだ?
おかしいよなあ!? >>39
素人童貞は童貞より辛いから気を付けるんだ 刺激が強い方が好きなんでない?
現にホスト営業男Vの話は聞かないけどなんかでパンチある男Vのが人気だし >>73
加藤淳一って全然詳しくないんだけどどういう人なの? >>74
セフレってどうやって作るんだ?くっそイケメンだけど女のこと見下してるから付き合う気はサラサラない 気持ちよくなるための穴としか見てない バチャ豚って真っ当な批判でもすぐ鼻息荒くして長文で絡んでくるから困る >>79
Twitterで募集してる女わんさかいるぞ、まあ性病持ちもわんさかいるだろうが なんだかんだもこうは立ち回り上手い
早い段階でVtuberを捨てて正解 >>83
リスクが高すぎるな…まぁでも風俗でもパコれればいいや
おっぱいめっちゃ吸ってみたいしディープキスしてみたい >>80
>>81
お、おう
それでどんな活動してる人なの? 大手に媚びるVtuberってくっそ哀れで気持ち悪くないか?
syamuとかゆゆうたに媚びる高槻りつとか寒すぎて見てられねえ オフパコするようなVtuberは論外でしょ
収益化して信者に金貢がせてその金でせめてゴム買えやっていう YouTuberも最初はVtuberに触れてたけど度重なるニコ生キャス主層の流れを受け継いだ炎上見てもはや見放されてるもんな >>87
自分から媚びたのにゆゆうたにオフパコムーブされて引くに引けなくなってるのほんと笑う
馬鹿女の典型 >>85
あとは適当にイケメンのフリーアイコン拾ってキャスでもやれば女が寄ってきてワンチャンあるだろうな ユーチューバーのキモさは陽キャのそれだから許せるけどVtuberのキモさは自分を陽キャと勘違いしたイキり陰キャのそれだから許せない 中身がオレらと変わらねぇじゃんってなりゃ神聖視()もなくなるわなw >>91
それいいね 顔バレもしないし
フリーアイコンより俺の方が絶対イケメンだからちょっと惜しいけど >>92
まぁわかるわ
化けの皮剥がれるのが早すぎた >>92
身内コラボでどんだけイキリ散らしてても陽キャの中に放り込んだら置物になりそうな奴ばっかだよな
家長むぎとか >>94
ポイントはTwitterで顔面の一部とか腕とかの写真載せることな、これでホイホイいけると思うで >>100
きっつ ネタだとしたらスベってるしガチなら気持ち悪すぎる ゆゆうたは未成年コスプレイヤー家に連れ込んだりしてるからな
そんな奴に自分から絡んでいったんだから仕方ない Vtuberというか今やキャス主やらリスポンの人間やらがガワ被って美味しい蜜を吸おうとしてるだけだからな、閉じコンまっしぐら >>96
女Vって基本そんな感じじゃね
身内とオタク相手にしかイキれない
なんか不相応なイベントに呼ばれて恥かいてほしいわ キャス主もリスポンも素人だろ?なんか一芸でもあんの? >>85
初体験が風俗って一生引きずるから
それだけは覚悟しとくといい >>107
一芸ある奴は雑談配信なんかで構ってもらう暇ないぞ
なんもないけどチヤホヤされたいって奴がやるのが配信文化
tiktokがその究極形態 ゆゆうたもヤケクソになってんのか犬山たまき一派にやたら絡むしもう引くに引けねぇって感じか?
のらきゃの顔バレ晒してた頃のゆゆうた兄貴返して・・・ 鳴神終わった・・・たった一日で天国から地獄落ちるわこれ >>108
まじ…?怖くなってきた でもリアル女に恋愛感情抱く気サラサラないんだがどうすりゃいいんだ
ノーリスクで素人女のおまんこで気持ちよく射精してポイ捨てしたい >>107
ない、ただ囲いを集めて自軍を形成するのは未経験者より手慣れてる 会ったやつのリアクションで中身の美形度想像するやつ〜 ゲーム部のドッキリ見てたけど女のキレ芸ってほんとイライラするな
東海とキズナアイのドッキリもそうだったけど女ってほんとゴミだわ ユーモアもねえし >>114
ネットで囲い作って自尊心満たしてイキリ散らすのがある意味一芸かもな お前らVtuberより幸せだって胸張って言えるか?
俺は言える 鳴神の動画たまたま見てここに辿り着いただけで今日の朝には平常運転でお前らとおさらばしてる 言っちゃえば配信者って無産だよな よほどトークが面白くもない限り 犬山たまきのゴリッゴリの淫夢ノリなんとかならない?
便乗してる奴もキモすぎるわ 女で淫夢好きは終わってる
まぁ女に免疫ないしクラスで発言権もない陰キャキッズの集まるコンテンツだからオタサーの姫やるにはうってつけだわな >>122
囲いにちやほやされて声は良い!みたいに自信満々でいるけど声優になれるわけでもないようなのばっかだよな Vtuberが地上波進出して思いっきりスベってるの見ると共感性羞恥に襲われるんだが俺だけか? >>122
それ ゆっくり動画の方がまだ有産って呼べる 歌系の女V見ようとしたら広告で歌系の女Vが出てきた
先にそっち見るかと広告の方行ったら見ようとしてた女Vの広告が出てきた
こいつら互いに示し合わせてんのか? The☆buton@DAIKI_dvr
返信先: @chacha_ookamiさん
あの動画のスクショ撮って本人に送ったわ
これフカシやろってなんかした方がええんちゃうって言ってあるよ
大神 茶々丸@chacha_ookami
返信先: @DAIKI_dvrさん
今ですか!?
むしろ朝に本人からこれ見てみ?って報告があったくらいで、本人は既に動いてるよ〜!
ただ、かなり疲労困憊してるみたいなので…これ以上急かすのはやめときましょう…
The☆buton@DAIKI_dvr
返信先: @chacha_ookamiさん
うん気づいたのさっきだったからねぇ
奏ちゃんの方
きぃちゃんとはディスコやってないしね?
なるほどね?!
弁護士必要になったら言ってね!
大神 茶々丸@chacha_ookami
あ!奏さんのほうか…ごめん早とちりしたよ…(´。・д人)゙
ありがとうございます!味方がいるってだけで嬉しいです!(。>д<)
https://twitter.com/chacha_ookami/status/1083738166828253185
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) >>122
技術もいらんしスマホ一つあって萌え声(笑)イケボ(笑)出せばいいだけだからな
無産呼ばわりすると囲いがぶちギレるけど
お前らの中身スカスカの構ってちゃんトークで何を産み出したんだよと言いたい
しょーもない世間話なら誰でも出来るわ >>131
共感羞恥って自分と同じようなことしてる奴に起きんじゃねえの?
お前Vtuberほど勘違い野郎じゃないだろ
余裕もって笑ってやろうぜ >>131
外に出して耐えられる代物じゃないからね
世間から”正当な評価”を下されるまで 年越しものど自慢もバーチャルさんが見てるも全部見てないけど概ね不評で安心してる NHKにも出てアニメ化もしてるコンテンツがオワコンなわけがない!世間にウケてる!って主張たまに見るけどおかしくねえか
剛力彩芽がテレビ出まくっても剛力彩芽は人気じゃないだろ
こういうのゴリ押しって言うんだよ >>136
なんか茶の間にゲームのCMが流れる時とかつまらん芸人がスベって恥ずかしそうにしてるのを見た時の苦しさみたいな感じなんだよな、共感性とは違うのかもしれないが
そうだな、そこらへんのVtuberよりは真っ当に生きてるわ TVなんてのは出続けて意味があるもんで
10年続けたら褒めてあげるけど
色物だから結局今だけなのよ >>139
実際今必死だろうな企業は
新規も再生数も全く伸びなくなって終わり行くコンテンツの最後の抵抗って感じ 安定したコンテンツならこうは生き急がんわ 3Dの体を持つならそれに見合った活動をしてほしい
とあるvtuberはダンスしてたがああいう路線も良い >>134
The☆buton@DAIKI_dvr
6時間6時間前
仮にこれがマジモンの真実だとしたら、だよ。
リークした奴消されそうだなあ(他人事) 内輪ノリを地上波に流してんじゃねえよ素人集団がと言いたい
YouTube内でもキツいのにテレビで見たらキツすぎて息できんくなるわ 大学サークルの出し物かよ 歌い手やキャス主がアニメに起用されて内輪ネタで盛り上がったら叩かれまくるのにガワ被っただけで擁護まみれの優しい世界になるのすげぇなホント >>134
これなんの証明になんの?
きぃちゃんが否定したから嘘だったんだ!ってなっちゃうわけ? きぃ軍は牡丹きぃの全権譲渡が勝利条件みたいだけど
これハードル高いんちゃうかな
別の皮用意した方が早いと思うわ >>147
病気だよな マジでアニメキャラが喋ってると思ってんのかな >>147
そこに誰も疑問を抱かないのが怖い
これ言うと魂の話するな〜!みたいなワケわからん擁護飛んでくるし >>134
姫乃奏引っ張り出してこれるのか?
裁判になったらオフパコしていない証拠どうやって出すんだよ 何がバーチャル世界だよ死ねよ
VR技術の進歩楽しみにしてんだからこんな気持ち悪いコンテンツが代表ヅラしてんじゃねえよ VRかなんかの企業イベントでVtuber出て来て「こういう場にアニメキャラクターはふさわしくない」みたいな発言した人がオタクにぶっ叩かれてなかったっけ オフパコは悪くない
隠せないのが悪いしバレた時に隠そうとするのも悪い
隠し通すか潔く死ぬかしろ なるさばくきゅん💗の寝顔。。。
ジュルリ。。。🤤💗 そろそろパコバレしたら速攻ガワ変えて、処女になったよ〜って主張するくらいメンタル強い子出てきてくれよ Vtuberって他の趣味がある人間なら絶対ハマらなくないか?程度が低すぎる 炎上日常茶飯事オフパコ横行キャス主生主リスポン配信者がほとんど、信者は厄介オタクとイナゴばかりで構成されてて叩くことも許されないんだからまともな世界であるはずがない >>164
書き連ねるとくっそ気持ち悪いな
煮詰まりすぎ >>163
有産だったら流行りに乗じてっていうのは分かるが無産だったら元から配信者追っかけか趣味がないかだろうな >>111
スタンスを貫くならともかく半端に関わるからダメなんだよな 鳴神にリークしたAの垢を見たら
1月9日にvtuberにコラボを依頼するにはいくら支払えばいいかって質問してる
もしかしてAは牡丹きぃ運営と金銭トラブルでもあるのか
これが鳴神第三弾リークにつながりそう きぃなんて氷山の一角でみんなオフパコしまくってんだろうなぁ
ハニストのメアリドロッドロに犯しまくって孕ませてからポイ捨てしてぇよぉ… >>159
半端にガチ恋営業してファンや他Vをその気にさせておいてってとこもな 最近のVtuberもどきの量産型カスタムキャストとVカツアバターほちょに嫌い >>170
奏繋がりだったから相場関係なくて
それでもvtuberの知名度使いたいから誰かしらに依頼する気で相場聞いたんじゃないか? >>157
それは単純にその人が偏見で凝り固まった奴だったから ゲーム実況始めるならなんとなくわかるんだけどキャスで雑談配信って何がきっかけで始めたくなるの?
無名素人の雑談とか誰も見なくないか?どうやって囲い形成してくのか気になる もこうこの前の生放送でもVはアイドル気取りって批判してたな
あいつも拗らせてそうで安心する む!女は見た目より声!声より金!に惹かれるからな!俺もむかし寝取られた! >>180
バーチャルさんは見ているくっそ酷評してて笑う もこう早くバーチャルさんは見てるレビュー動画出してくれよ >>179
女は自撮り感覚じゃねえの
自撮りうpする心理もわかんねえけど 深夜にアンチスレでクダ巻いてるニートが有産無産とか喚いてるの見ながら飲む酒は上手いな >>136
共感性羞恥は他人の失敗を見て自分が失敗したかのように恥ずかしくなることで
べつに同じような事をしてる奴に共感してるから起こるわけじゃねーぞ ねこますのイキった発言に異常に敏感だったり、オフパコに凄まじい嫉妬心持ってたりするのはお前らのコンプのせいなんだろうな
可哀想でもあるが笑える Vtuberやってるクソガキってネットで配信して囲い作ることが勝ち組だと思ってそうで腹立つ
正社員でそれなりの地位について安定した収入得てる俺の方が遥かに偉いし勝ち組だし社会に貢献してるわ社会府適合者どもが >>192
オフパコって嫉妬以外で叩く要素あるか?ヤれるならヤるだろ >>194
資本家の奴隷かGoogleの奴隷かの違いしかないもんな
おまえらどっちも奴隷 血祭リリックちゃん @ChimatsuRiRi
返信先: @narukami_sabakiさん
こんちは
フォローしました
よろしくー( ??? )
https://twitter.com/ChimatsuRiRi/status/1083713407730110464
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) メアリとオフパコしたい あいつ前世の配信聴く限り自分のセックス経験語るほどクソビッチだし 悪を裁くと高らかに言う男のやる事が、女の子への嫌がらせですか >>197
奴隷でも俺の方が勝ち組だ くそつまらない雑談配信でこの先食ってけると思うか?
俺は会社が倒産でもしない限り食いっぱぐれないしキャリアを活かして再就職だって出来る
でもネットで配信だけしてきた教養のないあいつらは? >>200
茶化したいよなwそういうゲスいやらかしが拡散されてるのは真偽関係なく愉快で仕方ない >>195
原理主義者は、Vtuber同士がオフする事自体が許せないらしいな >>202
そりゃ毎日配信とかしてる奴はもう察するものあるよな >>198
こいつ全方向に怨み辛み吐き散らかしてるな 系ちゃん案の定 邪推系@第三回V-1優勝に変えててふふってなった >>205
だよな 俺の方が勝ち組なんだよ
あいつらの人生は終わってる
こいつらが今も前線で活動してるユーチューバーや実況者のようになるなら尊敬するがそんな器の奴は一人もいない
社会を舐め腐った甘ったれの馬鹿ばっかりだ >>202
Youtubeで成り上がれる頭持ってる奴は、落ち目になろうがまた成り上がれるだろうよ
これだけ人数いれば、名門大出てるVtuberも沢山いるだろうよ
そいつらにもお前は勝利宣言できんの? >>209
そもそもそんな頭のいい奴いたらこんな見えている地雷原に足を突っ込まなさそう >>209
教養ある奴とか成り上がる根性ある奴は尊敬するよ
ただ内輪で囲いにヨシヨシされてスターにでもなった気でいる馬鹿が気に食わないだけ 社会を舐めてるのは、奴隷の分際でマウント取って満足しちゃってるお前だろw お前らアンチスレどのくらいの頻度で覗いてる?
一回見始めると半日くらい張り付いちゃうんだが >>212
根性はそう思うが、教養があっても勘違いはしちゃうだろ >>213
俺が見下してる時点でそいつは俺の上にはいねえんだよ よって俺の勝ち
はい論破 正直初期組とか今だったら見向きもされなさそうなのに初期だからとかいう理由で有名になって勘違いしてお山の大将やってるの多すぎる 女だからアニメキャラだからチヤホヤされてるだけだからな
どいつもこいつも自分の面白さで人気が出たって勘違いしてそう >>217
そのメンタルならVと張り合わなくても気持ちよく生きてけるだろ バカじゃねえの
初期組だろうがまともな努力してない奴はもう過去の人になってるだろ >>223
囲いっていうの花、カサブタみたいにだんだんと剥がれていくものなんだよ
ねこます知ってればわかるだろ >>224
試しに遺骨のチャンネル見てきたが、再生数悲惨だった
もう1000再生も稼げないんだな 初期勢はほんとつまらんし何も売りが無いけど
後発組も大差ないからいつまでものさばってる 初期組は無残すぎるからなぁ
再生数1000いかないゴミは別に遺骨だけじゃないかと思うが
それでtwitter上でイキってる
そんな世界だからな 今日のまりの歯は全く意味が分からなかった
毎日投稿きついんじゃないだろうか >>209
名門大を出て居ようが一番価値のある10代20代の余暇を
しょうもないゲーム配信につっこんでしまったらその後が大変だね
同期はどんどん出世していくのに自分は下手すりゃ副業扱いで首まである VtuberはYouTuberと違って他人に勧められる層も狭いし新規開拓厳しいだろ、オタク層でも一部にしか勧められないくらいだし >>235
バーチャルさん観たぞwww
お前あんなのが好きなのか?www
これで撃沈する もこうが近い内Vtuber批判動画あげるから見とけ >>235
オタクでも大半抵抗感持ってるでしょ 生主とか歌い手嫌いな奴多いし
マジでどの層にウケてるのかわからん >>234
しょうもないかどうかはお前が決める事じゃないだろw
お前は数千人に配信見てもらった事あるのか? >>232
2日前:人魚姫を登場させる
1日前せっかくだから水中を泳がせる
今日:前回は水中だったので今度は反対に山に登る
面白いセリフ思いつかないからバレエさせとこ >>238
トレンドを追うことしか能がないソシャゲキッズ
Vが流行る前はけもフレけもフレ!って騒いでたぞ >>239
配信に重きを置いてる辺りマジでネットの世界に閉じ籠ってそうだな Vtuberの魂が美人なやつは、そのままアバターとしてモデルを使って本人がyoutuberとして活動した方が絶対需要あるし再生数伸びるからな
ブス?ブスはそのまま引退したほうがいいだろうな
男Vtuberは使いみちないから、そのまま消えたほうがいい
ふぇありすみたいなやつは知らね >>239
じゃあ職場で言えんのかそれ?w 僕は私はインターネットで数千人の囲いがいるんです!ってwwwww 童貞コンプに加えて学歴コンプまで持ってるのか個アン民
そりゃあ勘違いしてイキっちゃった自信満々のVtuberに嫉妬するよな ツイッターで数万RT貰って有名人wwwとか言われても現実に有名人になったりはしないのに
どんだけネットに幻想を見てるんだか ゲームで遊びながらだらだら過ごすのって
普段のお前らの私生活の一部だろ
どこがバーチャルなんだ アルファツイッタラーと変わんねえじゃん
世間でRT数なんか自慢しても誰も褒めちゃくれないぞ >>239
マジで配信してる側も見てる側もこういう思考回路だからなぁ
だからイキリオタク呼ばわりされるんだよ あさひのような雑魚中の雑魚ですら80万円位は簡単に集められる
それをしょうもないと言いきれるとは、凄い人生歩んでらっしゃるんですね Vtuberとかキズナアイが再生数ゴミレベルだから
結局生主になったほうが需要あるしな 俺はネットでゲームして人気者なんだぁあああああああああああああああああああああああああああああ >>250
物の価値はお前の頭の中じゃなくて市場が決めるから
人に見られるという事は価値があるということ。 あさひは80万円と引き換えに大切なねずおじを失ったよ トップが250万登録者いて再生数10万いかんからな…
これでもオワコンじゃないと言い続けるバチャ豚さん…w ふぇありすもCFで100万円集めてデビューしてるしな あさひはバイトでもしろよ
干し芋乞食女共もバイトしろよ
どんな教育受けて育ってきたんだ 俄かに湧いたブームで配信に数千人来てるんだぜ〜って有頂天になるのは良いが
それあと何か月何年続けられるのさ?
2,3年上手く行って何百万かの貯えがもし出来たとしてそれでなんかできるの?
お前はその”名門校出身”ですらないゲームとかカラオケマンしか出来ないだろ?
潰しのきく時期を配信に使って編集技術も持たずに何が出来るの イキコンがcgで雑用しないでバイトしてるコンビニの広報に売り出してたらなぁと今更に思う 多分ランキング上位(100位以上くらい)
は企業がほぼ全てで登録者数買ったり広告ばっかだから
再生数が悲惨なんじゃない?
アニメもクソだし
生主にすらなれずに何人もVtuber消えていきそうだけどね 俺は一切Vtuberを褒めてないんだがな
お前らはVtuberを見下せるような存在じゃないと言ってるんだわ >>264
俺が見下してる時点で見下せてるんだが?
お前に決定権はないぞ Vtuberが数十人集まった年越しイベントで大失態を起こす一方で加藤純一はポケモンやるだけで3万人集めていた…w かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強!かっさん最強! >>264
彼を批判するなー!お前は彼以下だろ!!とか
しょうもない自治を始めるおっさんは要らないんで >>145
奏の奴出会い厨ダイキとも繋がりあんのかやっぱりカス同士惹かれ合うのな >>270
見下してる宣言してる馬鹿がいるからわざわざ話してるんだわ どんな生き方してたらオフパコ厨になるのかわからん
リアルで恋愛しろよ オフパコと恋愛は別
男にとってのオフパコは風俗に近い >>275
お前のことも見下してやってるから安心しろ リアルだと二股できない
ネットならバレずにいくらでも同時に付き合えるから便利だぞ
使い分けていけ 俺もヤリ捨てしたい
リスクなしで素人女に中出しして後腐れなしでポイ捨て出来る方法教えて下さい
まだ童貞です >>275
マウントをしないと生きていけないとか人生辛くない? 出来れば配信者とかレイヤーみたいなアイドル気取りの馬鹿女のおまんこに中出ししたいです
馬鹿女の囲いオタクに優越感抱きながら孕ませたいですお願いします 古庵スレで個人勢でなく古庵民アンチしてる意味がわからん 金払って円光するか
知名度上げてタダマンするかの違い スクリプト荒らしの規制が強化されちまったから
アンチにはチャットで嫌がらせするしかないと判断したんだろ 牡丹きぃが妊娠したかしてないかで話す人いるけど
そいつらが認めてしまったオフパコの時点でアウトだと思う 知名度あげるとリスク上がるので嫌です
身バレする心配も流出する心配もなく優位性を保った状態でハメ撮りしてアイドル気取りの配信者やレイヤーのおまんこに無責任膣内射精で孕ませて囲いオタクに優越感感じながら後腐れなくポイ捨てしたいです アイドルから依頼を受けて
他のアイドルの顔面を掴んで押し倒す仕事でもすれば? >>292
バーチャルさん監督「ニコ便器だけでなくつ便器も食べ放題 再生数のこと話してるやついるから言っとくけど
Vtuberは再生数はyoutuberとか生主の足元にも及ばない再生数だぞ
企業勢が今は足掻いてるだけで、お金が回らなくなったら企業Vtuberは危ない >>296
阿部大護か こいつモロにイキリ陰キャなのにパコり放題なんだよな
女ってほんとわからんわ そりゃあイベント出演権ちらつかせたら自己顕示欲で股を開く奴は多いだろうさ
だからアニメに出演してる連中もみんな入れられてる >>301
金と権力に弱いからな
むしろその権力得る為にホモオッサンに掘られたんじゃないかと心配になる 早朝から性欲剥き出しの会話をしないでよ
女がいることも考えて話せ >>309
何歳?処女?おまんこしてくれませんか? 作曲も出来ないカラオケ屋の分際でミュージシャン呼びしてもらえるとは
バーチャルカラオケマン信者はちょろすぎる やっぱ二次元最高だぜ
三次元の人間がアニメキャラになろうなんて考えがそもそも思い上がりなんだよクソビッチ共
彼氏のチンカスでも食っとけゴミが Vtuberが流行りのゲーム一瞬やってすぐ捨てるのすげえ腹立つ >>315
経費で落とすために配信しただけで裏でしっかり遊んでるぞ 男と女だからどこで誰と寝ようと勝手だが普通一般の漫画アニメ映画ドラマは
私たちネットで中田氏決めましたてへっとかやったりしないので
(どっかの何十人も居るアイドルチームは別として)
管理すらろくにされていない方々はそれ以下の水商売の構成員に過ぎないのだと理解してほしい そもそもゲームイベントで上手い人が集まっても邪魔がられるからな
ゲームは流石vtuberをするための道具に過ぎないんだ >>315
流行りに乗っても伸びないんだから笑ってやろうやw Vtuberって水商売だよな
それ言われるとキレる奴多いけどバーチャルキャバクラしてることに気付いてないんだろうか このスレ見てたらアンチは嫉妬っていうのが良く分かるわ >>321
VBがVtuberは水商売って言った時平静装いながら鼻息荒くして食ってかかってる奴らがいて笑ったわ 関係ないけどデレマスの砂塚あきらちゃん嫌い
そこらへんに居そうな頭悪いイキリJK配信者まんまでイライラする >>327
神楽めあもああいう見た目してそう
メンヘラ低学歴っぽい これ世界発のvtuberによるケンカ凸配信になるんじゃないか? どっかのイキリ狐じゃあるまいし世界初とかみっともないから使うなよ なんかドキドキすんなぁ
陰キャだから凸とか見てるだけでも緊張すんだよね 個アンで管巻いてるやつってマジでツイッターとかでよくみる底辺個人と同じ精神構造してんだな驚いたわ 鳴神は昔セリエAのチームに選抜されそうだったって聞いた 牡丹きぃもう開き直ってオフパコしまくって
オフパコした相手を毎回公表するくらいにならないと復活は無理だろ きぃがオフパコした証拠とかないのにパコったことにされてるの闇が深い そんなもんでいいんだよ
パコったことになってた方が面白いし 夢見がちな未成年アイドル気取りまんこにキモオタ劣等精液注ぎ込みてえ… 無しスレに底辺Vの嫉妬スレと揶揄される個アン
その通りすぎて何も言えない まぁU無民辺りが混ざってるなって察した時点で寝たわ
しょうもないし もこう早くVtuber非難動画あげてくれ
つべバチャ豚キッズが発狂する様を見たい どこかのチャットで知ってるアニメ的に35以上なんじゃないかとか言われてたな >>358
元声優ってのが本当なら…
と考えたがそれは別に参考にならんか
そういやきぃもゲプラン漫画と同じように仕事やめさせられたって言ってたよなぁ 日本は無理やりやめさせることはできない、カマかけられて自主的に辞めたのだから
運営は無実ってげっぷや植きぃを擁護してたのがいたな 手続き的にはそうなるが
まぁうまい事口車に乗せられたってとこかねぇ >>360
一方を信じすぎると痛い目見るからな…
きぃの件は半分、声優崩れの暴走でしょ?
ガワ持ってトンズラをグループで運営しているvtuberがやったらどうなるか見てみたい まぁ特定の陣営に肩入れしすぎる奴はここにはおらんな
存分に推理を楽しむだけよ、どんでん返しも待ってます 初代バーチャルベイビーはデブリ様とウカ様の間に生まれたローズブリザードだぞわかってんのか鳴神 >>284
これ
オフパコすることで相手の囲いに対して優越感を感じたい
あると思います >>375
ジャッキー女性に言い寄られて無理やり性交させられた経験からトラウマ抱えてる デマに踊らされてるのではない
推理を楽しんでいるんだ まぁしかしあそこまで露骨だと笑うよなぁ
いちゃいちゃ配信とか先が見えてこん 中性的RPしてたのにカイトのお陰でメスになったウカ様最高に抜ける
今日もいちゃラブセックスしてるんやろなぁ
シコシコシコシコ >>359
本名晒しってどういう心境でやってるんだろう リアル交流関係ほとんど無いから本名出しても困らんのだろ >>387
”表現者の自覚”
まぁ本名も住所も顔も晒してるし余命を知ってしまった者は吹っ切れるんだろう VTuberってシークレットな存在なわけだからオフパコとか持ちかけやすいんだろう 【茶番】牡丹きぃ改めバーチャル運営植木シンディ爆誕!?あの謝罪動画についてまとめてみた
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34460846 ゆゆうたはLINEで女vtuberの住所、電話番号聞くらしいって聞いて珍しくセルっさんを信じようと思った 問題はゆゆうたやかずちを利用して売名しようとしていたセルが言っても全く説得力が無いという事
他の奴が注意喚起すればみんな話聞くと思うがな しらたま。@フリーライター@siratama_3gou
物申す系に物申す? 活動休止になった先例の話 https://indivtubers.com/archives/4333
リテラシー向上のための記事。たぶん、必要な人には届かないだろうなーと思いつつ…… 物申した結果、
訴訟沙汰になりそうになって活動できなくなったVの者もいるのですよ。
https://twitter.com/siratama_3gou/status/1083676698132996096
なあな@VRアカウント@nakanohitono874
返信先: @siratama_3gouさん
なんというか、ごく普通に考えたら当たり前にわかる事だと思うんですが、物申す系の中の人って中高生だったりするんですかね?
リテラシーが低いのか。謎。
しらたま。@フリーライター@siratama_3gou
リテラシー低いですね…
そして視聴回数などは伸びやすいので感覚麻痺してさらに過激になりがちです。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) 3鯖の名も無きキャスト? @PSO2_saikilraft
その「物申す系」以上にリテラシーの無いVtuberが多いのも大概問題だと思うんですが。
https://twitter.com/PSO2_saikilraft/status/1083902470982516736
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) きぃがもし30代なら初対面の男とパコるって相当痛々しくない? ミソジニー気取ってたウカ様いつの間にか雌堕ちしたん?どこのどいつやカイトって >>402
普通に創作活動してたら盗人虚言女に絡まれたって構図だよな…
可哀想 >>403
最近名前聞かなかったからガチで忘れてた アクネッティって自分に専属絵師がついたことに宇宙人さんが嫉妬して私に嫌がらせしてくる!って筋書きにしたいんじゃね? なるさばくきゅんライブ凸待ちやるのか
逃げも隠れもしないその姿勢カッコいいぜ…! >>407
どうにかしてファンネルを宇宙人に向かせたいんだろうけどいかんせん露骨な匂わせと立ち回りが下手すぎてバーチャル自撮りご意見番遺骨様も匙を投げた模様 >>407
もし本当にその通りだったとしても借り物のキャラ使って無断で商売したりキャラ崩壊擬人化キャラ作ったのはアクネ自身が認めてる事実なんだからどうしようもないでしょ 俺が一次創作者ならブチギれるわ
謝罪で済んでるだけ感謝しろよメンヘラババア 少なくともTwitterで姫を守るために鼻息荒くして物申す系非難してるナイト様たちは凸って来ないだろうね
まぁ姫の為に勇敢に凸ってゲロキモ早口イキリ陰キャボイスを聞かせてほしいけども これおふざけダメなん?ただ単に鳴神と話したいんだが >>402
宇宙人制作者をバッシングするやつないんていないのに
こうやってお気持ち表明することで善人ポジションに座ろうとするの反吐が出るな 誰も宇宙人絵師叩いてる奴なんかいないのに再度叩くのはお辞めくださいで草 鳴っさん vs 天下っさん が見たいけど
そこまで繋がらんなぁ、茶々丸はあるかも アクメツイ消ししまくってんじゃん
upd8や宇宙人制作者に露骨にファンネル飛ばそうとしてたツイート軒並み消えてる アクネッティっていい歳したおばさんじゃねえの?
やっぱ歳いってようが生主あがりって常識ねえのな >>426
大神茶茶丸っていうきぃちゃんのバター犬VTuber オタサーナイト様全員ぶん殴りてえわ
大事な大事なお姫様に生チンポぶちこみながらボコボコにしてやりたい
絶対俺の方が社会的地位あるしイケメンだし喧嘩強いし アクネッティ(アイスッティ) @akune_nico
『真実』を語り、このまま溶けてしまった方が良いの?
『真実』を濁し、このまま冷凍庫で大人しくするのが良いの?
アイスは今日はすこっぷPさんの曲を歌いたくなったの。
だから『クライヤ』を歌いました。
最後にお手紙を添えて。
どうか、届きます様にと。
https://video.twimg.com/ext_tw_video/1083563775502868480/pu/vid/1280x720/xcJs3QK3arCBUT9S.mp4?tag=8
ん?正確にいえば、企業様じゃなくてプロジェクト様って呼ぶべきなのか?
ま。アイドルでもタレントになりたいわけではなく、望んでくれる皆を和ませたいって意味では、僕のキャパシティをわきまえなさいってことだね。
思考回路はショート寸前〜♪で、ショートした結果だし。
追い詰められた精神と、個人勢の弱さにつけいれられた感。
さて。本当に怖いのは僕?
それとも企業の企み?
どちらなんでしょう(´・ω・)(・ω・`)ネー
消えてるのはこのへんか
あと遺骨のRTも取り消してるな きぃ軍
植きぃ軍
鳴神軍
の3つの勢力がある
なお、きぃ軍には天下人と暗黒代将軍が加勢した模様 あークソ Vtuber界隈から離れてたけど鳴神みたいな物申す系が出て来たら応援するしかないじゃん
またこのクソみたいなコンテンツの行く末を見守らなきゃならないのか もこうとか長年やってきた実況者からしたら甘ったればっかで呆れるんやろな Vtuber界隈に頭の悪い奴が存在して、それを注意する奴が現れないから物申しが現れるんだよなあ これ誰?木下?
しらたま。@フリーライター@siratama_3gou
そう言えば、割と新しくV界隈に来た人は物申す系で突っ走ろうとした結果、訴訟案件に首突っ込んで
看板下ろさざるを得なくなった人とか知らんのか……
https://twitter.com/siratama_3gou/status/1083624919265492993
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) >>435
あ、姫乃奏やAもおるなぁ
しかし消息不明という状況 >>442
なにこのイキリ有識者気取り
物申す系に説教かましたとか妄想で話してそう ダイキが奏に連絡したとか言ってたから連絡はつくんじゃないん? >>442
ピノ下しらたまごときに説教されてんの?だっさ なんで物申す系って非難されんの?だいたい言ってること正当な批判だよなぁ?
都合悪いとこ突つかれた悪い奴らが自己擁護のために逆ギレしてるようにしか見えん syamuとオフパコして信者泣かせてくれよ女Vtuber >>449
高槻りつに乞うご期待
自分から迫りにいったゆゆうたにガチパコムーブされて引くに引けなくなってるぞ ていた。 その数多い工場の一つ、西洋風の二階の一室、それが渠の毎日正午から通う処で、十畳敷ほどの広
さの室の中央には、大きい一脚の卓が据えてあって、傍に高い西洋風の本箱、この中には総て種々の地理書が
一杯入れられてある。渠はある書籍会社の嘱託を受けて地理書の編輯の手伝に従っているのである。文学者に
地理書の編輯! 渠は自分が地理の趣味を有っているからと称して進んでこれに従事しているが、内心これに
甘じておらぬことは言うまでもない。後れ勝なる文学上の閲歴、断篇のみを作って未だに全力の試みをする機
会に遭遇せぬ煩悶、青年雑誌から月毎に受ける罵評の苦痛、渠自らはその他日成すあるべきを意識してはいる
ものの、中心これを苦に病まぬ訳には行かなかった。社会は日増に進歩する。電車は東京市の交通を一変させ
た。女学生は勢力になって、もう自分が恋をした頃のような旧式の娘は見たくも見られなくなった。青年はま
た青年で、恋を説くにも、文学を談ずるにも、政治を語るにも、その態度が総て一変して、自分等とは永久に
相触れることが出来ないように感じられた。 で、毎日機械のように同じ道を通って、同じ大きい門を入って
、輪転機関の屋を撼す音と職工の臭い汗との交った細い間を通って、事務室の人々に軽く挨拶して、こつこつ
と長い狭い階梯を登って、さてその室に入るのだが、東と南に明いたこの室は、午後の烈しい日影を受けて、
実に堪え難く暑い。それに小僧が無精で掃除をせぬので、卓の上には白い埃がざらざらと心地悪い。渠は椅子
に腰を掛けて、煙草を一服吸って、立上って、厚い統計書と地図と案内記と地理書とを本箱から出して、さて
静かに昨日の続きの筆を執り始めた。けれど二三日来、頭脳がむしゃくしゃしているので、筆が容易に進まな
い。一行書いては筆を留めてその事を思う。また一行書く、また留める、又書いてはまた留めるという風。そ
してその間に頭脳に浮んで来る考は総て断片的で、猛烈で、急激で、絶望的の分子が多い。ふとどういう聯想
か、ハウプトマンの「寂しき人々」を思い出した。こうならぬ前に、この戯曲をかの女の日課として教えて遣
ろうかと思ったことがあった。ヨハンネス・フォケラートの心事と悲哀とを教えて遣りたかった。この戯曲を
9a3c1e56bc
含んでおるですからな、無闇に意志や自我を振廻しては困るですよ。自分の遣ったことには自分が全責任を帯
びる覚悟がなくては」 芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈※(二の字
点、1-2-22)加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。 芳子は女学生
としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、
路傍の人目を惹くに十分であった。美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い
時もあった。眼に光りがあってそれが非常によく働いた。四五年前までの女は感情を顕わすのに極めて単純で
、怒った容とか笑った容とか、三種、四種位しかその感情を表わすことが出来なかったが、今では情を巧に顔
に表わす女が多くなった。芳子もその一人であると時雄は常に思った。 芳子と時雄との関係は単に師弟の間
柄としては余りに親密であった。この二人の様子を観察したある第三者の女の一人が妻に向って、「芳子さん
が来てから時雄さんの様子はまるで変りましたよ。二人で話しているところを見ると、魂は二人ともあくがれ
渡っているようで、それは本当に油断がなりませんよ」と言った。他から見れば、無論そう見えたに相違なか
った。けれど二人は果してそう親密であったか、どうか。 若い女のうかれ勝な心、うかれるかと思えばすぐ
沈む。些細なことにも胸を動かし、つまらぬことにも心を痛める。恋でもない、恋でなくも無いというような
やさしい態度、時雄は絶えず思い惑った。道義の力、習俗の力、機会一度至ればこれを破るのは帛を裂くより
も容易だ。唯、容易に来らぬはこれを破るに至る機会である。 この機会がこの一年の間に尠くとも二度近寄
ったと時雄は自分だけで思った。一度は芳子が厚い封書を寄せて、自分の不束なこと、先生の高恩に報ゆるこ
とが出来ぬから自分は故郷に帰って農夫の妻になって田舎に埋れて了おうということを涙交りに書いた時、一
度は或る夜芳子が一人で留守番をしているところへゆくりなく時雄が行って訪問した時、この二度だ。初めの
時は時雄はその手紙の意味を明かに了解した。その返事をいかに書くべきかに就いて一夜眠らずに懊悩した。
穏かに眠れる妻の顔、それを幾度か窺って自己の良心のいかに麻痺せるかを自ら責めた。そしてあくる朝贈っ
Slot >>35
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(LA: 1.88, 2.04, 2.14)
て、大きな支那鞄、柳行李、信玄袋、本箱、机、夜具、これを二階に運ぶのには中々骨が折れる。時雄はこの
手伝いに一日社を休むべく余儀なくされたのである。 机を南の窓の下、本箱をその左に、上に鏡やら紅皿や
ら罎やらを順序よく並べた。押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようと
した時、女の移香が鼻を撲ったので、時雄は変な気になった。 午後二時頃には一室が一先ず整頓した。「ど
うです、此処も居心は悪くないでしょう」時雄は得意そうに笑って、「此処に居て、まア緩くり勉強するです
。本当に実際問題に触れてつまらなく苦労したって為方がないですからねえ」「え……」と芳子は頭を垂れた
。「後で詳しく聞きましょうが、今の中は二人共じっとして勉強していなくては、為方がないですからね」「
え……」と言って、芳子は顔を挙げて、「それで先生、私達もそう思って、今はお互に勉強して、将来に希望
を持って、親の許諾をも得たいと存じておりますの!」「それが好いです。今、余り騒ぐと、人にも親にも誤
解されて了って、折角の真面目な希望も遂げられなくなりますから」「ですから、ね、先生、私は一心になっ
て勉強しようと思いますの。田中もそう申しておりました。それから、先生に是非お目にかかってお礼を申上
げなければ済まないと申しておりましたけれど……よく申上げてくれッて……」「いや……」 時雄は芳子の
言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
ように感じた。当世の女学生気質のいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。勿論、こ
の女学生気質を時雄は主義の上、趣味の上から喜んで見ていたのは事実である。昔のような教育を受けては、
到底今の明治の男子の妻としては立って行かれぬ。女子も立たねばならぬ、意志の力を十分に養わねばならぬ
とはかれの持論である。この持論をかれは芳子に向っても尠からず鼓吹した。けれどこの新派のハイカラの実
行を見てはさすがに眉を顰めずにはいられなかった。 男からは国府津の消印で帰途に就いたという端書が着
e79d985beb
った。路を行けば、美しい今様の細君を連れての睦じい散歩、友を訪えば夫の席に出て流暢に会話を賑かす若
い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく、夫の苦悶煩悶には全く風馬牛で、子供さえ
満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。「寂しき人々」
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照! 産褥から出たばかりの細君を助けて、靴下を編む、
襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
Slot >>611
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Win!! 4 pts.(LA: 1.68, 1.98, 2.12)
悪そうでしたよ。私がお茶を持って行って上げると、芳子さんは机の前に坐っている。その前にその人が居て
、今まで何か話していたのを急に止して黙ってしまった。私は変だからすぐ下りて来たですがね、……何だか
変ね、……今の若い人はよくああいうことが出来てね、私のその頃には男に見られるのすら恥かしくって恥か
しくって為方がなかったものですのに……」「時代が違うからナ」「いくら時代が違っても、余り新派過ぎる
と思いましたよ。堕落書生と同じですからね。それゃうわべが似ているだけで、心はそんなことはないでしょ
うけれど、何だか変ですよ」「そんなことはどうでも好い。それでどうした?」「お鶴(下女)が行って上げ
ると言うのに、好いと言って、御自分で出かけて、餅菓子と焼芋を買って来て、御馳走してよ。……お鶴も笑
っていましたよ。お湯をさしに上ると、二人でお旨しそうにおさつを食べているところでしたッて……」 時
雄も笑わざるを得なかった。 細君は猶語り続いだ。「そして随分長く高い声で話していましたよ。議論みた
いなことも言って、芳子さんもなかなか負けない様子でした」「そしていつ帰った?」「もう少し以前」「芳
子は居るか」「いいえ、路が分からないから、一緒に其処まで送って行って来るッて出懸けて行ったんですよ
」 時雄は顔を曇らせた。 夕飯を食っていると、裏口から芳子が帰って来た。急いで走って来たと覚しく、
せいせい息を切っている。「何処まで行らしった?」 と細君が問うと、「神楽坂まで」と答えたが、いつも
する「おかえりなさいまし」を時雄に向って言って、そのままばたばたと二階へ上った。すぐ下りて来るかと
思うに、なかなか下りて来ない。「芳子さん、芳子さん」と三度ほど細君が呼ぶと、「はアーい」という長い
返事が聞えて、矢張下りて来ない。お鶴が迎いに行って漸く二階を下りて来たが、準備した夕飯の膳を他所に
、柱に近く、斜に坐った。「御飯は?」「もう食べたくないの、腹が一杯で」「余りおさつを召上った故でし
ょう」「あら、まア、酷い奥さん。いいわ、奥さん」 と睨む真似をする。 細君は笑って、「芳子さん、何
だか変ね」「何故?」と長く引張る。「何故も無いわ」「いいことよ、奥さん」 と又睨んだ。 時雄は黙っ
0fa4097010
、輪転機関の屋を撼す音と職工の臭い汗との交った細い間を通って、事務室の人々に軽く挨拶して、こつこつ
と長い狭い階梯を登って、さてその室に入るのだが、東と南に明いたこの室は、午後の烈しい日影を受けて、
実に堪え難く暑い。それに小僧が無精で掃除をせぬので、卓の上には白い埃がざらざらと心地悪い。渠は椅子
に腰を掛けて、煙草を一服吸って、立上って、厚い統計書と地図と案内記と地理書とを本箱から出して、さて
静かに昨日の続きの筆を執り始めた。けれど二三日来、頭脳がむしゃくしゃしているので、筆が容易に進まな
い。一行書いては筆を留めてその事を思う。また一行書く、また留める、又書いてはまた留めるという風。そ
してその間に頭脳に浮んで来る考は総て断片的で、猛烈で、急激で、絶望的の分子が多い。ふとどういう聯想
か、ハウプトマンの「寂しき人々」を思い出した。こうならぬ前に、この戯曲をかの女の日課として教えて遣
ろうかと思ったことがあった。ヨハンネス・フォケラートの心事と悲哀とを教えて遣りたかった。この戯曲を
渠が読んだのは今から三年以前、まだかの女のこの世にあることをも夢にも知らなかった頃であったが、その
頃から渠は淋しい人であった。敢てヨハンネスにその身を比そうとは為なかったが、アンナのような女がもし
あったなら、そういう悲劇に陥るのは当然だとしみじみ同情した。今はそのヨハンネスにさえなれぬ身だと思
って長嘆した。 さすがに「寂しき人々」をかの女に教えなかったが、ツルゲネーフの「ファースト」という
短篇を教えたことがあった。洋燈の光明かなる四畳半の書斎、かの女の若々しい心は色彩ある恋物語に憧れ渡
って、表情ある眼は更に深い深い意味を以て輝きわたった。ハイカラな庇髪、櫛、リボン、洋燈の光線がその
半身を照して、一巻の書籍に顔を近く寄せると、言うに言われぬ香水のかおり、肉のかおり、女のかおり――
書中の主人公が昔の恋人に「ファースト」を読んで聞かせる段を講釈する時には男の声も烈しく戦えた。「け
れど、もう駄目だ!」 と、渠は再び頭髪をむしった。 渠は名を竹中時雄と謂った。 今より三年前、三人
目の子が細君の腹に出来て、新婚の快楽などはとうに覚め尽した頃であった。世の中の忙しい事業も意味がな
く、一生作に力を尽す勇気もなく、日常の生活――朝起きて、出勤して、午後四時に帰って来て、同じように
Slot >>853
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Win!! 4 pts.(LA: 2.19, 2.08, 2.15)
てた鐘は再び鳴ろうとした。芳子の為めに、復活の活気は新しく鼓吹された。であるのに再び寂寞荒涼たる以
前の平凡なる生活にかえらなければならぬとは……。不平よりも、嫉妬よりも、熱い熱い涙がかれの頬を伝っ
た。 かれは真面目に芳子の恋とその一生とを考えた。二人同棲して後の倦怠、疲労、冷酷を自己の経験に照
らしてみた。そして一たび男子に身を任せて後の女子の境遇の憐むべきを思い遣った。自然の最奥に秘める暗
黒なる力に対する厭世の情は今彼の胸を簇々として襲った。 真面目なる解決を施さなければならぬという気
になった。今までの自分の行為の甚だ不自然で不真面目であるのに思いついた。時雄はその夜、備中の山中に
ある芳子の父母に寄する手紙を熱心に書いた。芳子の手紙をその中に巻込んで、二人の近況を詳しく記し、最
後に、父たる貴下と師たる小生と当事者たる二人と相対して、此の問題を真面目に議すべき時節到来せりと存
候、貴下は父としての主張あるべく、芳子は芳子としての自由あるべく、小生また師としての意見有之候、御
多忙の際には有之候えども、是非々々御出京下され度、幾重にも希望仕候。 と書いて筆を結んだ。封筒に収
めて備中国新見町横山兵蔵様と書いて、傍に置いて、じ
小石川の切支丹坂から極楽水に出る道のだらだら坂を下りようとして渠は考えた。「これで自分と彼女との関
係は一段落を告げた。三十六にもなって、子供も三人あって、あんなことを考えたかと思うと、馬鹿々々しく
なる。けれど……けれど……本当にこれが事実だろうか。あれだけの愛情を自身に注いだのは単に愛情として
のみで、恋ではなかったろうか」 数多い感情ずくめの手紙――二人の関係はどうしても尋常ではなかった。
妻があり、子があり、世間があり、師弟の関係があればこそ敢て烈しい恋に落ちなかったが、語り合う胸の轟
、相見る眼の光、その底には確かに凄じい暴風が潜んでいたのである。機会に遭遇しさえすれば、その底の底
の暴風は忽ち勢を得て、妻子も世間も道徳も師弟の関係も一挙にして破れて了うであろうと思われた。少くと
も男はそう信じていた。それであるのに、二三日来のこの出来事、これから考えると、女は確かにその感情を
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種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
だという。本箱には紅葉全集、近松世話浄瑠璃、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立
って目に附く。で、未来の閨秀作家は学校から帰って来ると、机に向って文を書くというよりは、寧ろ多く手
紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の
学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。 麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカ
ラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方には時雄の妻君の里の家があるのだが、この附近は殊に昔風
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
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(LA: 1.92, 2.03, 2.13)
め、今度も恋しさに堪え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れた
ろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那の間だ。こう思うと時雄は
堪らなくなった。「監督者の責任にも関する!」と腹の中で絶叫した。こうしてはおかれぬ、こういう自由を
精神の定まらぬ女に与えておくことは出来ん。監督せんければならん、保護せんけりゃならん。私共は熱情も
あるが理性がある! 私共とは何だ! 何故私とは書かぬ、何故複数を用いた? 時雄の胸は嵐のように乱れ
た。着いたのは昨日の六時、姉の家に行って聞き糺せば昨夜何時頃に帰ったか解るが、今日はどうした、今は
どうしている? 細君の心を尽した晩餐の膳には、鮪の新鮮な刺身に、青紫蘇の薬味を添えた冷豆腐、それを
味う余裕もないが、一盃は一盃と盞を重ねた。 細君は末の児を寝かして、火鉢の前に来て坐ったが、芳子の
手紙の夫の傍にあるのに眼を附けて、「芳子さん、何て言って来たのです?」 時雄は黙って手紙を投げて遣
った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
語気が烈しいので、細君は口を噤んで了った。少時経ってから、「だから、本当に厭さ、若い娘の身で、小説
家になるなんぞッて、望む本人も本人なら、よこす親達も親達ですからね」「でも、お前は安心したろう」と
言おうとしたが、それは止して、「まア、そんなことはどうでも好いさ、どうせお前達には解らんのだから…
…それよりも酌でもしたらどうだ」 温順な細君は徳利を取上げて、京焼の盃に波々と注ぐ。 時雄は頻りに
酒を呷った。酒でなければこの鬱を遣るに堪えぬといわぬばかりに。三本目に、妻は心配して、「この頃はど
うか為ましたね」「何故?」「酔ってばかりいるじゃありませんか」「酔うということがどうかしたのか」「
そうでしょう、何か気に懸ることがあるからでしょう。芳子さんのことなどはどうでも好いじゃありませんか
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た。 で、これで返辞をよこすまいと思ったら、それどころか、四日目には更に厚い封書が届いて、紫インキ
で、青い罫の入った西洋紙に横に細字で三枚、どうか将来見捨てずに弟子にしてくれという意味が返す返すも
書いてあって、父母に願って許可を得たならば、東京に出て、然るべき学校に入って、完全に忠実に文学を学
んでみたいとのことであった。時雄は女の志に感ぜずにはいられなかった。東京でさえ――女学校を卒業した
ものでさえ、文学の価値などは解らぬものなのに、何もかもよく知っているらしい手紙の文句、早速返事を出
して師弟の関係を結んだ。 それから度々の手紙と文章、文章はまだ幼稚な点はあるが、癖の無い、すらすら
した、将来発達の見込は十分にあると時雄は思った。で一度は一度より段々互の気質が知れて、時雄はその手
紙の来るのを待つようになった。ある時などは写真を送れと言って遣ろうと思って、手紙の隅に小さく書いて
、そしてまたこれを黒々と塗って了った。女性には容色と謂うものが是非必要である。容色のわるい女はいく
ら才があっても男が相手に為ない。時雄も内々胸の中で、どうせ文学を遣ろうというような女だから、不容色
に相違ないと思った。けれどなるべくは見られる位の女であって欲しいと思った。 芳子が父母に許可を得て
、父に伴れられて、時雄の門を訪うたのは翌年の二月で、丁度時雄の三番目の男の児の生れた七夜の日であっ
た。座敷の隣の室は細君の産褥で、細君は手伝に来ている姉から若い女門下生の美しい容色であることを聞い
て少なからず懊悩した。姉もああいう若い美しい女を弟子にしてどうする気だろうと心配した。時雄は芳子と
父とを並べて、縷々として文学者の境遇と目的とを語り、女の結婚問題に就いて予め父親の説を叩いた。芳子
の家は新見町でも第三とは下らぬ豪家で、父も母も厳格なる基督教信者、母は殊にすぐれた信者で、曽ては同
志社女学校に学んだこともあるという。総領の兄は英国へ洋行して、帰朝後は某官立学校の教授となっている
。芳子は町の小学校を卒業するとすぐ、神戸に出て神戸の女学院に入り、其処でハイカラな女学校生活を送っ
た。基督教の女学校は他の女学校に比して、文学に対して総て自由だ。その頃こそ「魔風恋風」や「金色夜叉
」などを読んではならんとの規定も出ていたが、文部省で干渉しない以前は、教場でさえなくば何を読んでも
Slot >>399
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(LA: 2.00, 2.04, 2.13)
稈帽、藤蔓の杖をついて、やや前のめりにだらだらと坂を下りて行く。時は九月の中旬、残暑はまだ堪え難く
暑いが、空には既に清涼の秋気が充ち渡って、深い碧の色が際立って人の感情を動かした。肴屋、酒屋、雑貨
店、その向うに寺の門やら裏店の長屋やらが連って、久堅町の低い地には数多の工場の煙筒が黒い煙を漲らし
ていた。 その数多い工場の一つ、西洋風の二階の一室、それが渠の毎日正午から通う処で、十畳敷ほどの広
さの室の中央には、大きい一脚の卓が据えてあって、傍に高い西洋風の本箱、この中には総て種々の地理書が
一杯入れられてある。渠はある書籍会社の嘱託を受けて地理書の編輯の手伝に従っているのである。文学者に
地理書の編輯! 渠は自分が地理の趣味を有っているからと称して進んでこれに従事しているが、内心これに
甘じておらぬことは言うまでもない。後れ勝なる文学上の閲歴、断篇のみを作って未だに全力の試みをする機
会に遭遇せぬ煩悶、青年雑誌から月毎に受ける罵評の苦痛、渠自らはその他日成すあるべきを意識してはいる
ものの、中心これを苦に病まぬ訳には行かなかった。社会は日増に進歩する。電車は東京市の交通を一変させ
た。女学生は勢力になって、もう自分が恋をした頃のような旧式の娘は見たくも見られなくなった。青年はま
た青年で、恋を説くにも、文学を談ずるにも、政治を語るにも、その態度が総て一変して、自分等とは永久に
相触れることが出来ないように感じられた。 で、毎日機械のように同じ道を通って、同じ大きい門を入って
、輪転機関の屋を撼す音と職工の臭い汗との交った細い間を通って、事務室の人々に軽く挨拶して、こつこつ
と長い狭い階梯を登って、さてその室に入るのだが、東と南に明いたこの室は、午後の烈しい日影を受けて、
実に堪え難く暑い。それに小僧が無精で掃除をせぬので、卓の上には白い埃がざらざらと心地悪い。渠は椅子
に腰を掛けて、煙草を一服吸って、立上って、厚い統計書と地図と案内記と地理書とを本箱から出して、さて
静かに昨日の続きの筆を執り始めた。けれど二三日来、頭脳がむしゃくしゃしているので、筆が容易に進まな
い。一行書いては筆を留めてその事を思う。また一行書く、また留める、又書いてはまた留めるという風。そ
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生の御教訓は身にしみて守るつもりで御座いますが、一先、旅籠屋に落着かせまして、折角出て来たものです
から、一日位見物しておいでなさいと、つい申して了いました。どうか先生、お許し下さいまし。私共も激し
い感情の中に、理性も御座いますから、京都でしたような、仮りにも常識を外れた、他人から誤解されるよう
なことは致しません。誓って、決して致しません。末ながら奥様にも宜しく申上げて下さいまし。芳子先生
御もと この一通の手紙を読んでいる中、さまざまの感情が時雄の胸を火のように燃えて通った。その田中と
いう二十一の青年が現にこの東京に来ている。芳子が迎えに行った。何をしたか解らん。この間言ったことも
まるで虚言かも知れぬ。この夏期の休暇に須磨で落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為
め、今度も恋しさに堪え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れた
ろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那の間だ。こう思うと時雄は
堪らなくなった。「監督者の責任にも関する!」と腹の中で絶叫した。こうしてはおかれぬ、こういう自由を
精神の定まらぬ女に与えておくことは出来ん。監督せんければならん、保護せんけりゃならん。私共は熱情も
あるが理性がある! 私共とは何だ! 何故私とは書かぬ、何故複数を用いた? 時雄の胸は嵐のように乱れ
た。着いたのは昨日の六時、姉の家に行って聞き糺せば昨夜何時頃に帰ったか解るが、今日はどうした、今は
どうしている? 細君の心を尽した晩餐の膳には、鮪の新鮮な刺身に、青紫蘇の薬味を添えた冷豆腐、それを
味う余裕もないが、一盃は一盃と盞を重ねた。 細君は末の児を寝かして、火鉢の前に来て坐ったが、芳子の
手紙の夫の傍にあるのに眼を附けて、「芳子さん、何て言って来たのです?」 時雄は黙って手紙を投げて遣
った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
語気が烈しいので、細君は口を噤んで了った。少時経ってから、「だから、本当に厭さ、若い娘の身で、小説
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(LA: 1.69, 1.97, 2.11)
翠をその一室に漲らした。隣家の葡萄棚、打捨てて手を入れようともせぬ庭の雑草の中に美人草の美しく交っ
て咲いているのも今更に目につく。時雄はさる画家の描いた朝顔の幅を選んで床に懸け、懸花瓶には後れ咲の
薔薇の花を※(「插」のつくりの縦棒が下に突き抜ける、第4水準2-13-28)した。午頃に荷物が着い
て、大きな支那鞄、柳行李、信玄袋、本箱、机、夜具、これを二階に運ぶのには中々骨が折れる。時雄はこの
手伝いに一日社を休むべく余儀なくされたのである。 机を南の窓の下、本箱をその左に、上に鏡やら紅皿や
ら罎やらを順序よく並べた。押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようと
した時、女の移香が鼻を撲ったので、時雄は変な気になった。 午後二時頃には一室が一先ず整頓した。「ど
うです、此処も居心は悪くないでしょう」時雄は得意そうに笑って、「此処に居て、まア緩くり勉強するです
。本当に実際問題に触れてつまらなく苦労したって為方がないですからねえ」「え……」と芳子は頭を垂れた
。「後で詳しく聞きましょうが、今の中は二人共じっとして勉強していなくては、為方がないですからね」「
え……」と言って、芳子は顔を挙げて、「それで先生、私達もそう思って、今はお互に勉強して、将来に希望
を持って、親の許諾をも得たいと存じておりますの!」「それが好いです。今、余り騒ぐと、人にも親にも誤
解されて了って、折角の真面目な希望も遂げられなくなりますから」「ですから、ね、先生、私は一心になっ
て勉強しようと思いますの。田中もそう申しておりました。それから、先生に是非お目にかかってお礼を申上
げなければ済まないと申しておりましたけれど……よく申上げてくれッて……」「いや……」 時雄は芳子の
言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
ように感じた。当世の女学生気質のいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。勿論、こ
の女学生気質を時雄は主義の上、趣味の上から喜んで見ていたのは事実である。昔のような教育を受けては、
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気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の児の五歳になるのを始めは頻りに可愛がって抱いた
り撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣出したのに腹を立てて、ピシャピシャとその尻を乱
打したので、三人の子供は怖がって、遠巻にして、平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見て
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
」 突如蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。時雄はふらふらと危く小便をしてい
たが、それがすむと、突如※(「革+堂」、第3水準1-93-80)と厠の中に横に寝てしまった。細君が
汚がって頻りに揺ったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく
、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。 時雄は例刻をてくてくと
牛込矢来町の自宅に帰って来た。 渠は三日間、その苦悶と戦った。渠は性として惑溺することが出来ぬ或る
一種の力を有っている。この力の為めに支配されるのを常に口惜しく思っているのではあるが、それでもいつ
か負けて了う。征服されて了う。これが為め渠はいつも運命の圏外に立って苦しい味を嘗めさせられるが、世
間からは正しい人、信頼するに足る人と信じられている。三日間の苦しい煩悶、これでとにかく渠はその前途
を見た。二人の間の関係は一段落を告げた。これからは、師としての責任を尽して、わが愛する女の幸福の為
めを謀るばかりだ。これはつらい、けれどつらいのが人生だ! と思いながら帰って来た。 門をあけて入る
と、細君が迎えに出た。残暑の日はまだ暑く、洋服の下襦袢がびっしょり汗にぬれている。それを糊のついた
Slot >>606
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(LA: 1.85, 1.99, 2.11)
の信者で、神戸の教会の為めに、田中に学資を出してくれている神津という人があるのですの。その人に、田
中が宗教は自分には出来ぬから、将来文学で立とうと思う。どうか東京に出してくれと言って遣ったんですの
。すると大層怒って、それならもう構わぬ、勝手にしろと言われて、すっかり支度をしてしまったんですって
、本当に困って了いますの」「馬鹿な!」 と言ったが、「今一度留めて遣んなさい。小説で立とうなんて思
ったッて、とても駄目だ、全く空想だ、空想の極端だ。それに、田中が此方に出て来ていては、貴嬢の監督上
、私が非常に困る。貴嬢の世話も出来んようになるから、厳しく止めて遣んなさい!」 芳子は愈※(二の字
点、1-2-22)困ったという風で、「止めてはやりますけれど、手紙が行違いになるかも知れませんから
」「行違い? それじゃもう来るのか」 時雄は眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)った。「今
来た手紙に、もう手紙をよこしてくれても行違いになるからと言ってよこしたんですから」「今来た手紙ッて
、さっきの端書の又後に来たのか」 芳子は点頭いた。「困ったね。だから若い空想家は駄目だと言うんだ」
平和は再び攪乱さるることとなった。 一日置いて今夜の六時に新橋に着くという電報があった。電報を持
って、芳子はまごまごしていた。けれど夜ひとり若い女を出して遣る訳に行かぬので、新橋へ迎えに行くこと
は許さなかった。 翌日は逢って達って諌めてどうしても京都に還らせるようにすると言って、芳子はその恋
人の許を訪うた。その男は停車場前のつるやという旅館に宿っているのである。 時雄が社から帰った時には
、まだとても帰るまいと思った芳子が既にその笑顔を玄関にあらわしていた。聞くと田中は既にこうして出て
来た以上、どうしても京都には帰らぬとのことだ。で、芳子は殆ど喧嘩をするまでに争ったが、矢張断として
可かぬ。先生を頼りにして出京したのではあるが、そう聞けば、なるほど御尤である。監督上都合の悪いとい
うのもよく解りました。けれど今更帰れませぬから、自分で如何ようにしても自活の道を求めて目的地に進む
より他はないとまで言ったそうだ。時雄は不快を感じた。 時雄は一時は勝手にしろと思った。放っておけと
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当り散らして酒を飲んだ。晩餐の菜が気に入らぬと云って、御膳を蹴飛した。夜は十二時過に酔って帰って来
ることもあった。芳子はこの乱暴な不調子な時雄の行為に尠なからず心を痛めて、「私がいろいろ御心配を懸
けるもんですからね、私が悪いんですよ」と詫びるように細君に言った。芳子はなるたけ手紙の往復を人に見
せぬようにし、訪問も三度に一度は学校を休んでこっそり行くようにした。時雄はそれに気が附いて一層懊悩
の度を増した。 野は秋も暮れて木枯の風が立った。裏の森の銀杏樹も黄葉して夕の空を美しく彩った。垣根
道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。鵙の鳴音がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※(二
の字点、1-2-22)人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を
説勧めて、この一伍一什を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄
せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分に贏ち得るように勉めた。時雄は心を欺いて、――悲壮なる
犠牲と称して、この「恋の温情なる保護者」となった。 備中の山中から数通の手紙が来た。 その翌年の一
月には、時雄は地理の用事で、上武の境なる利根河畔に出張していた。彼は昨年の年末からこの地に来ている
ので、家のこと――芳子のことが殊に心配になる。さりとて公務を如何ともすることが出来なかった。正月に
なって二日にちょっと帰京したが、その時は次男が歯を病んで、妻と芳子とが頻りにそれを介抱していた。妻
に聞くと、芳子の恋は更に惑溺の度を加えた様子。大晦日の晩に、田中が生活のたつきを得ず、下宿に帰るこ
とも出来ずに、終夜運転の電車に一夜を過したということ、余り頻繁に二人が往来するので、それをそれとな
しに注意して芳子と口争いをしたということ、その他種々のことを聞いた。困ったことだと思った。一晩泊っ
て再び利根の河畔に戻った。 今は五日の夜であった。茫とした空に月が暈を帯びて、その光が川の中央にき
らきらと金を砕いていた。時雄は机の上に一通の封書を展いて、深くその事を考えていた。その手紙は今少し
前、旅館の下女が置いて行った芳子の筆である。先生、まことに、申訳が御座いません。先生の同情ある御恩
は決して一生経っても忘るることでなく、今もそのお心を思うと、涙が滴るるのです。父母はあの通りです。
Slot >>348
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(LA: 1.95, 2.00, 2.11)
がしたので、夜の更けたのを口実に、姉の家に泊って、明朝早く一緒に行くことにした。 芳子は八畳に、時
雄は六畳に姉と床を並べて寝た。やがて姉の小さい鼾が聞えた。時計は一時をカンと鳴った。八畳では寝つか
れぬと覚しく、おりおり高い長大息の気勢がする。甲武の貨物列車が凄じい地響を立てて、この深夜を独り通
る。時雄も久しく眠られなかった。 翌朝時雄は芳子を自宅に伴った。二人になるより早く、時雄は昨日の消
息を知ろうと思ったけれど、芳子が低頭勝に悄然として後について来るのを見ると、何となく可哀そうになっ
て、胸に苛々する思を畳みながら、黙して歩いた。 佐内坂を登り了ると、人通りが少くなった。時雄はふと
振返って、「それでどうしたの?」と突如として訊ねた。「え?」 反問した芳子は顔を曇らせた。「昨日の
話さ、まだ居るのかね」「今夜の六時の急行で帰ります」「それじゃ送って行かなくってはいけないじゃない
か」「いいえ、もう好いんですの」 これで話は途絶えて、二人は黙って歩いた。 矢来町の時雄の宅、今ま
で物置にしておいた二階の三畳と六畳、これを綺麗に掃除して、芳子の住居とした。久しく物置――子供の遊
び場にしておいたので、塵埃が山のように積っていたが、箒をかけ雑巾をかけ、雨のしみの附いた破れた障子
を貼り更えると、こうも変るものかと思われるほど明るくなって、裏の酒井の墓塋の大樹の繁茂が心地よき空
翠をその一室に漲らした。隣家の葡萄棚、打捨てて手を入れようともせぬ庭の雑草の中に美人草の美しく交っ
て咲いているのも今更に目につく。時雄はさる画家の描いた朝顔の幅を選んで床に懸け、懸花瓶には後れ咲の
薔薇の花を※(「插」のつくりの縦棒が下に突き抜ける、第4水準2-13-28)した。午頃に荷物が着い
て、大きな支那鞄、柳行李、信玄袋、本箱、机、夜具、これを二階に運ぶのには中々骨が折れる。時雄はこの
手伝いに一日社を休むべく余儀なくされたのである。 机を南の窓の下、本箱をその左に、上に鏡やら紅皿や
ら罎やらを順序よく並べた。押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようと
した時、女の移香が鼻を撲ったので、時雄は変な気になった。 午後二時頃には一室が一先ず整頓した。「ど
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する形式的態度であった。とは言え、実を言えば、時雄の激しい頭脳には、それがすぐ直覚的に明かに映った
と云うではなく、座敷の隅に置かれた小さい旅鞄や憐れにもしおたれた白地の浴衣などを見ると、青年空想の
昔が思い出されて、こうした恋の為め、煩悶もし、懊悩もしているかと思って、憐憫の情も起らぬではなかっ
た。 この暑い一室に相対して、趺坐をもかかず、二人は尠くとも一時間以上語った。話は遂に要領を得なか
った。「先ず今一度考え直して見給え」くらいが最後で、時雄は別れて帰途に就いた。 何だか馬鹿らしいよ
うな気がした。愚なる行為をしたように感じられて、自らその身を嘲笑した。心にもないお世辞をも言い、自
分の胸の底の秘密を蔽う為めには、二人の恋の温情なる保護者となろうとまで言ったことを思い出した。安飜
訳の仕事を周旋して貰う為め、某氏に紹介の労を執ろうと言ったことをも思い出した。そして自分ながら自分
の意気地なく好人物なのを罵った。 時雄は幾度か考えた。寧ろ国に報知して遣ろうか、と。けれどそれを報
知するに、どういう態度を以てしようかというのが大問題であった。二人の恋の関鍵を自ら握っていると信ず
るだけそれだけ時雄は責任を重く感じた。その身の不当の嫉妬、不正の恋情の為めに、その愛する女の熱烈な
る恋を犠牲にするには忍びぬと共に、自ら言った「温情なる保護者」として、道徳家の如く身を処するにも堪
えなかった。また一方にはこの事が国に知れて芳子が父母の為めに伴われて帰国するようになるのを恐れた。
芳子が時雄の書斎に来て、頭を垂れ、声を低うして、その希望を述べたのはその翌日の夜であった。如何に
説いても男は帰らぬ。さりとて国へ報知すれば、父母の許さぬのは知れたこと、時宜に由れば忽ち迎いに来ぬ
とも限らぬ。男も折角ああして出て来たことでもあり二人の間も世の中の男女の恋のように浅く思い浅く恋し
た訳でもないから、決して汚れた行為などはなく、惑溺するようなことは誓って為ない。文学は難かしい道、
小説を書いて一家を成そうとするのは田中のようなものには出来ぬかも知れねど、同じく将来を進むなら、共
に好む道に携わりたい。どうか暫くこのままにして東京に置いてくれとの頼み。時雄はこの余儀なき頼みをす
げなく却けることは出来なかった。時雄は京都嵯峨に於ける女の行為にその節操を疑ってはいるが、一方には
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(LA: 2.18, 2.05, 2.13)
ゆゆうたって犬山たまきと高槻りつとマジでオフで会ったん?
女っ気ない学生時代送ってきた陰キャが30歳にして女の子に言い寄られたら内心ウハウハだろうな
そりゃあオフパコもしたくなりますよ 義の念もこれに交って、益※(二の字点、1-2-22)炎を熾んにした。わが愛する女の幸福の為めという
犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨の如く酔って寝た。 あくる日は日曜
日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
た。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪を起し
て、自棄に酒を飲んだ。一本、二本と徳利の数は重って、時雄は時の間に泥の如く酔った。細君に対する不平
ももう言わなくなった。徳利に酒が無くなると、只、酒、酒と言うばかりだ。そしてこれをぐいぐいと呷る。
気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の児の五歳になるのを始めは頻りに可愛がって抱いた
り撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣出したのに腹を立てて、ピシャピシャとその尻を乱
打したので、三人の子供は怖がって、遠巻にして、平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見て
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
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しくって為方がなかったものですのに……」「時代が違うからナ」「いくら時代が違っても、余り新派過ぎる
と思いましたよ。堕落書生と同じですからね。それゃうわべが似ているだけで、心はそんなことはないでしょ
うけれど、何だか変ですよ」「そんなことはどうでも好い。それでどうした?」「お鶴(下女)が行って上げ
ると言うのに、好いと言って、御自分で出かけて、餅菓子と焼芋を買って来て、御馳走してよ。……お鶴も笑
っていましたよ。お湯をさしに上ると、二人でお旨しそうにおさつを食べているところでしたッて……」 時
雄も笑わざるを得なかった。 細君は猶語り続いだ。「そして随分長く高い声で話していましたよ。議論みた
いなことも言って、芳子さんもなかなか負けない様子でした」「そしていつ帰った?」「もう少し以前」「芳
子は居るか」「いいえ、路が分からないから、一緒に其処まで送って行って来るッて出懸けて行ったんですよ
」 時雄は顔を曇らせた。 夕飯を食っていると、裏口から芳子が帰って来た。急いで走って来たと覚しく、
せいせい息を切っている。「何処まで行らしった?」 と細君が問うと、「神楽坂まで」と答えたが、いつも
する「おかえりなさいまし」を時雄に向って言って、そのままばたばたと二階へ上った。すぐ下りて来るかと
思うに、なかなか下りて来ない。「芳子さん、芳子さん」と三度ほど細君が呼ぶと、「はアーい」という長い
返事が聞えて、矢張下りて来ない。お鶴が迎いに行って漸く二階を下りて来たが、準備した夕飯の膳を他所に
、柱に近く、斜に坐った。「御飯は?」「もう食べたくないの、腹が一杯で」「余りおさつを召上った故でし
ょう」「あら、まア、酷い奥さん。いいわ、奥さん」 と睨む真似をする。 細君は笑って、「芳子さん、何
だか変ね」「何故?」と長く引張る。「何故も無いわ」「いいことよ、奥さん」 と又睨んだ。 時雄は黙っ
てこの嬌態に対していた。胸の騒ぐのは無論である。不快の情はひしと押し寄せて来た。芳子はちらと時雄の
顔を覗ったが、その不機嫌なのが一目で解った。で、すぐ態度を改めて、「先生、今日田中が参りましてね」
「そうだってね」「お目にかかってお礼を申上げなければならんのですけれども、又改めて上がりますからッ
て……よろしく申上げて……」「そうか」 と言ったが、そのままふいと立って書斎に入って了った。 その
Slot >>304
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(LA: 1.91, 2.00, 2.11)
に表わす女が多くなった。芳子もその一人であると時雄は常に思った。 芳子と時雄との関係は単に師弟の間
柄としては余りに親密であった。この二人の様子を観察したある第三者の女の一人が妻に向って、「芳子さん
が来てから時雄さんの様子はまるで変りましたよ。二人で話しているところを見ると、魂は二人ともあくがれ
渡っているようで、それは本当に油断がなりませんよ」と言った。他から見れば、無論そう見えたに相違なか
った。けれど二人は果してそう親密であったか、どうか。 若い女のうかれ勝な心、うかれるかと思えばすぐ
沈む。些細なことにも胸を動かし、つまらぬことにも心を痛める。恋でもない、恋でなくも無いというような
やさしい態度、時雄は絶えず思い惑った。道義の力、習俗の力、機会一度至ればこれを破るのは帛を裂くより
も容易だ。唯、容易に来らぬはこれを破るに至る機会である。 この機会がこの一年の間に尠くとも二度近寄
ったと時雄は自分だけで思った。一度は芳子が厚い封書を寄せて、自分の不束なこと、先生の高恩に報ゆるこ
とが出来ぬから自分は故郷に帰って農夫の妻になって田舎に埋れて了おうということを涙交りに書いた時、一
度は或る夜芳子が一人で留守番をしているところへゆくりなく時雄が行って訪問した時、この二度だ。初めの
時は時雄はその手紙の意味を明かに了解した。その返事をいかに書くべきかに就いて一夜眠らずに懊悩した。
穏かに眠れる妻の顔、それを幾度か窺って自己の良心のいかに麻痺せるかを自ら責めた。そしてあくる朝贈っ
た手紙は、厳乎たる師としての態度であった。二度目はそれから二月ほど経った春の夜、ゆくりなく時雄が訪
問すると、芳子は白粉をつけて、美しい顔をして、火鉢の前にぽつねんとしていた。「どうしたの」と訊くと
、「お留守番ですの」「姉は何処へ行った?」「四谷へ買物に」 と言って、じっと時雄の顔を見る。いかに
も艶かしい。時雄はこの力ある一瞥に意気地なく胸を躍らした。二語三語、普通のことを語り合ったが、その
平凡なる物語が更に平凡でないことを互に思い知ったらしかった。この時、今十五分も一緒に話し合ったなら
ば、どうなったであろうか。女の表情の眼は輝き、言葉は艶めき、態度がいかにも尋常でなかった。「今夜は
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の意気地なく好人物なのを罵った。 時雄は幾度か考えた。寧ろ国に報知して遣ろうか、と。けれどそれを報
知するに、どういう態度を以てしようかというのが大問題であった。二人の恋の関鍵を自ら握っていると信ず
るだけそれだけ時雄は責任を重く感じた。その身の不当の嫉妬、不正の恋情の為めに、その愛する女の熱烈な
る恋を犠牲にするには忍びぬと共に、自ら言った「温情なる保護者」として、道徳家の如く身を処するにも堪
えなかった。また一方にはこの事が国に知れて芳子が父母の為めに伴われて帰国するようになるのを恐れた。
芳子が時雄の書斎に来て、頭を垂れ、声を低うして、その希望を述べたのはその翌日の夜であった。如何に
説いても男は帰らぬ。さりとて国へ報知すれば、父母の許さぬのは知れたこと、時宜に由れば忽ち迎いに来ぬ
とも限らぬ。男も折角ああして出て来たことでもあり二人の間も世の中の男女の恋のように浅く思い浅く恋し
た訳でもないから、決して汚れた行為などはなく、惑溺するようなことは誓って為ない。文学は難かしい道、
小説を書いて一家を成そうとするのは田中のようなものには出来ぬかも知れねど、同じく将来を進むなら、共
に好む道に携わりたい。どうか暫くこのままにして東京に置いてくれとの頼み。時雄はこの余儀なき頼みをす
げなく却けることは出来なかった。時雄は京都嵯峨に於ける女の行為にその節操を疑ってはいるが、一方には
又その弁解をも信じて、この若い二人の間にはまだそんなことはあるまいと思っていた。自分の青年の経験に
照らしてみても、神聖なる霊の恋は成立っても肉の恋は決してそう容易に実行されるものではない。で、時雄
は惑溺せぬものならば、暫くこのままにしておいて好いと言って、そして縷々として霊の恋愛、肉の恋愛、恋
愛と人生との関係、教育ある新しい女の当に守るべきことなどに就いて、切実にかつ真摯に教訓した。古人が
女子の節操を誡めたのは社会道徳の制裁よりは、寧ろ女子の独立を保護する為であるということ、一度肉を男
子に許せば女子の自由が全く破れるということ、西洋の女子はよくこの間の消息を解しているから、男女交際
をして不都合がないということ、日本の新しい婦人も是非ともそうならなければならぬということなど主なる
教訓の題目であったが、殊に新派の女子ということに就いて痛切に語った。 芳子は低頭いてきいていた。
Slot >>241
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(LA: 1.84, 1.98, 2.10)
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
た。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪を起し
て、自棄に酒を飲んだ。一本、二本と徳利の数は重って、時雄は時の間に泥の如く酔った。細君に対する不平
ももう言わなくなった。徳利に酒が無くなると、只、酒、酒と言うばかりだ。そしてこれをぐいぐいと呷る。
気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の児の五歳になるのを始めは頻りに可愛がって抱いた
り撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣出したのに腹を立てて、ピシャピシャとその尻を乱
打したので、三人の子供は怖がって、遠巻にして、平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見て
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
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の無いのを弁明するとは何事? すぐ家に入ろうとしたが、まだ当人が帰っておらぬのに上っても為方が無い
と思って、その前を真直に通り抜けた。女と摩違う度に、芳子ではないかと顔を覗きつつ歩いた。土手の上、
松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。もう九時、十時に近い。いかに夏の
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
ったんでしょう」「何アに……」 と時雄は強いて笑ってまぎらした。 さて時を移さず、「芳さん、何処に
行ったんです」「今朝、ちょっと中野の方にお友達と散歩に行って来ると行って出たきりですがね、もう帰っ
て来るでしょう。何か用?」「え、少し……」と言って、「昨日は帰りは遅かったですか」「いいえ、お友達
を新橋に迎えに行くんだって、四時過に出かけて、八時頃に帰って来ましたよ」 時雄の顔を見て、「どうか
したのですの?」「何アに……けれどねえ姉さん」と時雄の声は改まった。「実は姉さんにおまかせしておい
ても、この間の京都のようなことが又あると困るですから、芳子を私の家において、十分監督しようと思うん
ですがね」「そう、それは好いですよ。本当に芳子さんはああいうしっかり者だから、私みたいな無教育のも
のでは……」「いや、そういう訳でも無いですがね。余り自由にさせ過ぎても、却って当人の為にならんです
から、一つ家に置いて、十分監督してみようと思うんです」「それが好いですよ。本当に、芳子さんにもね…
…何処と悪いことのない、発明な、利口な、今の世には珍らしい方ですけれど、一つ悪いことがあってね、男
の友達と平気で夜歩いたりなんかするんですからね。それさえ止すと好いんだけれどとよく言うのですの。す
ると芳子さんはまた小母さんの旧弊が始まったって、笑っているんだもの。いつかなぞも余り男と一緒に歩い
Slot >>310
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(LA: 1.71, 1.95, 2.08)
と着物とを出そうともせぬので、「よし、よし、着物を出さんのなら、これで好い」と、白地の単衣に唐縮緬
の汚れたへこ帯、帽子も被らずに、そのままに急いで戸外へ出た。「今出しますから……本当に困って了う」
という細君の声が後に聞えた。 夏の日はもう暮れ懸っていた。矢来の酒井の森には烏の声が喧しく聞える。
どの家でも夕飯が済んで、門口に若い娘の白い顔も見える。ボールを投げている少年もある。官吏らしい鰌髭
の紳士が庇髪の若い細君を伴れて、神楽坂に散歩に出懸けるのにも幾組か邂逅した。時雄は激昂した心と泥酔
した身体とに烈しく漂わされて、四辺に見ゆるものが皆な別の世界のもののように思われた。両側の家も動く
よう、地も脚の下に陥るよう、天も頭の上に蔽い冠さるように感じた。元からさ程強い酒量でないのに、無闇
にぐいぐいと呷ったので、一時に酔が発したのであろう。ふと露西亜の賤民の酒に酔って路傍に倒れて寝てい
るのを思い出した。そしてある友人と露西亜の人間はこれだから豪い、惑溺するなら飽まで惑溺せんければ駄
目だと言ったことを思いだした。馬鹿な! 恋に師弟の別があって堪るものかと口へ出して言った。 中根坂
を上って、士官学校の裏門から佐内坂の上まで来た頃は、日はもうとっぷりと暮れた。白地の浴衣がぞろぞろ
と通る。煙草屋の前に若い細君が出ている。氷屋の暖簾が涼しそうに夕風に靡く。時雄はこの夏の夜景を朧げ
に眼には見ながら、電信柱に突当って倒れそうにしたり、浅い溝に落ちて膝頭をついたり、職工体の男に、「
酔漢奴! しっかり歩け!」と罵られたりした。急に自ら思いついたらしく、坂の上から右に折れて、市ヶ谷
八幡の境内へと入った。境内には人の影もなく寂寞としていた。大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって
、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。処々の常夜燈はそろそろ光を放ち始めた。時雄はいかにしても苦
しいので、突如その珊瑚樹の蔭に身を躱して、その根本の地上に身を横えた。興奮した心の状態、奔放な情と
悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬の念に駆られながら、一方冷淡に自己の状態を
客観した。 初めて恋するような熱烈な情は無論なかった。盲目にその運命に従うと謂うよりは、寧ろ冷かに
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年頃の女を誘うのに躊躇しない。芳子は多く薬に親しんでいた。 四月末に帰国、九月に上京、そして今回の
事件が起った。 今回の事件とは他でも無い。芳子は恋人を得た。そして上京の途次、恋人と相携えて京都嵯
峨に遊んだ。その遊んだ二日の日数が出発と着京との時日に符合せぬので、東京と備中との間に手紙の往復が
あって、詰問した結果は恋愛、神聖なる恋愛、二人は決して罪を犯してはおらぬが、将来は如何にしてもこの
恋を遂げたいとの切なる願望。時雄は芳子の師として、この恋の証人として一面月下氷人の役目を余儀なくさ
せられたのであった。 芳子の恋人は同志社の学生、神戸教会の秀才、田中秀夫、年二十一。 芳子は師の前
にその恋の神聖なるを神懸けて誓った。故郷の親達は、学生の身で、ひそかに男と嵯峨に遊んだのは、既にそ
の精神の堕落であると云ったが、決してそんな汚れた行為はない。互に恋を自覚したのは、寧ろ京都で別れて
からで、東京に帰って来てみると、男から熱烈なる手紙が来ていた。それで始めて将来の約束をしたような次
第で、決して罪を犯したようなことは無いと女は涙を流して言った。時雄は胸に至大の犠牲を感じながらも、
その二人の所謂神聖なる恋の為めに力を尽すべく余儀なくされた。 時雄は悶えざるを得なかった。わが愛す
るものを奪われたということは甚だしくその心を暗くした。元より進んでその女弟子を自分の恋人にする考は
無い。そういう明らかな定った考があれば前に既に二度までも近寄って来た機会を攫むに於て敢て躊躇すると
ころは無い筈だ。けれどその愛する女弟子、淋しい生活に美しい色彩を添え、限りなき力を添えてくれた芳子
を、突然人の奪い去るに任すに忍びようか。機会を二度まで攫むことは躊躇したが、三度来る機会、四度来る
機会を待って、新なる運命と新なる生活を作りたいとはかれの心の底の底の微かなる願であった。時雄は悶え
た、思い乱れた。妬みと惜しみと悔恨との念が一緒になって旋風のように頭脳の中を回転した。師としての道
義の念もこれに交って、益※(二の字点、1-2-22)炎を熾んにした。わが愛する女の幸福の為めという
犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨の如く酔って寝た。 あくる日は日曜
日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
Slot >>83
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Win!! 4 pts.(LA: 1.51, 1.89, 2.06)
たよ、男の友達が来るのは好いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまで帰って来ないことが
あるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決っているけれど、世間の口が喧しくって為方が無
いと云っていました」 これを聞くと時雄は定って芳子の肩を持つので、「お前達のような旧式の人間には芳
子の遣ることなどは判りやせんよ。男女が二人で歩いたり話したりさえすれば、すぐあやしいとか変だとか思
うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと
思うことは勝手にするさ」 この議論を時雄はまた得意になって芳子にも説法した。「女子ももう自覚せんけ
ればいかん。昔の女のように依頼心を持っていては駄目だ。ズウデルマンのマグダの言った通り、父の手から
すぐに夫の手に移るような意気地なしでは為方が無い。日本の新しい婦人としては、自ら考えて自ら行うよう
にしなければいかん」こう言っては、イブセンのノラの話や、ツルゲネーフのエレネの話や、露西亜、独逸あ
たりの婦人の意志と感情と共に富んでいることを話し、さて、「けれど自覚と云うのは、自省ということをも
含んでおるですからな、無闇に意志や自我を振廻しては困るですよ。自分の遣ったことには自分が全責任を帯
びる覚悟がなくては」 芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈※(二の字
点、1-2-22)加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。 芳子は女学生
としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、
路傍の人目を惹くに十分であった。美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い
時もあった。眼に光りがあってそれが非常によく働いた。四五年前までの女は感情を顕わすのに極めて単純で
、怒った容とか笑った容とか、三種、四種位しかその感情を表わすことが出来なかったが、今では情を巧に顔
に表わす女が多くなった。芳子もその一人であると時雄は常に思った。 芳子と時雄との関係は単に師弟の間
柄としては余りに親密であった。この二人の様子を観察したある第三者の女の一人が妻に向って、「芳子さん
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どうしている? 細君の心を尽した晩餐の膳には、鮪の新鮮な刺身に、青紫蘇の薬味を添えた冷豆腐、それを
味う余裕もないが、一盃は一盃と盞を重ねた。 細君は末の児を寝かして、火鉢の前に来て坐ったが、芳子の
手紙の夫の傍にあるのに眼を附けて、「芳子さん、何て言って来たのです?」 時雄は黙って手紙を投げて遣
った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
語気が烈しいので、細君は口を噤んで了った。少時経ってから、「だから、本当に厭さ、若い娘の身で、小説
家になるなんぞッて、望む本人も本人なら、よこす親達も親達ですからね」「でも、お前は安心したろう」と
言おうとしたが、それは止して、「まア、そんなことはどうでも好いさ、どうせお前達には解らんのだから…
…それよりも酌でもしたらどうだ」 温順な細君は徳利を取上げて、京焼の盃に波々と注ぐ。 時雄は頻りに
酒を呷った。酒でなければこの鬱を遣るに堪えぬといわぬばかりに。三本目に、妻は心配して、「この頃はど
うか為ましたね」「何故?」「酔ってばかりいるじゃありませんか」「酔うということがどうかしたのか」「
そうでしょう、何か気に懸ることがあるからでしょう。芳子さんのことなどはどうでも好いじゃありませんか
」「馬鹿!」 と時雄は一喝した。 細君はそれにも懲りずに、「だって、余り飲んでは毒ですよ、もう好い
加減になさい、また手水場にでも入って寝ると、貴郎は大きいから、私と、お鶴(下女)の手ぐらいではどう
にもなりやしませんからさ」「まア、好いからもう一本」 で、もう一本を半分位飲んだ。もう酔は余程廻っ
たらしい。顔の色は赤銅色に染って眼が少しく据っていた。急に立上って、「おい、帯を出せ!」「何処へい
らっしゃる」「三番町まで行って来る」「姉の処?」「うむ」「およしなさいよ、危ないから」「何アに大丈
夫だ、人の娘を預って監督せずに投遣にしてはおかれん。男がこの東京に来て一緒に歩いたり何かしているの
を見ぬ振をしてはおかれん。田川(姉の家の姓)に預けておいても不安心だから、今日、行って、早かったら
Slot >>214
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(LA: 2.00, 1.97, 2.08)
ゃないか」「いいえ」と烈しく首を振って、「私はそんなこと……私は今の場合困るから、せめて同志社だけ
でも卒業してくれッて、この間初めに申して来た時に達って止めて遣ったんですけれど……もうすっかり独断
でそうして了ったんですッて。今更取かえしがつかぬようになって了ったんですッて」「どうして?」「神戸
の信者で、神戸の教会の為めに、田中に学資を出してくれている神津という人があるのですの。その人に、田
中が宗教は自分には出来ぬから、将来文学で立とうと思う。どうか東京に出してくれと言って遣ったんですの
。すると大層怒って、それならもう構わぬ、勝手にしろと言われて、すっかり支度をしてしまったんですって
、本当に困って了いますの」「馬鹿な!」 と言ったが、「今一度留めて遣んなさい。小説で立とうなんて思
ったッて、とても駄目だ、全く空想だ、空想の極端だ。それに、田中が此方に出て来ていては、貴嬢の監督上
、私が非常に困る。貴嬢の世話も出来んようになるから、厳しく止めて遣んなさい!」 芳子は愈※(二の字
点、1-2-22)困ったという風で、「止めてはやりますけれど、手紙が行違いになるかも知れませんから
」「行違い? それじゃもう来るのか」 時雄は眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)った。「今
来た手紙に、もう手紙をよこしてくれても行違いになるからと言ってよこしたんですから」「今来た手紙ッて
、さっきの端書の又後に来たのか」 芳子は点頭いた。「困ったね。だから若い空想家は駄目だと言うんだ」
平和は再び攪乱さるることとなった。 一日置いて今夜の六時に新橋に着くという電報があった。電報を持
って、芳子はまごまごしていた。けれど夜ひとり若い女を出して遣る訳に行かぬので、新橋へ迎えに行くこと
は許さなかった。 翌日は逢って達って諌めてどうしても京都に還らせるようにすると言って、芳子はその恋
人の許を訪うた。その男は停車場前のつるやという旅館に宿っているのである。 時雄が社から帰った時には
、まだとても帰るまいと思った芳子が既にその笑顔を玄関にあらわしていた。聞くと田中は既にこうして出て
来た以上、どうしても京都には帰らぬとのことだ。で、芳子は殆ど喧嘩をするまでに争ったが、矢張断として
6a39ad4055
つの間にか、この二人からその恋に対しての「温情の保護者」として認められて了った。 時雄は常に苛々し
ていた。書かなければならぬ原稿が幾種もある。書肆からも催促される。金も欲しい。けれどどうしても筆を
執って文を綴るような沈着いた心の状態にはなれなかった。強いて試みてみることがあっても、考が纒らない
。本を読んでも二頁も続けて読む気になれない。二人の恋の温かさを見る度に、胸を燃して、罪もない細君に
当り散らして酒を飲んだ。晩餐の菜が気に入らぬと云って、御膳を蹴飛した。夜は十二時過に酔って帰って来
ることもあった。芳子はこの乱暴な不調子な時雄の行為に尠なからず心を痛めて、「私がいろいろ御心配を懸
けるもんですからね、私が悪いんですよ」と詫びるように細君に言った。芳子はなるたけ手紙の往復を人に見
せぬようにし、訪問も三度に一度は学校を休んでこっそり行くようにした。時雄はそれに気が附いて一層懊悩
の度を増した。 野は秋も暮れて木枯の風が立った。裏の森の銀杏樹も黄葉して夕の空を美しく彩った。垣根
道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。鵙の鳴音がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※(二
の字点、1-2-22)人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を
説勧めて、この一伍一什を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄
せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分に贏ち得るように勉めた。時雄は心を欺いて、――悲壮なる
犠牲と称して、この「恋の温情なる保護者」となった。 備中の山中から数通の手紙が来た。 その翌年の一
月には、時雄は地理の用事で、上武の境なる利根河畔に出張していた。彼は昨年の年末からこの地に来ている
ので、家のこと――芳子のことが殊に心配になる。さりとて公務を如何ともすることが出来なかった。正月に
なって二日にちょっと帰京したが、その時は次男が歯を病んで、妻と芳子とが頻りにそれを介抱していた。妻
に聞くと、芳子の恋は更に惑溺の度を加えた様子。大晦日の晩に、田中が生活のたつきを得ず、下宿に帰るこ
とも出来ずに、終夜運転の電車に一夜を過したということ、余り頻繁に二人が往来するので、それをそれとな
しに注意して芳子と口争いをしたということ、その他種々のことを聞いた。困ったことだと思った。一晩泊っ
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(LA: 2.14, 2.01, 2.09)
ので、家のこと――芳子のことが殊に心配になる。さりとて公務を如何ともすることが出来なかった。正月に
なって二日にちょっと帰京したが、その時は次男が歯を病んで、妻と芳子とが頻りにそれを介抱していた。妻
に聞くと、芳子の恋は更に惑溺の度を加えた様子。大晦日の晩に、田中が生活のたつきを得ず、下宿に帰るこ
とも出来ずに、終夜運転の電車に一夜を過したということ、余り頻繁に二人が往来するので、それをそれとな
しに注意して芳子と口争いをしたということ、その他種々のことを聞いた。困ったことだと思った。一晩泊っ
て再び利根の河畔に戻った。 今は五日の夜であった。茫とした空に月が暈を帯びて、その光が川の中央にき
らきらと金を砕いていた。時雄は机の上に一通の封書を展いて、深くその事を考えていた。その手紙は今少し
前、旅館の下女が置いて行った芳子の筆である。先生、まことに、申訳が御座いません。先生の同情ある御恩
は決して一生経っても忘るることでなく、今もそのお心を思うと、涙が滴るるのです。父母はあの通りです。
先生があのように仰しゃって下すっても、旧風の頑固で、私共の心を汲んでくれようとも致しませず、泣いて
訴えましたけれど、許してくれません。母の手紙を見れば泣かずにはおられませんけれど、少しは私の心も汲
んでくれても好いと思います。恋とはこう苦しいものかと今つくづく思い当りました。先生、私は決心致しま
した。聖書にも女は親に離れて夫に従うと御座います通り、私は田中に従おうと存じます。田中は未だに生活
のたつきを得ませず、準備した金は既に尽き、昨年の暮れは、うらぶれの悲しい生活を送ったので御座います
。私はもう見ているに忍びません。国からの補助を受けませんでも、私等は私等二人で出来るまでこの世に生
きてみようと思います。先生に御心配を懸けるのは、まことに済みません。監督上、御心配なさるのも御尤も
です。けれど折角先生があのように私等の為めに国の父母をお説き下すったにも係らず、父母は唯無意味に怒
ってばかりいて、取合ってくれませんのは、余りと申せば無慈悲です、勘当されても為方が御座いません。堕
落々々と申して、殆ど歯せぬばかりに申しておりますが、私達の恋はそんなに不真面目なもので御座いましょ
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女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
漲り渡った。 酔は既に醒めた。夜露は置始めた。 土手三番町の家の前に来た。 覗いてみたが、芳子の室
に燈火の光が見えぬ。まだ帰って来ぬとみえる。時雄の胸はまた燃えた。この夜、この暗い夜に恋しい男と二
人! 何をしているか解らぬ。こういう常識を欠いた行為を敢てして、神聖なる恋とは何事? 汚れたる行為
Slot >>918
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(LA: 1.95, 1.97, 2.08)
、海老茶袴、男と並んで歩くのをはにかむようなものは一人も無くなった。この世の中に、旧式の丸髷、泥鴨
のような歩き振、温順と貞節とより他に何物をも有せぬ細君に甘んじていることは時雄には何よりも情けなか
った。路を行けば、美しい今様の細君を連れての睦じい散歩、友を訪えば夫の席に出て流暢に会話を賑かす若
い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく、夫の苦悶煩悶には全く風馬牛で、子供さえ
満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。「寂しき人々」
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照! 産褥から出たばかりの細君を助けて、靴下を編む、
襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
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取出し、「芳子さんから」 と言って渡した。 急いで封を切った。巻紙の厚いのを見ても、その事件に関し
ての用事に相違ない。時雄は熱心に読下した。 言文一致で、すらすらとこの上ない達筆。先生――実は御相
談に上りたいと存じましたが、余り急でしたものでしたから、独断で実行致しました。昨日四時に田中から電
報が参りまして、六時に新橋の停車場に着くとのことですもの、私はどんなに驚きましたか知れません。何事
も無いのに出て来るような、そんな軽率な男でないと信じておりますだけに、一層甚しく気を揉みました。先
生、許して下さい。私はその時刻に迎えに参りましたのです。逢って聞きますと、私の一伍一什を書いた手紙
を見て、非常に心配して、もしこの事があった為め万一郷里に伴れて帰られるようなことがあっては、自分が
済まぬと言うので、学事をも捨てて出京して、先生にすっかりお打明申して、お詫も申上げ、お情にも縋って
、万事円満に参るようにと、そういう目的で急に出て参ったとのことで御座います。それから、私は先生にお
話し申した一伍一什、先生のお情深い言葉、将来までも私等二人の神聖な真面目な恋の証人とも保護者ともな
って下さるということを話しましたところ、非常に先生の御情に感激しまして、感謝の涙に暮れました次第で
御座います。田中は私の余りに狼狽した手紙に非常に驚いたとみえまして、十分覚悟をして、万一破壊の暁に
はと言った風なことも決心して参りましたので御座います。万一の時にはあの時嵯峨に一緒に参った友人を証
人にして、二人の間が決して汚れた関係の無いことを弁明し、別れて後互に感じた二人の恋愛をも打明けて、
先生にお縋り申して郷里の父母の方へも逐一言って頂こうと決心して参りましたそうです。けれどこの間の私
の無謀で郷里の父母の感情を破っている矢先、どうしてそんなことを申して遣わされましょう。今は少時沈黙
して、お互に希望を持って、専心勉学に志し、いつか折を見て――或は五年、十年の後かも知れません――打
明けて願う方が得策だと存じまして、そういうことに致しました。先生のお話をも一切話して聞かせました。
で、用事が済んだ上は帰した方が好いのですけれど、非常に疲れている様子を見ましては、さすがに直ちに引
返すようにとも申兼ねました。(私の弱いのを御許し下さいまし)勉学中、実際問題に触れてはならぬとの先
Slot >>163
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Win!! 14 pts.(LA: 2.20, 2.02, 2.09)
訴えましたけれど、許してくれません。母の手紙を見れば泣かずにはおられませんけれど、少しは私の心も汲
んでくれても好いと思います。恋とはこう苦しいものかと今つくづく思い当りました。先生、私は決心致しま
した。聖書にも女は親に離れて夫に従うと御座います通り、私は田中に従おうと存じます。田中は未だに生活
のたつきを得ませず、準備した金は既に尽き、昨年の暮れは、うらぶれの悲しい生活を送ったので御座います
。私はもう見ているに忍びません。国からの補助を受けませんでも、私等は私等二人で出来るまでこの世に生
きてみようと思います。先生に御心配を懸けるのは、まことに済みません。監督上、御心配なさるのも御尤も
です。けれど折角先生があのように私等の為めに国の父母をお説き下すったにも係らず、父母は唯無意味に怒
ってばかりいて、取合ってくれませんのは、余りと申せば無慈悲です、勘当されても為方が御座いません。堕
落々々と申して、殆ど歯せぬばかりに申しておりますが、私達の恋はそんなに不真面目なもので御座いましょ
うか。それに、家の門地々々と申しますが、私は恋を父母の都合によって致すような旧式の女でないことは先
生もお許し下さるでしょう。先生、私は決心致しました。昨日上野図書館で女の見習生が入用だという広告が
ありましたから、応じてみようと思います。二人して一生懸命に働きましたら、まさかに餓えるようなことも
御座いますまい。先生のお家にこうして居ますればこそ、先生にも奥様にも御心配を懸けて済まぬので御座い
ます。どうか先生、私の決心をお許し下さい。芳子先生 おんもとへ 恋の力は遂に二人を深い惑溺の淵に沈
めたのである。時雄はもうこうしてはおかれぬと思った。時雄が芳子の歓心を得る為めに取った「温情の保護
者」としての態度を考えた。備中の父親に寄せた手紙、その手紙には、極力二人の恋を庇保して、どうしても
この恋を許して貰わねばならぬという主旨であった。時雄は父母の到底これを承知せぬことを知っていた。寧
ろ父母の極力反対することを希望していた。父母は果して極力反対して来た。言うことを聞かぬなら勘当する
とまで言って来た。二人はまさに受くべき恋の報酬を受けた。時雄は芳子の為めに飽まで弁明し、汚れた目的
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輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
漲り渡った。 酔は既に醒めた。夜露は置始めた。 土手三番町の家の前に来た。 覗いてみたが、芳子の室
に燈火の光が見えぬ。まだ帰って来ぬとみえる。時雄の胸はまた燃えた。この夜、この暗い夜に恋しい男と二
人! 何をしているか解らぬ。こういう常識を欠いた行為を敢てして、神聖なる恋とは何事? 汚れたる行為
の無いのを弁明するとは何事? すぐ家に入ろうとしたが、まだ当人が帰っておらぬのに上っても為方が無い
と思って、その前を真直に通り抜けた。女と摩違う度に、芳子ではないかと顔を覗きつつ歩いた。土手の上、
松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。もう九時、十時に近い。いかに夏の
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
ったんでしょう」「何アに……」 と時雄は強いて笑ってまぎらした。 さて時を移さず、「芳さん、何処に
Slot >>934
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中が宗教は自分には出来ぬから、将来文学で立とうと思う。どうか東京に出してくれと言って遣ったんですの
。すると大層怒って、それならもう構わぬ、勝手にしろと言われて、すっかり支度をしてしまったんですって
、本当に困って了いますの」「馬鹿な!」 と言ったが、「今一度留めて遣んなさい。小説で立とうなんて思
ったッて、とても駄目だ、全く空想だ、空想の極端だ。それに、田中が此方に出て来ていては、貴嬢の監督上
、私が非常に困る。貴嬢の世話も出来んようになるから、厳しく止めて遣んなさい!」 芳子は愈※(二の字
点、1-2-22)困ったという風で、「止めてはやりますけれど、手紙が行違いになるかも知れませんから
」「行違い? それじゃもう来るのか」 時雄は眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)った。「今
来た手紙に、もう手紙をよこしてくれても行違いになるからと言ってよこしたんですから」「今来た手紙ッて
、さっきの端書の又後に来たのか」 芳子は点頭いた。「困ったね。だから若い空想家は駄目だと言うんだ」
平和は再び攪乱さるることとなった。 一日置いて今夜の六時に新橋に着くという電報があった。電報を持
って、芳子はまごまごしていた。けれど夜ひとり若い女を出して遣る訳に行かぬので、新橋へ迎えに行くこと
は許さなかった。 翌日は逢って達って諌めてどうしても京都に還らせるようにすると言って、芳子はその恋
人の許を訪うた。その男は停車場前のつるやという旅館に宿っているのである。 時雄が社から帰った時には
、まだとても帰るまいと思った芳子が既にその笑顔を玄関にあらわしていた。聞くと田中は既にこうして出て
来た以上、どうしても京都には帰らぬとのことだ。で、芳子は殆ど喧嘩をするまでに争ったが、矢張断として
可かぬ。先生を頼りにして出京したのではあるが、そう聞けば、なるほど御尤である。監督上都合の悪いとい
うのもよく解りました。けれど今更帰れませぬから、自分で如何ようにしても自活の道を求めて目的地に進む
より他はないとまで言ったそうだ。時雄は不快を感じた。 時雄は一時は勝手にしろと思った。放っておけと
も思った。けれど圏内の一員たるかれにどうして全く風馬牛たることを得ようぞ。芳子はその後二三日訪問し
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当り散らして酒を飲んだ。晩餐の菜が気に入らぬと云って、御膳を蹴飛した。夜は十二時過に酔って帰って来
ることもあった。芳子はこの乱暴な不調子な時雄の行為に尠なからず心を痛めて、「私がいろいろ御心配を懸
けるもんですからね、私が悪いんですよ」と詫びるように細君に言った。芳子はなるたけ手紙の往復を人に見
せぬようにし、訪問も三度に一度は学校を休んでこっそり行くようにした。時雄はそれに気が附いて一層懊悩
の度を増した。 野は秋も暮れて木枯の風が立った。裏の森の銀杏樹も黄葉して夕の空を美しく彩った。垣根
道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。鵙の鳴音がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※(二
の字点、1-2-22)人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を
説勧めて、この一伍一什を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄
せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分に贏ち得るように勉めた。時雄は心を欺いて、――悲壮なる
犠牲と称して、この「恋の温情なる保護者」となった。 備中の山中から数通の手紙が来た。 その翌年の一
月には、時雄は地理の用事で、上武の境なる利根河畔に出張していた。彼は昨年の年末からこの地に来ている
ので、家のこと――芳子のことが殊に心配になる。さりとて公務を如何ともすることが出来なかった。正月に
なって二日にちょっと帰京したが、その時は次男が歯を病んで、妻と芳子とが頻りにそれを介抱していた。妻
に聞くと、芳子の恋は更に惑溺の度を加えた様子。大晦日の晩に、田中が生活のたつきを得ず、下宿に帰るこ
とも出来ずに、終夜運転の電車に一夜を過したということ、余り頻繁に二人が往来するので、それをそれとな
しに注意して芳子と口争いをしたということ、その他種々のことを聞いた。困ったことだと思った。一晩泊っ
て再び利根の河畔に戻った。 今は五日の夜であった。茫とした空に月が暈を帯びて、その光が川の中央にき
らきらと金を砕いていた。時雄は机の上に一通の封書を展いて、深くその事を考えていた。その手紙は今少し
前、旅館の下女が置いて行った芳子の筆である。先生、まことに、申訳が御座いません。先生の同情ある御恩
は決して一生経っても忘るることでなく、今もそのお心を思うと、涙が滴るるのです。父母はあの通りです。
Slot >>707
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(LA: 2.48, 2.11, 2.12)
いう二十一の青年が現にこの東京に来ている。芳子が迎えに行った。何をしたか解らん。この間言ったことも
まるで虚言かも知れぬ。この夏期の休暇に須磨で落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為
め、今度も恋しさに堪え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れた
ろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那の間だ。こう思うと時雄は
堪らなくなった。「監督者の責任にも関する!」と腹の中で絶叫した。こうしてはおかれぬ、こういう自由を
精神の定まらぬ女に与えておくことは出来ん。監督せんければならん、保護せんけりゃならん。私共は熱情も
あるが理性がある! 私共とは何だ! 何故私とは書かぬ、何故複数を用いた? 時雄の胸は嵐のように乱れ
た。着いたのは昨日の六時、姉の家に行って聞き糺せば昨夜何時頃に帰ったか解るが、今日はどうした、今は
どうしている? 細君の心を尽した晩餐の膳には、鮪の新鮮な刺身に、青紫蘇の薬味を添えた冷豆腐、それを
味う余裕もないが、一盃は一盃と盞を重ねた。 細君は末の児を寝かして、火鉢の前に来て坐ったが、芳子の
手紙の夫の傍にあるのに眼を附けて、「芳子さん、何て言って来たのです?」 時雄は黙って手紙を投げて遣
った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
語気が烈しいので、細君は口を噤んで了った。少時経ってから、「だから、本当に厭さ、若い娘の身で、小説
家になるなんぞッて、望む本人も本人なら、よこす親達も親達ですからね」「でも、お前は安心したろう」と
言おうとしたが、それは止して、「まア、そんなことはどうでも好いさ、どうせお前達には解らんのだから…
…それよりも酌でもしたらどうだ」 温順な細君は徳利を取上げて、京焼の盃に波々と注ぐ。 時雄は頻りに
酒を呷った。酒でなければこの鬱を遣るに堪えぬといわぬばかりに。三本目に、妻は心配して、「この頃はど
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生もお許し下さるでしょう。先生、私は決心致しました。昨日上野図書館で女の見習生が入用だという広告が
ありましたから、応じてみようと思います。二人して一生懸命に働きましたら、まさかに餓えるようなことも
御座いますまい。先生のお家にこうして居ますればこそ、先生にも奥様にも御心配を懸けて済まぬので御座い
ます。どうか先生、私の決心をお許し下さい。芳子先生 おんもとへ 恋の力は遂に二人を深い惑溺の淵に沈
めたのである。時雄はもうこうしてはおかれぬと思った。時雄が芳子の歓心を得る為めに取った「温情の保護
者」としての態度を考えた。備中の父親に寄せた手紙、その手紙には、極力二人の恋を庇保して、どうしても
この恋を許して貰わねばならぬという主旨であった。時雄は父母の到底これを承知せぬことを知っていた。寧
ろ父母の極力反対することを希望していた。父母は果して極力反対して来た。言うことを聞かぬなら勘当する
とまで言って来た。二人はまさに受くべき恋の報酬を受けた。時雄は芳子の為めに飽まで弁明し、汚れた目的
の為めに行われたる恋でないことを言い、父母の中一人、是非出京してこの問題を解決して貰いたいと言い送
った。けれど故郷の父母は、監督なる時雄がそういう主張であるのと、到底その口から許可することが出来ぬ
のとで、上京しても無駄であると云って出て来なかった。 時雄は今、芳子の手紙に対して考えた。 二人の
状態は最早一刻も猶予すべからざるものとなっている。時雄の監督を離れて二人一緒に暮したいという大胆な
言葉、その言葉の中には警戒すべき分子の多いのを思った。いや、既に一歩を進めているかも知れぬと思った
。又一面にはこれほどその為めに尽力しているのに、その好意を無にして、こういう決心をするとは義理知ら
ず、情知らず、勝手にするが好いとまで激した。 時雄は胸の轟きを静める為め、月朧なる利根川の堤の上を
散歩した。月が暈を帯びた夜は冬ながらやや暖かく、土手下の家々の窓には平和な燈火が静かに輝いていた。
川の上には薄い靄が懸って、おりおり通る船の艫の音がギイと聞える。下流でおーいと渡しを呼ぶものがある
。舟橋を渡る車の音がとどろに響いてそして又一時静かになる。時雄は土手を歩きながら種々のことを考えた
。芳子のことよりは一層痛切に自己の家庭のさびしさということが胸を往来した。三十五六歳の男女の最も味
Slot >>396
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(LA: 2.05, 2.04, 2.10)
も無いのに出て来るような、そんな軽率な男でないと信じておりますだけに、一層甚しく気を揉みました。先
生、許して下さい。私はその時刻に迎えに参りましたのです。逢って聞きますと、私の一伍一什を書いた手紙
を見て、非常に心配して、もしこの事があった為め万一郷里に伴れて帰られるようなことがあっては、自分が
済まぬと言うので、学事をも捨てて出京して、先生にすっかりお打明申して、お詫も申上げ、お情にも縋って
、万事円満に参るようにと、そういう目的で急に出て参ったとのことで御座います。それから、私は先生にお
話し申した一伍一什、先生のお情深い言葉、将来までも私等二人の神聖な真面目な恋の証人とも保護者ともな
って下さるということを話しましたところ、非常に先生の御情に感激しまして、感謝の涙に暮れました次第で
御座います。田中は私の余りに狼狽した手紙に非常に驚いたとみえまして、十分覚悟をして、万一破壊の暁に
はと言った風なことも決心して参りましたので御座います。万一の時にはあの時嵯峨に一緒に参った友人を証
人にして、二人の間が決して汚れた関係の無いことを弁明し、別れて後互に感じた二人の恋愛をも打明けて、
先生にお縋り申して郷里の父母の方へも逐一言って頂こうと決心して参りましたそうです。けれどこの間の私
の無謀で郷里の父母の感情を破っている矢先、どうしてそんなことを申して遣わされましょう。今は少時沈黙
して、お互に希望を持って、専心勉学に志し、いつか折を見て――或は五年、十年の後かも知れません――打
明けて願う方が得策だと存じまして、そういうことに致しました。先生のお話をも一切話して聞かせました。
で、用事が済んだ上は帰した方が好いのですけれど、非常に疲れている様子を見ましては、さすがに直ちに引
返すようにとも申兼ねました。(私の弱いのを御許し下さいまし)勉学中、実際問題に触れてはならぬとの先
生の御教訓は身にしみて守るつもりで御座いますが、一先、旅籠屋に落着かせまして、折角出て来たものです
から、一日位見物しておいでなさいと、つい申して了いました。どうか先生、お許し下さいまし。私共も激し
い感情の中に、理性も御座いますから、京都でしたような、仮りにも常識を外れた、他人から誤解されるよう
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ない、友人と語り合っても面白くない、外国小説を読み渉猟っても満足が出来ぬ。いや、庭樹の繁り、雨の点
滴、花の開落などいう自然の状態さえ、平凡なる生活をして更に平凡ならしめるような気がして、身を置くに
処は無いほど淋しかった。道を歩いて常に見る若い美しい女、出来るならば新しい恋を為たいと痛切に思った
。 三十四五、実際この頃には誰にでもある煩悶で、この年頃に賤しい女に戯るるものの多いのも、畢竟その
淋しさを医す為めである。世間に妻を離縁するものもこの年頃に多い。 出勤する途上に、毎朝邂逅う美しい
女教師があった。渠はその頃この女に逢うのをその日その日の唯一の楽みとして、その女に就いていろいろな
空想を逞うした。恋が成立って、神楽坂あたりの小待合に連れて行って、人目を忍んで楽しんだらどう……。
細君に知れずに、二人近郊を散歩したらどう……。いや、それどころではない、その時、細君が懐妊しておっ
たから、不図難産して死ぬ、その後にその女を入れるとしてどうであろう。……平気で後妻に入れることが出
来るだろうかどうかなどと考えて歩いた。 神戸の女学院の生徒で、生れは備中の新見町で、渠の著作の崇拝
者で、名を横山芳子という女から崇拝の情を以て充された一通の手紙を受取ったのはその頃であった。竹中古
城と謂えば、美文的小説を書いて、多少世間に聞えておったので、地方から来る崇拝者渇仰者の手紙はこれま
でにも随分多かった。やれ文章を直してくれの、弟子にしてくれのと一々取合ってはいられなかった。だから
その女の手紙を受取っても、別に返事を出そうとまでその好奇心は募らなかった。けれど同じ人の熱心なる手
紙を三通まで貰っては、さすがの時雄も注意をせずにはいられなかった。年は十九だそうだが、手紙の文句か
ら推して、その表情の巧みなのは驚くべきほどで、いかなることがあっても先生の門下生になって、一生文学
に従事したいとの切なる願望。文字は走り書のすらすらした字で、余程ハイカラの女らしい。返事を書いたの
は、例の工場の二階の室で、その日は毎日の課業の地理を二枚書いて止して、長い数尺に余る手紙を芳子に送
った。その手紙には女の身として文学に携わることの不心得、女は生理的に母たるの義務を尽さなければなら
ぬ理由、処女にして文学者たるの危険などを縷々として説いて、幾らか罵倒的の文辞をも陳べて、これならも
Slot >>364
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(LA: 2.16, 2.07, 2.10)
び場にしておいたので、塵埃が山のように積っていたが、箒をかけ雑巾をかけ、雨のしみの附いた破れた障子
を貼り更えると、こうも変るものかと思われるほど明るくなって、裏の酒井の墓塋の大樹の繁茂が心地よき空
翠をその一室に漲らした。隣家の葡萄棚、打捨てて手を入れようともせぬ庭の雑草の中に美人草の美しく交っ
て咲いているのも今更に目につく。時雄はさる画家の描いた朝顔の幅を選んで床に懸け、懸花瓶には後れ咲の
薔薇の花を※(「插」のつくりの縦棒が下に突き抜ける、第4水準2-13-28)した。午頃に荷物が着い
て、大きな支那鞄、柳行李、信玄袋、本箱、机、夜具、これを二階に運ぶのには中々骨が折れる。時雄はこの
手伝いに一日社を休むべく余儀なくされたのである。 机を南の窓の下、本箱をその左に、上に鏡やら紅皿や
ら罎やらを順序よく並べた。押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようと
した時、女の移香が鼻を撲ったので、時雄は変な気になった。 午後二時頃には一室が一先ず整頓した。「ど
うです、此処も居心は悪くないでしょう」時雄は得意そうに笑って、「此処に居て、まア緩くり勉強するです
。本当に実際問題に触れてつまらなく苦労したって為方がないですからねえ」「え……」と芳子は頭を垂れた
。「後で詳しく聞きましょうが、今の中は二人共じっとして勉強していなくては、為方がないですからね」「
え……」と言って、芳子は顔を挙げて、「それで先生、私達もそう思って、今はお互に勉強して、将来に希望
を持って、親の許諾をも得たいと存じておりますの!」「それが好いです。今、余り騒ぐと、人にも親にも誤
解されて了って、折角の真面目な希望も遂げられなくなりますから」「ですから、ね、先生、私は一心になっ
て勉強しようと思いますの。田中もそう申しておりました。それから、先生に是非お目にかかってお礼を申上
げなければ済まないと申しておりましたけれど……よく申上げてくれッて……」「いや……」 時雄は芳子の
言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
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想を養うこと、虚栄心の高いこと――こういう傾向をいつとなしに受けて、芳子は明治の女学生の長所と短所
とを遺憾なく備えていた。 尠くとも時雄の孤独なる生活はこれによって破られた。昔の恋人――今の細君。
曽ては恋人には相違なかったが、今は時勢が移り変った。四五年来の女子教育の勃興、女子大学の設立、庇髪
、海老茶袴、男と並んで歩くのをはにかむようなものは一人も無くなった。この世の中に、旧式の丸髷、泥鴨
のような歩き振、温順と貞節とより他に何物をも有せぬ細君に甘んじていることは時雄には何よりも情けなか
った。路を行けば、美しい今様の細君を連れての睦じい散歩、友を訪えば夫の席に出て流暢に会話を賑かす若
い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく、夫の苦悶煩悶には全く風馬牛で、子供さえ
満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。「寂しき人々」
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照! 産褥から出たばかりの細君を助けて、靴下を編む、
襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
Slot >>603
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Win!! 4 pts.(LA: 2.50, 2.15, 2.13)
られた。 少時してから、芳子が、「先生、私の帰るのを待っていて下さったの?」「ええ、ええ、一時間半
位待ったのよ」 と姉が傍から言った。 で、その話が出て、都合さえよくば今夜からでも――荷物は後から
でも好いから――一緒に伴れて行く積りで来たということを話した。芳子は下を向いて、点頭いて聞いていた
。無論、その胸には一種の圧迫を感じたに相違ないけれど、芳子の心にしては、絶対に信頼して――今回の恋
のことにも全心を挙げて同情してくれた師の家に行って住むことは別に甚しい苦痛でも無かった。寧ろ以前か
らこの昔風の家に同居しているのを不快に思って、出来るならば、初めのように先生の家にと願っていたので
あるから、今の場合でなければ、かえって大に喜んだのであろうに…… 時雄は一刻も早くその恋人のことを
聞糺したかった。今、その男は何処にいる? 何時京都に帰るか? これは時雄に取っては実に重大な問題で
あった。けれど何も知らぬ姉の前で、打明けて問う訳にも行かぬので、この夜は露ほどもそのことを口に出さ
なかった。一座は平凡な物語に更けた。 今夜にもと時雄の言出したのを、だって、もう十二時だ、明日にし
た方が宜かろうとの姉の注意。で、時雄は一人で牛込に帰ろうとしたが、どうも不安心で為方がないような気
がしたので、夜の更けたのを口実に、姉の家に泊って、明朝早く一緒に行くことにした。 芳子は八畳に、時
雄は六畳に姉と床を並べて寝た。やがて姉の小さい鼾が聞えた。時計は一時をカンと鳴った。八畳では寝つか
れぬと覚しく、おりおり高い長大息の気勢がする。甲武の貨物列車が凄じい地響を立てて、この深夜を独り通
る。時雄も久しく眠られなかった。 翌朝時雄は芳子を自宅に伴った。二人になるより早く、時雄は昨日の消
息を知ろうと思ったけれど、芳子が低頭勝に悄然として後について来るのを見ると、何となく可哀そうになっ
て、胸に苛々する思を畳みながら、黙して歩いた。 佐内坂を登り了ると、人通りが少くなった。時雄はふと
振返って、「それでどうしたの?」と突如として訊ねた。「え?」 反問した芳子は顔を曇らせた。「昨日の
話さ、まだ居るのかね」「今夜の六時の急行で帰ります」「それじゃ送って行かなくってはいけないじゃない
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の精神の堕落であると云ったが、決してそんな汚れた行為はない。互に恋を自覚したのは、寧ろ京都で別れて
からで、東京に帰って来てみると、男から熱烈なる手紙が来ていた。それで始めて将来の約束をしたような次
第で、決して罪を犯したようなことは無いと女は涙を流して言った。時雄は胸に至大の犠牲を感じながらも、
その二人の所謂神聖なる恋の為めに力を尽すべく余儀なくされた。 時雄は悶えざるを得なかった。わが愛す
るものを奪われたということは甚だしくその心を暗くした。元より進んでその女弟子を自分の恋人にする考は
無い。そういう明らかな定った考があれば前に既に二度までも近寄って来た機会を攫むに於て敢て躊躇すると
ころは無い筈だ。けれどその愛する女弟子、淋しい生活に美しい色彩を添え、限りなき力を添えてくれた芳子
を、突然人の奪い去るに任すに忍びようか。機会を二度まで攫むことは躊躇したが、三度来る機会、四度来る
機会を待って、新なる運命と新なる生活を作りたいとはかれの心の底の底の微かなる願であった。時雄は悶え
た、思い乱れた。妬みと惜しみと悔恨との念が一緒になって旋風のように頭脳の中を回転した。師としての道
義の念もこれに交って、益※(二の字点、1-2-22)炎を熾んにした。わが愛する女の幸福の為めという
犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨の如く酔って寝た。 あくる日は日曜
日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
Slot >>571
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Win!! 2 pts.(LA: 2.77, 2.22, 2.16)
>>448
優しい世界(笑)を信じてる馬鹿ばっかりだからな ろうかと思ったことがあった。ヨハンネス・フォケラートの心事と悲哀とを教えて遣りたかった。この戯曲を
渠が読んだのは今から三年以前、まだかの女のこの世にあることをも夢にも知らなかった頃であったが、その
頃から渠は淋しい人であった。敢てヨハンネスにその身を比そうとは為なかったが、アンナのような女がもし
あったなら、そういう悲劇に陥るのは当然だとしみじみ同情した。今はそのヨハンネスにさえなれぬ身だと思
って長嘆した。 さすがに「寂しき人々」をかの女に教えなかったが、ツルゲネーフの「ファースト」という
短篇を教えたことがあった。洋燈の光明かなる四畳半の書斎、かの女の若々しい心は色彩ある恋物語に憧れ渡
って、表情ある眼は更に深い深い意味を以て輝きわたった。ハイカラな庇髪、櫛、リボン、洋燈の光線がその
半身を照して、一巻の書籍に顔を近く寄せると、言うに言われぬ香水のかおり、肉のかおり、女のかおり――
書中の主人公が昔の恋人に「ファースト」を読んで聞かせる段を講釈する時には男の声も烈しく戦えた。「け
れど、もう駄目だ!」 と、渠は再び頭髪をむしった。 渠は名を竹中時雄と謂った。 今より三年前、三人
目の子が細君の腹に出来て、新婚の快楽などはとうに覚め尽した頃であった。世の中の忙しい事業も意味がな
く、一生作に力を尽す勇気もなく、日常の生活――朝起きて、出勤して、午後四時に帰って来て、同じように
細君の顔を見て、飯を食って眠るという単調なる生活につくづく倦き果てて了った。家を引越歩いても面白く
ない、友人と語り合っても面白くない、外国小説を読み渉猟っても満足が出来ぬ。いや、庭樹の繁り、雨の点
滴、花の開落などいう自然の状態さえ、平凡なる生活をして更に平凡ならしめるような気がして、身を置くに
処は無いほど淋しかった。道を歩いて常に見る若い美しい女、出来るならば新しい恋を為たいと痛切に思った
。 三十四五、実際この頃には誰にでもある煩悶で、この年頃に賤しい女に戯るるものの多いのも、畢竟その
淋しさを医す為めである。世間に妻を離縁するものもこの年頃に多い。 出勤する途上に、毎朝邂逅う美しい
女教師があった。渠はその頃この女に逢うのをその日その日の唯一の楽みとして、その女に就いていろいろな
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時は時雄はその手紙の意味を明かに了解した。その返事をいかに書くべきかに就いて一夜眠らずに懊悩した。
穏かに眠れる妻の顔、それを幾度か窺って自己の良心のいかに麻痺せるかを自ら責めた。そしてあくる朝贈っ
た手紙は、厳乎たる師としての態度であった。二度目はそれから二月ほど経った春の夜、ゆくりなく時雄が訪
問すると、芳子は白粉をつけて、美しい顔をして、火鉢の前にぽつねんとしていた。「どうしたの」と訊くと
、「お留守番ですの」「姉は何処へ行った?」「四谷へ買物に」 と言って、じっと時雄の顔を見る。いかに
も艶かしい。時雄はこの力ある一瞥に意気地なく胸を躍らした。二語三語、普通のことを語り合ったが、その
平凡なる物語が更に平凡でないことを互に思い知ったらしかった。この時、今十五分も一緒に話し合ったなら
ば、どうなったであろうか。女の表情の眼は輝き、言葉は艶めき、態度がいかにも尋常でなかった。「今夜は
大変綺麗にしてますね?」 男は態と軽く出た。「え、先程、湯に入りましたのよ」「大変に白粉が白いから
」「あらまア先生!」と言って、笑って体を斜に嬌態を呈した。 時雄はすぐ帰った。まア好いでしょうと芳
子はたって留めたが、どうしても帰ると言うので、名残惜しげに月の夜を其処まで送って来た。その白い顔に
は確かにある深い神秘が籠められてあった。 四月に入ってから、芳子は多病で蒼白い顔をして神経過敏に陥
っていた。シュウソカリを余程多量に服してもどうも眠られぬとて困っていた。絶えざる欲望と生殖の力とは
年頃の女を誘うのに躊躇しない。芳子は多く薬に親しんでいた。 四月末に帰国、九月に上京、そして今回の
事件が起った。 今回の事件とは他でも無い。芳子は恋人を得た。そして上京の途次、恋人と相携えて京都嵯
峨に遊んだ。その遊んだ二日の日数が出発と着京との時日に符合せぬので、東京と備中との間に手紙の往復が
あって、詰問した結果は恋愛、神聖なる恋愛、二人は決して罪を犯してはおらぬが、将来は如何にしてもこの
恋を遂げたいとの切なる願望。時雄は芳子の師として、この恋の証人として一面月下氷人の役目を余儀なくさ
せられたのであった。 芳子の恋人は同志社の学生、神戸教会の秀才、田中秀夫、年二十一。 芳子は師の前
にその恋の神聖なるを神懸けて誓った。故郷の親達は、学生の身で、ひそかに男と嵯峨に遊んだのは、既にそ
Slot >>62
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候、貴下は父としての主張あるべく、芳子は芳子としての自由あるべく、小生また師としての意見有之候、御
多忙の際には有之候えども、是非々々御出京下され度、幾重にも希望仕候。 と書いて筆を結んだ。封筒に収
めて備中国新見町横山兵蔵様と書いて、傍に置いて、じ
小石川の切支丹坂から極楽水に出る道のだらだら坂を下りようとして渠は考えた。「これで自分と彼女との関
係は一段落を告げた。三十六にもなって、子供も三人あって、あんなことを考えたかと思うと、馬鹿々々しく
なる。けれど……けれど……本当にこれが事実だろうか。あれだけの愛情を自身に注いだのは単に愛情として
のみで、恋ではなかったろうか」 数多い感情ずくめの手紙――二人の関係はどうしても尋常ではなかった。
妻があり、子があり、世間があり、師弟の関係があればこそ敢て烈しい恋に落ちなかったが、語り合う胸の轟
、相見る眼の光、その底には確かに凄じい暴風が潜んでいたのである。機会に遭遇しさえすれば、その底の底
の暴風は忽ち勢を得て、妻子も世間も道徳も師弟の関係も一挙にして破れて了うであろうと思われた。少くと
も男はそう信じていた。それであるのに、二三日来のこの出来事、これから考えると、女は確かにその感情を
偽り売ったのだ。自分を欺いたのだと男は幾度も思った。けれど文学者だけに、この男は自ら自分の心理を客
観するだけの余裕を有っていた。年若い女の心理は容易に判断し得られるものではない、かの温い嬉しい愛情
は、単に女性特有の自然の発展で、美しく見えた眼の表情も、やさしく感じられた態度も都て無意識で、無意
味で、自然の花が見る人に一種の慰藉を与えたようなものかも知れない。一歩を譲って女は自分を愛して恋し
ていたとしても、自分は師、かの女は門弟、自分は妻あり子ある身、かの女は妙齢の美しい花、そこに互に意
識の加わるのを如何ともすることは出来まい。いや、更に一歩を進めて、あの熱烈なる一封の手紙、陰に陽に
その胸の悶を訴えて、丁度自然の力がこの身を圧迫するかのように、最後の情を伝えて来た時、その謎をこの
身が解いて遣らなかった。女性のつつましやかな性として、その上に猶露わに迫って来ることがどうして出来
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出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
だという。本箱には紅葉全集、近松世話浄瑠璃、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立
って目に附く。で、未来の閨秀作家は学校から帰って来ると、机に向って文を書くというよりは、寧ろ多く手
紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の
学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。 麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカ
ラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方には時雄の妻君の里の家があるのだが、この附近は殊に昔風
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
として、妻から常に次のようなことを聞される。「芳子さんにも困ったものですねと姉が今日も言っていまし
たよ、男の友達が来るのは好いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまで帰って来ないことが
あるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決っているけれど、世間の口が喧しくって為方が無
いと云っていました」 これを聞くと時雄は定って芳子の肩を持つので、「お前達のような旧式の人間には芳
子の遣ることなどは判りやせんよ。男女が二人で歩いたり話したりさえすれば、すぐあやしいとか変だとか思
うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと
思うことは勝手にするさ」 この議論を時雄はまた得意になって芳子にも説法した。「女子ももう自覚せんけ
ればいかん。昔の女のように依頼心を持っていては駄目だ。ズウデルマンのマグダの言った通り、父の手から
Slot >>639
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変ね、……今の若い人はよくああいうことが出来てね、私のその頃には男に見られるのすら恥かしくって恥か
しくって為方がなかったものですのに……」「時代が違うからナ」「いくら時代が違っても、余り新派過ぎる
と思いましたよ。堕落書生と同じですからね。それゃうわべが似ているだけで、心はそんなことはないでしょ
うけれど、何だか変ですよ」「そんなことはどうでも好い。それでどうした?」「お鶴(下女)が行って上げ
ると言うのに、好いと言って、御自分で出かけて、餅菓子と焼芋を買って来て、御馳走してよ。……お鶴も笑
っていましたよ。お湯をさしに上ると、二人でお旨しそうにおさつを食べているところでしたッて……」 時
雄も笑わざるを得なかった。 細君は猶語り続いだ。「そして随分長く高い声で話していましたよ。議論みた
いなことも言って、芳子さんもなかなか負けない様子でした」「そしていつ帰った?」「もう少し以前」「芳
子は居るか」「いいえ、路が分からないから、一緒に其処まで送って行って来るッて出懸けて行ったんですよ
」 時雄は顔を曇らせた。 夕飯を食っていると、裏口から芳子が帰って来た。急いで走って来たと覚しく、
せいせい息を切っている。「何処まで行らしった?」 と細君が問うと、「神楽坂まで」と答えたが、いつも
する「おかえりなさいまし」を時雄に向って言って、そのままばたばたと二階へ上った。すぐ下りて来るかと
思うに、なかなか下りて来ない。「芳子さん、芳子さん」と三度ほど細君が呼ぶと、「はアーい」という長い
返事が聞えて、矢張下りて来ない。お鶴が迎いに行って漸く二階を下りて来たが、準備した夕飯の膳を他所に
、柱に近く、斜に坐った。「御飯は?」「もう食べたくないの、腹が一杯で」「余りおさつを召上った故でし
ょう」「あら、まア、酷い奥さん。いいわ、奥さん」 と睨む真似をする。 細君は笑って、「芳子さん、何
だか変ね」「何故?」と長く引張る。「何故も無いわ」「いいことよ、奥さん」 と又睨んだ。 時雄は黙っ
てこの嬌態に対していた。胸の騒ぐのは無論である。不快の情はひしと押し寄せて来た。芳子はちらと時雄の
顔を覗ったが、その不機嫌なのが一目で解った。で、すぐ態度を改めて、「先生、今日田中が参りましてね」
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手紙の夫の傍にあるのに眼を附けて、「芳子さん、何て言って来たのです?」 時雄は黙って手紙を投げて遣
った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
語気が烈しいので、細君は口を噤んで了った。少時経ってから、「だから、本当に厭さ、若い娘の身で、小説
家になるなんぞッて、望む本人も本人なら、よこす親達も親達ですからね」「でも、お前は安心したろう」と
言おうとしたが、それは止して、「まア、そんなことはどうでも好いさ、どうせお前達には解らんのだから…
…それよりも酌でもしたらどうだ」 温順な細君は徳利を取上げて、京焼の盃に波々と注ぐ。 時雄は頻りに
酒を呷った。酒でなければこの鬱を遣るに堪えぬといわぬばかりに。三本目に、妻は心配して、「この頃はど
うか為ましたね」「何故?」「酔ってばかりいるじゃありませんか」「酔うということがどうかしたのか」「
そうでしょう、何か気に懸ることがあるからでしょう。芳子さんのことなどはどうでも好いじゃありませんか
」「馬鹿!」 と時雄は一喝した。 細君はそれにも懲りずに、「だって、余り飲んでは毒ですよ、もう好い
加減になさい、また手水場にでも入って寝ると、貴郎は大きいから、私と、お鶴(下女)の手ぐらいではどう
にもなりやしませんからさ」「まア、好いからもう一本」 で、もう一本を半分位飲んだ。もう酔は余程廻っ
たらしい。顔の色は赤銅色に染って眼が少しく据っていた。急に立上って、「おい、帯を出せ!」「何処へい
らっしゃる」「三番町まで行って来る」「姉の処?」「うむ」「およしなさいよ、危ないから」「何アに大丈
夫だ、人の娘を預って監督せずに投遣にしてはおかれん。男がこの東京に来て一緒に歩いたり何かしているの
を見ぬ振をしてはおかれん。田川(姉の家の姓)に預けておいても不安心だから、今日、行って、早かったら
、芳子を家に連れて来る。二階を掃除しておけ」「家に置くんですか、また……」「勿論」 細君は容易に帯
と着物とを出そうともせぬので、「よし、よし、着物を出さんのなら、これで好い」と、白地の単衣に唐縮緬
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(LA: 2.40, 2.21, 2.16)
え……」と言って、芳子は顔を挙げて、「それで先生、私達もそう思って、今はお互に勉強して、将来に希望
を持って、親の許諾をも得たいと存じておりますの!」「それが好いです。今、余り騒ぐと、人にも親にも誤
解されて了って、折角の真面目な希望も遂げられなくなりますから」「ですから、ね、先生、私は一心になっ
て勉強しようと思いますの。田中もそう申しておりました。それから、先生に是非お目にかかってお礼を申上
げなければ済まないと申しておりましたけれど……よく申上げてくれッて……」「いや……」 時雄は芳子の
言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
ように感じた。当世の女学生気質のいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。勿論、こ
の女学生気質を時雄は主義の上、趣味の上から喜んで見ていたのは事実である。昔のような教育を受けては、
到底今の明治の男子の妻としては立って行かれぬ。女子も立たねばならぬ、意志の力を十分に養わねばならぬ
とはかれの持論である。この持論をかれは芳子に向っても尠からず鼓吹した。けれどこの新派のハイカラの実
行を見てはさすがに眉を顰めずにはいられなかった。 男からは国府津の消印で帰途に就いたという端書が着
いて翌日三番町の姉の家から届けて来た。居間の二階には芳子が居て、呼べば直ぐ返事をして下りて来る。食
事には三度三度膳を並べて団欒して食う。夜は明るい洋燈を取巻いて、賑わしく面白く語り合う。靴下は編ん
でくれる。美しい笑顔を絶えず見せる。時雄は芳子を全く占領して、とにかく安心もし満足もした。細君も芳
子に恋人があるのを知ってから、危険の念、不安の念を全く去った。 芳子は恋人に別れるのが辛かった。成
ろうことなら一緒に東京に居て、時々顔をも見、言葉をも交えたかった。けれど今の際それは出来難いことを
知っていた。二年、三年、男が同志社を卒業するまでは、たまさかの雁の音信をたよりに、一心不乱に勉強し
なければならぬと思った。で、午後からは、以前の如く麹町の某英学塾に通い、時雄も小石川の社に通った。
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襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
だという。本箱には紅葉全集、近松世話浄瑠璃、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立
って目に附く。で、未来の閨秀作家は学校から帰って来ると、机に向って文を書くというよりは、寧ろ多く手
紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の
Slot >>622
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(LA: 2.33, 2.21, 2.16)
て、黙って姉の方に押遣った。「何ですか……お土産? いつもお気の毒ね?」「いいえ、私も召上るんです
もの」 と芳子は快活に言った。そして次の間へ行こうとしたのを、無理に洋燈の明るい眩しい居間の一隅に
坐らせた。美しい姿、当世流の庇髪、派手なネルにオリイヴ色の夏帯を形よく緊めて、少し斜に坐った艶やか
さ。時雄はその姿と相対して、一種状すべからざる満足を胸に感じ、今までの煩悶と苦痛とを半ば忘れて了っ
た。有力な敵があっても、その恋人をだに占領すれば、それで心の安まるのは恋する者の常態である。「大変
に遅くなって了って……」 いかにも遣瀬ないというように微かに弁解した。「中野へ散歩に行ったッて?」
時雄は突如として問うた。「ええ……」芳子は時雄の顔色をまたちらりと見た。 姉は茶を淹れる。土産の
包を開くと、姉の好きな好きなシュウクリーム。これはマアお旨しいと姉の声。で、暫く一座はそれに気を取
られた。 少時してから、芳子が、「先生、私の帰るのを待っていて下さったの?」「ええ、ええ、一時間半
位待ったのよ」 と姉が傍から言った。 で、その話が出て、都合さえよくば今夜からでも――荷物は後から
でも好いから――一緒に伴れて行く積りで来たということを話した。芳子は下を向いて、点頭いて聞いていた
。無論、その胸には一種の圧迫を感じたに相違ないけれど、芳子の心にしては、絶対に信頼して――今回の恋
のことにも全心を挙げて同情してくれた師の家に行って住むことは別に甚しい苦痛でも無かった。寧ろ以前か
らこの昔風の家に同居しているのを不快に思って、出来るならば、初めのように先生の家にと願っていたので
あるから、今の場合でなければ、かえって大に喜んだのであろうに…… 時雄は一刻も早くその恋人のことを
聞糺したかった。今、その男は何処にいる? 何時京都に帰るか? これは時雄に取っては実に重大な問題で
あった。けれど何も知らぬ姉の前で、打明けて問う訳にも行かぬので、この夜は露ほどもそのことを口に出さ
なかった。一座は平凡な物語に更けた。 今夜にもと時雄の言出したのを、だって、もう十二時だ、明日にし
た方が宜かろうとの姉の注意。で、時雄は一人で牛込に帰ろうとしたが、どうも不安心で為方がないような気
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う愛想をつかして断念めて了うであろうと時雄は思って微笑した。そして本箱の中から岡山県の地図を捜して
、阿哲郡新見町の所在を研究した。山陽線から高梁川の谷を遡って奥十数里、こんな山の中にもこんなハイカ
ラの女があるかと思うと、それでも何となくなつかしく、時雄はその附近の地形やら山やら川やらを仔細に見
た。 で、これで返辞をよこすまいと思ったら、それどころか、四日目には更に厚い封書が届いて、紫インキ
で、青い罫の入った西洋紙に横に細字で三枚、どうか将来見捨てずに弟子にしてくれという意味が返す返すも
書いてあって、父母に願って許可を得たならば、東京に出て、然るべき学校に入って、完全に忠実に文学を学
んでみたいとのことであった。時雄は女の志に感ぜずにはいられなかった。東京でさえ――女学校を卒業した
ものでさえ、文学の価値などは解らぬものなのに、何もかもよく知っているらしい手紙の文句、早速返事を出
して師弟の関係を結んだ。 それから度々の手紙と文章、文章はまだ幼稚な点はあるが、癖の無い、すらすら
した、将来発達の見込は十分にあると時雄は思った。で一度は一度より段々互の気質が知れて、時雄はその手
紙の来るのを待つようになった。ある時などは写真を送れと言って遣ろうと思って、手紙の隅に小さく書いて
、そしてまたこれを黒々と塗って了った。女性には容色と謂うものが是非必要である。容色のわるい女はいく
ら才があっても男が相手に為ない。時雄も内々胸の中で、どうせ文学を遣ろうというような女だから、不容色
に相違ないと思った。けれどなるべくは見られる位の女であって欲しいと思った。 芳子が父母に許可を得て
、父に伴れられて、時雄の門を訪うたのは翌年の二月で、丁度時雄の三番目の男の児の生れた七夜の日であっ
た。座敷の隣の室は細君の産褥で、細君は手伝に来ている姉から若い女門下生の美しい容色であることを聞い
て少なからず懊悩した。姉もああいう若い美しい女を弟子にしてどうする気だろうと心配した。時雄は芳子と
父とを並べて、縷々として文学者の境遇と目的とを語り、女の結婚問題に就いて予め父親の説を叩いた。芳子
の家は新見町でも第三とは下らぬ豪家で、父も母も厳格なる基督教信者、母は殊にすぐれた信者で、曽ては同
志社女学校に学んだこともあるという。総領の兄は英国へ洋行して、帰朝後は某官立学校の教授となっている
Slot >>558
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Win!! 4 pts.(LA: 2.31, 2.21, 2.16)
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
漲り渡った。 酔は既に醒めた。夜露は置始めた。 土手三番町の家の前に来た。 覗いてみたが、芳子の室
に燈火の光が見えぬ。まだ帰って来ぬとみえる。時雄の胸はまた燃えた。この夜、この暗い夜に恋しい男と二
人! 何をしているか解らぬ。こういう常識を欠いた行為を敢てして、神聖なる恋とは何事? 汚れたる行為
の無いのを弁明するとは何事? すぐ家に入ろうとしたが、まだ当人が帰っておらぬのに上っても為方が無い
と思って、その前を真直に通り抜けた。女と摩違う度に、芳子ではないかと顔を覗きつつ歩いた。土手の上、
松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。もう九時、十時に近い。いかに夏の
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
ったんでしょう」「何アに……」 と時雄は強いて笑ってまぎらした。 さて時を移さず、「芳さん、何処に
行ったんです」「今朝、ちょっと中野の方にお友達と散歩に行って来ると行って出たきりですがね、もう帰っ
て来るでしょう。何か用?」「え、少し……」と言って、「昨日は帰りは遅かったですか」「いいえ、お友達
を新橋に迎えに行くんだって、四時過に出かけて、八時頃に帰って来ましたよ」 時雄の顔を見て、「どうか
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思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
」 突如蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。時雄はふらふらと危く小便をしてい
たが、それがすむと、突如※(「革+堂」、第3水準1-93-80)と厠の中に横に寝てしまった。細君が
汚がって頻りに揺ったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく
、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。 時雄は例刻をてくてくと
牛込矢来町の自宅に帰って来た。 渠は三日間、その苦悶と戦った。渠は性として惑溺することが出来ぬ或る
一種の力を有っている。この力の為めに支配されるのを常に口惜しく思っているのではあるが、それでもいつ
か負けて了う。征服されて了う。これが為め渠はいつも運命の圏外に立って苦しい味を嘗めさせられるが、世
間からは正しい人、信頼するに足る人と信じられている。三日間の苦しい煩悶、これでとにかく渠はその前途
を見た。二人の間の関係は一段落を告げた。これからは、師としての責任を尽して、わが愛する女の幸福の為
めを謀るばかりだ。これはつらい、けれどつらいのが人生だ! と思いながら帰って来た。 門をあけて入る
と、細君が迎えに出た。残暑の日はまだ暑く、洋服の下襦袢がびっしょり汗にぬれている。それを糊のついた
白地の単衣に着替えて、茶の間の火鉢の前に坐ると、細君はふと思い附いたように、箪笥の上の一封の手紙を
取出し、「芳子さんから」 と言って渡した。 急いで封を切った。巻紙の厚いのを見ても、その事件に関し
ての用事に相違ない。時雄は熱心に読下した。 言文一致で、すらすらとこの上ない達筆。先生――実は御相
談に上りたいと存じましたが、余り急でしたものでしたから、独断で実行致しました。昨日四時に田中から電
Slot >>137
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Win!! 4 pts.(LA: 2.27, 2.20, 2.16)
、私が非常に困る。貴嬢の世話も出来んようになるから、厳しく止めて遣んなさい!」 芳子は愈※(二の字
点、1-2-22)困ったという風で、「止めてはやりますけれど、手紙が行違いになるかも知れませんから
」「行違い? それじゃもう来るのか」 時雄は眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)った。「今
来た手紙に、もう手紙をよこしてくれても行違いになるからと言ってよこしたんですから」「今来た手紙ッて
、さっきの端書の又後に来たのか」 芳子は点頭いた。「困ったね。だから若い空想家は駄目だと言うんだ」
平和は再び攪乱さるることとなった。 一日置いて今夜の六時に新橋に着くという電報があった。電報を持
って、芳子はまごまごしていた。けれど夜ひとり若い女を出して遣る訳に行かぬので、新橋へ迎えに行くこと
は許さなかった。 翌日は逢って達って諌めてどうしても京都に還らせるようにすると言って、芳子はその恋
人の許を訪うた。その男は停車場前のつるやという旅館に宿っているのである。 時雄が社から帰った時には
、まだとても帰るまいと思った芳子が既にその笑顔を玄関にあらわしていた。聞くと田中は既にこうして出て
来た以上、どうしても京都には帰らぬとのことだ。で、芳子は殆ど喧嘩をするまでに争ったが、矢張断として
可かぬ。先生を頼りにして出京したのではあるが、そう聞けば、なるほど御尤である。監督上都合の悪いとい
うのもよく解りました。けれど今更帰れませぬから、自分で如何ようにしても自活の道を求めて目的地に進む
より他はないとまで言ったそうだ。時雄は不快を感じた。 時雄は一時は勝手にしろと思った。放っておけと
も思った。けれど圏内の一員たるかれにどうして全く風馬牛たることを得ようぞ。芳子はその後二三日訪問し
た形跡もなく、学校の時間には正確に帰って来るが、学校に行くと称して恋人の許に寄りはせぬかと思うと、
胸は疑惑と嫉妬とに燃えた。 時雄は懊悩した。その心は日に幾遍となく変った。ある時は全く犠牲になって
二人の為めに尽そうと思った。ある時はこの一伍一什を国に報じて一挙に破壊して了おうかと思った。けれど
この何れをも敢てすることの出来ぬのが今の心の状態であった。 細君が、ふと、時雄に耳語した。「あなた
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の度を増した。 野は秋も暮れて木枯の風が立った。裏の森の銀杏樹も黄葉して夕の空を美しく彩った。垣根
道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。鵙の鳴音がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※(二
の字点、1-2-22)人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を
説勧めて、この一伍一什を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄
せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分に贏ち得るように勉めた。時雄は心を欺いて、――悲壮なる
犠牲と称して、この「恋の温情なる保護者」となった。 備中の山中から数通の手紙が来た。 その翌年の一
月には、時雄は地理の用事で、上武の境なる利根河畔に出張していた。彼は昨年の年末からこの地に来ている
ので、家のこと――芳子のことが殊に心配になる。さりとて公務を如何ともすることが出来なかった。正月に
なって二日にちょっと帰京したが、その時は次男が歯を病んで、妻と芳子とが頻りにそれを介抱していた。妻
に聞くと、芳子の恋は更に惑溺の度を加えた様子。大晦日の晩に、田中が生活のたつきを得ず、下宿に帰るこ
とも出来ずに、終夜運転の電車に一夜を過したということ、余り頻繁に二人が往来するので、それをそれとな
しに注意して芳子と口争いをしたということ、その他種々のことを聞いた。困ったことだと思った。一晩泊っ
て再び利根の河畔に戻った。 今は五日の夜であった。茫とした空に月が暈を帯びて、その光が川の中央にき
らきらと金を砕いていた。時雄は机の上に一通の封書を展いて、深くその事を考えていた。その手紙は今少し
前、旅館の下女が置いて行った芳子の筆である。先生、まことに、申訳が御座いません。先生の同情ある御恩
は決して一生経っても忘るることでなく、今もそのお心を思うと、涙が滴るるのです。父母はあの通りです。
先生があのように仰しゃって下すっても、旧風の頑固で、私共の心を汲んでくれようとも致しませず、泣いて
訴えましたけれど、許してくれません。母の手紙を見れば泣かずにはおられませんけれど、少しは私の心も汲
んでくれても好いと思います。恋とはこう苦しいものかと今つくづく思い当りました。先生、私は決心致しま
した。聖書にも女は親に離れて夫に従うと御座います通り、私は田中に従おうと存じます。田中は未だに生活
Slot >>713
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(LA: 2.64, 2.30, 2.19)
目だと言ったことを思いだした。馬鹿な! 恋に師弟の別があって堪るものかと口へ出して言った。 中根坂
を上って、士官学校の裏門から佐内坂の上まで来た頃は、日はもうとっぷりと暮れた。白地の浴衣がぞろぞろ
と通る。煙草屋の前に若い細君が出ている。氷屋の暖簾が涼しそうに夕風に靡く。時雄はこの夏の夜景を朧げ
に眼には見ながら、電信柱に突当って倒れそうにしたり、浅い溝に落ちて膝頭をついたり、職工体の男に、「
酔漢奴! しっかり歩け!」と罵られたりした。急に自ら思いついたらしく、坂の上から右に折れて、市ヶ谷
八幡の境内へと入った。境内には人の影もなく寂寞としていた。大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって
、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。処々の常夜燈はそろそろ光を放ち始めた。時雄はいかにしても苦
しいので、突如その珊瑚樹の蔭に身を躱して、その根本の地上に身を横えた。興奮した心の状態、奔放な情と
悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬の念に駆られながら、一方冷淡に自己の状態を
客観した。 初めて恋するような熱烈な情は無論なかった。盲目にその運命に従うと謂うよりは、寧ろ冷かに
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
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なければならぬと思った。で、午後からは、以前の如く麹町の某英学塾に通い、時雄も小石川の社に通った。
時雄は夜などおりおり芳子を自分の書斎に呼んで、文学の話、小説の話、それから恋の話をすることがある
。そして芳子の為めにその将来の注意を与えた。その時の態度は公平で、率直で、同情に富んでいて、決して
泥酔して厠に寝たり、地上に横たわったりした人とは思われない。さればと言って、時雄はわざとそういう態
度にするのではない、女に対っている刹那――その愛した女の歓心を得るには、いかなる犠牲も甚だ高価に過
ぎなかった。 で、芳子は師を信頼した。時期が来て、父母にこの恋を告ぐる時、旧思想と新思想と衝突する
ようなことがあっても、この恵深い師の承認を得さえすればそれで沢山だとまで思った。 九月は十月になっ
た。さびしい風が裏の森を鳴らして、空の色は深く碧く、日の光は透通った空気に射渡って、夕の影が濃くあ
たりを隈どるようになった。取り残した芋の葉に雨は終日降頻って、八百屋の店には松茸が並べられた。垣の
虫の声は露に衰えて、庭の桐の葉も脆くも落ちた。午前の中の一時間、九時より十時までを、ツルゲネーフの
小説の解釈、芳子は師のかがやく眼の下に、机に斜に坐って、「オン、ゼ、イブ」の長い長い物語に耳を傾け
た。エレネの感情に烈しく意志の強い性格と、その悲しい悲壮なる末路とは如何にかの女を動かしたか。芳子
はエレネの恋物語を自分に引くらべて、その身を小説の中に置いた。恋の運命、恋すべき人に恋する機会がな
く、思いも懸けぬ人にその一生を任した運命、実際芳子の当時の心情そのままであった。須磨の浜で、ゆくり
なく受取った百合の花の一葉の端書、それがこうした運命になろうとは夢にも思い知らなかったのである。
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。京都の夜汽車、嵯峨の月、膳所に遊ん
だ時には湖水に夕日が美しく射渡って、旅館の中庭に、萩が絵のように咲乱れていた。その二日の遊は実に夢
のようであったと思った。続いてまだその人を恋せぬ前のこと、須磨の海水浴、故郷の山の中の月、病気にな
らぬ以前、殊にその時の煩悶を考えると、頬がおのずから赧くなった。 空想から空想、その空想はいつか長
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
Slot >>96
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Win!! 4 pts.(LA: 2.64, 2.32, 2.20)
た方が宜かろうとの姉の注意。で、時雄は一人で牛込に帰ろうとしたが、どうも不安心で為方がないような気
がしたので、夜の更けたのを口実に、姉の家に泊って、明朝早く一緒に行くことにした。 芳子は八畳に、時
雄は六畳に姉と床を並べて寝た。やがて姉の小さい鼾が聞えた。時計は一時をカンと鳴った。八畳では寝つか
れぬと覚しく、おりおり高い長大息の気勢がする。甲武の貨物列車が凄じい地響を立てて、この深夜を独り通
る。時雄も久しく眠られなかった。 翌朝時雄は芳子を自宅に伴った。二人になるより早く、時雄は昨日の消
息を知ろうと思ったけれど、芳子が低頭勝に悄然として後について来るのを見ると、何となく可哀そうになっ
て、胸に苛々する思を畳みながら、黙して歩いた。 佐内坂を登り了ると、人通りが少くなった。時雄はふと
振返って、「それでどうしたの?」と突如として訊ねた。「え?」 反問した芳子は顔を曇らせた。「昨日の
話さ、まだ居るのかね」「今夜の六時の急行で帰ります」「それじゃ送って行かなくってはいけないじゃない
か」「いいえ、もう好いんですの」 これで話は途絶えて、二人は黙って歩いた。 矢来町の時雄の宅、今ま
で物置にしておいた二階の三畳と六畳、これを綺麗に掃除して、芳子の住居とした。久しく物置――子供の遊
び場にしておいたので、塵埃が山のように積っていたが、箒をかけ雑巾をかけ、雨のしみの附いた破れた障子
を貼り更えると、こうも変るものかと思われるほど明るくなって、裏の酒井の墓塋の大樹の繁茂が心地よき空
翠をその一室に漲らした。隣家の葡萄棚、打捨てて手を入れようともせぬ庭の雑草の中に美人草の美しく交っ
て咲いているのも今更に目につく。時雄はさる画家の描いた朝顔の幅を選んで床に懸け、懸花瓶には後れ咲の
薔薇の花を※(「插」のつくりの縦棒が下に突き抜ける、第4水準2-13-28)した。午頃に荷物が着い
て、大きな支那鞄、柳行李、信玄袋、本箱、机、夜具、これを二階に運ぶのには中々骨が折れる。時雄はこの
手伝いに一日社を休むべく余儀なくされたのである。 机を南の窓の下、本箱をその左に、上に鏡やら紅皿や
ら罎やらを順序よく並べた。押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようと
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という率直なところが微塵もなく、自己の罪悪にも弱点にも種々の理由を強いてつけて、これを弁解しようと
する形式的態度であった。とは言え、実を言えば、時雄の激しい頭脳には、それがすぐ直覚的に明かに映った
と云うではなく、座敷の隅に置かれた小さい旅鞄や憐れにもしおたれた白地の浴衣などを見ると、青年空想の
昔が思い出されて、こうした恋の為め、煩悶もし、懊悩もしているかと思って、憐憫の情も起らぬではなかっ
た。 この暑い一室に相対して、趺坐をもかかず、二人は尠くとも一時間以上語った。話は遂に要領を得なか
った。「先ず今一度考え直して見給え」くらいが最後で、時雄は別れて帰途に就いた。 何だか馬鹿らしいよ
うな気がした。愚なる行為をしたように感じられて、自らその身を嘲笑した。心にもないお世辞をも言い、自
分の胸の底の秘密を蔽う為めには、二人の恋の温情なる保護者となろうとまで言ったことを思い出した。安飜
訳の仕事を周旋して貰う為め、某氏に紹介の労を執ろうと言ったことをも思い出した。そして自分ながら自分
の意気地なく好人物なのを罵った。 時雄は幾度か考えた。寧ろ国に報知して遣ろうか、と。けれどそれを報
知するに、どういう態度を以てしようかというのが大問題であった。二人の恋の関鍵を自ら握っていると信ず
るだけそれだけ時雄は責任を重く感じた。その身の不当の嫉妬、不正の恋情の為めに、その愛する女の熱烈な
る恋を犠牲にするには忍びぬと共に、自ら言った「温情なる保護者」として、道徳家の如く身を処するにも堪
えなかった。また一方にはこの事が国に知れて芳子が父母の為めに伴われて帰国するようになるのを恐れた。
芳子が時雄の書斎に来て、頭を垂れ、声を低うして、その希望を述べたのはその翌日の夜であった。如何に
説いても男は帰らぬ。さりとて国へ報知すれば、父母の許さぬのは知れたこと、時宜に由れば忽ち迎いに来ぬ
とも限らぬ。男も折角ああして出て来たことでもあり二人の間も世の中の男女の恋のように浅く思い浅く恋し
た訳でもないから、決して汚れた行為などはなく、惑溺するようなことは誓って為ない。文学は難かしい道、
小説を書いて一家を成そうとするのは田中のようなものには出来ぬかも知れねど、同じく将来を進むなら、共
に好む道に携わりたい。どうか暫くこのままにして東京に置いてくれとの頼み。時雄はこの余儀なき頼みをす
Slot >>586
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Win!! 4 pts.(LA: 2.57, 2.32, 2.20)
宿を訪問した。「まことに、先生にはよう申訳がありまえんのやけれど……」長い演説調の雄弁で、形式的の
申訳をした後、田中という中脊の、少し肥えた、色の白い男が祈祷をする時のような眼色をして、さも同情を
求めるように言った。 時雄は熱していた。「然し、君、解ったら、そうしたら好いじゃありませんか、僕は
君等の将来を思って言うのです。芳子は僕の弟子です。僕の責任として、芳子に廃学させるには忍びん。君が
東京にどうしてもいると言うなら、芳子を国に帰すか、この関係を父母に打明けて許可を乞うか、二つの中一
つを選ばんければならん。君は君の愛する女を君の為めに山の中に埋もらせるほどエゴイスチックな人間じゃ
ありますまい。君は宗教に従事することが今度の事件の為めに厭になったと謂うが、それは一種の考えで、君
は忍んで、京都に居りさえすれば、万事円満に、二人の間柄も将来希望があるのですから」「よう解っており
ます……」「けれど出来んですか」「どうも済みませんけど……制服も帽子も売ってしもうたで、今更帰るに
も帰れまえんという次第で……」「それじゃ芳子を国に帰すですか」 かれは黙っている。「国に言って遣り
ましょうか」 矢張黙っていた。「私の東京に参りましたのは、そういうことには寧ろ関係しない積でおます
。別段こちらに居りましても、二人の間にはどうという……」「それは君はそう言うでしょう。けれど、それ
では私は監督は出来ん。恋はいつ惑溺するかも解らん」「私はそないなことは無いつもりですけどナ」「誓い
得るですか」「静かに、勉強して行かれさえすれァナ、そないなことありませんけどナ」「だから困るのです
」 こういう会話――要領を得ない会話を繰返して長く相対した。時雄は将来の希望という点、男子の犠牲と
いう点、事件の進行という点からいろいろさまざまに帰国を勧めた。時雄の眼に映じた田中秀夫は、想像した
ような一箇秀麗な丈夫でもなく天才肌の人とも見えなかった。麹町三番町通の安旅人宿、三方壁でしきられた
暑い室に初めて相対した時、先ずかれの身に迫ったのは、基督教に養われた、いやに取澄ました、年に似合わ
ぬ老成な、厭な不愉快な態度であった。京都訛の言葉、色の白い顔、やさしいところはいくらかはあるが、多
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しいので、突如その珊瑚樹の蔭に身を躱して、その根本の地上に身を横えた。興奮した心の状態、奔放な情と
悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬の念に駆られながら、一方冷淡に自己の状態を
客観した。 初めて恋するような熱烈な情は無論なかった。盲目にその運命に従うと謂うよりは、寧ろ冷かに
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
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(LA: 2.67, 2.36, 2.22)
らっしゃる」「三番町まで行って来る」「姉の処?」「うむ」「およしなさいよ、危ないから」「何アに大丈
夫だ、人の娘を預って監督せずに投遣にしてはおかれん。男がこの東京に来て一緒に歩いたり何かしているの
を見ぬ振をしてはおかれん。田川(姉の家の姓)に預けておいても不安心だから、今日、行って、早かったら
、芳子を家に連れて来る。二階を掃除しておけ」「家に置くんですか、また……」「勿論」 細君は容易に帯
と着物とを出そうともせぬので、「よし、よし、着物を出さんのなら、これで好い」と、白地の単衣に唐縮緬
の汚れたへこ帯、帽子も被らずに、そのままに急いで戸外へ出た。「今出しますから……本当に困って了う」
という細君の声が後に聞えた。 夏の日はもう暮れ懸っていた。矢来の酒井の森には烏の声が喧しく聞える。
どの家でも夕飯が済んで、門口に若い娘の白い顔も見える。ボールを投げている少年もある。官吏らしい鰌髭
の紳士が庇髪の若い細君を伴れて、神楽坂に散歩に出懸けるのにも幾組か邂逅した。時雄は激昂した心と泥酔
した身体とに烈しく漂わされて、四辺に見ゆるものが皆な別の世界のもののように思われた。両側の家も動く
よう、地も脚の下に陥るよう、天も頭の上に蔽い冠さるように感じた。元からさ程強い酒量でないのに、無闇
にぐいぐいと呷ったので、一時に酔が発したのであろう。ふと露西亜の賤民の酒に酔って路傍に倒れて寝てい
るのを思い出した。そしてある友人と露西亜の人間はこれだから豪い、惑溺するなら飽まで惑溺せんければ駄
目だと言ったことを思いだした。馬鹿な! 恋に師弟の別があって堪るものかと口へ出して言った。 中根坂
を上って、士官学校の裏門から佐内坂の上まで来た頃は、日はもうとっぷりと暮れた。白地の浴衣がぞろぞろ
と通る。煙草屋の前に若い細君が出ている。氷屋の暖簾が涼しそうに夕風に靡く。時雄はこの夏の夜景を朧げ
に眼には見ながら、電信柱に突当って倒れそうにしたり、浅い溝に落ちて膝頭をついたり、職工体の男に、「
酔漢奴! しっかり歩け!」と罵られたりした。急に自ら思いついたらしく、坂の上から右に折れて、市ヶ谷
八幡の境内へと入った。境内には人の影もなく寂寞としていた。大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって
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言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
ように感じた。当世の女学生気質のいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。勿論、こ
の女学生気質を時雄は主義の上、趣味の上から喜んで見ていたのは事実である。昔のような教育を受けては、
到底今の明治の男子の妻としては立って行かれぬ。女子も立たねばならぬ、意志の力を十分に養わねばならぬ
とはかれの持論である。この持論をかれは芳子に向っても尠からず鼓吹した。けれどこの新派のハイカラの実
行を見てはさすがに眉を顰めずにはいられなかった。 男からは国府津の消印で帰途に就いたという端書が着
いて翌日三番町の姉の家から届けて来た。居間の二階には芳子が居て、呼べば直ぐ返事をして下りて来る。食
事には三度三度膳を並べて団欒して食う。夜は明るい洋燈を取巻いて、賑わしく面白く語り合う。靴下は編ん
でくれる。美しい笑顔を絶えず見せる。時雄は芳子を全く占領して、とにかく安心もし満足もした。細君も芳
子に恋人があるのを知ってから、危険の念、不安の念を全く去った。 芳子は恋人に別れるのが辛かった。成
ろうことなら一緒に東京に居て、時々顔をも見、言葉をも交えたかった。けれど今の際それは出来難いことを
知っていた。二年、三年、男が同志社を卒業するまでは、たまさかの雁の音信をたよりに、一心不乱に勉強し
なければならぬと思った。で、午後からは、以前の如く麹町の某英学塾に通い、時雄も小石川の社に通った。
時雄は夜などおりおり芳子を自分の書斎に呼んで、文学の話、小説の話、それから恋の話をすることがある
。そして芳子の為めにその将来の注意を与えた。その時の態度は公平で、率直で、同情に富んでいて、決して
泥酔して厠に寝たり、地上に横たわったりした人とは思われない。さればと言って、時雄はわざとそういう態
度にするのではない、女に対っている刹那――その愛した女の歓心を得るには、いかなる犠牲も甚だ高価に過
ぎなかった。 で、芳子は師を信頼した。時期が来て、父母にこの恋を告ぐる時、旧思想と新思想と衝突する
ようなことがあっても、この恵深い師の承認を得さえすればそれで沢山だとまで思った。 九月は十月になっ
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(LA: 2.67, 2.37, 2.23)
学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。 麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカ
ラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方には時雄の妻君の里の家があるのだが、この附近は殊に昔風
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
として、妻から常に次のようなことを聞される。「芳子さんにも困ったものですねと姉が今日も言っていまし
たよ、男の友達が来るのは好いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまで帰って来ないことが
あるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決っているけれど、世間の口が喧しくって為方が無
いと云っていました」 これを聞くと時雄は定って芳子の肩を持つので、「お前達のような旧式の人間には芳
子の遣ることなどは判りやせんよ。男女が二人で歩いたり話したりさえすれば、すぐあやしいとか変だとか思
うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと
思うことは勝手にするさ」 この議論を時雄はまた得意になって芳子にも説法した。「女子ももう自覚せんけ
ればいかん。昔の女のように依頼心を持っていては駄目だ。ズウデルマンのマグダの言った通り、父の手から
すぐに夫の手に移るような意気地なしでは為方が無い。日本の新しい婦人としては、自ら考えて自ら行うよう
にしなければいかん」こう言っては、イブセンのノラの話や、ツルゲネーフのエレネの話や、露西亜、独逸あ
たりの婦人の意志と感情と共に富んでいることを話し、さて、「けれど自覚と云うのは、自省ということをも
含んでおるですからな、無闇に意志や自我を振廻しては困るですよ。自分の遣ったことには自分が全責任を帯
びる覚悟がなくては」 芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈※(二の字
点、1-2-22)加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。 芳子は女学生
としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、
路傍の人目を惹くに十分であった。美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い
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息を知ろうと思ったけれど、芳子が低頭勝に悄然として後について来るのを見ると、何となく可哀そうになっ
て、胸に苛々する思を畳みながら、黙して歩いた。 佐内坂を登り了ると、人通りが少くなった。時雄はふと
振返って、「それでどうしたの?」と突如として訊ねた。「え?」 反問した芳子は顔を曇らせた。「昨日の
話さ、まだ居るのかね」「今夜の六時の急行で帰ります」「それじゃ送って行かなくってはいけないじゃない
か」「いいえ、もう好いんですの」 これで話は途絶えて、二人は黙って歩いた。 矢来町の時雄の宅、今ま
で物置にしておいた二階の三畳と六畳、これを綺麗に掃除して、芳子の住居とした。久しく物置――子供の遊
び場にしておいたので、塵埃が山のように積っていたが、箒をかけ雑巾をかけ、雨のしみの附いた破れた障子
を貼り更えると、こうも変るものかと思われるほど明るくなって、裏の酒井の墓塋の大樹の繁茂が心地よき空
翠をその一室に漲らした。隣家の葡萄棚、打捨てて手を入れようともせぬ庭の雑草の中に美人草の美しく交っ
て咲いているのも今更に目につく。時雄はさる画家の描いた朝顔の幅を選んで床に懸け、懸花瓶には後れ咲の
薔薇の花を※(「插」のつくりの縦棒が下に突き抜ける、第4水準2-13-28)した。午頃に荷物が着い
て、大きな支那鞄、柳行李、信玄袋、本箱、机、夜具、これを二階に運ぶのには中々骨が折れる。時雄はこの
手伝いに一日社を休むべく余儀なくされたのである。 机を南の窓の下、本箱をその左に、上に鏡やら紅皿や
ら罎やらを順序よく並べた。押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようと
した時、女の移香が鼻を撲ったので、時雄は変な気になった。 午後二時頃には一室が一先ず整頓した。「ど
うです、此処も居心は悪くないでしょう」時雄は得意そうに笑って、「此処に居て、まア緩くり勉強するです
。本当に実際問題に触れてつまらなく苦労したって為方がないですからねえ」「え……」と芳子は頭を垂れた
。「後で詳しく聞きましょうが、今の中は二人共じっとして勉強していなくては、為方がないですからね」「
え……」と言って、芳子は顔を挙げて、「それで先生、私達もそう思って、今はお互に勉強して、将来に希望
を持って、親の許諾をも得たいと存じておりますの!」「それが好いです。今、余り騒ぐと、人にも親にも誤
Slot >>371
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(LA: 2.78, 2.42, 2.24)
うか。それに、家の門地々々と申しますが、私は恋を父母の都合によって致すような旧式の女でないことは先
生もお許し下さるでしょう。先生、私は決心致しました。昨日上野図書館で女の見習生が入用だという広告が
ありましたから、応じてみようと思います。二人して一生懸命に働きましたら、まさかに餓えるようなことも
御座いますまい。先生のお家にこうして居ますればこそ、先生にも奥様にも御心配を懸けて済まぬので御座い
ます。どうか先生、私の決心をお許し下さい。芳子先生 おんもとへ 恋の力は遂に二人を深い惑溺の淵に沈
めたのである。時雄はもうこうしてはおかれぬと思った。時雄が芳子の歓心を得る為めに取った「温情の保護
者」としての態度を考えた。備中の父親に寄せた手紙、その手紙には、極力二人の恋を庇保して、どうしても
この恋を許して貰わねばならぬという主旨であった。時雄は父母の到底これを承知せぬことを知っていた。寧
ろ父母の極力反対することを希望していた。父母は果して極力反対して来た。言うことを聞かぬなら勘当する
とまで言って来た。二人はまさに受くべき恋の報酬を受けた。時雄は芳子の為めに飽まで弁明し、汚れた目的
の為めに行われたる恋でないことを言い、父母の中一人、是非出京してこの問題を解決して貰いたいと言い送
った。けれど故郷の父母は、監督なる時雄がそういう主張であるのと、到底その口から許可することが出来ぬ
のとで、上京しても無駄であると云って出て来なかった。 時雄は今、芳子の手紙に対して考えた。 二人の
状態は最早一刻も猶予すべからざるものとなっている。時雄の監督を離れて二人一緒に暮したいという大胆な
言葉、その言葉の中には警戒すべき分子の多いのを思った。いや、既に一歩を進めているかも知れぬと思った
。又一面にはこれほどその為めに尽力しているのに、その好意を無にして、こういう決心をするとは義理知ら
ず、情知らず、勝手にするが好いとまで激した。 時雄は胸の轟きを静める為め、月朧なる利根川の堤の上を
散歩した。月が暈を帯びた夜は冬ながらやや暖かく、土手下の家々の窓には平和な燈火が静かに輝いていた。
川の上には薄い靄が懸って、おりおり通る船の艫の音がギイと聞える。下流でおーいと渡しを呼ぶものがある
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。芳子は町の小学校を卒業するとすぐ、神戸に出て神戸の女学院に入り、其処でハイカラな女学校生活を送っ
た。基督教の女学校は他の女学校に比して、文学に対して総て自由だ。その頃こそ「魔風恋風」や「金色夜叉
」などを読んではならんとの規定も出ていたが、文部省で干渉しない以前は、教場でさえなくば何を読んでも
差支なかった。学校に附属した教会、其処で祈祷の尊いこと、クリスマスの晩の面白いこと、理想を養うとい
うことの味をも知って、人間の卑しいことを隠して美しいことを標榜するという群の仲間となった。母の膝下
が恋しいとか、故郷が懐かしいとか言うことは、来た当座こそ切実に辛く感じもしたが、やがては全く忘れて
、女学生の寄宿生活をこの上なく面白く思うようになった。旨味い南瓜を食べさせないと云っては、お鉢の飯
に醤油を懸けて賄方を酷めたり、舎監のひねくれた老婦の顔色を見て、陰陽に物を言ったりする女学生の群の
中に入っていては、家庭に養われた少女のように、単純に物を見ることがどうして出来よう。美しいこと、理
想を養うこと、虚栄心の高いこと――こういう傾向をいつとなしに受けて、芳子は明治の女学生の長所と短所
とを遺憾なく備えていた。 尠くとも時雄の孤独なる生活はこれによって破られた。昔の恋人――今の細君。
曽ては恋人には相違なかったが、今は時勢が移り変った。四五年来の女子教育の勃興、女子大学の設立、庇髪
、海老茶袴、男と並んで歩くのをはにかむようなものは一人も無くなった。この世の中に、旧式の丸髷、泥鴨
のような歩き振、温順と貞節とより他に何物をも有せぬ細君に甘んじていることは時雄には何よりも情けなか
った。路を行けば、美しい今様の細君を連れての睦じい散歩、友を訪えば夫の席に出て流暢に会話を賑かす若
い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく、夫の苦悶煩悶には全く風馬牛で、子供さえ
満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。「寂しき人々」
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
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(LA: 2.68, 2.41, 2.24)
顔を覗ったが、その不機嫌なのが一目で解った。で、すぐ態度を改めて、「先生、今日田中が参りましてね」
「そうだってね」「お目にかかってお礼を申上げなければならんのですけれども、又改めて上がりますからッ
て……よろしく申上げて……」「そうか」 と言ったが、そのままふいと立って書斎に入って了った。 その
恋人が東京に居ては、仮令自分が芳子をその二階に置いて監督しても、時雄は心を安んずる暇はなかった。二
人の相逢うことを妨げることは絶対に不可能である。手紙は無論差留めることは出来ぬし、「今日ちょっと田
中に寄って参りますから、一時間遅くなります」と公然と断って行くのをどうこう言う訳には行かなかった。
またその男が訪問して来るのを非常に不快に思うけれど、今更それを謝絶することも出来なかった。時雄はい
つの間にか、この二人からその恋に対しての「温情の保護者」として認められて了った。 時雄は常に苛々し
ていた。書かなければならぬ原稿が幾種もある。書肆からも催促される。金も欲しい。けれどどうしても筆を
執って文を綴るような沈着いた心の状態にはなれなかった。強いて試みてみることがあっても、考が纒らない
。本を読んでも二頁も続けて読む気になれない。二人の恋の温かさを見る度に、胸を燃して、罪もない細君に
当り散らして酒を飲んだ。晩餐の菜が気に入らぬと云って、御膳を蹴飛した。夜は十二時過に酔って帰って来
ることもあった。芳子はこの乱暴な不調子な時雄の行為に尠なからず心を痛めて、「私がいろいろ御心配を懸
けるもんですからね、私が悪いんですよ」と詫びるように細君に言った。芳子はなるたけ手紙の往復を人に見
せぬようにし、訪問も三度に一度は学校を休んでこっそり行くようにした。時雄はそれに気が附いて一層懊悩
の度を増した。 野は秋も暮れて木枯の風が立った。裏の森の銀杏樹も黄葉して夕の空を美しく彩った。垣根
道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。鵙の鳴音がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※(二
の字点、1-2-22)人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を
説勧めて、この一伍一什を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄
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細君の顔を見て、飯を食って眠るという単調なる生活につくづく倦き果てて了った。家を引越歩いても面白く
ない、友人と語り合っても面白くない、外国小説を読み渉猟っても満足が出来ぬ。いや、庭樹の繁り、雨の点
滴、花の開落などいう自然の状態さえ、平凡なる生活をして更に平凡ならしめるような気がして、身を置くに
処は無いほど淋しかった。道を歩いて常に見る若い美しい女、出来るならば新しい恋を為たいと痛切に思った
。 三十四五、実際この頃には誰にでもある煩悶で、この年頃に賤しい女に戯るるものの多いのも、畢竟その
淋しさを医す為めである。世間に妻を離縁するものもこの年頃に多い。 出勤する途上に、毎朝邂逅う美しい
女教師があった。渠はその頃この女に逢うのをその日その日の唯一の楽みとして、その女に就いていろいろな
空想を逞うした。恋が成立って、神楽坂あたりの小待合に連れて行って、人目を忍んで楽しんだらどう……。
細君に知れずに、二人近郊を散歩したらどう……。いや、それどころではない、その時、細君が懐妊しておっ
たから、不図難産して死ぬ、その後にその女を入れるとしてどうであろう。……平気で後妻に入れることが出
来るだろうかどうかなどと考えて歩いた。 神戸の女学院の生徒で、生れは備中の新見町で、渠の著作の崇拝
者で、名を横山芳子という女から崇拝の情を以て充された一通の手紙を受取ったのはその頃であった。竹中古
城と謂えば、美文的小説を書いて、多少世間に聞えておったので、地方から来る崇拝者渇仰者の手紙はこれま
でにも随分多かった。やれ文章を直してくれの、弟子にしてくれのと一々取合ってはいられなかった。だから
その女の手紙を受取っても、別に返事を出そうとまでその好奇心は募らなかった。けれど同じ人の熱心なる手
紙を三通まで貰っては、さすがの時雄も注意をせずにはいられなかった。年は十九だそうだが、手紙の文句か
ら推して、その表情の巧みなのは驚くべきほどで、いかなることがあっても先生の門下生になって、一生文学
に従事したいとの切なる願望。文字は走り書のすらすらした字で、余程ハイカラの女らしい。返事を書いたの
は、例の工場の二階の室で、その日は毎日の課業の地理を二枚書いて止して、長い数尺に余る手紙を芳子に送
った。その手紙には女の身として文学に携わることの不心得、女は生理的に母たるの義務を尽さなければなら
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(LA: 2.50, 2.38, 2.24)
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
として、妻から常に次のようなことを聞される。「芳子さんにも困ったものですねと姉が今日も言っていまし
たよ、男の友達が来るのは好いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまで帰って来ないことが
あるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決っているけれど、世間の口が喧しくって為方が無
いと云っていました」 これを聞くと時雄は定って芳子の肩を持つので、「お前達のような旧式の人間には芳
子の遣ることなどは判りやせんよ。男女が二人で歩いたり話したりさえすれば、すぐあやしいとか変だとか思
うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと
思うことは勝手にするさ」 この議論を時雄はまた得意になって芳子にも説法した。「女子ももう自覚せんけ
ればいかん。昔の女のように依頼心を持っていては駄目だ。ズウデルマンのマグダの言った通り、父の手から
すぐに夫の手に移るような意気地なしでは為方が無い。日本の新しい婦人としては、自ら考えて自ら行うよう
にしなければいかん」こう言っては、イブセンのノラの話や、ツルゲネーフのエレネの話や、露西亜、独逸あ
たりの婦人の意志と感情と共に富んでいることを話し、さて、「けれど自覚と云うのは、自省ということをも
含んでおるですからな、無闇に意志や自我を振廻しては困るですよ。自分の遣ったことには自分が全責任を帯
びる覚悟がなくては」 芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈※(二の字
点、1-2-22)加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。 芳子は女学生
としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、
路傍の人目を惹くに十分であった。美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い
時もあった。眼に光りがあってそれが非常によく働いた。四五年前までの女は感情を顕わすのに極めて単純で
、怒った容とか笑った容とか、三種、四種位しかその感情を表わすことが出来なかったが、今では情を巧に顔
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が来てから時雄さんの様子はまるで変りましたよ。二人で話しているところを見ると、魂は二人ともあくがれ
渡っているようで、それは本当に油断がなりませんよ」と言った。他から見れば、無論そう見えたに相違なか
った。けれど二人は果してそう親密であったか、どうか。 若い女のうかれ勝な心、うかれるかと思えばすぐ
沈む。些細なことにも胸を動かし、つまらぬことにも心を痛める。恋でもない、恋でなくも無いというような
やさしい態度、時雄は絶えず思い惑った。道義の力、習俗の力、機会一度至ればこれを破るのは帛を裂くより
も容易だ。唯、容易に来らぬはこれを破るに至る機会である。 この機会がこの一年の間に尠くとも二度近寄
ったと時雄は自分だけで思った。一度は芳子が厚い封書を寄せて、自分の不束なこと、先生の高恩に報ゆるこ
とが出来ぬから自分は故郷に帰って農夫の妻になって田舎に埋れて了おうということを涙交りに書いた時、一
度は或る夜芳子が一人で留守番をしているところへゆくりなく時雄が行って訪問した時、この二度だ。初めの
時は時雄はその手紙の意味を明かに了解した。その返事をいかに書くべきかに就いて一夜眠らずに懊悩した。
穏かに眠れる妻の顔、それを幾度か窺って自己の良心のいかに麻痺せるかを自ら責めた。そしてあくる朝贈っ
た手紙は、厳乎たる師としての態度であった。二度目はそれから二月ほど経った春の夜、ゆくりなく時雄が訪
問すると、芳子は白粉をつけて、美しい顔をして、火鉢の前にぽつねんとしていた。「どうしたの」と訊くと
、「お留守番ですの」「姉は何処へ行った?」「四谷へ買物に」 と言って、じっと時雄の顔を見る。いかに
も艶かしい。時雄はこの力ある一瞥に意気地なく胸を躍らした。二語三語、普通のことを語り合ったが、その
平凡なる物語が更に平凡でないことを互に思い知ったらしかった。この時、今十五分も一緒に話し合ったなら
ば、どうなったであろうか。女の表情の眼は輝き、言葉は艶めき、態度がいかにも尋常でなかった。「今夜は
大変綺麗にしてますね?」 男は態と軽く出た。「え、先程、湯に入りましたのよ」「大変に白粉が白いから
」「あらまア先生!」と言って、笑って体を斜に嬌態を呈した。 時雄はすぐ帰った。まア好いでしょうと芳
子はたって留めたが、どうしても帰ると言うので、名残惜しげに月の夜を其処まで送って来た。その白い顔に
Slot >>212
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Win!! 4 pts.(LA: 2.76, 2.45, 2.26)
ますよ。それはそんなことは無いんだから、構いはしませんけどもね……」「それはいつのことです?」「昨
年の暮でしたかね」「どうもハイカラ過ぎて困る」と時雄は言ったが、時計の針の既に十時半の処を指すのを
見て、「それにしてもどうしたんだろう。若い身空で、こう遅くまで一人で出て歩くと言うのは?」「もう帰
って来ますよ」「こんなことは幾度もあるんですか」「いいえ、滅多にありはしませんよ。夏の夜だから、ま
だ宵の口位に思って歩いているんですよ」 姉は話しながら裁縫の針を止めぬのである。前に鴨脚の大きい裁
物板が据えられて、彩絹の裁片や糸や鋏やが順序なく四面に乱れている。女物の美しい色に、洋燈の光が明か
に照り渡った。九月中旬の夜は更けて、稍々肌寒く、裏の土手下を甲武の貨物汽車がすさまじい地響を立てて
通る。 下駄の音がする度に、今度こそは! 今度こそは! と待渡ったが、十一時が打って間もなく、小き
ざみな、軽い後歯の音が静かな夜を遠く響いて来た。「今度のこそ、芳子さんですよ」 と姉は言った。 果
してその足音が家の入口の前に留って、がらがらと格子が開く。「芳子さん?」「ええ」 と艶やかな声がす
る。 玄関から丈の高い庇髪の美しい姿がすっと入って来たが、「あら、まア、先生!」 と声を立てた。そ
の声には驚愕と当惑の調子が十分に籠っていた。「大変遅くなって……」と言って、座敷と居間との間の閾の
処に来て、半ば坐って、ちらりと電光のように時雄の顔色を窺ったが、すぐ紫の袱紗に何か包んだものを出し
て、黙って姉の方に押遣った。「何ですか……お土産? いつもお気の毒ね?」「いいえ、私も召上るんです
もの」 と芳子は快活に言った。そして次の間へ行こうとしたのを、無理に洋燈の明るい眩しい居間の一隅に
坐らせた。美しい姿、当世流の庇髪、派手なネルにオリイヴ色の夏帯を形よく緊めて、少し斜に坐った艶やか
さ。時雄はその姿と相対して、一種状すべからざる満足を胸に感じ、今までの煩悶と苦痛とを半ば忘れて了っ
た。有力な敵があっても、その恋人をだに占領すれば、それで心の安まるのは恋する者の常態である。「大変
に遅くなって了って……」 いかにも遣瀬ないというように微かに弁解した。「中野へ散歩に行ったッて?」
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うのもよく解りました。けれど今更帰れませぬから、自分で如何ようにしても自活の道を求めて目的地に進む
より他はないとまで言ったそうだ。時雄は不快を感じた。 時雄は一時は勝手にしろと思った。放っておけと
も思った。けれど圏内の一員たるかれにどうして全く風馬牛たることを得ようぞ。芳子はその後二三日訪問し
た形跡もなく、学校の時間には正確に帰って来るが、学校に行くと称して恋人の許に寄りはせぬかと思うと、
胸は疑惑と嫉妬とに燃えた。 時雄は懊悩した。その心は日に幾遍となく変った。ある時は全く犠牲になって
二人の為めに尽そうと思った。ある時はこの一伍一什を国に報じて一挙に破壊して了おうかと思った。けれど
この何れをも敢てすることの出来ぬのが今の心の状態であった。 細君が、ふと、時雄に耳語した。「あなた
、二階では、これよ」と針で着物を縫う真似をして、小声で、「きっと……上げるんでしょう。紺絣の書生羽
織! 白い木綿の長い紐も買ってありますよ」「本当か?」「え」 と細君は笑った。 時雄は笑うどころで
はなかった。 芳子が今日は先生少し遅くなりますからと顔を赧くして言った。「彼処に行くのか」と問うと
、「いいえ! 一寸友達の処に用があって寄って来ますから」 その夕暮、時雄は思切って、芳子の恋人の下
宿を訪問した。「まことに、先生にはよう申訳がありまえんのやけれど……」長い演説調の雄弁で、形式的の
申訳をした後、田中という中脊の、少し肥えた、色の白い男が祈祷をする時のような眼色をして、さも同情を
求めるように言った。 時雄は熱していた。「然し、君、解ったら、そうしたら好いじゃありませんか、僕は
君等の将来を思って言うのです。芳子は僕の弟子です。僕の責任として、芳子に廃学させるには忍びん。君が
東京にどうしてもいると言うなら、芳子を国に帰すか、この関係を父母に打明けて許可を乞うか、二つの中一
つを選ばんければならん。君は君の愛する女を君の為めに山の中に埋もらせるほどエゴイスチックな人間じゃ
ありますまい。君は宗教に従事することが今度の事件の為めに厭になったと謂うが、それは一種の考えで、君
は忍んで、京都に居りさえすれば、万事円満に、二人の間柄も将来希望があるのですから」「よう解っており
ます……」「けれど出来んですか」「どうも済みませんけど……制服も帽子も売ってしもうたで、今更帰るに
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Win!! 4 pts.(LA: 2.36, 2.37, 2.24)
ありましたから、応じてみようと思います。二人して一生懸命に働きましたら、まさかに餓えるようなことも
御座いますまい。先生のお家にこうして居ますればこそ、先生にも奥様にも御心配を懸けて済まぬので御座い
ます。どうか先生、私の決心をお許し下さい。芳子先生 おんもとへ 恋の力は遂に二人を深い惑溺の淵に沈
めたのである。時雄はもうこうしてはおかれぬと思った。時雄が芳子の歓心を得る為めに取った「温情の保護
者」としての態度を考えた。備中の父親に寄せた手紙、その手紙には、極力二人の恋を庇保して、どうしても
この恋を許して貰わねばならぬという主旨であった。時雄は父母の到底これを承知せぬことを知っていた。寧
ろ父母の極力反対することを希望していた。父母は果して極力反対して来た。言うことを聞かぬなら勘当する
とまで言って来た。二人はまさに受くべき恋の報酬を受けた。時雄は芳子の為めに飽まで弁明し、汚れた目的
の為めに行われたる恋でないことを言い、父母の中一人、是非出京してこの問題を解決して貰いたいと言い送
った。けれど故郷の父母は、監督なる時雄がそういう主張であるのと、到底その口から許可することが出来ぬ
のとで、上京しても無駄であると云って出て来なかった。 時雄は今、芳子の手紙に対して考えた。 二人の
状態は最早一刻も猶予すべからざるものとなっている。時雄の監督を離れて二人一緒に暮したいという大胆な
言葉、その言葉の中には警戒すべき分子の多いのを思った。いや、既に一歩を進めているかも知れぬと思った
。又一面にはこれほどその為めに尽力しているのに、その好意を無にして、こういう決心をするとは義理知ら
ず、情知らず、勝手にするが好いとまで激した。 時雄は胸の轟きを静める為め、月朧なる利根川の堤の上を
散歩した。月が暈を帯びた夜は冬ながらやや暖かく、土手下の家々の窓には平和な燈火が静かに輝いていた。
川の上には薄い靄が懸って、おりおり通る船の艫の音がギイと聞える。下流でおーいと渡しを呼ぶものがある
。舟橋を渡る車の音がとどろに響いてそして又一時静かになる。時雄は土手を歩きながら種々のことを考えた
。芳子のことよりは一層痛切に自己の家庭のさびしさということが胸を往来した。三十五六歳の男女の最も味
211c219cbc
の無いのを弁明するとは何事? すぐ家に入ろうとしたが、まだ当人が帰っておらぬのに上っても為方が無い
と思って、その前を真直に通り抜けた。女と摩違う度に、芳子ではないかと顔を覗きつつ歩いた。土手の上、
松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。もう九時、十時に近い。いかに夏の
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
ったんでしょう」「何アに……」 と時雄は強いて笑ってまぎらした。 さて時を移さず、「芳さん、何処に
行ったんです」「今朝、ちょっと中野の方にお友達と散歩に行って来ると行って出たきりですがね、もう帰っ
て来るでしょう。何か用?」「え、少し……」と言って、「昨日は帰りは遅かったですか」「いいえ、お友達
を新橋に迎えに行くんだって、四時過に出かけて、八時頃に帰って来ましたよ」 時雄の顔を見て、「どうか
したのですの?」「何アに……けれどねえ姉さん」と時雄の声は改まった。「実は姉さんにおまかせしておい
ても、この間の京都のようなことが又あると困るですから、芳子を私の家において、十分監督しようと思うん
ですがね」「そう、それは好いですよ。本当に芳子さんはああいうしっかり者だから、私みたいな無教育のも
のでは……」「いや、そういう訳でも無いですがね。余り自由にさせ過ぎても、却って当人の為にならんです
から、一つ家に置いて、十分監督してみようと思うんです」「それが好いですよ。本当に、芳子さんにもね…
…何処と悪いことのない、発明な、利口な、今の世には珍らしい方ですけれど、一つ悪いことがあってね、男
の友達と平気で夜歩いたりなんかするんですからね。それさえ止すと好いんだけれどとよく言うのですの。す
ると芳子さんはまた小母さんの旧弊が始まったって、笑っているんだもの。いつかなぞも余り男と一緒に歩い
Slot >>951
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Win!! 2 pts.(LA: 2.19, 2.33, 2.23)
道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。鵙の鳴音がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※(二
の字点、1-2-22)人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を
説勧めて、この一伍一什を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄
せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分に贏ち得るように勉めた。時雄は心を欺いて、――悲壮なる
犠牲と称して、この「恋の温情なる保護者」となった。 備中の山中から数通の手紙が来た。 その翌年の一
月には、時雄は地理の用事で、上武の境なる利根河畔に出張していた。彼は昨年の年末からこの地に来ている
ので、家のこと――芳子のことが殊に心配になる。さりとて公務を如何ともすることが出来なかった。正月に
なって二日にちょっと帰京したが、その時は次男が歯を病んで、妻と芳子とが頻りにそれを介抱していた。妻
に聞くと、芳子の恋は更に惑溺の度を加えた様子。大晦日の晩に、田中が生活のたつきを得ず、下宿に帰るこ
とも出来ずに、終夜運転の電車に一夜を過したということ、余り頻繁に二人が往来するので、それをそれとな
しに注意して芳子と口争いをしたということ、その他種々のことを聞いた。困ったことだと思った。一晩泊っ
て再び利根の河畔に戻った。 今は五日の夜であった。茫とした空に月が暈を帯びて、その光が川の中央にき
らきらと金を砕いていた。時雄は机の上に一通の封書を展いて、深くその事を考えていた。その手紙は今少し
前、旅館の下女が置いて行った芳子の筆である。先生、まことに、申訳が御座いません。先生の同情ある御恩
は決して一生経っても忘るることでなく、今もそのお心を思うと、涙が滴るるのです。父母はあの通りです。
先生があのように仰しゃって下すっても、旧風の頑固で、私共の心を汲んでくれようとも致しませず、泣いて
訴えましたけれど、許してくれません。母の手紙を見れば泣かずにはおられませんけれど、少しは私の心も汲
んでくれても好いと思います。恋とはこう苦しいものかと今つくづく思い当りました。先生、私は決心致しま
した。聖書にも女は親に離れて夫に従うと御座います通り、私は田中に従おうと存じます。田中は未だに生活
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、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。処々の常夜燈はそろそろ光を放ち始めた。時雄はいかにしても苦
しいので、突如その珊瑚樹の蔭に身を躱して、その根本の地上に身を横えた。興奮した心の状態、奔放な情と
悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬の念に駆られながら、一方冷淡に自己の状態を
客観した。 初めて恋するような熱烈な情は無論なかった。盲目にその運命に従うと謂うよりは、寧ろ冷かに
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
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Win!! 4 pts.(LA: 2.43, 2.38, 2.25)
げなければ済まないと申しておりましたけれど……よく申上げてくれッて……」「いや……」 時雄は芳子の
言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
ように感じた。当世の女学生気質のいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。勿論、こ
の女学生気質を時雄は主義の上、趣味の上から喜んで見ていたのは事実である。昔のような教育を受けては、
到底今の明治の男子の妻としては立って行かれぬ。女子も立たねばならぬ、意志の力を十分に養わねばならぬ
とはかれの持論である。この持論をかれは芳子に向っても尠からず鼓吹した。けれどこの新派のハイカラの実
行を見てはさすがに眉を顰めずにはいられなかった。 男からは国府津の消印で帰途に就いたという端書が着
いて翌日三番町の姉の家から届けて来た。居間の二階には芳子が居て、呼べば直ぐ返事をして下りて来る。食
事には三度三度膳を並べて団欒して食う。夜は明るい洋燈を取巻いて、賑わしく面白く語り合う。靴下は編ん
でくれる。美しい笑顔を絶えず見せる。時雄は芳子を全く占領して、とにかく安心もし満足もした。細君も芳
子に恋人があるのを知ってから、危険の念、不安の念を全く去った。 芳子は恋人に別れるのが辛かった。成
ろうことなら一緒に東京に居て、時々顔をも見、言葉をも交えたかった。けれど今の際それは出来難いことを
知っていた。二年、三年、男が同志社を卒業するまでは、たまさかの雁の音信をたよりに、一心不乱に勉強し
なければならぬと思った。で、午後からは、以前の如く麹町の某英学塾に通い、時雄も小石川の社に通った。
時雄は夜などおりおり芳子を自分の書斎に呼んで、文学の話、小説の話、それから恋の話をすることがある
。そして芳子の為めにその将来の注意を与えた。その時の態度は公平で、率直で、同情に富んでいて、決して
泥酔して厠に寝たり、地上に横たわったりした人とは思われない。さればと言って、時雄はわざとそういう態
度にするのではない、女に対っている刹那――その愛した女の歓心を得るには、いかなる犠牲も甚だ高価に過
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種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
だという。本箱には紅葉全集、近松世話浄瑠璃、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立
って目に附く。で、未来の閨秀作家は学校から帰って来ると、机に向って文を書くというよりは、寧ろ多く手
紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の
学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。 麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカ
ラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方には時雄の妻君の里の家があるのだが、この附近は殊に昔風
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
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(LA: 2.67, 2.44, 2.27)
雄も笑わざるを得なかった。 細君は猶語り続いだ。「そして随分長く高い声で話していましたよ。議論みた
いなことも言って、芳子さんもなかなか負けない様子でした」「そしていつ帰った?」「もう少し以前」「芳
子は居るか」「いいえ、路が分からないから、一緒に其処まで送って行って来るッて出懸けて行ったんですよ
」 時雄は顔を曇らせた。 夕飯を食っていると、裏口から芳子が帰って来た。急いで走って来たと覚しく、
せいせい息を切っている。「何処まで行らしった?」 と細君が問うと、「神楽坂まで」と答えたが、いつも
する「おかえりなさいまし」を時雄に向って言って、そのままばたばたと二階へ上った。すぐ下りて来るかと
思うに、なかなか下りて来ない。「芳子さん、芳子さん」と三度ほど細君が呼ぶと、「はアーい」という長い
返事が聞えて、矢張下りて来ない。お鶴が迎いに行って漸く二階を下りて来たが、準備した夕飯の膳を他所に
、柱に近く、斜に坐った。「御飯は?」「もう食べたくないの、腹が一杯で」「余りおさつを召上った故でし
ょう」「あら、まア、酷い奥さん。いいわ、奥さん」 と睨む真似をする。 細君は笑って、「芳子さん、何
だか変ね」「何故?」と長く引張る。「何故も無いわ」「いいことよ、奥さん」 と又睨んだ。 時雄は黙っ
てこの嬌態に対していた。胸の騒ぐのは無論である。不快の情はひしと押し寄せて来た。芳子はちらと時雄の
顔を覗ったが、その不機嫌なのが一目で解った。で、すぐ態度を改めて、「先生、今日田中が参りましてね」
「そうだってね」「お目にかかってお礼を申上げなければならんのですけれども、又改めて上がりますからッ
て……よろしく申上げて……」「そうか」 と言ったが、そのままふいと立って書斎に入って了った。 その
恋人が東京に居ては、仮令自分が芳子をその二階に置いて監督しても、時雄は心を安んずる暇はなかった。二
人の相逢うことを妨げることは絶対に不可能である。手紙は無論差留めることは出来ぬし、「今日ちょっと田
中に寄って参りますから、一時間遅くなります」と公然と断って行くのをどうこう言う訳には行かなかった。
またその男が訪問して来るのを非常に不快に思うけれど、今更それを謝絶することも出来なかった。時雄はい
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渠が読んだのは今から三年以前、まだかの女のこの世にあることをも夢にも知らなかった頃であったが、その
頃から渠は淋しい人であった。敢てヨハンネスにその身を比そうとは為なかったが、アンナのような女がもし
あったなら、そういう悲劇に陥るのは当然だとしみじみ同情した。今はそのヨハンネスにさえなれぬ身だと思
って長嘆した。 さすがに「寂しき人々」をかの女に教えなかったが、ツルゲネーフの「ファースト」という
短篇を教えたことがあった。洋燈の光明かなる四畳半の書斎、かの女の若々しい心は色彩ある恋物語に憧れ渡
って、表情ある眼は更に深い深い意味を以て輝きわたった。ハイカラな庇髪、櫛、リボン、洋燈の光線がその
半身を照して、一巻の書籍に顔を近く寄せると、言うに言われぬ香水のかおり、肉のかおり、女のかおり――
書中の主人公が昔の恋人に「ファースト」を読んで聞かせる段を講釈する時には男の声も烈しく戦えた。「け
れど、もう駄目だ!」 と、渠は再び頭髪をむしった。 渠は名を竹中時雄と謂った。 今より三年前、三人
目の子が細君の腹に出来て、新婚の快楽などはとうに覚め尽した頃であった。世の中の忙しい事業も意味がな
く、一生作に力を尽す勇気もなく、日常の生活――朝起きて、出勤して、午後四時に帰って来て、同じように
細君の顔を見て、飯を食って眠るという単調なる生活につくづく倦き果てて了った。家を引越歩いても面白く
ない、友人と語り合っても面白くない、外国小説を読み渉猟っても満足が出来ぬ。いや、庭樹の繁り、雨の点
滴、花の開落などいう自然の状態さえ、平凡なる生活をして更に平凡ならしめるような気がして、身を置くに
処は無いほど淋しかった。道を歩いて常に見る若い美しい女、出来るならば新しい恋を為たいと痛切に思った
。 三十四五、実際この頃には誰にでもある煩悶で、この年頃に賤しい女に戯るるものの多いのも、畢竟その
淋しさを医す為めである。世間に妻を離縁するものもこの年頃に多い。 出勤する途上に、毎朝邂逅う美しい
女教師があった。渠はその頃この女に逢うのをその日その日の唯一の楽みとして、その女に就いていろいろな
空想を逞うした。恋が成立って、神楽坂あたりの小待合に連れて行って、人目を忍んで楽しんだらどう……。
細君に知れずに、二人近郊を散歩したらどう……。いや、それどころではない、その時、細君が懐妊しておっ
Slot >>866
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Win!! 4 pts.(LA: 3.21, 2.56, 2.32)
という細君の声が後に聞えた。 夏の日はもう暮れ懸っていた。矢来の酒井の森には烏の声が喧しく聞える。
どの家でも夕飯が済んで、門口に若い娘の白い顔も見える。ボールを投げている少年もある。官吏らしい鰌髭
の紳士が庇髪の若い細君を伴れて、神楽坂に散歩に出懸けるのにも幾組か邂逅した。時雄は激昂した心と泥酔
した身体とに烈しく漂わされて、四辺に見ゆるものが皆な別の世界のもののように思われた。両側の家も動く
よう、地も脚の下に陥るよう、天も頭の上に蔽い冠さるように感じた。元からさ程強い酒量でないのに、無闇
にぐいぐいと呷ったので、一時に酔が発したのであろう。ふと露西亜の賤民の酒に酔って路傍に倒れて寝てい
るのを思い出した。そしてある友人と露西亜の人間はこれだから豪い、惑溺するなら飽まで惑溺せんければ駄
目だと言ったことを思いだした。馬鹿な! 恋に師弟の別があって堪るものかと口へ出して言った。 中根坂
を上って、士官学校の裏門から佐内坂の上まで来た頃は、日はもうとっぷりと暮れた。白地の浴衣がぞろぞろ
と通る。煙草屋の前に若い細君が出ている。氷屋の暖簾が涼しそうに夕風に靡く。時雄はこの夏の夜景を朧げ
に眼には見ながら、電信柱に突当って倒れそうにしたり、浅い溝に落ちて膝頭をついたり、職工体の男に、「
酔漢奴! しっかり歩け!」と罵られたりした。急に自ら思いついたらしく、坂の上から右に折れて、市ヶ谷
八幡の境内へと入った。境内には人の影もなく寂寞としていた。大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって
、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。処々の常夜燈はそろそろ光を放ち始めた。時雄はいかにしても苦
しいので、突如その珊瑚樹の蔭に身を躱して、その根本の地上に身を横えた。興奮した心の状態、奔放な情と
悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬の念に駆られながら、一方冷淡に自己の状態を
客観した。 初めて恋するような熱烈な情は無論なかった。盲目にその運命に従うと謂うよりは、寧ろ冷かに
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
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芳子が時雄の書斎に来て、頭を垂れ、声を低うして、その希望を述べたのはその翌日の夜であった。如何に
説いても男は帰らぬ。さりとて国へ報知すれば、父母の許さぬのは知れたこと、時宜に由れば忽ち迎いに来ぬ
とも限らぬ。男も折角ああして出て来たことでもあり二人の間も世の中の男女の恋のように浅く思い浅く恋し
た訳でもないから、決して汚れた行為などはなく、惑溺するようなことは誓って為ない。文学は難かしい道、
小説を書いて一家を成そうとするのは田中のようなものには出来ぬかも知れねど、同じく将来を進むなら、共
に好む道に携わりたい。どうか暫くこのままにして東京に置いてくれとの頼み。時雄はこの余儀なき頼みをす
げなく却けることは出来なかった。時雄は京都嵯峨に於ける女の行為にその節操を疑ってはいるが、一方には
又その弁解をも信じて、この若い二人の間にはまだそんなことはあるまいと思っていた。自分の青年の経験に
照らしてみても、神聖なる霊の恋は成立っても肉の恋は決してそう容易に実行されるものではない。で、時雄
は惑溺せぬものならば、暫くこのままにしておいて好いと言って、そして縷々として霊の恋愛、肉の恋愛、恋
愛と人生との関係、教育ある新しい女の当に守るべきことなどに就いて、切実にかつ真摯に教訓した。古人が
女子の節操を誡めたのは社会道徳の制裁よりは、寧ろ女子の独立を保護する為であるということ、一度肉を男
子に許せば女子の自由が全く破れるということ、西洋の女子はよくこの間の消息を解しているから、男女交際
をして不都合がないということ、日本の新しい婦人も是非ともそうならなければならぬということなど主なる
教訓の題目であったが、殊に新派の女子ということに就いて痛切に語った。 芳子は低頭いてきいていた。
時雄は興に乗じて、「そして一体、どうして生活しようというのです?」「少しは準備もして来たんでしょう
、一月位は好いでしょうけれど……」「何か旨い口でもあると好いけれど」と時雄は言った。「実は先生に御
縋り申して、誰も知ってるものがないのに出て参りましたのですから、大層失望しましたのですけれど」「だ
ッて余り突飛だ。一昨日逢ってもそう思ったが、どうもあれでも困るね」 と時雄は笑った。「どうか又御心
配下さるように……この上御心配かけては申訳がありませんけれど」と芳子は縋るようにして顔を赧めた。「
Slot >>444
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(LA: 3.08, 2.57, 2.32)
、一月位は好いでしょうけれど……」「何か旨い口でもあると好いけれど」と時雄は言った。「実は先生に御
縋り申して、誰も知ってるものがないのに出て参りましたのですから、大層失望しましたのですけれど」「だ
ッて余り突飛だ。一昨日逢ってもそう思ったが、どうもあれでも困るね」 と時雄は笑った。「どうか又御心
配下さるように……この上御心配かけては申訳がありませんけれど」と芳子は縋るようにして顔を赧めた。「
心配せん方が好い、どうかなるよ」 芳子が出て行った後、時雄は急に険しい難かしい顔に成った。「自分に
……自分に、この恋の世話が出来るだろうか」と独りで胸に反問した。「若い鳥は若い鳥でなくては駄目だ。
自分等はもうこの若い鳥を引く美しい羽を持っていない」こう思うと、言うに言われぬ寂しさがひしと胸を襲
った。「妻と子――家庭の快楽だと人は言うが、それに何の意味がある。子供の為めに生存している妻は生存
の意味があろうが、妻を子に奪われ、子を妻に奪われた夫はどうして寂寞たらざるを得るか」時雄はじっと洋
燈を見た。 机の上にはモウパッサンの「死よりも強し」が開かれてあった。 二三日経って後、時雄は例刻
に社から帰って火鉢の前に坐ると、細君が小声で、「今日来てよ」「誰が」「二階の……そら芳子さんの好い
人」 細君は笑った。「そうか……」「今日一時頃、御免なさいと玄関に来た人があるですから、私が出て見
ると、顔の丸い、絣の羽織を着た、白縞の袴を穿いた書生さんが居るじゃありませんか。また、原稿でも持っ
て来た書生さんかと思ったら、横山さんは此方においでですかと言うじゃありませんか。はて、不思議だと思
ったけれど、名を聞きますと、田中……。はア、それでその人だナと思ったんですよ。厭な人ねえ、あんな人
を、あんな書生さんを恋人にしないたッて、いくらも好いのがあるでしょうに。芳子さんは余程物好きね。あ
れじゃとても望みはありませんよ」「それでどうした?」「芳子さんは嬉しいんでしょうけど、何だか極りが
悪そうでしたよ。私がお茶を持って行って上げると、芳子さんは机の前に坐っている。その前にその人が居て
、今まで何か話していたのを急に止して黙ってしまった。私は変だからすぐ下りて来たですがね、……何だか
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の無謀で郷里の父母の感情を破っている矢先、どうしてそんなことを申して遣わされましょう。今は少時沈黙
して、お互に希望を持って、専心勉学に志し、いつか折を見て――或は五年、十年の後かも知れません――打
明けて願う方が得策だと存じまして、そういうことに致しました。先生のお話をも一切話して聞かせました。
で、用事が済んだ上は帰した方が好いのですけれど、非常に疲れている様子を見ましては、さすがに直ちに引
返すようにとも申兼ねました。(私の弱いのを御許し下さいまし)勉学中、実際問題に触れてはならぬとの先
生の御教訓は身にしみて守るつもりで御座いますが、一先、旅籠屋に落着かせまして、折角出て来たものです
から、一日位見物しておいでなさいと、つい申して了いました。どうか先生、お許し下さいまし。私共も激し
い感情の中に、理性も御座いますから、京都でしたような、仮りにも常識を外れた、他人から誤解されるよう
なことは致しません。誓って、決して致しません。末ながら奥様にも宜しく申上げて下さいまし。芳子先生
御もと この一通の手紙を読んでいる中、さまざまの感情が時雄の胸を火のように燃えて通った。その田中と
いう二十一の青年が現にこの東京に来ている。芳子が迎えに行った。何をしたか解らん。この間言ったことも
まるで虚言かも知れぬ。この夏期の休暇に須磨で落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為
め、今度も恋しさに堪え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れた
ろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那の間だ。こう思うと時雄は
堪らなくなった。「監督者の責任にも関する!」と腹の中で絶叫した。こうしてはおかれぬ、こういう自由を
精神の定まらぬ女に与えておくことは出来ん。監督せんければならん、保護せんけりゃならん。私共は熱情も
あるが理性がある! 私共とは何だ! 何故私とは書かぬ、何故複数を用いた? 時雄の胸は嵐のように乱れ
た。着いたのは昨日の六時、姉の家に行って聞き糺せば昨夜何時頃に帰ったか解るが、今日はどうした、今は
どうしている? 細君の心を尽した晩餐の膳には、鮪の新鮮な刺身に、青紫蘇の薬味を添えた冷豆腐、それを
味う余裕もないが、一盃は一盃と盞を重ねた。 細君は末の児を寝かして、火鉢の前に来て坐ったが、芳子の
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(LA: 2.91, 2.56, 2.33)
時雄は夜などおりおり芳子を自分の書斎に呼んで、文学の話、小説の話、それから恋の話をすることがある
。そして芳子の為めにその将来の注意を与えた。その時の態度は公平で、率直で、同情に富んでいて、決して
泥酔して厠に寝たり、地上に横たわったりした人とは思われない。さればと言って、時雄はわざとそういう態
度にするのではない、女に対っている刹那――その愛した女の歓心を得るには、いかなる犠牲も甚だ高価に過
ぎなかった。 で、芳子は師を信頼した。時期が来て、父母にこの恋を告ぐる時、旧思想と新思想と衝突する
ようなことがあっても、この恵深い師の承認を得さえすればそれで沢山だとまで思った。 九月は十月になっ
た。さびしい風が裏の森を鳴らして、空の色は深く碧く、日の光は透通った空気に射渡って、夕の影が濃くあ
たりを隈どるようになった。取り残した芋の葉に雨は終日降頻って、八百屋の店には松茸が並べられた。垣の
虫の声は露に衰えて、庭の桐の葉も脆くも落ちた。午前の中の一時間、九時より十時までを、ツルゲネーフの
小説の解釈、芳子は師のかがやく眼の下に、机に斜に坐って、「オン、ゼ、イブ」の長い長い物語に耳を傾け
た。エレネの感情に烈しく意志の強い性格と、その悲しい悲壮なる末路とは如何にかの女を動かしたか。芳子
はエレネの恋物語を自分に引くらべて、その身を小説の中に置いた。恋の運命、恋すべき人に恋する機会がな
く、思いも懸けぬ人にその一生を任した運命、実際芳子の当時の心情そのままであった。須磨の浜で、ゆくり
なく受取った百合の花の一葉の端書、それがこうした運命になろうとは夢にも思い知らなかったのである。
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。京都の夜汽車、嵯峨の月、膳所に遊ん
だ時には湖水に夕日が美しく射渡って、旅館の中庭に、萩が絵のように咲乱れていた。その二日の遊は実に夢
のようであったと思った。続いてまだその人を恋せぬ前のこと、須磨の海水浴、故郷の山の中の月、病気にな
らぬ以前、殊にその時の煩悶を考えると、頬がおのずから赧くなった。 空想から空想、その空想はいつか長
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
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紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の
学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。 麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカ
ラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方には時雄の妻君の里の家があるのだが、この附近は殊に昔風
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
として、妻から常に次のようなことを聞される。「芳子さんにも困ったものですねと姉が今日も言っていまし
たよ、男の友達が来るのは好いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまで帰って来ないことが
あるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決っているけれど、世間の口が喧しくって為方が無
いと云っていました」 これを聞くと時雄は定って芳子の肩を持つので、「お前達のような旧式の人間には芳
子の遣ることなどは判りやせんよ。男女が二人で歩いたり話したりさえすれば、すぐあやしいとか変だとか思
うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと
思うことは勝手にするさ」 この議論を時雄はまた得意になって芳子にも説法した。「女子ももう自覚せんけ
ればいかん。昔の女のように依頼心を持っていては駄目だ。ズウデルマンのマグダの言った通り、父の手から
すぐに夫の手に移るような意気地なしでは為方が無い。日本の新しい婦人としては、自ら考えて自ら行うよう
にしなければいかん」こう言っては、イブセンのノラの話や、ツルゲネーフのエレネの話や、露西亜、独逸あ
たりの婦人の意志と感情と共に富んでいることを話し、さて、「けれど自覚と云うのは、自省ということをも
含んでおるですからな、無闇に意志や自我を振廻しては困るですよ。自分の遣ったことには自分が全責任を帯
びる覚悟がなくては」 芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈※(二の字
点、1-2-22)加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。 芳子は女学生
としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、
路傍の人目を惹くに十分であった。美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い
Slot >>651
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(LA: 2.49, 2.48, 2.30)
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
」 突如蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。時雄はふらふらと危く小便をしてい
たが、それがすむと、突如※(「革+堂」、第3水準1-93-80)と厠の中に横に寝てしまった。細君が
汚がって頻りに揺ったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく
、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。 時雄は例刻をてくてくと
牛込矢来町の自宅に帰って来た。 渠は三日間、その苦悶と戦った。渠は性として惑溺することが出来ぬ或る
一種の力を有っている。この力の為めに支配されるのを常に口惜しく思っているのではあるが、それでもいつ
か負けて了う。征服されて了う。これが為め渠はいつも運命の圏外に立って苦しい味を嘗めさせられるが、世
間からは正しい人、信頼するに足る人と信じられている。三日間の苦しい煩悶、これでとにかく渠はその前途
を見た。二人の間の関係は一段落を告げた。これからは、師としての責任を尽して、わが愛する女の幸福の為
めを謀るばかりだ。これはつらい、けれどつらいのが人生だ! と思いながら帰って来た。 門をあけて入る
と、細君が迎えに出た。残暑の日はまだ暑く、洋服の下襦袢がびっしょり汗にぬれている。それを糊のついた
白地の単衣に着替えて、茶の間の火鉢の前に坐ると、細君はふと思い附いたように、箪笥の上の一封の手紙を
取出し、「芳子さんから」 と言って渡した。 急いで封を切った。巻紙の厚いのを見ても、その事件に関し
ての用事に相違ない。時雄は熱心に読下した。 言文一致で、すらすらとこの上ない達筆。先生――実は御相
談に上りたいと存じましたが、余り急でしたものでしたから、独断で実行致しました。昨日四時に田中から電
報が参りまして、六時に新橋の停車場に着くとのことですもの、私はどんなに驚きましたか知れません。何事
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のでは……」「いや、そういう訳でも無いですがね。余り自由にさせ過ぎても、却って当人の為にならんです
から、一つ家に置いて、十分監督してみようと思うんです」「それが好いですよ。本当に、芳子さんにもね…
…何処と悪いことのない、発明な、利口な、今の世には珍らしい方ですけれど、一つ悪いことがあってね、男
の友達と平気で夜歩いたりなんかするんですからね。それさえ止すと好いんだけれどとよく言うのですの。す
ると芳子さんはまた小母さんの旧弊が始まったって、笑っているんだもの。いつかなぞも余り男と一緒に歩い
たり何かするものだから、角の交番でね、不審にしてね、角袖巡査が家の前に立っていたことがあったと云い
ますよ。それはそんなことは無いんだから、構いはしませんけどもね……」「それはいつのことです?」「昨
年の暮でしたかね」「どうもハイカラ過ぎて困る」と時雄は言ったが、時計の針の既に十時半の処を指すのを
見て、「それにしてもどうしたんだろう。若い身空で、こう遅くまで一人で出て歩くと言うのは?」「もう帰
って来ますよ」「こんなことは幾度もあるんですか」「いいえ、滅多にありはしませんよ。夏の夜だから、ま
だ宵の口位に思って歩いているんですよ」 姉は話しながら裁縫の針を止めぬのである。前に鴨脚の大きい裁
物板が据えられて、彩絹の裁片や糸や鋏やが順序なく四面に乱れている。女物の美しい色に、洋燈の光が明か
に照り渡った。九月中旬の夜は更けて、稍々肌寒く、裏の土手下を甲武の貨物汽車がすさまじい地響を立てて
通る。 下駄の音がする度に、今度こそは! 今度こそは! と待渡ったが、十一時が打って間もなく、小き
ざみな、軽い後歯の音が静かな夜を遠く響いて来た。「今度のこそ、芳子さんですよ」 と姉は言った。 果
してその足音が家の入口の前に留って、がらがらと格子が開く。「芳子さん?」「ええ」 と艶やかな声がす
る。 玄関から丈の高い庇髪の美しい姿がすっと入って来たが、「あら、まア、先生!」 と声を立てた。そ
の声には驚愕と当惑の調子が十分に籠っていた。「大変遅くなって……」と言って、座敷と居間との間の閾の
処に来て、半ば坐って、ちらりと電光のように時雄の顔色を窺ったが、すぐ紫の袱紗に何か包んだものを出し
て、黙って姉の方に押遣った。「何ですか……お土産? いつもお気の毒ね?」「いいえ、私も召上るんです
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(LA: 2.23, 2.43, 2.28)
子の遣ることなどは判りやせんよ。男女が二人で歩いたり話したりさえすれば、すぐあやしいとか変だとか思
うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと
思うことは勝手にするさ」 この議論を時雄はまた得意になって芳子にも説法した。「女子ももう自覚せんけ
ればいかん。昔の女のように依頼心を持っていては駄目だ。ズウデルマンのマグダの言った通り、父の手から
すぐに夫の手に移るような意気地なしでは為方が無い。日本の新しい婦人としては、自ら考えて自ら行うよう
にしなければいかん」こう言っては、イブセンのノラの話や、ツルゲネーフのエレネの話や、露西亜、独逸あ
たりの婦人の意志と感情と共に富んでいることを話し、さて、「けれど自覚と云うのは、自省ということをも
含んでおるですからな、無闇に意志や自我を振廻しては困るですよ。自分の遣ったことには自分が全責任を帯
びる覚悟がなくては」 芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈※(二の字
点、1-2-22)加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。 芳子は女学生
としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、
路傍の人目を惹くに十分であった。美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い
時もあった。眼に光りがあってそれが非常によく働いた。四五年前までの女は感情を顕わすのに極めて単純で
、怒った容とか笑った容とか、三種、四種位しかその感情を表わすことが出来なかったが、今では情を巧に顔
に表わす女が多くなった。芳子もその一人であると時雄は常に思った。 芳子と時雄との関係は単に師弟の間
柄としては余りに親密であった。この二人の様子を観察したある第三者の女の一人が妻に向って、「芳子さん
が来てから時雄さんの様子はまるで変りましたよ。二人で話しているところを見ると、魂は二人ともあくがれ
渡っているようで、それは本当に油断がなりませんよ」と言った。他から見れば、無論そう見えたに相違なか
った。けれど二人は果してそう親密であったか、どうか。 若い女のうかれ勝な心、うかれるかと思えばすぐ
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った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
語気が烈しいので、細君は口を噤んで了った。少時経ってから、「だから、本当に厭さ、若い娘の身で、小説
家になるなんぞッて、望む本人も本人なら、よこす親達も親達ですからね」「でも、お前は安心したろう」と
言おうとしたが、それは止して、「まア、そんなことはどうでも好いさ、どうせお前達には解らんのだから…
…それよりも酌でもしたらどうだ」 温順な細君は徳利を取上げて、京焼の盃に波々と注ぐ。 時雄は頻りに
酒を呷った。酒でなければこの鬱を遣るに堪えぬといわぬばかりに。三本目に、妻は心配して、「この頃はど
うか為ましたね」「何故?」「酔ってばかりいるじゃありませんか」「酔うということがどうかしたのか」「
そうでしょう、何か気に懸ることがあるからでしょう。芳子さんのことなどはどうでも好いじゃありませんか
」「馬鹿!」 と時雄は一喝した。 細君はそれにも懲りずに、「だって、余り飲んでは毒ですよ、もう好い
加減になさい、また手水場にでも入って寝ると、貴郎は大きいから、私と、お鶴(下女)の手ぐらいではどう
にもなりやしませんからさ」「まア、好いからもう一本」 で、もう一本を半分位飲んだ。もう酔は余程廻っ
たらしい。顔の色は赤銅色に染って眼が少しく据っていた。急に立上って、「おい、帯を出せ!」「何処へい
らっしゃる」「三番町まで行って来る」「姉の処?」「うむ」「およしなさいよ、危ないから」「何アに大丈
夫だ、人の娘を預って監督せずに投遣にしてはおかれん。男がこの東京に来て一緒に歩いたり何かしているの
を見ぬ振をしてはおかれん。田川(姉の家の姓)に預けておいても不安心だから、今日、行って、早かったら
、芳子を家に連れて来る。二階を掃除しておけ」「家に置くんですか、また……」「勿論」 細君は容易に帯
と着物とを出そうともせぬので、「よし、よし、着物を出さんのなら、これで好い」と、白地の単衣に唐縮緬
の汚れたへこ帯、帽子も被らずに、そのままに急いで戸外へ出た。「今出しますから……本当に困って了う」
Slot >>858
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Win!! 9 pts.(LA: 1.73, 2.31, 2.24)
黒なる力に対する厭世の情は今彼の胸を簇々として襲った。 真面目なる解決を施さなければならぬという気
になった。今までの自分の行為の甚だ不自然で不真面目であるのに思いついた。時雄はその夜、備中の山中に
ある芳子の父母に寄する手紙を熱心に書いた。芳子の手紙をその中に巻込んで、二人の近況を詳しく記し、最
後に、父たる貴下と師たる小生と当事者たる二人と相対して、此の問題を真面目に議すべき時節到来せりと存
候、貴下は父としての主張あるべく、芳子は芳子としての自由あるべく、小生また師としての意見有之候、御
多忙の際には有之候えども、是非々々御出京下され度、幾重にも希望仕候。 と書いて筆を結んだ。封筒に収
めて備中国新見町横山兵蔵様と書いて、傍に置いて、じ
小石川の切支丹坂から極楽水に出る道のだらだら坂を下りようとして渠は考えた。「これで自分と彼女との関
係は一段落を告げた。三十六にもなって、子供も三人あって、あんなことを考えたかと思うと、馬鹿々々しく
なる。けれど……けれど……本当にこれが事実だろうか。あれだけの愛情を自身に注いだのは単に愛情として
のみで、恋ではなかったろうか」 数多い感情ずくめの手紙――二人の関係はどうしても尋常ではなかった。
妻があり、子があり、世間があり、師弟の関係があればこそ敢て烈しい恋に落ちなかったが、語り合う胸の轟
、相見る眼の光、その底には確かに凄じい暴風が潜んでいたのである。機会に遭遇しさえすれば、その底の底
の暴風は忽ち勢を得て、妻子も世間も道徳も師弟の関係も一挙にして破れて了うであろうと思われた。少くと
も男はそう信じていた。それであるのに、二三日来のこの出来事、これから考えると、女は確かにその感情を
偽り売ったのだ。自分を欺いたのだと男は幾度も思った。けれど文学者だけに、この男は自ら自分の心理を客
観するだけの余裕を有っていた。年若い女の心理は容易に判断し得られるものではない、かの温い嬉しい愛情
は、単に女性特有の自然の発展で、美しく見えた眼の表情も、やさしく感じられた態度も都て無意識で、無意
味で、自然の花が見る人に一種の慰藉を与えたようなものかも知れない。一歩を譲って女は自分を愛して恋し
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しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
だという。本箱には紅葉全集、近松世話浄瑠璃、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立
って目に附く。で、未来の閨秀作家は学校から帰って来ると、机に向って文を書くというよりは、寧ろ多く手
紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の
学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。 麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカ
ラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方には時雄の妻君の里の家があるのだが、この附近は殊に昔風
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
として、妻から常に次のようなことを聞される。「芳子さんにも困ったものですねと姉が今日も言っていまし
たよ、男の友達が来るのは好いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまで帰って来ないことが
あるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決っているけれど、世間の口が喧しくって為方が無
Slot >>989
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Win!! 4 pts.(LA: 1.64, 2.26, 2.23)
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
ったんでしょう」「何アに……」 と時雄は強いて笑ってまぎらした。 さて時を移さず、「芳さん、何処に
行ったんです」「今朝、ちょっと中野の方にお友達と散歩に行って来ると行って出たきりですがね、もう帰っ
て来るでしょう。何か用?」「え、少し……」と言って、「昨日は帰りは遅かったですか」「いいえ、お友達
を新橋に迎えに行くんだって、四時過に出かけて、八時頃に帰って来ましたよ」 時雄の顔を見て、「どうか
したのですの?」「何アに……けれどねえ姉さん」と時雄の声は改まった。「実は姉さんにおまかせしておい
ても、この間の京都のようなことが又あると困るですから、芳子を私の家において、十分監督しようと思うん
ですがね」「そう、それは好いですよ。本当に芳子さんはああいうしっかり者だから、私みたいな無教育のも
のでは……」「いや、そういう訳でも無いですがね。余り自由にさせ過ぎても、却って当人の為にならんです
から、一つ家に置いて、十分監督してみようと思うんです」「それが好いですよ。本当に、芳子さんにもね…
…何処と悪いことのない、発明な、利口な、今の世には珍らしい方ですけれど、一つ悪いことがあってね、男
の友達と平気で夜歩いたりなんかするんですからね。それさえ止すと好いんだけれどとよく言うのですの。す
ると芳子さんはまた小母さんの旧弊が始まったって、笑っているんだもの。いつかなぞも余り男と一緒に歩い
たり何かするものだから、角の交番でね、不審にしてね、角袖巡査が家の前に立っていたことがあったと云い
ますよ。それはそんなことは無いんだから、構いはしませんけどもね……」「それはいつのことです?」「昨
年の暮でしたかね」「どうもハイカラ過ぎて困る」と時雄は言ったが、時計の針の既に十時半の処を指すのを
見て、「それにしてもどうしたんだろう。若い身空で、こう遅くまで一人で出て歩くと言うのは?」「もう帰
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含んでおるですからな、無闇に意志や自我を振廻しては困るですよ。自分の遣ったことには自分が全責任を帯
びる覚悟がなくては」 芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈※(二の字
点、1-2-22)加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。 芳子は女学生
としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、
路傍の人目を惹くに十分であった。美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い
時もあった。眼に光りがあってそれが非常によく働いた。四五年前までの女は感情を顕わすのに極めて単純で
、怒った容とか笑った容とか、三種、四種位しかその感情を表わすことが出来なかったが、今では情を巧に顔
に表わす女が多くなった。芳子もその一人であると時雄は常に思った。 芳子と時雄との関係は単に師弟の間
柄としては余りに親密であった。この二人の様子を観察したある第三者の女の一人が妻に向って、「芳子さん
が来てから時雄さんの様子はまるで変りましたよ。二人で話しているところを見ると、魂は二人ともあくがれ
渡っているようで、それは本当に油断がなりませんよ」と言った。他から見れば、無論そう見えたに相違なか
った。けれど二人は果してそう親密であったか、どうか。 若い女のうかれ勝な心、うかれるかと思えばすぐ
沈む。些細なことにも胸を動かし、つまらぬことにも心を痛める。恋でもない、恋でなくも無いというような
やさしい態度、時雄は絶えず思い惑った。道義の力、習俗の力、機会一度至ればこれを破るのは帛を裂くより
も容易だ。唯、容易に来らぬはこれを破るに至る機会である。 この機会がこの一年の間に尠くとも二度近寄
ったと時雄は自分だけで思った。一度は芳子が厚い封書を寄せて、自分の不束なこと、先生の高恩に報ゆるこ
とが出来ぬから自分は故郷に帰って農夫の妻になって田舎に埋れて了おうということを涙交りに書いた時、一
度は或る夜芳子が一人で留守番をしているところへゆくりなく時雄が行って訪問した時、この二度だ。初めの
時は時雄はその手紙の意味を明かに了解した。その返事をいかに書くべきかに就いて一夜眠らずに懊悩した。
穏かに眠れる妻の顔、それを幾度か窺って自己の良心のいかに麻痺せるかを自ら責めた。そしてあくる朝贈っ
Slot >>675
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(LA: 1.83, 2.26, 2.23)
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
だという。本箱には紅葉全集、近松世話浄瑠璃、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立
って目に附く。で、未来の閨秀作家は学校から帰って来ると、机に向って文を書くというよりは、寧ろ多く手
紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の
学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。 麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカ
ラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方には時雄の妻君の里の家があるのだが、この附近は殊に昔風
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
として、妻から常に次のようなことを聞される。「芳子さんにも困ったものですねと姉が今日も言っていまし
たよ、男の友達が来るのは好いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまで帰って来ないことが
あるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決っているけれど、世間の口が喧しくって為方が無
いと云っていました」 これを聞くと時雄は定って芳子の肩を持つので、「お前達のような旧式の人間には芳
子の遣ることなどは判りやせんよ。男女が二人で歩いたり話したりさえすれば、すぐあやしいとか変だとか思
うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと
思うことは勝手にするさ」 この議論を時雄はまた得意になって芳子にも説法した。「女子ももう自覚せんけ
ればいかん。昔の女のように依頼心を持っていては駄目だ。ズウデルマンのマグダの言った通り、父の手から
すぐに夫の手に移るような意気地なしでは為方が無い。日本の新しい婦人としては、自ら考えて自ら行うよう
にしなければいかん」こう言っては、イブセンのノラの話や、ツルゲネーフのエレネの話や、露西亜、独逸あ
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申訳をした後、田中という中脊の、少し肥えた、色の白い男が祈祷をする時のような眼色をして、さも同情を
求めるように言った。 時雄は熱していた。「然し、君、解ったら、そうしたら好いじゃありませんか、僕は
君等の将来を思って言うのです。芳子は僕の弟子です。僕の責任として、芳子に廃学させるには忍びん。君が
東京にどうしてもいると言うなら、芳子を国に帰すか、この関係を父母に打明けて許可を乞うか、二つの中一
つを選ばんければならん。君は君の愛する女を君の為めに山の中に埋もらせるほどエゴイスチックな人間じゃ
ありますまい。君は宗教に従事することが今度の事件の為めに厭になったと謂うが、それは一種の考えで、君
は忍んで、京都に居りさえすれば、万事円満に、二人の間柄も将来希望があるのですから」「よう解っており
ます……」「けれど出来んですか」「どうも済みませんけど……制服も帽子も売ってしもうたで、今更帰るに
も帰れまえんという次第で……」「それじゃ芳子を国に帰すですか」 かれは黙っている。「国に言って遣り
ましょうか」 矢張黙っていた。「私の東京に参りましたのは、そういうことには寧ろ関係しない積でおます
。別段こちらに居りましても、二人の間にはどうという……」「それは君はそう言うでしょう。けれど、それ
では私は監督は出来ん。恋はいつ惑溺するかも解らん」「私はそないなことは無いつもりですけどナ」「誓い
得るですか」「静かに、勉強して行かれさえすれァナ、そないなことありませんけどナ」「だから困るのです
」 こういう会話――要領を得ない会話を繰返して長く相対した。時雄は将来の希望という点、男子の犠牲と
いう点、事件の進行という点からいろいろさまざまに帰国を勧めた。時雄の眼に映じた田中秀夫は、想像した
ような一箇秀麗な丈夫でもなく天才肌の人とも見えなかった。麹町三番町通の安旅人宿、三方壁でしきられた
暑い室に初めて相対した時、先ずかれの身に迫ったのは、基督教に養われた、いやに取澄ました、年に似合わ
ぬ老成な、厭な不愉快な態度であった。京都訛の言葉、色の白い顔、やさしいところはいくらかはあるが、多
い青年の中からこうした男を特に選んだ芳子の気が知れなかった。殊に時雄が最も厭に感じたのは、天真流露
という率直なところが微塵もなく、自己の罪悪にも弱点にも種々の理由を強いてつけて、これを弁解しようと
Slot >>198
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(LA: 3.15, 2.55, 2.33)
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
」 突如蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。時雄はふらふらと危く小便をしてい
たが、それがすむと、突如※(「革+堂」、第3水準1-93-80)と厠の中に横に寝てしまった。細君が
汚がって頻りに揺ったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく
、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。 時雄は例刻をてくてくと
牛込矢来町の自宅に帰って来た。 渠は三日間、その苦悶と戦った。渠は性として惑溺することが出来ぬ或る
一種の力を有っている。この力の為めに支配されるのを常に口惜しく思っているのではあるが、それでもいつ
か負けて了う。征服されて了う。これが為め渠はいつも運命の圏外に立って苦しい味を嘗めさせられるが、世
間からは正しい人、信頼するに足る人と信じられている。三日間の苦しい煩悶、これでとにかく渠はその前途
を見た。二人の間の関係は一段落を告げた。これからは、師としての責任を尽して、わが愛する女の幸福の為
めを謀るばかりだ。これはつらい、けれどつらいのが人生だ! と思いながら帰って来た。 門をあけて入る
と、細君が迎えに出た。残暑の日はまだ暑く、洋服の下襦袢がびっしょり汗にぬれている。それを糊のついた
白地の単衣に着替えて、茶の間の火鉢の前に坐ると、細君はふと思い附いたように、箪笥の上の一封の手紙を
取出し、「芳子さんから」 と言って渡した。 急いで封を切った。巻紙の厚いのを見ても、その事件に関し
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てこの嬌態に対していた。胸の騒ぐのは無論である。不快の情はひしと押し寄せて来た。芳子はちらと時雄の
顔を覗ったが、その不機嫌なのが一目で解った。で、すぐ態度を改めて、「先生、今日田中が参りましてね」
「そうだってね」「お目にかかってお礼を申上げなければならんのですけれども、又改めて上がりますからッ
て……よろしく申上げて……」「そうか」 と言ったが、そのままふいと立って書斎に入って了った。 その
恋人が東京に居ては、仮令自分が芳子をその二階に置いて監督しても、時雄は心を安んずる暇はなかった。二
人の相逢うことを妨げることは絶対に不可能である。手紙は無論差留めることは出来ぬし、「今日ちょっと田
中に寄って参りますから、一時間遅くなります」と公然と断って行くのをどうこう言う訳には行かなかった。
またその男が訪問して来るのを非常に不快に思うけれど、今更それを謝絶することも出来なかった。時雄はい
つの間にか、この二人からその恋に対しての「温情の保護者」として認められて了った。 時雄は常に苛々し
ていた。書かなければならぬ原稿が幾種もある。書肆からも催促される。金も欲しい。けれどどうしても筆を
執って文を綴るような沈着いた心の状態にはなれなかった。強いて試みてみることがあっても、考が纒らない
。本を読んでも二頁も続けて読む気になれない。二人の恋の温かさを見る度に、胸を燃して、罪もない細君に
当り散らして酒を飲んだ。晩餐の菜が気に入らぬと云って、御膳を蹴飛した。夜は十二時過に酔って帰って来
ることもあった。芳子はこの乱暴な不調子な時雄の行為に尠なからず心を痛めて、「私がいろいろ御心配を懸
けるもんですからね、私が悪いんですよ」と詫びるように細君に言った。芳子はなるたけ手紙の往復を人に見
せぬようにし、訪問も三度に一度は学校を休んでこっそり行くようにした。時雄はそれに気が附いて一層懊悩
の度を増した。 野は秋も暮れて木枯の風が立った。裏の森の銀杏樹も黄葉して夕の空を美しく彩った。垣根
道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。鵙の鳴音がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※(二
の字点、1-2-22)人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を
説勧めて、この一伍一什を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄
Slot >>329
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(LA: 2.81, 2.50, 2.32)
も艶かしい。時雄はこの力ある一瞥に意気地なく胸を躍らした。二語三語、普通のことを語り合ったが、その
平凡なる物語が更に平凡でないことを互に思い知ったらしかった。この時、今十五分も一緒に話し合ったなら
ば、どうなったであろうか。女の表情の眼は輝き、言葉は艶めき、態度がいかにも尋常でなかった。「今夜は
大変綺麗にしてますね?」 男は態と軽く出た。「え、先程、湯に入りましたのよ」「大変に白粉が白いから
」「あらまア先生!」と言って、笑って体を斜に嬌態を呈した。 時雄はすぐ帰った。まア好いでしょうと芳
子はたって留めたが、どうしても帰ると言うので、名残惜しげに月の夜を其処まで送って来た。その白い顔に
は確かにある深い神秘が籠められてあった。 四月に入ってから、芳子は多病で蒼白い顔をして神経過敏に陥
っていた。シュウソカリを余程多量に服してもどうも眠られぬとて困っていた。絶えざる欲望と生殖の力とは
年頃の女を誘うのに躊躇しない。芳子は多く薬に親しんでいた。 四月末に帰国、九月に上京、そして今回の
事件が起った。 今回の事件とは他でも無い。芳子は恋人を得た。そして上京の途次、恋人と相携えて京都嵯
峨に遊んだ。その遊んだ二日の日数が出発と着京との時日に符合せぬので、東京と備中との間に手紙の往復が
あって、詰問した結果は恋愛、神聖なる恋愛、二人は決して罪を犯してはおらぬが、将来は如何にしてもこの
恋を遂げたいとの切なる願望。時雄は芳子の師として、この恋の証人として一面月下氷人の役目を余儀なくさ
せられたのであった。 芳子の恋人は同志社の学生、神戸教会の秀才、田中秀夫、年二十一。 芳子は師の前
にその恋の神聖なるを神懸けて誓った。故郷の親達は、学生の身で、ひそかに男と嵯峨に遊んだのは、既にそ
の精神の堕落であると云ったが、決してそんな汚れた行為はない。互に恋を自覚したのは、寧ろ京都で別れて
からで、東京に帰って来てみると、男から熱烈なる手紙が来ていた。それで始めて将来の約束をしたような次
第で、決して罪を犯したようなことは無いと女は涙を流して言った。時雄は胸に至大の犠牲を感じながらも、
その二人の所謂神聖なる恋の為めに力を尽すべく余儀なくされた。 時雄は悶えざるを得なかった。わが愛す
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酔漢奴! しっかり歩け!」と罵られたりした。急に自ら思いついたらしく、坂の上から右に折れて、市ヶ谷
八幡の境内へと入った。境内には人の影もなく寂寞としていた。大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって
、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。処々の常夜燈はそろそろ光を放ち始めた。時雄はいかにしても苦
しいので、突如その珊瑚樹の蔭に身を躱して、その根本の地上に身を横えた。興奮した心の状態、奔放な情と
悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬の念に駆られながら、一方冷淡に自己の状態を
客観した。 初めて恋するような熱烈な情は無論なかった。盲目にその運命に従うと謂うよりは、寧ろ冷かに
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
Slot >>266
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(LA: 2.78, 2.51, 2.33)
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
れぬ二人の情――余りその文通の頻繁なのに時雄は芳子の不在を窺って、監督という口実の下にその良心を抑
えて、こっそり机の抽出やら文箱やらをさがした。捜し出した二三通の男の手紙を走り読みに読んだ。 恋人
のするような甘ったるい言葉は到る処に満ちていた。けれど時雄はそれ以上にある秘密を捜し出そうと苦心し
た。接吻の痕、性慾の痕が何処かに顕われておりはせぬか。神聖なる恋以上に二人の間は進歩しておりはせぬ
か、けれど手紙にも解らぬのは恋のまことの消息であった。 一カ月は過ぎた。 ところが、ある日、時雄は
芳子に宛てた一通の端書を受取った。英語で書いてある端書であった。何気なく読むと、一月ほどの生活費は
準備して行く、あとは東京で衣食の職業が見附かるかどうかという意味、京都田中としてあった。時雄は胸を
轟かした。平和は一時にして破れた。 晩餐後、芳子はその事を問われたのである。 芳子は困ったという風
で、「先生、本当に困って了ったんですの。田中が東京に出て来ると云うのですもの、私は二度、三度まで止
めて遣ったんですけれど、何だか、宗教に従事して、虚偽に生活してることが、今度の動機で、すっかり厭に
なって了ったとか何とかで、どうしても東京に出て来るッて言うんですよ」「東京に来て、何をするつもりな
んだ?」「文学を遣りたいと――」「文学? 文学ッて、何だ。小説を書こうと言うのか」「え、そうでしょ
う……」「馬鹿な!」 と時雄は一喝した。「本当に困って了うんですの」「貴嬢はそんなことを勧めたんじ
ゃないか」「いいえ」と烈しく首を振って、「私はそんなこと……私は今の場合困るから、せめて同志社だけ
でも卒業してくれッて、この間初めに申して来た時に達って止めて遣ったんですけれど……もうすっかり独断
でそうして了ったんですッて。今更取かえしがつかぬようになって了ったんですッて」「どうして?」「神戸
の信者で、神戸の教会の為めに、田中に学資を出してくれている神津という人があるのですの。その人に、田
中が宗教は自分には出来ぬから、将来文学で立とうと思う。どうか東京に出してくれと言って遣ったんですの
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まるで虚言かも知れぬ。この夏期の休暇に須磨で落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為
め、今度も恋しさに堪え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れた
ろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那の間だ。こう思うと時雄は
堪らなくなった。「監督者の責任にも関する!」と腹の中で絶叫した。こうしてはおかれぬ、こういう自由を
精神の定まらぬ女に与えておくことは出来ん。監督せんければならん、保護せんけりゃならん。私共は熱情も
あるが理性がある! 私共とは何だ! 何故私とは書かぬ、何故複数を用いた? 時雄の胸は嵐のように乱れ
た。着いたのは昨日の六時、姉の家に行って聞き糺せば昨夜何時頃に帰ったか解るが、今日はどうした、今は
どうしている? 細君の心を尽した晩餐の膳には、鮪の新鮮な刺身に、青紫蘇の薬味を添えた冷豆腐、それを
味う余裕もないが、一盃は一盃と盞を重ねた。 細君は末の児を寝かして、火鉢の前に来て坐ったが、芳子の
手紙の夫の傍にあるのに眼を附けて、「芳子さん、何て言って来たのです?」 時雄は黙って手紙を投げて遣
った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
語気が烈しいので、細君は口を噤んで了った。少時経ってから、「だから、本当に厭さ、若い娘の身で、小説
家になるなんぞッて、望む本人も本人なら、よこす親達も親達ですからね」「でも、お前は安心したろう」と
言おうとしたが、それは止して、「まア、そんなことはどうでも好いさ、どうせお前達には解らんのだから…
…それよりも酌でもしたらどうだ」 温順な細君は徳利を取上げて、京焼の盃に波々と注ぐ。 時雄は頻りに
酒を呷った。酒でなければこの鬱を遣るに堪えぬといわぬばかりに。三本目に、妻は心配して、「この頃はど
うか為ましたね」「何故?」「酔ってばかりいるじゃありませんか」「酔うということがどうかしたのか」「
そうでしょう、何か気に懸ることがあるからでしょう。芳子さんのことなどはどうでも好いじゃありませんか
Slot >>679
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(LA: 3.32, 2.63, 2.37)
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照! 産褥から出たばかりの細君を助けて、靴下を編む、
襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
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って、芳子はまごまごしていた。けれど夜ひとり若い女を出して遣る訳に行かぬので、新橋へ迎えに行くこと
は許さなかった。 翌日は逢って達って諌めてどうしても京都に還らせるようにすると言って、芳子はその恋
人の許を訪うた。その男は停車場前のつるやという旅館に宿っているのである。 時雄が社から帰った時には
、まだとても帰るまいと思った芳子が既にその笑顔を玄関にあらわしていた。聞くと田中は既にこうして出て
来た以上、どうしても京都には帰らぬとのことだ。で、芳子は殆ど喧嘩をするまでに争ったが、矢張断として
可かぬ。先生を頼りにして出京したのではあるが、そう聞けば、なるほど御尤である。監督上都合の悪いとい
うのもよく解りました。けれど今更帰れませぬから、自分で如何ようにしても自活の道を求めて目的地に進む
より他はないとまで言ったそうだ。時雄は不快を感じた。 時雄は一時は勝手にしろと思った。放っておけと
も思った。けれど圏内の一員たるかれにどうして全く風馬牛たることを得ようぞ。芳子はその後二三日訪問し
た形跡もなく、学校の時間には正確に帰って来るが、学校に行くと称して恋人の許に寄りはせぬかと思うと、
胸は疑惑と嫉妬とに燃えた。 時雄は懊悩した。その心は日に幾遍となく変った。ある時は全く犠牲になって
二人の為めに尽そうと思った。ある時はこの一伍一什を国に報じて一挙に破壊して了おうかと思った。けれど
この何れをも敢てすることの出来ぬのが今の心の状態であった。 細君が、ふと、時雄に耳語した。「あなた
、二階では、これよ」と針で着物を縫う真似をして、小声で、「きっと……上げるんでしょう。紺絣の書生羽
織! 白い木綿の長い紐も買ってありますよ」「本当か?」「え」 と細君は笑った。 時雄は笑うどころで
はなかった。 芳子が今日は先生少し遅くなりますからと顔を赧くして言った。「彼処に行くのか」と問うと
、「いいえ! 一寸友達の処に用があって寄って来ますから」 その夕暮、時雄は思切って、芳子の恋人の下
宿を訪問した。「まことに、先生にはよう申訳がありまえんのやけれど……」長い演説調の雄弁で、形式的の
申訳をした後、田中という中脊の、少し肥えた、色の白い男が祈祷をする時のような眼色をして、さも同情を
求めるように言った。 時雄は熱していた。「然し、君、解ったら、そうしたら好いじゃありませんか、僕は
Slot >>170
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(LA: 3.03, 2.60, 2.37)
に従事したいとの切なる願望。文字は走り書のすらすらした字で、余程ハイカラの女らしい。返事を書いたの
は、例の工場の二階の室で、その日は毎日の課業の地理を二枚書いて止して、長い数尺に余る手紙を芳子に送
った。その手紙には女の身として文学に携わることの不心得、女は生理的に母たるの義務を尽さなければなら
ぬ理由、処女にして文学者たるの危険などを縷々として説いて、幾らか罵倒的の文辞をも陳べて、これならも
う愛想をつかして断念めて了うであろうと時雄は思って微笑した。そして本箱の中から岡山県の地図を捜して
、阿哲郡新見町の所在を研究した。山陽線から高梁川の谷を遡って奥十数里、こんな山の中にもこんなハイカ
ラの女があるかと思うと、それでも何となくなつかしく、時雄はその附近の地形やら山やら川やらを仔細に見
た。 で、これで返辞をよこすまいと思ったら、それどころか、四日目には更に厚い封書が届いて、紫インキ
で、青い罫の入った西洋紙に横に細字で三枚、どうか将来見捨てずに弟子にしてくれという意味が返す返すも
書いてあって、父母に願って許可を得たならば、東京に出て、然るべき学校に入って、完全に忠実に文学を学
んでみたいとのことであった。時雄は女の志に感ぜずにはいられなかった。東京でさえ――女学校を卒業した
ものでさえ、文学の価値などは解らぬものなのに、何もかもよく知っているらしい手紙の文句、早速返事を出
して師弟の関係を結んだ。 それから度々の手紙と文章、文章はまだ幼稚な点はあるが、癖の無い、すらすら
した、将来発達の見込は十分にあると時雄は思った。で一度は一度より段々互の気質が知れて、時雄はその手
紙の来るのを待つようになった。ある時などは写真を送れと言って遣ろうと思って、手紙の隅に小さく書いて
、そしてまたこれを黒々と塗って了った。女性には容色と謂うものが是非必要である。容色のわるい女はいく
ら才があっても男が相手に為ない。時雄も内々胸の中で、どうせ文学を遣ろうというような女だから、不容色
に相違ないと思った。けれどなるべくは見られる位の女であって欲しいと思った。 芳子が父母に許可を得て
、父に伴れられて、時雄の門を訪うたのは翌年の二月で、丁度時雄の三番目の男の児の生れた七夜の日であっ
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機会を待って、新なる運命と新なる生活を作りたいとはかれの心の底の底の微かなる願であった。時雄は悶え
た、思い乱れた。妬みと惜しみと悔恨との念が一緒になって旋風のように頭脳の中を回転した。師としての道
義の念もこれに交って、益※(二の字点、1-2-22)炎を熾んにした。わが愛する女の幸福の為めという
犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨の如く酔って寝た。 あくる日は日曜
日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
た。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪を起し
て、自棄に酒を飲んだ。一本、二本と徳利の数は重って、時雄は時の間に泥の如く酔った。細君に対する不平
ももう言わなくなった。徳利に酒が無くなると、只、酒、酒と言うばかりだ。そしてこれをぐいぐいと呷る。
気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の児の五歳になるのを始めは頻りに可愛がって抱いた
り撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣出したのに腹を立てて、ピシャピシャとその尻を乱
打したので、三人の子供は怖がって、遠巻にして、平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見て
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
Slot >>107
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(LA: 2.45, 2.50, 2.33)
識の加わるのを如何ともすることは出来まい。いや、更に一歩を進めて、あの熱烈なる一封の手紙、陰に陽に
その胸の悶を訴えて、丁度自然の力がこの身を圧迫するかのように、最後の情を伝えて来た時、その謎をこの
身が解いて遣らなかった。女性のつつましやかな性として、その上に猶露わに迫って来ることがどうして出来
よう。そういう心理からかの女は失望して、今回のような事を起したのかも知れぬ。「とにかく時機は過ぎ去
った。かの女は既に他人の所有だ!」 歩きながら渠はこう絶叫して頭髪をむしった。 縞セルの背広に、麦
稈帽、藤蔓の杖をついて、やや前のめりにだらだらと坂を下りて行く。時は九月の中旬、残暑はまだ堪え難く
暑いが、空には既に清涼の秋気が充ち渡って、深い碧の色が際立って人の感情を動かした。肴屋、酒屋、雑貨
店、その向うに寺の門やら裏店の長屋やらが連って、久堅町の低い地には数多の工場の煙筒が黒い煙を漲らし
ていた。 その数多い工場の一つ、西洋風の二階の一室、それが渠の毎日正午から通う処で、十畳敷ほどの広
さの室の中央には、大きい一脚の卓が据えてあって、傍に高い西洋風の本箱、この中には総て種々の地理書が
一杯入れられてある。渠はある書籍会社の嘱託を受けて地理書の編輯の手伝に従っているのである。文学者に
地理書の編輯! 渠は自分が地理の趣味を有っているからと称して進んでこれに従事しているが、内心これに
甘じておらぬことは言うまでもない。後れ勝なる文学上の閲歴、断篇のみを作って未だに全力の試みをする機
会に遭遇せぬ煩悶、青年雑誌から月毎に受ける罵評の苦痛、渠自らはその他日成すあるべきを意識してはいる
ものの、中心これを苦に病まぬ訳には行かなかった。社会は日増に進歩する。電車は東京市の交通を一変させ
た。女学生は勢力になって、もう自分が恋をした頃のような旧式の娘は見たくも見られなくなった。青年はま
た青年で、恋を説くにも、文学を談ずるにも、政治を語るにも、その態度が総て一変して、自分等とは永久に
相触れることが出来ないように感じられた。 で、毎日機械のように同じ道を通って、同じ大きい門を入って
、輪転機関の屋を撼す音と職工の臭い汗との交った細い間を通って、事務室の人々に軽く挨拶して、こつこつ
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。無論、その胸には一種の圧迫を感じたに相違ないけれど、芳子の心にしては、絶対に信頼して――今回の恋
のことにも全心を挙げて同情してくれた師の家に行って住むことは別に甚しい苦痛でも無かった。寧ろ以前か
らこの昔風の家に同居しているのを不快に思って、出来るならば、初めのように先生の家にと願っていたので
あるから、今の場合でなければ、かえって大に喜んだのであろうに…… 時雄は一刻も早くその恋人のことを
聞糺したかった。今、その男は何処にいる? 何時京都に帰るか? これは時雄に取っては実に重大な問題で
あった。けれど何も知らぬ姉の前で、打明けて問う訳にも行かぬので、この夜は露ほどもそのことを口に出さ
なかった。一座は平凡な物語に更けた。 今夜にもと時雄の言出したのを、だって、もう十二時だ、明日にし
た方が宜かろうとの姉の注意。で、時雄は一人で牛込に帰ろうとしたが、どうも不安心で為方がないような気
がしたので、夜の更けたのを口実に、姉の家に泊って、明朝早く一緒に行くことにした。 芳子は八畳に、時
雄は六畳に姉と床を並べて寝た。やがて姉の小さい鼾が聞えた。時計は一時をカンと鳴った。八畳では寝つか
れぬと覚しく、おりおり高い長大息の気勢がする。甲武の貨物列車が凄じい地響を立てて、この深夜を独り通
る。時雄も久しく眠られなかった。 翌朝時雄は芳子を自宅に伴った。二人になるより早く、時雄は昨日の消
息を知ろうと思ったけれど、芳子が低頭勝に悄然として後について来るのを見ると、何となく可哀そうになっ
て、胸に苛々する思を畳みながら、黙して歩いた。 佐内坂を登り了ると、人通りが少くなった。時雄はふと
振返って、「それでどうしたの?」と突如として訊ねた。「え?」 反問した芳子は顔を曇らせた。「昨日の
話さ、まだ居るのかね」「今夜の六時の急行で帰ります」「それじゃ送って行かなくってはいけないじゃない
か」「いいえ、もう好いんですの」 これで話は途絶えて、二人は黙って歩いた。 矢来町の時雄の宅、今ま
で物置にしておいた二階の三畳と六畳、これを綺麗に掃除して、芳子の住居とした。久しく物置――子供の遊
び場にしておいたので、塵埃が山のように積っていたが、箒をかけ雑巾をかけ、雨のしみの附いた破れた障子
を貼り更えると、こうも変るものかと思われるほど明るくなって、裏の酒井の墓塋の大樹の繁茂が心地よき空
Slot >>22
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(LA: 2.50, 2.51, 2.34)
た手紙は、厳乎たる師としての態度であった。二度目はそれから二月ほど経った春の夜、ゆくりなく時雄が訪
問すると、芳子は白粉をつけて、美しい顔をして、火鉢の前にぽつねんとしていた。「どうしたの」と訊くと
、「お留守番ですの」「姉は何処へ行った?」「四谷へ買物に」 と言って、じっと時雄の顔を見る。いかに
も艶かしい。時雄はこの力ある一瞥に意気地なく胸を躍らした。二語三語、普通のことを語り合ったが、その
平凡なる物語が更に平凡でないことを互に思い知ったらしかった。この時、今十五分も一緒に話し合ったなら
ば、どうなったであろうか。女の表情の眼は輝き、言葉は艶めき、態度がいかにも尋常でなかった。「今夜は
大変綺麗にしてますね?」 男は態と軽く出た。「え、先程、湯に入りましたのよ」「大変に白粉が白いから
」「あらまア先生!」と言って、笑って体を斜に嬌態を呈した。 時雄はすぐ帰った。まア好いでしょうと芳
子はたって留めたが、どうしても帰ると言うので、名残惜しげに月の夜を其処まで送って来た。その白い顔に
は確かにある深い神秘が籠められてあった。 四月に入ってから、芳子は多病で蒼白い顔をして神経過敏に陥
っていた。シュウソカリを余程多量に服してもどうも眠られぬとて困っていた。絶えざる欲望と生殖の力とは
年頃の女を誘うのに躊躇しない。芳子は多く薬に親しんでいた。 四月末に帰国、九月に上京、そして今回の
事件が起った。 今回の事件とは他でも無い。芳子は恋人を得た。そして上京の途次、恋人と相携えて京都嵯
峨に遊んだ。その遊んだ二日の日数が出発と着京との時日に符合せぬので、東京と備中との間に手紙の往復が
あって、詰問した結果は恋愛、神聖なる恋愛、二人は決して罪を犯してはおらぬが、将来は如何にしてもこの
恋を遂げたいとの切なる願望。時雄は芳子の師として、この恋の証人として一面月下氷人の役目を余儀なくさ
せられたのであった。 芳子の恋人は同志社の学生、神戸教会の秀才、田中秀夫、年二十一。 芳子は師の前
にその恋の神聖なるを神懸けて誓った。故郷の親達は、学生の身で、ひそかに男と嵯峨に遊んだのは、既にそ
の精神の堕落であると云ったが、決してそんな汚れた行為はない。互に恋を自覚したのは、寧ろ京都で別れて
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を上って、士官学校の裏門から佐内坂の上まで来た頃は、日はもうとっぷりと暮れた。白地の浴衣がぞろぞろ
と通る。煙草屋の前に若い細君が出ている。氷屋の暖簾が涼しそうに夕風に靡く。時雄はこの夏の夜景を朧げ
に眼には見ながら、電信柱に突当って倒れそうにしたり、浅い溝に落ちて膝頭をついたり、職工体の男に、「
酔漢奴! しっかり歩け!」と罵られたりした。急に自ら思いついたらしく、坂の上から右に折れて、市ヶ谷
八幡の境内へと入った。境内には人の影もなく寂寞としていた。大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって
、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。処々の常夜燈はそろそろ光を放ち始めた。時雄はいかにしても苦
しいので、突如その珊瑚樹の蔭に身を躱して、その根本の地上に身を横えた。興奮した心の状態、奔放な情と
悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬の念に駆られながら、一方冷淡に自己の状態を
客観した。 初めて恋するような熱烈な情は無論なかった。盲目にその運命に従うと謂うよりは、寧ろ冷かに
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
Slot >>261
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(LA: 2.39, 2.47, 2.33)
だ時には湖水に夕日が美しく射渡って、旅館の中庭に、萩が絵のように咲乱れていた。その二日の遊は実に夢
のようであったと思った。続いてまだその人を恋せぬ前のこと、須磨の海水浴、故郷の山の中の月、病気にな
らぬ以前、殊にその時の煩悶を考えると、頬がおのずから赧くなった。 空想から空想、その空想はいつか長
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
れぬ二人の情――余りその文通の頻繁なのに時雄は芳子の不在を窺って、監督という口実の下にその良心を抑
えて、こっそり机の抽出やら文箱やらをさがした。捜し出した二三通の男の手紙を走り読みに読んだ。 恋人
のするような甘ったるい言葉は到る処に満ちていた。けれど時雄はそれ以上にある秘密を捜し出そうと苦心し
た。接吻の痕、性慾の痕が何処かに顕われておりはせぬか。神聖なる恋以上に二人の間は進歩しておりはせぬ
か、けれど手紙にも解らぬのは恋のまことの消息であった。 一カ月は過ぎた。 ところが、ある日、時雄は
芳子に宛てた一通の端書を受取った。英語で書いてある端書であった。何気なく読むと、一月ほどの生活費は
準備して行く、あとは東京で衣食の職業が見附かるかどうかという意味、京都田中としてあった。時雄は胸を
轟かした。平和は一時にして破れた。 晩餐後、芳子はその事を問われたのである。 芳子は困ったという風
で、「先生、本当に困って了ったんですの。田中が東京に出て来ると云うのですもの、私は二度、三度まで止
めて遣ったんですけれど、何だか、宗教に従事して、虚偽に生活してることが、今度の動機で、すっかり厭に
なって了ったとか何とかで、どうしても東京に出て来るッて言うんですよ」「東京に来て、何をするつもりな
んだ?」「文学を遣りたいと――」「文学? 文学ッて、何だ。小説を書こうと言うのか」「え、そうでしょ
う……」「馬鹿な!」 と時雄は一喝した。「本当に困って了うんですの」「貴嬢はそんなことを勧めたんじ
ゃないか」「いいえ」と烈しく首を振って、「私はそんなこと……私は今の場合困るから、せめて同志社だけ
でも卒業してくれッて、この間初めに申して来た時に達って止めて遣ったんですけれど……もうすっかり独断
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女教師があった。渠はその頃この女に逢うのをその日その日の唯一の楽みとして、その女に就いていろいろな
空想を逞うした。恋が成立って、神楽坂あたりの小待合に連れて行って、人目を忍んで楽しんだらどう……。
細君に知れずに、二人近郊を散歩したらどう……。いや、それどころではない、その時、細君が懐妊しておっ
たから、不図難産して死ぬ、その後にその女を入れるとしてどうであろう。……平気で後妻に入れることが出
来るだろうかどうかなどと考えて歩いた。 神戸の女学院の生徒で、生れは備中の新見町で、渠の著作の崇拝
者で、名を横山芳子という女から崇拝の情を以て充された一通の手紙を受取ったのはその頃であった。竹中古
城と謂えば、美文的小説を書いて、多少世間に聞えておったので、地方から来る崇拝者渇仰者の手紙はこれま
でにも随分多かった。やれ文章を直してくれの、弟子にしてくれのと一々取合ってはいられなかった。だから
その女の手紙を受取っても、別に返事を出そうとまでその好奇心は募らなかった。けれど同じ人の熱心なる手
紙を三通まで貰っては、さすがの時雄も注意をせずにはいられなかった。年は十九だそうだが、手紙の文句か
ら推して、その表情の巧みなのは驚くべきほどで、いかなることがあっても先生の門下生になって、一生文学
に従事したいとの切なる願望。文字は走り書のすらすらした字で、余程ハイカラの女らしい。返事を書いたの
は、例の工場の二階の室で、その日は毎日の課業の地理を二枚書いて止して、長い数尺に余る手紙を芳子に送
った。その手紙には女の身として文学に携わることの不心得、女は生理的に母たるの義務を尽さなければなら
ぬ理由、処女にして文学者たるの危険などを縷々として説いて、幾らか罵倒的の文辞をも陳べて、これならも
う愛想をつかして断念めて了うであろうと時雄は思って微笑した。そして本箱の中から岡山県の地図を捜して
、阿哲郡新見町の所在を研究した。山陽線から高梁川の谷を遡って奥十数里、こんな山の中にもこんなハイカ
ラの女があるかと思うと、それでも何となくなつかしく、時雄はその附近の地形やら山やら川やらを仔細に見
た。 で、これで返辞をよこすまいと思ったら、それどころか、四日目には更に厚い封書が届いて、紫インキ
で、青い罫の入った西洋紙に横に細字で三枚、どうか将来見捨てずに弟子にしてくれという意味が返す返すも
Slot >>838
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Win!! 4 pts.(LA: 2.31, 2.45, 2.32)
ます……」「けれど出来んですか」「どうも済みませんけど……制服も帽子も売ってしもうたで、今更帰るに
も帰れまえんという次第で……」「それじゃ芳子を国に帰すですか」 かれは黙っている。「国に言って遣り
ましょうか」 矢張黙っていた。「私の東京に参りましたのは、そういうことには寧ろ関係しない積でおます
。別段こちらに居りましても、二人の間にはどうという……」「それは君はそう言うでしょう。けれど、それ
では私は監督は出来ん。恋はいつ惑溺するかも解らん」「私はそないなことは無いつもりですけどナ」「誓い
得るですか」「静かに、勉強して行かれさえすれァナ、そないなことありませんけどナ」「だから困るのです
」 こういう会話――要領を得ない会話を繰返して長く相対した。時雄は将来の希望という点、男子の犠牲と
いう点、事件の進行という点からいろいろさまざまに帰国を勧めた。時雄の眼に映じた田中秀夫は、想像した
ような一箇秀麗な丈夫でもなく天才肌の人とも見えなかった。麹町三番町通の安旅人宿、三方壁でしきられた
暑い室に初めて相対した時、先ずかれの身に迫ったのは、基督教に養われた、いやに取澄ました、年に似合わ
ぬ老成な、厭な不愉快な態度であった。京都訛の言葉、色の白い顔、やさしいところはいくらかはあるが、多
い青年の中からこうした男を特に選んだ芳子の気が知れなかった。殊に時雄が最も厭に感じたのは、天真流露
という率直なところが微塵もなく、自己の罪悪にも弱点にも種々の理由を強いてつけて、これを弁解しようと
する形式的態度であった。とは言え、実を言えば、時雄の激しい頭脳には、それがすぐ直覚的に明かに映った
と云うではなく、座敷の隅に置かれた小さい旅鞄や憐れにもしおたれた白地の浴衣などを見ると、青年空想の
昔が思い出されて、こうした恋の為め、煩悶もし、懊悩もしているかと思って、憐憫の情も起らぬではなかっ
た。 この暑い一室に相対して、趺坐をもかかず、二人は尠くとも一時間以上語った。話は遂に要領を得なか
った。「先ず今一度考え直して見給え」くらいが最後で、時雄は別れて帰途に就いた。 何だか馬鹿らしいよ
うな気がした。愚なる行為をしたように感じられて、自らその身を嘲笑した。心にもないお世辞をも言い、自
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めたのである。時雄はもうこうしてはおかれぬと思った。時雄が芳子の歓心を得る為めに取った「温情の保護
者」としての態度を考えた。備中の父親に寄せた手紙、その手紙には、極力二人の恋を庇保して、どうしても
この恋を許して貰わねばならぬという主旨であった。時雄は父母の到底これを承知せぬことを知っていた。寧
ろ父母の極力反対することを希望していた。父母は果して極力反対して来た。言うことを聞かぬなら勘当する
とまで言って来た。二人はまさに受くべき恋の報酬を受けた。時雄は芳子の為めに飽まで弁明し、汚れた目的
の為めに行われたる恋でないことを言い、父母の中一人、是非出京してこの問題を解決して貰いたいと言い送
った。けれど故郷の父母は、監督なる時雄がそういう主張であるのと、到底その口から許可することが出来ぬ
のとで、上京しても無駄であると云って出て来なかった。 時雄は今、芳子の手紙に対して考えた。 二人の
状態は最早一刻も猶予すべからざるものとなっている。時雄の監督を離れて二人一緒に暮したいという大胆な
言葉、その言葉の中には警戒すべき分子の多いのを思った。いや、既に一歩を進めているかも知れぬと思った
。又一面にはこれほどその為めに尽力しているのに、その好意を無にして、こういう決心をするとは義理知ら
ず、情知らず、勝手にするが好いとまで激した。 時雄は胸の轟きを静める為め、月朧なる利根川の堤の上を
散歩した。月が暈を帯びた夜は冬ながらやや暖かく、土手下の家々の窓には平和な燈火が静かに輝いていた。
川の上には薄い靄が懸って、おりおり通る船の艫の音がギイと聞える。下流でおーいと渡しを呼ぶものがある
。舟橋を渡る車の音がとどろに響いてそして又一時静かになる。時雄は土手を歩きながら種々のことを考えた
。芳子のことよりは一層痛切に自己の家庭のさびしさということが胸を往来した。三十五六歳の男女の最も味
うべき生活の苦痛、事業に対する煩悩、性慾より起る不満足等が凄じい力でその胸を圧迫した。芳子はかれの
為めに平凡なる生活の花でもあり又糧でもあった。芳子の美しい力に由って、荒野の如き胸に花咲き、錆び果
てた鐘は再び鳴ろうとした。芳子の為めに、復活の活気は新しく鼓吹された。であるのに再び寂寞荒涼たる以
前の平凡なる生活にかえらなければならぬとは……。不平よりも、嫉妬よりも、熱い熱い涙がかれの頬を伝っ
Slot >>761
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Win!! 2 pts.(LA: 2.08, 2.39, 2.30)
姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照! 産褥から出たばかりの細君を助けて、靴下を編む、
襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
だという。本箱には紅葉全集、近松世話浄瑠璃、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立
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話し申した一伍一什、先生のお情深い言葉、将来までも私等二人の神聖な真面目な恋の証人とも保護者ともな
って下さるということを話しましたところ、非常に先生の御情に感激しまして、感謝の涙に暮れました次第で
御座います。田中は私の余りに狼狽した手紙に非常に驚いたとみえまして、十分覚悟をして、万一破壊の暁に
はと言った風なことも決心して参りましたので御座います。万一の時にはあの時嵯峨に一緒に参った友人を証
人にして、二人の間が決して汚れた関係の無いことを弁明し、別れて後互に感じた二人の恋愛をも打明けて、
先生にお縋り申して郷里の父母の方へも逐一言って頂こうと決心して参りましたそうです。けれどこの間の私
の無謀で郷里の父母の感情を破っている矢先、どうしてそんなことを申して遣わされましょう。今は少時沈黙
して、お互に希望を持って、専心勉学に志し、いつか折を見て――或は五年、十年の後かも知れません――打
明けて願う方が得策だと存じまして、そういうことに致しました。先生のお話をも一切話して聞かせました。
で、用事が済んだ上は帰した方が好いのですけれど、非常に疲れている様子を見ましては、さすがに直ちに引
返すようにとも申兼ねました。(私の弱いのを御許し下さいまし)勉学中、実際問題に触れてはならぬとの先
生の御教訓は身にしみて守るつもりで御座いますが、一先、旅籠屋に落着かせまして、折角出て来たものです
から、一日位見物しておいでなさいと、つい申して了いました。どうか先生、お許し下さいまし。私共も激し
い感情の中に、理性も御座いますから、京都でしたような、仮りにも常識を外れた、他人から誤解されるよう
なことは致しません。誓って、決して致しません。末ながら奥様にも宜しく申上げて下さいまし。芳子先生
御もと この一通の手紙を読んでいる中、さまざまの感情が時雄の胸を火のように燃えて通った。その田中と
いう二十一の青年が現にこの東京に来ている。芳子が迎えに行った。何をしたか解らん。この間言ったことも
まるで虚言かも知れぬ。この夏期の休暇に須磨で落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為
め、今度も恋しさに堪え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れた
ろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那の間だ。こう思うと時雄は
Slot >>339
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(LA: 2.07, 2.37, 2.30)
個アンには荒らしを集めるほどの“魅力”があるらしい ぬ理由、処女にして文学者たるの危険などを縷々として説いて、幾らか罵倒的の文辞をも陳べて、これならも
う愛想をつかして断念めて了うであろうと時雄は思って微笑した。そして本箱の中から岡山県の地図を捜して
、阿哲郡新見町の所在を研究した。山陽線から高梁川の谷を遡って奥十数里、こんな山の中にもこんなハイカ
ラの女があるかと思うと、それでも何となくなつかしく、時雄はその附近の地形やら山やら川やらを仔細に見
た。 で、これで返辞をよこすまいと思ったら、それどころか、四日目には更に厚い封書が届いて、紫インキ
で、青い罫の入った西洋紙に横に細字で三枚、どうか将来見捨てずに弟子にしてくれという意味が返す返すも
書いてあって、父母に願って許可を得たならば、東京に出て、然るべき学校に入って、完全に忠実に文学を学
んでみたいとのことであった。時雄は女の志に感ぜずにはいられなかった。東京でさえ――女学校を卒業した
ものでさえ、文学の価値などは解らぬものなのに、何もかもよく知っているらしい手紙の文句、早速返事を出
して師弟の関係を結んだ。 それから度々の手紙と文章、文章はまだ幼稚な点はあるが、癖の無い、すらすら
した、将来発達の見込は十分にあると時雄は思った。で一度は一度より段々互の気質が知れて、時雄はその手
紙の来るのを待つようになった。ある時などは写真を送れと言って遣ろうと思って、手紙の隅に小さく書いて
、そしてまたこれを黒々と塗って了った。女性には容色と謂うものが是非必要である。容色のわるい女はいく
ら才があっても男が相手に為ない。時雄も内々胸の中で、どうせ文学を遣ろうというような女だから、不容色
に相違ないと思った。けれどなるべくは見られる位の女であって欲しいと思った。 芳子が父母に許可を得て
、父に伴れられて、時雄の門を訪うたのは翌年の二月で、丁度時雄の三番目の男の児の生れた七夜の日であっ
た。座敷の隣の室は細君の産褥で、細君は手伝に来ている姉から若い女門下生の美しい容色であることを聞い
て少なからず懊悩した。姉もああいう若い美しい女を弟子にしてどうする気だろうと心配した。時雄は芳子と
父とを並べて、縷々として文学者の境遇と目的とを語り、女の結婚問題に就いて予め父親の説を叩いた。芳子
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日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
た。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪を起し
て、自棄に酒を飲んだ。一本、二本と徳利の数は重って、時雄は時の間に泥の如く酔った。細君に対する不平
ももう言わなくなった。徳利に酒が無くなると、只、酒、酒と言うばかりだ。そしてこれをぐいぐいと呷る。
気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の児の五歳になるのを始めは頻りに可愛がって抱いた
り撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣出したのに腹を立てて、ピシャピシャとその尻を乱
打したので、三人の子供は怖がって、遠巻にして、平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見て
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
Slot >>112
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Win!! 2 pts.(LA: 2.00, 2.33, 2.29)
細君の顔を見て、飯を食って眠るという単調なる生活につくづく倦き果てて了った。家を引越歩いても面白く
ない、友人と語り合っても面白くない、外国小説を読み渉猟っても満足が出来ぬ。いや、庭樹の繁り、雨の点
滴、花の開落などいう自然の状態さえ、平凡なる生活をして更に平凡ならしめるような気がして、身を置くに
処は無いほど淋しかった。道を歩いて常に見る若い美しい女、出来るならば新しい恋を為たいと痛切に思った
。 三十四五、実際この頃には誰にでもある煩悶で、この年頃に賤しい女に戯るるものの多いのも、畢竟その
淋しさを医す為めである。世間に妻を離縁するものもこの年頃に多い。 出勤する途上に、毎朝邂逅う美しい
女教師があった。渠はその頃この女に逢うのをその日その日の唯一の楽みとして、その女に就いていろいろな
空想を逞うした。恋が成立って、神楽坂あたりの小待合に連れて行って、人目を忍んで楽しんだらどう……。
細君に知れずに、二人近郊を散歩したらどう……。いや、それどころではない、その時、細君が懐妊しておっ
たから、不図難産して死ぬ、その後にその女を入れるとしてどうであろう。……平気で後妻に入れることが出
来るだろうかどうかなどと考えて歩いた。 神戸の女学院の生徒で、生れは備中の新見町で、渠の著作の崇拝
者で、名を横山芳子という女から崇拝の情を以て充された一通の手紙を受取ったのはその頃であった。竹中古
城と謂えば、美文的小説を書いて、多少世間に聞えておったので、地方から来る崇拝者渇仰者の手紙はこれま
でにも随分多かった。やれ文章を直してくれの、弟子にしてくれのと一々取合ってはいられなかった。だから
その女の手紙を受取っても、別に返事を出そうとまでその好奇心は募らなかった。けれど同じ人の熱心なる手
紙を三通まで貰っては、さすがの時雄も注意をせずにはいられなかった。年は十九だそうだが、手紙の文句か
ら推して、その表情の巧みなのは驚くべきほどで、いかなることがあっても先生の門下生になって、一生文学
に従事したいとの切なる願望。文字は走り書のすらすらした字で、余程ハイカラの女らしい。返事を書いたの
は、例の工場の二階の室で、その日は毎日の課業の地理を二枚書いて止して、長い数尺に余る手紙を芳子に送
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知するに、どういう態度を以てしようかというのが大問題であった。二人の恋の関鍵を自ら握っていると信ず
るだけそれだけ時雄は責任を重く感じた。その身の不当の嫉妬、不正の恋情の為めに、その愛する女の熱烈な
る恋を犠牲にするには忍びぬと共に、自ら言った「温情なる保護者」として、道徳家の如く身を処するにも堪
えなかった。また一方にはこの事が国に知れて芳子が父母の為めに伴われて帰国するようになるのを恐れた。
芳子が時雄の書斎に来て、頭を垂れ、声を低うして、その希望を述べたのはその翌日の夜であった。如何に
説いても男は帰らぬ。さりとて国へ報知すれば、父母の許さぬのは知れたこと、時宜に由れば忽ち迎いに来ぬ
とも限らぬ。男も折角ああして出て来たことでもあり二人の間も世の中の男女の恋のように浅く思い浅く恋し
た訳でもないから、決して汚れた行為などはなく、惑溺するようなことは誓って為ない。文学は難かしい道、
小説を書いて一家を成そうとするのは田中のようなものには出来ぬかも知れねど、同じく将来を進むなら、共
に好む道に携わりたい。どうか暫くこのままにして東京に置いてくれとの頼み。時雄はこの余儀なき頼みをす
げなく却けることは出来なかった。時雄は京都嵯峨に於ける女の行為にその節操を疑ってはいるが、一方には
又その弁解をも信じて、この若い二人の間にはまだそんなことはあるまいと思っていた。自分の青年の経験に
照らしてみても、神聖なる霊の恋は成立っても肉の恋は決してそう容易に実行されるものではない。で、時雄
は惑溺せぬものならば、暫くこのままにしておいて好いと言って、そして縷々として霊の恋愛、肉の恋愛、恋
愛と人生との関係、教育ある新しい女の当に守るべきことなどに就いて、切実にかつ真摯に教訓した。古人が
女子の節操を誡めたのは社会道徳の制裁よりは、寧ろ女子の独立を保護する為であるということ、一度肉を男
子に許せば女子の自由が全く破れるということ、西洋の女子はよくこの間の消息を解しているから、男女交際
をして不都合がないということ、日本の新しい婦人も是非ともそうならなければならぬということなど主なる
教訓の題目であったが、殊に新派の女子ということに就いて痛切に語った。 芳子は低頭いてきいていた。
時雄は興に乗じて、「そして一体、どうして生活しようというのです?」「少しは準備もして来たんでしょう
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(LA: 2.36, 2.40, 2.31)
包を開くと、姉の好きな好きなシュウクリーム。これはマアお旨しいと姉の声。で、暫く一座はそれに気を取
られた。 少時してから、芳子が、「先生、私の帰るのを待っていて下さったの?」「ええ、ええ、一時間半
位待ったのよ」 と姉が傍から言った。 で、その話が出て、都合さえよくば今夜からでも――荷物は後から
でも好いから――一緒に伴れて行く積りで来たということを話した。芳子は下を向いて、点頭いて聞いていた
。無論、その胸には一種の圧迫を感じたに相違ないけれど、芳子の心にしては、絶対に信頼して――今回の恋
のことにも全心を挙げて同情してくれた師の家に行って住むことは別に甚しい苦痛でも無かった。寧ろ以前か
らこの昔風の家に同居しているのを不快に思って、出来るならば、初めのように先生の家にと願っていたので
あるから、今の場合でなければ、かえって大に喜んだのであろうに…… 時雄は一刻も早くその恋人のことを
聞糺したかった。今、その男は何処にいる? 何時京都に帰るか? これは時雄に取っては実に重大な問題で
あった。けれど何も知らぬ姉の前で、打明けて問う訳にも行かぬので、この夜は露ほどもそのことを口に出さ
なかった。一座は平凡な物語に更けた。 今夜にもと時雄の言出したのを、だって、もう十二時だ、明日にし
た方が宜かろうとの姉の注意。で、時雄は一人で牛込に帰ろうとしたが、どうも不安心で為方がないような気
がしたので、夜の更けたのを口実に、姉の家に泊って、明朝早く一緒に行くことにした。 芳子は八畳に、時
雄は六畳に姉と床を並べて寝た。やがて姉の小さい鼾が聞えた。時計は一時をカンと鳴った。八畳では寝つか
れぬと覚しく、おりおり高い長大息の気勢がする。甲武の貨物列車が凄じい地響を立てて、この深夜を独り通
る。時雄も久しく眠られなかった。 翌朝時雄は芳子を自宅に伴った。二人になるより早く、時雄は昨日の消
息を知ろうと思ったけれど、芳子が低頭勝に悄然として後について来るのを見ると、何となく可哀そうになっ
て、胸に苛々する思を畳みながら、黙して歩いた。 佐内坂を登り了ると、人通りが少くなった。時雄はふと
振返って、「それでどうしたの?」と突如として訊ねた。「え?」 反問した芳子は顔を曇らせた。「昨日の
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ものでさえ、文学の価値などは解らぬものなのに、何もかもよく知っているらしい手紙の文句、早速返事を出
して師弟の関係を結んだ。 それから度々の手紙と文章、文章はまだ幼稚な点はあるが、癖の無い、すらすら
した、将来発達の見込は十分にあると時雄は思った。で一度は一度より段々互の気質が知れて、時雄はその手
紙の来るのを待つようになった。ある時などは写真を送れと言って遣ろうと思って、手紙の隅に小さく書いて
、そしてまたこれを黒々と塗って了った。女性には容色と謂うものが是非必要である。容色のわるい女はいく
ら才があっても男が相手に為ない。時雄も内々胸の中で、どうせ文学を遣ろうというような女だから、不容色
に相違ないと思った。けれどなるべくは見られる位の女であって欲しいと思った。 芳子が父母に許可を得て
、父に伴れられて、時雄の門を訪うたのは翌年の二月で、丁度時雄の三番目の男の児の生れた七夜の日であっ
た。座敷の隣の室は細君の産褥で、細君は手伝に来ている姉から若い女門下生の美しい容色であることを聞い
て少なからず懊悩した。姉もああいう若い美しい女を弟子にしてどうする気だろうと心配した。時雄は芳子と
父とを並べて、縷々として文学者の境遇と目的とを語り、女の結婚問題に就いて予め父親の説を叩いた。芳子
の家は新見町でも第三とは下らぬ豪家で、父も母も厳格なる基督教信者、母は殊にすぐれた信者で、曽ては同
志社女学校に学んだこともあるという。総領の兄は英国へ洋行して、帰朝後は某官立学校の教授となっている
。芳子は町の小学校を卒業するとすぐ、神戸に出て神戸の女学院に入り、其処でハイカラな女学校生活を送っ
た。基督教の女学校は他の女学校に比して、文学に対して総て自由だ。その頃こそ「魔風恋風」や「金色夜叉
」などを読んではならんとの規定も出ていたが、文部省で干渉しない以前は、教場でさえなくば何を読んでも
差支なかった。学校に附属した教会、其処で祈祷の尊いこと、クリスマスの晩の面白いこと、理想を養うとい
うことの味をも知って、人間の卑しいことを隠して美しいことを標榜するという群の仲間となった。母の膝下
が恋しいとか、故郷が懐かしいとか言うことは、来た当座こそ切実に辛く感じもしたが、やがては全く忘れて
、女学生の寄宿生活をこの上なく面白く思うようになった。旨味い南瓜を食べさせないと云っては、お鉢の飯
Slot >>569
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(LA: 2.17, 2.35, 2.30)
、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。 時雄は例刻をてくてくと
牛込矢来町の自宅に帰って来た。 渠は三日間、その苦悶と戦った。渠は性として惑溺することが出来ぬ或る
一種の力を有っている。この力の為めに支配されるのを常に口惜しく思っているのではあるが、それでもいつ
か負けて了う。征服されて了う。これが為め渠はいつも運命の圏外に立って苦しい味を嘗めさせられるが、世
間からは正しい人、信頼するに足る人と信じられている。三日間の苦しい煩悶、これでとにかく渠はその前途
を見た。二人の間の関係は一段落を告げた。これからは、師としての責任を尽して、わが愛する女の幸福の為
めを謀るばかりだ。これはつらい、けれどつらいのが人生だ! と思いながら帰って来た。 門をあけて入る
と、細君が迎えに出た。残暑の日はまだ暑く、洋服の下襦袢がびっしょり汗にぬれている。それを糊のついた
白地の単衣に着替えて、茶の間の火鉢の前に坐ると、細君はふと思い附いたように、箪笥の上の一封の手紙を
取出し、「芳子さんから」 と言って渡した。 急いで封を切った。巻紙の厚いのを見ても、その事件に関し
ての用事に相違ない。時雄は熱心に読下した。 言文一致で、すらすらとこの上ない達筆。先生――実は御相
談に上りたいと存じましたが、余り急でしたものでしたから、独断で実行致しました。昨日四時に田中から電
報が参りまして、六時に新橋の停車場に着くとのことですもの、私はどんなに驚きましたか知れません。何事
も無いのに出て来るような、そんな軽率な男でないと信じておりますだけに、一層甚しく気を揉みました。先
生、許して下さい。私はその時刻に迎えに参りましたのです。逢って聞きますと、私の一伍一什を書いた手紙
を見て、非常に心配して、もしこの事があった為め万一郷里に伴れて帰られるようなことがあっては、自分が
済まぬと言うので、学事をも捨てて出京して、先生にすっかりお打明申して、お詫も申上げ、お情にも縋って
、万事円満に参るようにと、そういう目的で急に出て参ったとのことで御座います。それから、私は先生にお
話し申した一伍一什、先生のお情深い言葉、将来までも私等二人の神聖な真面目な恋の証人とも保護者ともな
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か、ハウプトマンの「寂しき人々」を思い出した。こうならぬ前に、この戯曲をかの女の日課として教えて遣
ろうかと思ったことがあった。ヨハンネス・フォケラートの心事と悲哀とを教えて遣りたかった。この戯曲を
渠が読んだのは今から三年以前、まだかの女のこの世にあることをも夢にも知らなかった頃であったが、その
頃から渠は淋しい人であった。敢てヨハンネスにその身を比そうとは為なかったが、アンナのような女がもし
あったなら、そういう悲劇に陥るのは当然だとしみじみ同情した。今はそのヨハンネスにさえなれぬ身だと思
って長嘆した。 さすがに「寂しき人々」をかの女に教えなかったが、ツルゲネーフの「ファースト」という
短篇を教えたことがあった。洋燈の光明かなる四畳半の書斎、かの女の若々しい心は色彩ある恋物語に憧れ渡
って、表情ある眼は更に深い深い意味を以て輝きわたった。ハイカラな庇髪、櫛、リボン、洋燈の光線がその
半身を照して、一巻の書籍に顔を近く寄せると、言うに言われぬ香水のかおり、肉のかおり、女のかおり――
書中の主人公が昔の恋人に「ファースト」を読んで聞かせる段を講釈する時には男の声も烈しく戦えた。「け
れど、もう駄目だ!」 と、渠は再び頭髪をむしった。 渠は名を竹中時雄と謂った。 今より三年前、三人
目の子が細君の腹に出来て、新婚の快楽などはとうに覚め尽した頃であった。世の中の忙しい事業も意味がな
く、一生作に力を尽す勇気もなく、日常の生活――朝起きて、出勤して、午後四時に帰って来て、同じように
細君の顔を見て、飯を食って眠るという単調なる生活につくづく倦き果てて了った。家を引越歩いても面白く
ない、友人と語り合っても面白くない、外国小説を読み渉猟っても満足が出来ぬ。いや、庭樹の繁り、雨の点
滴、花の開落などいう自然の状態さえ、平凡なる生活をして更に平凡ならしめるような気がして、身を置くに
処は無いほど淋しかった。道を歩いて常に見る若い美しい女、出来るならば新しい恋を為たいと痛切に思った
。 三十四五、実際この頃には誰にでもある煩悶で、この年頃に賤しい女に戯るるものの多いのも、畢竟その
淋しさを医す為めである。世間に妻を離縁するものもこの年頃に多い。 出勤する途上に、毎朝邂逅う美しい
女教師があった。渠はその頃この女に逢うのをその日その日の唯一の楽みとして、その女に就いていろいろな
Slot >>342
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(LA: 2.20, 2.35, 2.30)
はエレネの恋物語を自分に引くらべて、その身を小説の中に置いた。恋の運命、恋すべき人に恋する機会がな
く、思いも懸けぬ人にその一生を任した運命、実際芳子の当時の心情そのままであった。須磨の浜で、ゆくり
なく受取った百合の花の一葉の端書、それがこうした運命になろうとは夢にも思い知らなかったのである。
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。京都の夜汽車、嵯峨の月、膳所に遊ん
だ時には湖水に夕日が美しく射渡って、旅館の中庭に、萩が絵のように咲乱れていた。その二日の遊は実に夢
のようであったと思った。続いてまだその人を恋せぬ前のこと、須磨の海水浴、故郷の山の中の月、病気にな
らぬ以前、殊にその時の煩悶を考えると、頬がおのずから赧くなった。 空想から空想、その空想はいつか長
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
れぬ二人の情――余りその文通の頻繁なのに時雄は芳子の不在を窺って、監督という口実の下にその良心を抑
えて、こっそり机の抽出やら文箱やらをさがした。捜し出した二三通の男の手紙を走り読みに読んだ。 恋人
のするような甘ったるい言葉は到る処に満ちていた。けれど時雄はそれ以上にある秘密を捜し出そうと苦心し
た。接吻の痕、性慾の痕が何処かに顕われておりはせぬか。神聖なる恋以上に二人の間は進歩しておりはせぬ
か、けれど手紙にも解らぬのは恋のまことの消息であった。 一カ月は過ぎた。 ところが、ある日、時雄は
芳子に宛てた一通の端書を受取った。英語で書いてある端書であった。何気なく読むと、一月ほどの生活費は
準備して行く、あとは東京で衣食の職業が見附かるかどうかという意味、京都田中としてあった。時雄は胸を
轟かした。平和は一時にして破れた。 晩餐後、芳子はその事を問われたのである。 芳子は困ったという風
で、「先生、本当に困って了ったんですの。田中が東京に出て来ると云うのですもの、私は二度、三度まで止
めて遣ったんですけれど、何だか、宗教に従事して、虚偽に生活してることが、今度の動機で、すっかり厭に
なって了ったとか何とかで、どうしても東京に出て来るッて言うんですよ」「東京に来て、何をするつもりな
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返すようにとも申兼ねました。(私の弱いのを御許し下さいまし)勉学中、実際問題に触れてはならぬとの先
生の御教訓は身にしみて守るつもりで御座いますが、一先、旅籠屋に落着かせまして、折角出て来たものです
から、一日位見物しておいでなさいと、つい申して了いました。どうか先生、お許し下さいまし。私共も激し
い感情の中に、理性も御座いますから、京都でしたような、仮りにも常識を外れた、他人から誤解されるよう
なことは致しません。誓って、決して致しません。末ながら奥様にも宜しく申上げて下さいまし。芳子先生
御もと この一通の手紙を読んでいる中、さまざまの感情が時雄の胸を火のように燃えて通った。その田中と
いう二十一の青年が現にこの東京に来ている。芳子が迎えに行った。何をしたか解らん。この間言ったことも
まるで虚言かも知れぬ。この夏期の休暇に須磨で落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為
め、今度も恋しさに堪え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れた
ろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那の間だ。こう思うと時雄は
堪らなくなった。「監督者の責任にも関する!」と腹の中で絶叫した。こうしてはおかれぬ、こういう自由を
精神の定まらぬ女に与えておくことは出来ん。監督せんければならん、保護せんけりゃならん。私共は熱情も
あるが理性がある! 私共とは何だ! 何故私とは書かぬ、何故複数を用いた? 時雄の胸は嵐のように乱れ
た。着いたのは昨日の六時、姉の家に行って聞き糺せば昨夜何時頃に帰ったか解るが、今日はどうした、今は
どうしている? 細君の心を尽した晩餐の膳には、鮪の新鮮な刺身に、青紫蘇の薬味を添えた冷豆腐、それを
味う余裕もないが、一盃は一盃と盞を重ねた。 細君は末の児を寝かして、火鉢の前に来て坐ったが、芳子の
手紙の夫の傍にあるのに眼を附けて、「芳子さん、何て言って来たのです?」 時雄は黙って手紙を投げて遣
った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
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Win!! 4 pts.(LA: 2.14, 2.33, 2.29)
と、細君が迎えに出た。残暑の日はまだ暑く、洋服の下襦袢がびっしょり汗にぬれている。それを糊のついた
白地の単衣に着替えて、茶の間の火鉢の前に坐ると、細君はふと思い附いたように、箪笥の上の一封の手紙を
取出し、「芳子さんから」 と言って渡した。 急いで封を切った。巻紙の厚いのを見ても、その事件に関し
ての用事に相違ない。時雄は熱心に読下した。 言文一致で、すらすらとこの上ない達筆。先生――実は御相
談に上りたいと存じましたが、余り急でしたものでしたから、独断で実行致しました。昨日四時に田中から電
報が参りまして、六時に新橋の停車場に着くとのことですもの、私はどんなに驚きましたか知れません。何事
も無いのに出て来るような、そんな軽率な男でないと信じておりますだけに、一層甚しく気を揉みました。先
生、許して下さい。私はその時刻に迎えに参りましたのです。逢って聞きますと、私の一伍一什を書いた手紙
を見て、非常に心配して、もしこの事があった為め万一郷里に伴れて帰られるようなことがあっては、自分が
済まぬと言うので、学事をも捨てて出京して、先生にすっかりお打明申して、お詫も申上げ、お情にも縋って
、万事円満に参るようにと、そういう目的で急に出て参ったとのことで御座います。それから、私は先生にお
話し申した一伍一什、先生のお情深い言葉、将来までも私等二人の神聖な真面目な恋の証人とも保護者ともな
って下さるということを話しましたところ、非常に先生の御情に感激しまして、感謝の涙に暮れました次第で
御座います。田中は私の余りに狼狽した手紙に非常に驚いたとみえまして、十分覚悟をして、万一破壊の暁に
はと言った風なことも決心して参りましたので御座います。万一の時にはあの時嵯峨に一緒に参った友人を証
人にして、二人の間が決して汚れた関係の無いことを弁明し、別れて後互に感じた二人の恋愛をも打明けて、
先生にお縋り申して郷里の父母の方へも逐一言って頂こうと決心して参りましたそうです。けれどこの間の私
の無謀で郷里の父母の感情を破っている矢先、どうしてそんなことを申して遣わされましょう。今は少時沈黙
して、お互に希望を持って、専心勉学に志し、いつか折を見て――或は五年、十年の後かも知れません――打
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の度を増した。 野は秋も暮れて木枯の風が立った。裏の森の銀杏樹も黄葉して夕の空を美しく彩った。垣根
道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。鵙の鳴音がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※(二
の字点、1-2-22)人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を
説勧めて、この一伍一什を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄
せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分に贏ち得るように勉めた。時雄は心を欺いて、――悲壮なる
犠牲と称して、この「恋の温情なる保護者」となった。 備中の山中から数通の手紙が来た。 その翌年の一
月には、時雄は地理の用事で、上武の境なる利根河畔に出張していた。彼は昨年の年末からこの地に来ている
ので、家のこと――芳子のことが殊に心配になる。さりとて公務を如何ともすることが出来なかった。正月に
なって二日にちょっと帰京したが、その時は次男が歯を病んで、妻と芳子とが頻りにそれを介抱していた。妻
に聞くと、芳子の恋は更に惑溺の度を加えた様子。大晦日の晩に、田中が生活のたつきを得ず、下宿に帰るこ
とも出来ずに、終夜運転の電車に一夜を過したということ、余り頻繁に二人が往来するので、それをそれとな
しに注意して芳子と口争いをしたということ、その他種々のことを聞いた。困ったことだと思った。一晩泊っ
て再び利根の河畔に戻った。 今は五日の夜であった。茫とした空に月が暈を帯びて、その光が川の中央にき
らきらと金を砕いていた。時雄は机の上に一通の封書を展いて、深くその事を考えていた。その手紙は今少し
前、旅館の下女が置いて行った芳子の筆である。先生、まことに、申訳が御座いません。先生の同情ある御恩
は決して一生経っても忘るることでなく、今もそのお心を思うと、涙が滴るるのです。父母はあの通りです。
先生があのように仰しゃって下すっても、旧風の頑固で、私共の心を汲んでくれようとも致しませず、泣いて
訴えましたけれど、許してくれません。母の手紙を見れば泣かずにはおられませんけれど、少しは私の心も汲
んでくれても好いと思います。恋とはこう苦しいものかと今つくづく思い当りました。先生、私は決心致しま
した。聖書にも女は親に離れて夫に従うと御座います通り、私は田中に従おうと存じます。田中は未だに生活
Slot >>355
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した、将来発達の見込は十分にあると時雄は思った。で一度は一度より段々互の気質が知れて、時雄はその手
紙の来るのを待つようになった。ある時などは写真を送れと言って遣ろうと思って、手紙の隅に小さく書いて
、そしてまたこれを黒々と塗って了った。女性には容色と謂うものが是非必要である。容色のわるい女はいく
ら才があっても男が相手に為ない。時雄も内々胸の中で、どうせ文学を遣ろうというような女だから、不容色
に相違ないと思った。けれどなるべくは見られる位の女であって欲しいと思った。 芳子が父母に許可を得て
、父に伴れられて、時雄の門を訪うたのは翌年の二月で、丁度時雄の三番目の男の児の生れた七夜の日であっ
た。座敷の隣の室は細君の産褥で、細君は手伝に来ている姉から若い女門下生の美しい容色であることを聞い
て少なからず懊悩した。姉もああいう若い美しい女を弟子にしてどうする気だろうと心配した。時雄は芳子と
父とを並べて、縷々として文学者の境遇と目的とを語り、女の結婚問題に就いて予め父親の説を叩いた。芳子
の家は新見町でも第三とは下らぬ豪家で、父も母も厳格なる基督教信者、母は殊にすぐれた信者で、曽ては同
志社女学校に学んだこともあるという。総領の兄は英国へ洋行して、帰朝後は某官立学校の教授となっている
。芳子は町の小学校を卒業するとすぐ、神戸に出て神戸の女学院に入り、其処でハイカラな女学校生活を送っ
た。基督教の女学校は他の女学校に比して、文学に対して総て自由だ。その頃こそ「魔風恋風」や「金色夜叉
」などを読んではならんとの規定も出ていたが、文部省で干渉しない以前は、教場でさえなくば何を読んでも
差支なかった。学校に附属した教会、其処で祈祷の尊いこと、クリスマスの晩の面白いこと、理想を養うとい
うことの味をも知って、人間の卑しいことを隠して美しいことを標榜するという群の仲間となった。母の膝下
が恋しいとか、故郷が懐かしいとか言うことは、来た当座こそ切実に辛く感じもしたが、やがては全く忘れて
、女学生の寄宿生活をこの上なく面白く思うようになった。旨味い南瓜を食べさせないと云っては、お鉢の飯
に醤油を懸けて賄方を酷めたり、舎監のひねくれた老婦の顔色を見て、陰陽に物を言ったりする女学生の群の
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人」 細君は笑った。「そうか……」「今日一時頃、御免なさいと玄関に来た人があるですから、私が出て見
ると、顔の丸い、絣の羽織を着た、白縞の袴を穿いた書生さんが居るじゃありませんか。また、原稿でも持っ
て来た書生さんかと思ったら、横山さんは此方においでですかと言うじゃありませんか。はて、不思議だと思
ったけれど、名を聞きますと、田中……。はア、それでその人だナと思ったんですよ。厭な人ねえ、あんな人
を、あんな書生さんを恋人にしないたッて、いくらも好いのがあるでしょうに。芳子さんは余程物好きね。あ
れじゃとても望みはありませんよ」「それでどうした?」「芳子さんは嬉しいんでしょうけど、何だか極りが
悪そうでしたよ。私がお茶を持って行って上げると、芳子さんは机の前に坐っている。その前にその人が居て
、今まで何か話していたのを急に止して黙ってしまった。私は変だからすぐ下りて来たですがね、……何だか
変ね、……今の若い人はよくああいうことが出来てね、私のその頃には男に見られるのすら恥かしくって恥か
しくって為方がなかったものですのに……」「時代が違うからナ」「いくら時代が違っても、余り新派過ぎる
と思いましたよ。堕落書生と同じですからね。それゃうわべが似ているだけで、心はそんなことはないでしょ
うけれど、何だか変ですよ」「そんなことはどうでも好い。それでどうした?」「お鶴(下女)が行って上げ
ると言うのに、好いと言って、御自分で出かけて、餅菓子と焼芋を買って来て、御馳走してよ。……お鶴も笑
っていましたよ。お湯をさしに上ると、二人でお旨しそうにおさつを食べているところでしたッて……」 時
雄も笑わざるを得なかった。 細君は猶語り続いだ。「そして随分長く高い声で話していましたよ。議論みた
いなことも言って、芳子さんもなかなか負けない様子でした」「そしていつ帰った?」「もう少し以前」「芳
子は居るか」「いいえ、路が分からないから、一緒に其処まで送って行って来るッて出懸けて行ったんですよ
」 時雄は顔を曇らせた。 夕飯を食っていると、裏口から芳子が帰って来た。急いで走って来たと覚しく、
せいせい息を切っている。「何処まで行らしった?」 と細君が問うと、「神楽坂まで」と答えたが、いつも
する「おかえりなさいまし」を時雄に向って言って、そのままばたばたと二階へ上った。すぐ下りて来るかと
Slot >>128
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うです、此処も居心は悪くないでしょう」時雄は得意そうに笑って、「此処に居て、まア緩くり勉強するです
。本当に実際問題に触れてつまらなく苦労したって為方がないですからねえ」「え……」と芳子は頭を垂れた
。「後で詳しく聞きましょうが、今の中は二人共じっとして勉強していなくては、為方がないですからね」「
え……」と言って、芳子は顔を挙げて、「それで先生、私達もそう思って、今はお互に勉強して、将来に希望
を持って、親の許諾をも得たいと存じておりますの!」「それが好いです。今、余り騒ぐと、人にも親にも誤
解されて了って、折角の真面目な希望も遂げられなくなりますから」「ですから、ね、先生、私は一心になっ
て勉強しようと思いますの。田中もそう申しておりました。それから、先生に是非お目にかかってお礼を申上
げなければ済まないと申しておりましたけれど……よく申上げてくれッて……」「いや……」 時雄は芳子の
言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
ように感じた。当世の女学生気質のいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。勿論、こ
の女学生気質を時雄は主義の上、趣味の上から喜んで見ていたのは事実である。昔のような教育を受けては、
到底今の明治の男子の妻としては立って行かれぬ。女子も立たねばならぬ、意志の力を十分に養わねばならぬ
とはかれの持論である。この持論をかれは芳子に向っても尠からず鼓吹した。けれどこの新派のハイカラの実
行を見てはさすがに眉を顰めずにはいられなかった。 男からは国府津の消印で帰途に就いたという端書が着
いて翌日三番町の姉の家から届けて来た。居間の二階には芳子が居て、呼べば直ぐ返事をして下りて来る。食
事には三度三度膳を並べて団欒して食う。夜は明るい洋燈を取巻いて、賑わしく面白く語り合う。靴下は編ん
でくれる。美しい笑顔を絶えず見せる。時雄は芳子を全く占領して、とにかく安心もし満足もした。細君も芳
子に恋人があるのを知ってから、危険の念、不安の念を全く去った。 芳子は恋人に別れるのが辛かった。成
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って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照! 産褥から出たばかりの細君を助けて、靴下を編む、
襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
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🚩(LA: 2.78, 2.45, 2.33)
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
の客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧しい。時雄の
書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎
と、今一つシュウソカリの入った大きな罎がある。これは神経過敏で、頭脳が痛くって為方が無い時に飲むの
だという。本箱には紅葉全集、近松世話浄瑠璃、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立
って目に附く。で、未来の閨秀作家は学校から帰って来ると、机に向って文を書くというよりは、寧ろ多く手
紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の
学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。 麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカ
ラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方には時雄の妻君の里の家があるのだが、この附近は殊に昔風
の商家の娘が多い。で、尠くとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳たしめた。時雄は姉の言葉
として、妻から常に次のようなことを聞される。「芳子さんにも困ったものですねと姉が今日も言っていまし
たよ、男の友達が来るのは好いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまで帰って来ないことが
あるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決っているけれど、世間の口が喧しくって為方が無
いと云っていました」 これを聞くと時雄は定って芳子の肩を持つので、「お前達のような旧式の人間には芳
子の遣ることなどは判りやせんよ。男女が二人で歩いたり話したりさえすれば、すぐあやしいとか変だとか思
うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと
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返すようにとも申兼ねました。(私の弱いのを御許し下さいまし)勉学中、実際問題に触れてはならぬとの先
生の御教訓は身にしみて守るつもりで御座いますが、一先、旅籠屋に落着かせまして、折角出て来たものです
から、一日位見物しておいでなさいと、つい申して了いました。どうか先生、お許し下さいまし。私共も激し
い感情の中に、理性も御座いますから、京都でしたような、仮りにも常識を外れた、他人から誤解されるよう
なことは致しません。誓って、決して致しません。末ながら奥様にも宜しく申上げて下さいまし。芳子先生
御もと この一通の手紙を読んでいる中、さまざまの感情が時雄の胸を火のように燃えて通った。その田中と
いう二十一の青年が現にこの東京に来ている。芳子が迎えに行った。何をしたか解らん。この間言ったことも
まるで虚言かも知れぬ。この夏期の休暇に須磨で落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為
め、今度も恋しさに堪え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れた
ろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那の間だ。こう思うと時雄は
堪らなくなった。「監督者の責任にも関する!」と腹の中で絶叫した。こうしてはおかれぬ、こういう自由を
精神の定まらぬ女に与えておくことは出来ん。監督せんければならん、保護せんけりゃならん。私共は熱情も
あるが理性がある! 私共とは何だ! 何故私とは書かぬ、何故複数を用いた? 時雄の胸は嵐のように乱れ
た。着いたのは昨日の六時、姉の家に行って聞き糺せば昨夜何時頃に帰ったか解るが、今日はどうした、今は
どうしている? 細君の心を尽した晩餐の膳には、鮪の新鮮な刺身に、青紫蘇の薬味を添えた冷豆腐、それを
味う余裕もないが、一盃は一盃と盞を重ねた。 細君は末の児を寝かして、火鉢の前に来て坐ったが、芳子の
手紙の夫の傍にあるのに眼を附けて、「芳子さん、何て言って来たのです?」 時雄は黙って手紙を投げて遣
った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。 細
君は手紙を読終って巻きかえしながら、「出て来たのですね」「うむ」「ずっと東京に居るんでしょうか」「
手紙に書いてあるじゃないか、すぐ帰すッて……」「帰るでしょうか」「そんなこと誰が知るものか」 夫の
Slot >>192
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🚩(LA: 2.50, 2.41, 2.32)
の為めに行われたる恋でないことを言い、父母の中一人、是非出京してこの問題を解決して貰いたいと言い送
った。けれど故郷の父母は、監督なる時雄がそういう主張であるのと、到底その口から許可することが出来ぬ
のとで、上京しても無駄であると云って出て来なかった。 時雄は今、芳子の手紙に対して考えた。 二人の
状態は最早一刻も猶予すべからざるものとなっている。時雄の監督を離れて二人一緒に暮したいという大胆な
言葉、その言葉の中には警戒すべき分子の多いのを思った。いや、既に一歩を進めているかも知れぬと思った
。又一面にはこれほどその為めに尽力しているのに、その好意を無にして、こういう決心をするとは義理知ら
ず、情知らず、勝手にするが好いとまで激した。 時雄は胸の轟きを静める為め、月朧なる利根川の堤の上を
散歩した。月が暈を帯びた夜は冬ながらやや暖かく、土手下の家々の窓には平和な燈火が静かに輝いていた。
川の上には薄い靄が懸って、おりおり通る船の艫の音がギイと聞える。下流でおーいと渡しを呼ぶものがある
。舟橋を渡る車の音がとどろに響いてそして又一時静かになる。時雄は土手を歩きながら種々のことを考えた
。芳子のことよりは一層痛切に自己の家庭のさびしさということが胸を往来した。三十五六歳の男女の最も味
うべき生活の苦痛、事業に対する煩悩、性慾より起る不満足等が凄じい力でその胸を圧迫した。芳子はかれの
為めに平凡なる生活の花でもあり又糧でもあった。芳子の美しい力に由って、荒野の如き胸に花咲き、錆び果
てた鐘は再び鳴ろうとした。芳子の為めに、復活の活気は新しく鼓吹された。であるのに再び寂寞荒涼たる以
前の平凡なる生活にかえらなければならぬとは……。不平よりも、嫉妬よりも、熱い熱い涙がかれの頬を伝っ
た。 かれは真面目に芳子の恋とその一生とを考えた。二人同棲して後の倦怠、疲労、冷酷を自己の経験に照
らしてみた。そして一たび男子に身を任せて後の女子の境遇の憐むべきを思い遣った。自然の最奥に秘める暗
黒なる力に対する厭世の情は今彼の胸を簇々として襲った。 真面目なる解決を施さなければならぬという気
になった。今までの自分の行為の甚だ不自然で不真面目であるのに思いついた。時雄はその夜、備中の山中に
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ももう言わなくなった。徳利に酒が無くなると、只、酒、酒と言うばかりだ。そしてこれをぐいぐいと呷る。
気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の児の五歳になるのを始めは頻りに可愛がって抱いた
り撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣出したのに腹を立てて、ピシャピシャとその尻を乱
打したので、三人の子供は怖がって、遠巻にして、平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見て
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
」 突如蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。時雄はふらふらと危く小便をしてい
たが、それがすむと、突如※(「革+堂」、第3水準1-93-80)と厠の中に横に寝てしまった。細君が
汚がって頻りに揺ったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく
、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。 時雄は例刻をてくてくと
牛込矢来町の自宅に帰って来た。 渠は三日間、その苦悶と戦った。渠は性として惑溺することが出来ぬ或る
一種の力を有っている。この力の為めに支配されるのを常に口惜しく思っているのではあるが、それでもいつ
か負けて了う。征服されて了う。これが為め渠はいつも運命の圏外に立って苦しい味を嘗めさせられるが、世
間からは正しい人、信頼するに足る人と信じられている。三日間の苦しい煩悶、これでとにかく渠はその前途
を見た。二人の間の関係は一段落を告げた。これからは、師としての責任を尽して、わが愛する女の幸福の為
めを謀るばかりだ。これはつらい、けれどつらいのが人生だ! と思いながら帰って来た。 門をあけて入る
Slot >>963
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🚩(LA: 2.77, 2.47, 2.34)
穏かに眠れる妻の顔、それを幾度か窺って自己の良心のいかに麻痺せるかを自ら責めた。そしてあくる朝贈っ
た手紙は、厳乎たる師としての態度であった。二度目はそれから二月ほど経った春の夜、ゆくりなく時雄が訪
問すると、芳子は白粉をつけて、美しい顔をして、火鉢の前にぽつねんとしていた。「どうしたの」と訊くと
、「お留守番ですの」「姉は何処へ行った?」「四谷へ買物に」 と言って、じっと時雄の顔を見る。いかに
も艶かしい。時雄はこの力ある一瞥に意気地なく胸を躍らした。二語三語、普通のことを語り合ったが、その
平凡なる物語が更に平凡でないことを互に思い知ったらしかった。この時、今十五分も一緒に話し合ったなら
ば、どうなったであろうか。女の表情の眼は輝き、言葉は艶めき、態度がいかにも尋常でなかった。「今夜は
大変綺麗にしてますね?」 男は態と軽く出た。「え、先程、湯に入りましたのよ」「大変に白粉が白いから
」「あらまア先生!」と言って、笑って体を斜に嬌態を呈した。 時雄はすぐ帰った。まア好いでしょうと芳
子はたって留めたが、どうしても帰ると言うので、名残惜しげに月の夜を其処まで送って来た。その白い顔に
は確かにある深い神秘が籠められてあった。 四月に入ってから、芳子は多病で蒼白い顔をして神経過敏に陥
っていた。シュウソカリを余程多量に服してもどうも眠られぬとて困っていた。絶えざる欲望と生殖の力とは
年頃の女を誘うのに躊躇しない。芳子は多く薬に親しんでいた。 四月末に帰国、九月に上京、そして今回の
事件が起った。 今回の事件とは他でも無い。芳子は恋人を得た。そして上京の途次、恋人と相携えて京都嵯
峨に遊んだ。その遊んだ二日の日数が出発と着京との時日に符合せぬので、東京と備中との間に手紙の往復が
あって、詰問した結果は恋愛、神聖なる恋愛、二人は決して罪を犯してはおらぬが、将来は如何にしてもこの
恋を遂げたいとの切なる願望。時雄は芳子の師として、この恋の証人として一面月下氷人の役目を余儀なくさ
せられたのであった。 芳子の恋人は同志社の学生、神戸教会の秀才、田中秀夫、年二十一。 芳子は師の前
にその恋の神聖なるを神懸けて誓った。故郷の親達は、学生の身で、ひそかに男と嵯峨に遊んだのは、既にそ
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るのを思い出した。そしてある友人と露西亜の人間はこれだから豪い、惑溺するなら飽まで惑溺せんければ駄
目だと言ったことを思いだした。馬鹿な! 恋に師弟の別があって堪るものかと口へ出して言った。 中根坂
を上って、士官学校の裏門から佐内坂の上まで来た頃は、日はもうとっぷりと暮れた。白地の浴衣がぞろぞろ
と通る。煙草屋の前に若い細君が出ている。氷屋の暖簾が涼しそうに夕風に靡く。時雄はこの夏の夜景を朧げ
に眼には見ながら、電信柱に突当って倒れそうにしたり、浅い溝に落ちて膝頭をついたり、職工体の男に、「
酔漢奴! しっかり歩け!」と罵られたりした。急に自ら思いついたらしく、坂の上から右に折れて、市ヶ谷
八幡の境内へと入った。境内には人の影もなく寂寞としていた。大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって
、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。処々の常夜燈はそろそろ光を放ち始めた。時雄はいかにしても苦
しいので、突如その珊瑚樹の蔭に身を躱して、その根本の地上に身を横えた。興奮した心の状態、奔放な情と
悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬の念に駆られながら、一方冷淡に自己の状態を
客観した。 初めて恋するような熱烈な情は無論なかった。盲目にその運命に従うと謂うよりは、寧ろ冷かに
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
Slot >>900
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🚩(LA: 2.84, 2.49, 2.35)
アクメもきぃもおばさんなのにネットリテラシーが皆無なのどうかしてんな トリガーとか関係なく順番にアンチスレ荒してまわってんのかね きぃの年齢が若そうとかTwitterで予想してる奴いたがあの無理して出してる声のどこが若いんだよ スレの上から順に荒らす説とかもあるらしいがここんとこ来てなかったし分からん >>554
セルとのオフパコどうだったか聞いてみたい >>552
天城越え歌ってるおばさんの声が地声だろうね Vtuberの魂を高齢順に並べたら1番目に誰が来るかね 荒らしから逃れるためにスレタイまで破棄したタムスレが荒らされてるのはちょっと笑う 天下さんとか昨日アメちゃんでオナニーしました宣言してたぞ
暗黒大将軍こそきぃ軍のエース とことん”ガチ”を望むね
まぁ意表を突いてねずおじとか来そうだけども >>571
年末めちゃくちゃ盛り上がったやつやんけ! 中身おばさんはアウトとういう業界で永遠を体現するには中身の交換が必要なのだ… >>571
横っさんが既にウォーミングアップを始めてそう きぃちゃん以下のチャンネル登録者数の弱者はVtuber引退した方がいいぞ 皮を被ってもばれるのだ、隠せば隠す程追い込まれるのだー! nicoくんもコレに混ぜてもらって全てわすれさったらいいよ 横が降臨した流れは気持ち悪かったなぁ
宗教やでアレ 系ちゃんは何と言ってもあの!V-1の覇者だからな! 邪っさん鳴神っさんにトリプルスコアの差つけられてどんな気持ち? >>591
昨日の朝までは低評価なかったのに…( ´•̥ ̫ •̥` ) >>591
しらたま。@フリーライター@siratama_3gou
物申す系に物申す? 活動休止になった先例の話 https://indivtubers.com/archives/4333
リテラシー向上のための記事。たぶん、必要な人には届かないだろうなーと思いつつ…… 物申した結果、
訴訟沙汰になりそうになって活動できなくなったVの者もいるのですよ。
https://twitter.com/siratama_3gou/status/1083676698132996096
夜空イチバーチャルYouTuber @yozora_ichi
返信先: @siratama_3gouさん
関わりがあろうとなかろうと、こちら側としては表立って触れないというのが自衛としては一番でしょうか。
簡単に発言できて、公に証拠が残るネットだからこそ、慎重になる必要があるのでしょうね。
ネットだと、一度発信すれば基本的に永遠に残りますからね。
自分ひとりだけでなく、周囲にまで影響が出るので、今後はしっかりしようと思います。
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) チャンネル登録者数1万下回ってる底辺雑魚は引退シロ!! 個人勢で1万は難しいと思うぞ
大方企業Vのスレから来たんだろうがお客さんは帰ってくれ、ここは個人勢アンチスレだ 1万以下が引退しろとかはドル部とかの水準だろ
事務所で言えば弱小事務所とかエンタムとか
特に流星群プロジェクトとか1万以下とか引退だらけでほぼ壊滅するんですが… >>596
イチくんムクムクで草
自演で得た人気を胸に
君は有識者側なんだね・・・ 事務所はいってないVtuber(入ってるのは1万は当たり前として)で1万登録行ってるやつってリアルな話何人いるの?
10名くらいじゃね? アンチスレ見て有名になったとか言ってる極ガイジムーブしたイチカスが今更触れないことが大事とか言っても説得力皆無で草 古庵ルールだと登録人数が少ない程強い
覚えて帰ってくれよな けもみみおーこく公式 @kemomimi_oukoku
ECOが終わる(ネトゲとしては大往生)
↓
ECO民の一部が次の移住先としてVRChatに来る
↓
アルマジロン先生のモデルが販売される
↓
実質ECOが復活する(ECOの意志みたいな)
この流れすこ
10:51 - 2019年1月12日 >>608
このスレにルールはないんだが?
F9か? わらわはプレイしたことないんじゃけども筆頭ECO民なんじゃよね〜 そもそもきぃは1から登録者数稼いだわけじゃなくて用意してあった定期 え、個人勢って事務所に頼らんと1万にも到達出来ないとかマ??
それじゃまるでただの雑魚みたいやん…… >>614
ガワの完成度とかも違うしな、あと話題性よ おはきぃずー!
きぃくらぶのみんな、もっときぃのこと守ってほしいのだ!救ってくれるって言ったのだ! クリエイターを諦め、当たり前の事を言うだけおじさんへ >>625
明日はやってきますか?
待てど暮らせどっやってこない明日… しらたま。@フリーライター@siratama_3gou
んー、でもあれですね。
ゴシップは別に良いのですが、それで傷つく当事者がいるという感覚が薄いんでしょうね。
コンテンツとして消費する層と、育てようとする層との文化的な衝突な気もしますが。
私は育てる側なのでゴシップ期待されても……となるのですが。
https://twitter.com/siratama_3gou/status/1083927562915479553
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) >>630
明日とはいつの明日とは言ってないのだ! >>631
育てようとするとか言ってるが底辺に持ち上げられてるだけで実際の力は全くないだろ、自惚れんな 事務所入ってない上位Vtuberとかもう雀の涙しかいないだろ…
底辺はコラボモンスターでオフパコばっかだろうし >>633
お、ちょっと姿勢変えてきたな
どうしたんだいこれは >>635
開いた瞬間駄洒落が飛び込んできて困惑なんだが >>641
相変わらずモデルが奇形に見える
下半身の尺おかしない? 個アンオールスターズで草
なぜかそらもいてさらに草 きぃの垢見たら明日までまってってあるけど
これいつの明日なん? オフパコ妊娠騒動の時点で運営はきぃのプロジェクトに継続不能の判断をしてるんだよなぁ
もう姫野奏やAの情報が更に出てこん限りがっつり展開しそうにないなぁ もこう「コラボは本来、もっと慎重にやるべき いつもは配信者と視聴者の向かいあった関係なのが
コラボだとやり取りする相手を一方的に見るだけで視聴者が疎外感を感じてしまう
ある程度配信を続けて視聴者との間に信頼関係を築けていない段階でのコラボはある種の裏切り行為
これは本田翼だけじゃなくて、すべての配信者に言えることやからマジで慎重に
仲が良い奴と絡めば良い、数字ある奴と絡めば良い、そんな浅はかな考えは視聴者置いてきぼりにするだけやからな 配信者は自分と、大事な視聴者とじっくり向き合え」 >>658
いない
鳴神の行動が産んだオリジナルの情報だからな >>624
けもみみおーこく公式@kemomimi_oukoku
何が売れるとか流行るとか…未来の予想は断定できない。
だけど、鳩の巣原理で「確実に言える事」はある。
たとえば「生物の数だけ食糧や水が必要」というのは少なくとも言える事。この事実は流行や未来に左右される事がないので強い。
こんな当たり前のことをわざわざ言う必要あるの? これまでにIRIAM7人ぐらい抜けてかなり大ダメージ受けてるんじゃねw イキコン健康食品の広告のような中身のない発言に変わってきてて草 >>661
バカなのに賢いこと言おうとして失敗してる図 >>661
エスパーすると、生き物に水や食料が必要なようにvtuberはモデルやステージが必要なのでみんなモデルを提供してと言いたいんだろう
本人はモデラーの単価が二束三文になれば勝手に使ってもいいと思ってるけどね >>671
素直に気持ち悪い
淫乱系(笑)なんて地雷揃いなのにさらに馴れ合いとか目も当てられない Vtuberというより絵師のオリキャラみたいな感じなんか?初めて見たからわからん >>614
もうブームは過ぎてるぞ
チャンネル登録者はYouTuber底辺とかわらん >>677
たんなるネズミの生放送を見るのらきゃっとじゃね? >>676
サルの真似しながら歩くおじさんかなw? ウェイトにこだわりのなさが見える
リギングは3D技術の見せ所やぞ テクスチャぬれないのにウェイトが完璧なわけないだろ お得意のプログラミング技術で数値化してウェイトつけろ 植きぃ軍が植きぃ一人しか居ないんだが
誰か全力で擁護するやつ発見されてないかね イキコンはそこまでかというくらい"読んで"いるからな けもみみおーこく公式 @kemomimi_oukoku
モデルがVRM可で直接買えるのやばない?
・ガチャみたいに高額課金せずとも、確定で買える。
・プラットホームに依存しない。
・クリエーターさんへの還元率が高い。
→クリエーターさんは自分のIPをブランド化すれば、創作活動に専念できる。
・「アバター」は人の数に比例した需要がある。
けもみみおーこく公式 @kemomimi_oukoku
VRChatはデスクトップでもいままでに(あまり)無い体験ができる事に気づいた。
アイドル性の高いプレイヤーなら「キャラクターが自由に動いてしゃべる…かつ、インタラクティブである」わけで。
そんなキャラクターが実装されてるゲームってあまりなさそう(基本はAIとモーションで動く)
他sageは止まんねぇからよ... 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) マジで頭のいい奴は誰でも理解できるように分かりやすく説明することも多いよな
それに比べてイキコンは… >>695
下の方はリアルアイドルでも追っかければいいんじゃないの >>696
分かりにくい説明をするマジで頭のいい少数派のほうなんだ イキコンは頭の良い人間のフリをした“普通のまともな人“って感じが強すぎる あー狐キャラ見たらイキコン殴りたくなってきた
本当にしね、氏ねじゃなくて死ね この界隈に純粋に自己表現したいがためにVやってるやついる?
企業勢大手豆狸筆頭に銭ゲバしかいないような気がするけど >>683
VRMの波に乗るんだーとか言ってたけど何も作って無いからね 未だイキコンの発言を脳死で拡散だけするやつらがいることに驚だわ Kaede Higuchi 1st Live "KANA-DERO"
「樋口楓」初めてのライブイベント!
Zepp Osaka Baysideで開催されるファーストライブをニコニコ生放送がネット独占配信!!
にじさんじ所属のバーチャルライバー「樋口楓」の初となるライブイベントをニコ生独占配信!
今回のライブは樋口楓の初ライブにして、バンドメンバーを引き連れての関西凱旋ライブです。
KLab株式会社サウンドチームのご協力の元、スペシャルバンド「Deroon5」を結成。
迫力のあるバンドサウンドと共に樋口楓が熱唱します。
更にゲストとして、にじさんじ所属の静凛、えるが参加いたします。
タイムスケジュール(予定)
17:00-17:50 第一部(この番組ページ)
18:00-19:15 第二部(lv317470600)
第一部のみ3000ニコニコポイント(税込 3000円)
第一部・第二部通しチケット5500ニコニコポイント(税込 5500円)
販売期間:2019年1月21日(月)23時59分まで
※生放送終了後の視聴が可能です。
https://sp.live2.nicovideo.jp/watch/lv317453584 ようつべ投げ銭ゴールドラッシュに他人が作ったVRMGパンを売り付けようとしてるじゃん? >>705
自己表現できてる奴に人も金も企業も集まってくるんだろ?
悔しいか? >>710
カスキャガチ勢 ?NICO @nicolino7364
きぃちゃんの復活を諦めるわけじゃないし、色々酷いことをしてるVtuberの事を見ないふりするつもりも勿論ないけど、新人Vtuberの応援・支援を目的にしてる現状況を、もうやめようかと思います。
肝心なところで役に立てない支援アカウントなんて意味ないですからね( ̄▽ ̄;)
これからはカスタム
少し寂しい気持ちもありますが、今回ので下層Vtuberの闇を見て、素直に応援する気になれなくなりました。
変に中途半端な支援は、本当に大切な人を傷つける結果になりえるんだと感じました。
おぉ!!
CCは良いですぞぉヽ(〃´∀`〃)ノ? >>705
おるだろうけど目立たんから同じ事か
業界の方向性がハッキリ決まってるから
まぁお察し 何でつまらん底辺のオナニー動画評価しないといけないの? 少なからずモデルに投資している連中 から基本無料ネトゲもどきカスタムキャストだと地雷率はさらに上がるぞ シレーヌ@SireneSonCat
あぁ、最近TL眺めてて若干不穏な空気漂ってたのコレ原因か。
VRChat未プレイだったエロ絵描きさんがVRChatに参入確定して、その本人が実際どうであれその人(の描くエロ絵やエロ漫画)に
影響受けたエロ絵消費者が何かやらかすんじゃないかっていう危惧があったのね。
それでゾーニングだ何だ言ってたと。
https://twitter.com/SireneSonCat/status/1083684773346734081
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) アダルトコンテンツを消費したことがない人なんていない
その心配はただの杞憂だぞ
風俗好きな人が他の分野、例えば食事にもエロを求めるかっていうとそんなことはな…
女体盛り…? なんやVRCの話か
好きにやったらええ、全裸で走り回れ VRChatならセクハラし放題とか言っていた人を何とかした方がいいんじゃないの? パンツ見たりとセクハラし放題なのじゃ〜!って言ってたしそんなもんどうて事ないだろ最初から無法地帯なんだから パーソナルスペース無視の超近距離セクハラまみれの空間にエロ同人作家が入ったくらいどうて事ないだろ もろにセクハラ発言繰り返してたクズを放置しといて
まだ何もしてないエロ漫画家差別しちゃうんですかぁ〜〜?? エロ漫画ファンにおかしい奴もいることは否定しないけど
大抵描く方も読む方も「なにかあったら規制の対象にされて業界が終わる」って意識は十何年も持ってるから
VRCユーザー如きにゾーニング云々言われる筋合いなんかないと思う ふららん ?VRChat@週末はアニメーション交流会会場解放中!
かにかま先生自身は全く問題ないと思っているけど、それをみた人達がVRCをエロコンテンツと間違えそうで心配。
一番厄介なのがVRCは遊ばない多くの一般人がVRCはそういうものだと認識してしまうパターン。
これだけは勘弁して欲しい
https://twitter.com/furarann_VR37/status/1083725206768705537
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) 邪っさんマジでトリプルスコアつけられてんのかよ
もうやめたら? >>732
もしかしてイキコンがVrCを表に引き摺り出した後遺症が残ってるんけ? かにかまの行動って業界を揺るがすほどの影響力をもってるの?
具体的に今まで何か問題起こしたのか? そもそもイキコンが影響力考えずかにかま参戦!と騒ぎ立てるからお気持ち表明始まったんだろ? >>377
裏アカの情報は持ち出し禁止だろ
契約違反やめろ セクハラ推奨してたイキコンにはなにも言わないのにな イキコンは風評被害を与えたかにかまに謝罪もないの? かにかまのVRC絵が拡散されてかにかまの芸風知らないヤツらが批判してるだけか
まーたVRC勢は他人にイチャモンつけたいだけのノータリンだと広まってしまう!
もうイキコンさんが広めてたわ R18のファンアートや同人誌をいくつも作られているキャラが跋扈してる場所だろ
まずは自分たちが性的コンテンツとして消費されてるところから見直そうぜ 妊娠したVTuberは知ってる限り今回ので2人目だ 片方は普通の夫婦だから問題ないが エロ絵師自体既に多数参戦済みだろうになーに言ってんだが 姫乃奏が逃亡しちゃってるしなぁ、ついでにAも
さてどうしたもんか
植きぃは顔だしまでしたのに ビット子界隈のウワサでは姫乃奏また戻ってくる準備してるらしいぞ これ何だったのよ、登場人物的に姫乃奏しか浮かばないんだが
また外部の方への恫喝ともとれるメッセージを送っていたことも発覚いたしました。
このことを非常に重く受け止めております。
そのことについては相手の方より何か発表があるかもしれないことお伝えしておきます。
https://twitter.com/CotoIT_Inc/status/1082789522767699968
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) 猫空 恋@こいちゃんはVtuberを休止しました (@koi_chan_koi)さんをチェックしよう https://twitter.com/koi_chan_koi
こいつなにしたやつだっけか
どうも思い出せねー
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) ハイブリッドノーツ以外のビッチ子配下の底辺VT少し探ってみるか >>758
ミライアカリになりすまして乗っ取られたと嘘をついた >>756
相手方より何か発表って事は同業者だよなぁ
で、それも未だに無い
何かの歯車が狂ったのはAのリークのせい、と考えるのがやっぱ自然よなぁ https://twitter.com/neneko_and_Dr
こいつビッチ子の身内の中でメンタルクソザコだからちょっと
悪口言っただけでファビョるで
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) こいちゃん病院(精神)から退院したのかなw?
懐かしいなこいつw 邪っさんさぁ…薄ーく匂わすのやめてくんないかな(´・ω・`)
本当に相手方のポジションならこんなしょうもない動画作ってないっしょ 邪っさんのは自意識過剰な気がするが…
余計な事ふれ回るんじゃねーぞ!みたいなことでもいわれたんかね >>740
これの真偽はよ
ゲキヤバ入ってるやつおらんの >>751
妊娠が事実かどうかはまだ分からないんだろ
いずれにしてもきぃも姫乃奏も両方クズだけど 鳴神調子乗ってるから凸って赤っ恥かかせてやろうかな
せっかく1000人超えたが失望して3桁に戻っちまうかもな 悪代官は凸してすり寄ってくるだろうな
邪っさんはサブ垢でまたつまんないコメント打つと思う >>779
こんなんで物申し扱いされるとかこの界隈やべーな >>773
嘘に決まってンだろ
あのドブボで逆レイプとかありえんわ Aのリークで
植きぃも牡丹きぃ動けない状態が今
姫乃奏は少し前から消えてるとしてAは最近接触できてるんだよなぁ
さてどうしたものか >>781
ゲプラン漫画をRTしただけで謝罪に追い込まれる界隈やで
ほんまマジキチ 鳴神はこの調子で独自の情報出し続けられれば伸びるかもしれない
ただこういうタイプはどこかのタイミングで承認欲求ムクムクして情報捏造しがちでもあるからなんとも 牡丹きぃとオフパコしたと証言してるやつが
女声使って釣り配信してるニコ生主だと判明したからもう苦しくないか なんか勘違いしてるやつ多いけどこいつは別に物申す系になりたい訳じゃない
ゲーム配信やらコラボ企画やらの活動したいけど悪()が蔓延ってるから物申してるだけ >>791
そいつの発言から「まめ」を抽出すると
「かまきりの豆」ってユーザーにたどり着く
かまきりの豆は釣り配信が大好きなボイチェン男
二人は2013年からの親友で一緒に遊びに行ったりするほどの仲 あぁおんたまとかも出てくるな
ここら辺は鳴っさんもう掘ってたって事か VRCなんかモデル無断使用ワールド無断使用で
エロい事仲間内でわちゃわちゃやってるだけの空間だよ? となるとやっぱAのリークはきぃを潰す為って事でええんか?
姫乃奏&Aがめっちゃクズなポジションになるが 姫乃がダメになったからこいちゃん動かして活動移行させるんやぞ 個アンは誰にも見向きにされない底辺Vの唯一名前がでる場所なんや
炎上目的でもいい、邪魔しないでやってくれ ミライアカリになりすました前科があるこいちゃん動かすのか… 姫乃が3つも名義を持ってるなら他にも垢がありそう
Vに飽きたから最後に要らない垢を使って釣りで祭りを演出したかったのかな 鳴神の配信で問題起きてアーカイブ消えるかもしれんから誰か録画しておいてくれ >>806
こいちゃんの方全部消してるみたいだな
2018年初期から活動してたから見てたけど完全に声質同じだぞ
色々変なやらかししてる地雷感も似てる まぁ状況からして消してるってのはそうなんだろうな
活動した形跡ああるのに動画ないって不自然だし こいちゃんも両性声だったけどやってることは姫乃より酷くなかったか?
VRCで自分のチャンネルを宣伝しまくって怒られるも私は悪くない発言、
ミライアカリになりすましてツイッターを乗っ取られたと嘘を付く、
女子会(Youtube生放送)に誘われなくてキレる、やってる事はオフパコ発覚前の姫乃より酷い オフパコ発覚で動画まで出されて顔も特定された姫乃よりマシと考えてこいちゃんに逃げる可能性 あ、やべ まこっちゃんきた
【キムタクが如く】JUDGE EYES:死神の遺言【ジャッジアイズ#2】
https://www.youtube.com/watch?v=os6bi2Ljyfk これ追い詰めるのきぃ軍の仕事じゃね?
ちゃんとあいつら動いてるか >>732
VRCやってるエロ同人作家なんて大量にいるだろ
それよりバーチャルセクハラとかを推進してるイキコン一派どうにかしろよ >>818
ねとらじ時代からの古来魚
パトラの前世をぶっ潰した経験アリ
なお、皮は数回着たのみでもしかしたら飽きたのかも 鳴神くたばれやゴミ人をつついてないとお前に何にもないってことに気づけゴミ >>827
まぁ生主やら流入してのと同じ流れですわ
ただ皮無くてもやってけるからもう被らないかもなぁ めっちゃキレてるやん
どうしたのかな
チャンネル登録者数でも抜かされたのかな 書き込まなくなった辺り”効いてる”のかな
もっとゴミゴミ吠えてくれないかなぁ きぃ軍は子供しかいないからたとえ正しくても鳴神には勝てない
鳴神の勝利は既に決定づけられてる 奇跡のカーニバル
開 幕 だ
n: ___ n:
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f「| |^ト ヽ  ̄ ̄ ̄ / 「| |^|`|
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ヽ ,イ / ̄ ̄ハ ̄ ̄\ ヽ ,イ
【1000人突破記念】意見やリークある方凸どうぞ
https://www.youtube.com/watch?v=MdnnSDNOqr4 VRCは変態の集う場所じゃから変態が増えるのは楽しみなんじゃよね〜
けもみみおーこく公式 @kemomimi_oukoku
かにかまさんをVRChatに入れたらどうなるか?という試みに目が離せない
21:06 - 2019年1月11日
https://twitter.com/kemomimi_oukoku/status/1083696679008661505
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) 同じ時期にデビューした物申す系なのに登録数は鳴神1200、邪つん300
どこで差がついたのか、慢心、環境の違い どうなんだろうな、敵が多いほど低評価が増えるか
まぁ評価は最後に入れるわ ゲスすぎる幼女が怖いお兄さんに殺された!?【DBD】
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動画を検索
初投稿です(大嘘)
と言う事で仲良くしてくださーいな!
ツイッター @koi_chan_koi
https://www.nicovideo.jp/watch/sm32501972 ジャッキーとは格が違うからな
正当な評価を入れおいた >>844
この人がVRCの恥部を拡散してるんだけど自覚無いんだろうな さっきから話が飛んでてついていけてないんだが
姫乃の別名義がこいちゃんってこと? 日和代官
ブロックされまくって囲いから情報を得られないピノ下
決めの1手が抜けているジャッキー アクメ動画限定公開にしただけで消してないじゃん
SHOWROOMだと宇宙人映ってる動画普通に見れる
https://www.showroom-live.com/akunetty_2525 >>854
自分は確証を得てないがそういう事らしい オフパコってさ礼儀だと思うのよね
女側もしたいからホイホイついてくるんでしょ?
それもう和姦だよな?ファンの願望を叶えてあげてる聖人よ、オフパコっていうのは オリンピック選手村でアスリートはオフパコしまくってるのに問題化したことないから日本特有の問題なんだろうな あー、まあそうだな()・・・はあはあ・・・ふん・・・ふんふんふん・・・ 鳴神っさんが求めてる意見ってそういうことじゃないだろ・・・ 凸者「コラボに重きを置かないでください!」
鳴っさん「あ…はい、うん」 鳴神のおかげで暴露ネタは伸びるとわかったから
みんなが暴露合戦して売名するだろうな
これからは面白くなる さっき吠えてたやつ行けよ、ここで行かなくていつ行くんだ ツールを使えてない事実を認めている
イキコンにもできねえ事が出来てるんだよなぁ きぃ本人が凸ってあれは全部嘘なのだ!でまかせなのだ!って弁明しねえかな シロとドル部が少女兵器大戦の使いまわしとか誰でも知ってるやろ 登録者1000人程度の弱小にリークしようとするのって馬鹿なのか?
もっとでかい奴にリークすりゃいいのに まじかよ
アップランドはゲームキャラとして使う予定のキャラでVTuberデビューさせたのか!? 未確認情報を垂れ流すと鳴神の話まで信ぴょう性がなくなるから気を付けてくれ アンチスレで得た情報を喋ってリークした気になってるのヤバくない?
どんな心理なんだよ まぁこの話は有名だからなぁ
証拠なんてゴロゴロ転がってるし そもそもアイドル部オーディションの時からわかってたし 配信者物申す系のくせにまともに配信できてなくてしょぼさが半端ない なんだよ今から鳴神がはめられた証拠突きつけてやろうと思ったのに
終わるのかよつまんねー ドル部がソシャゲのキャラ流用なのはオーディションの時点でわかってただろ
今更騒いでる奴はアホか 昨日から何回か鳴神動画の矛盾点を質問箱で聞いたんだが反論無し
証拠があるなら何か語ってくれよ 元々リサイクル企画だぞ
少女兵器?のキャラデザのなかから好きなデザインをファンに投票させてリライトしたのがドル部 PPHは登録者買ってないだろうがこいつが分不相応に伸びてるから疑われる
実際なーんも面白くねーからな 凸企画は同接1000超えてからしろ
数百程度じゃゴミしか来ない さっきのはゲプランは仕事引き受けたのにドタキャンしてるってことだろ
ソースは無いから信じるか信じないかはどっちでもいい
少女兵器大戦のことは今更すぎる 信者もアンチも口だけで凸しないの草
どっちもどっちやwww これアーカイブ残すよな?
飯食ってて前半見れなかった 鳴神好き好き言ってる奴凸してやれよ…暇してて可哀想だろ… 邪推&悪代官、両方鳴っさん監視してるはずなのに凸来ないとかwww
ツイッターでキャンキャン吠えるのが限界かwwwww 信者とアンチ
お前が先行けよーやだよお前が行けよー
押すなよおいおいwキャッキャッ >>915
人気投票の結果でV化するって最初から言ってたやん・・今更どうした 喧嘩凸じゃなくてきぃの新情報とかを話して欲しいんだけどなんか勘違いしてね鳴神 >>971
きぃ関連の凸も期待してたが来なかったとさ そもそもアンチも信者も自演し放題のこのスレで一人二人しかいないんだろうな… ここで凸しないのは真のアンチだよ
凸って変に盛り上がるのが一番よくないからな
凸らないのが最も賢いアンチよ こんな投げやりな終わり方、絶対アーカイブ残さんやろw ここまで伸びてるスレの中心人物にまるで視聴者もいない凸もいないとかヤバない? 凸してた信者も真正っぽくて可哀想になってきた・・・ >>750
エロ見直せって
ゲームやアニメもかってにエロい絵を描かれているだろ
Vに限らず同人を厳罰化して同人業界潰そう この界隈のアンチってガチ陰キャしかいないのか?
捨て垢でダル絡みとかはクッソ見るけど、こういう凸とかであんま見たことねぇし
仮にあっても見れたもんじゃない(陰キャ特有のボソボソボイス 調子乗ってる鳴神に鉄槌下してやろうと思ったんだけどな
陰キャボソボソ声を笑われるのが怖かったんや・・・ 人は叩く癖に自分は叩かれると不機嫌になるとか草
物申す系向いてないんじゃない? 鳴神信者のボソボソ喋るな感がやばい
アンチスレであいつらが自演してるのももっとヤバい >>987
素直すぎてワロタ
つーかVTuberで喧嘩凸は定着しそうにないな 邪っさんはチャット欄にぎやかすのが限界だから・・・
"参加"するのは何かちげぇんだよな・・・ tumblrがr-18禁止になってエロ外人どもが阿鼻叫喚しているな
もっと規制していけ とりいPが底辺フォローしまくってるけど何か企画考えてんのかな >>994
Tumblerは経営者変わって引用サイトからインスタのようなメディアサイト目指し始めたからな このスレッドは1000を超えました。
新しいスレッドを立ててください。
SLOT Results
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