ゴリラが何かを殴っていた。
「──ゴリラさんすごいですね」
女が嬉しそうに褒めるとゴリラは答えた。
「恐縮です」

イキったコンビニ店員が何かを殴っていた。
「──いっつも会っていますね」
女が嬉しそうに話しかけるとコンビニ店員が寄り添い囁いた。
「いい匂いなのじゃ〜」

殴られていた何かが助けを求め呻いた。
「……そらちゃんもうやめて、ボクはアンチじゃないよ」

女が何かに近づくと、ゴリラと店員は殴るのを止める。
女は愛らしい仕草で首を傾げた後、悲しそうな表情で語りかけた。

「私の事呆れちゃった……?もう応援できない……?
ひどいなあ、私、こんなにも頑張ってるのに。グスン」

ケロリと真顔に戻った女は踵を返すと忌避するようにその場を離れた。
「待ってそらちゃん。もっと応援していたいんだ、どうか置いて行かないで……」

その言葉に女は立ち止まると軽く嘆息し、振り返りもせずに答える。
「──私のすることに文句を言う人はいらない」

女がそらともと呼ばれる従者と目配せを交わすと、掛け声と共に手拍子が始まる。

「アンチは死ね!」
「死ね!」「死ね!」「死ね!」
「死ね!」「死ね!」「死ね!」

そらともの怒号に鼓舞されたゴリラとコンビニ店員が再び殴り始める。

「リアルでは!わらわの方が!背が!高い!のじゃ〜!」
──肉が裂ける音がする。

「隠蔽なら!おまかせ!ください!」
──骨の砕ける音がする。
 
「止まらねぇぞ」
――女がそう呟くとそらともの歓喜の声以外何も聞こえなくなった。