「アッアッアッアッアッアッアッアッアッ↑↑」
僕は断末魔の叫びをあげ----

そこで目を覚ました。
「こ、ここは」
僕は寝台に横たえた自分の体を確認してゆっくりと「本来の」記憶を回復させつつあった。
すぐ脇の椅子に腰掛けた初老の男性が話しかけてくる。
「プログラムは無事に完了しました。 お疲れ様です。」やさしげな声音だった。
そうだ、僕は最近大きな炎上案件にまきこまれ業を煮やした両親に連れられ、この「人格更正プログラム」を受けることになったのだ。
「本来の」記憶を回復させ意識がはっきりするにつれて、僕は先ほどまでみていた「悪夢」を思い返す。
夢の記憶への定着は困難であるから。あの悪夢を、しかし僕は忘れたくないと思ったのだ。
「はい...ありがとうござい...」涙がボロボロとこぼれ、意図せず涙声になってしまった。
「大変なストレスだったと思います。当院で処方できるプログラムの中ではもっとも実績のあるものですから。」
「効果の反面、副作用も大きいのです。2、3日様子を見てフラッシュバックが辛かったら無理せずにまたいらしてください。」
「ありがとうございます...ありがとうございます...」僕は繰り返し礼を述べた。僕が僕であること。そのことが素直に嬉しかった。

両親は僕の変化を大変喜んでくれた。だがそれ以上に僕は両親に感謝したかった。
断崖に向かって滑落していく僕を救ってくれた。どれほど感謝しても伝えきれまい。終生両親を大事にしていこうと僕は誓った。
あの悪夢は僕にとっての杖になった。自分の良心と善性の尺度となった。
転ぶこともあるだろう。失敗もあるだろう。そのときは素直に謝って許してもらえばいいのだ。
僕はまだ中学3年生なんだから。いくらでもやり直しは利く。

あの悪夢--プログラムについて考える。
プログラムは誰かの「記憶」なのだという。記憶を抽出されただれかがいたということなのだ。
僕は夕日に向かって頭を深く下げた。
この夕日の美しさの向こうに、その誰かがいたように感じられたからだ。