三島由紀夫 「豊饒の海 第四部 奔馬」 P270より

ひたすらイギリスとアメリカに気を兼ねて、一挙手一投足に色気をにじませて、柳腰で歩くほかに能のない外務官僚、
私利私慾の悪習を立て、地べたを嗅ぎ廻って獲物をあさる巨大な蟻喰いのような財界人、それ自ら腐肉のかたまりの
ようになった政治家たち、出世主義の鎧で兜虫のように身動きならなくなった軍閥、眼鏡をかけたふやけた白い蛆虫のような
学者たち。満州国を妾の子同然に眺めながら、早くも利権あさりに手をのばしかけている人々。・・・・・そして広大な貧窮は
地平の朝焼けのように空に反映していた。