ウクライナ情勢や中国の輸出規制などの影響で化学肥料の価格が高騰する中、下水処理で生じた汚泥を再利用した自治体の安価な肥料が注目を集めている。佐賀市では10キロ20円で売られ、8月の販売量が前年同月の約3倍に増加した。普及を阻害していた「臭うイメージ」も 払拭ふっしょく し、国も「下水は宝の山」とPRに力を入れている。(山田伸彦)

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中央の箱に入った汚泥肥料を使って米を育てる古川さん(左から2人目)は「香り豊かな米ができる」と話す(9日)

■「米の香り豊か」

同市東与賀町の農家古川茂利さん(73)は、減農薬のブランド米「シギの恩返し米」の栽培を始めた2020年から市の汚泥肥料を使っている。今年は70アール分1400キロを2800円で購入し、田植え前にまいた。

別の田んぼでは化学肥料を使うが、価格は20キロ2500円前後。昨年から1000円ほど高くなった。「今は何でも値段が上がっている。汚泥肥料は安いうえに、できあがった米は毎年香り豊かで評判がいい」と古川さんは喜ぶ。


■佐賀は毎年完売

佐賀市は09年から、年間2000万トンの下水を処理する市下水浄化センターで、汚泥の 堆肥たいひ 化を進めている。下水から汚泥を抽出して脱水処理後、センター内の堆肥化施設に運び、混ぜながら90度以上で高温発酵。雑菌や雑草の種を死滅させる。下水臭さなどはなくなり、年間約8000トンの汚泥が肥料1400トンに生まれ変わっている。

市はセンター内の汚泥焼却処分設備の老朽化に伴い、運営コストや環境への配慮から全量肥料化を決断。約7億2000万円で堆肥化施設を新設した。市によると、肥料は毎年完売しており、今年は例年販売量が落ち込む6月も122トンと前年から84トン増加。8月も88トン増の136トンと高水準を保っている。

化学肥料は、塩化カリウムなど原料のほとんどをロシアや中国からの輸入に頼っており、輸出規制や円安の影響で価格が高騰。JA全農が地方組織に示した供給価格(6~10月)は、最大で5月までの約2倍となった。江口和宏・市下水道施設課長は「汚泥肥料に注目が集まるのは化学肥料の価格高騰が大きい」と話す。

■「宝の山」国PR

汚泥肥料の普及を目指す国も、今を好機と受け止める。15年の下水道法改正で汚泥を肥料などとして再利用することが自治体の努力義務となったが、1年間に発生する計230万トンの汚泥のうち、肥料に活用されているのは1割程度。国土交通省によると、セメントや固形燃料の材料になるなど汚泥の使い道が多いことや化学肥料より分量が必要で労力が増えること、臭いなどへのイメージがネックとなり、肥料化は横ばい状態だという。

同省は、汚泥肥料を使って栽培した農作物の愛称を「じゅんかん育ち」に決めるなど、イメージアップに力を入れており、今後も農林水産省などと連携してPRする方針だ。20年度に7897トンを販売した鹿児島市では、学校や町内会などに無償配布したり、市のホームページや広報誌で紹介したりしている。

国交省下水道企画課の担当者は「下水と聞いてマイナスの印象を持つ人も少なくないが、汚泥肥料は農業の現場で高い評価を得ている。自治体や消費者に受け入れてもらえるよう、情報発信を進めたい」と話す。

2022/09/13 15:00
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