大分・別府湾が、人類の営みを象徴する場所になるかもしれない。46億年の地球の歴史に、人間活動の痕跡が刻まれた新しい地質時代「人新世」を設ける機運が高まっているが、その代表的な地層に別府湾が名乗りを上げているからだ。

 現代は最後の氷期が終わった約1万1700年前から続く「完新世」に当たる。ただ、20世紀半ばから世界規模で人口が急増。工業生産は急拡大し、環境汚染や地球温暖化が進んだ。人類はすでに地球全体に影響を及ぼし、その爪痕は堆積(たいせき)する地層にも記録されている。

 すでに別の時代に突入しているのではないか――。オゾン層の研究でノーベル化学賞を受賞したオランダのパウル・クルッツェン博士が2000年に提唱したのが人新世だ。地質時代を決める国際地質科学連合は、人新世を認めるべきか議論を始め、09年に「人新世作業部会(WG)」を設置した。

 地質時代として認められるためには、一つ前の地質時代との境界となる「証拠」を分かりやすく示す地層「国際標準模式地」(GSSP)を決める必要がある。

 千葉県市原市の地層がGSSPに認定され、約77万〜13万年前(中期更新世)が「チバニアン」と名付けられたのは記憶に新しい。これは最後に起きた地磁気逆転(約77万年前)が境界の証拠とされ、市原市の地層にはその痕跡が明瞭に残っていたためだ。

 では、人新世は何を境界の証拠とするのか。

 WGが重視するのは、核実験に由来するプルトニウムだ。自然界にはほとんど存在しない元素だが、1950年代から米国や旧ソ連が大気中で核実験を繰り返し、世界中に降り注いだ。ほぼすべてが人類由来で、地球全体に影響があり、産業活動の拡大時期とも重なるため、境界にふさわしいという。

 ただしその年代を定めるには、プルトニウムがどの核実験によるのかを特定する必要がある。愛媛大の加三千宣(くわえみちのぶ)准教授(古海洋学)によると、別府湾は地層の年代を決めやすい条件がそろっている貴重な場所だという。

https://mainichi.jp/articles/20220829/k00/00m/040/113000c