紀元前8500年頃の新石器時代初期、人類の芸術のモチーフが「動物」から「人間」へと移っていきました。
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それ以前は、壁画にせよ彫刻にせよ動物が多くを占めていましたが、この時期から人間に焦点を当てた作品が急増します。これは一種の芸術革命でした。

その一方で、これほど劇的なシフトがなぜ起きたのかは分かっていません。

ところが今回、中東の国ヨルダンで発見された人型の石器により、芸術革命が起きた理由が初めて示唆されました。

そこには、初期人類の「死者への意識」と「精巧な埋葬形式の増加」が関係していたようです。

研究は、スペイン科学研究高等評議会などにより報告されています。

■人型石器は埋葬用の供え物だった

人型石器が見つかったのは、ヨルダン西部のザルカ渓谷にある「カレイシン遺跡」です。

石器は、埋葬された7体の遺骨やその他、石から作られたナイフやボウルとともに発見されました。

遺骨の中には、おそらく儀式か埋葬の一環として、骨格の一部や頭蓋骨が取り除かれたものが見られます。また、他の場所にあった遺骨を掘り返して、この地に埋葬し直されたものありました。

このプロセスは、数年にわたり複数回繰り返されたようで、埋葬や儀式が複雑化した可能性があります。

同じ場所で見つかった人型石器は、矢尻や火打ち石として使われた可能性もあるため、石器の形状や表面を入念に調べました。

その結果、石器はすべて紀元前8000年頃に同時に作られたもので、意図的に人型がデザインされており、また、道具として使った形跡が一切ないことが判明しました。

研究主任のユアン・イバニェス博士は「埋葬用の供え物として作られたと見て間違いない」と指摘します。

■死者への意識変革が新たな芸術を生んだ?

「人型にデザインされた副葬品」「精巧で複雑化した埋葬形式」といった点を踏まえると、新石器時代に死者を追悼する念が強くなっていたことが考えられます。

その気持ちの現れとして、人をかたどった置物が作られたのでしょう。

つまり、人間をモチーフにした芸術が増えたのは、新石器時代に死者崇敬の重要性が高まり始めたことと関係するかもしれないのです。


同じ場所で見つかった人型の粘土像
カレイシンは、約25万平方キロに及ぶ広大な遺跡であり、現在までに発掘されているのはわずか1%程度です。

そのため、まだ多くの芸術作品や歴史的遺物を隠している可能性が高く、今後の発掘調査に期待がかかっています。

研究の詳細は、7月7日付けで「Antiquity」に掲載されました。

Flint ‘figurines’ from the Early Neolithic site of Kharaysin, Jordan
https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/flint-figurines-from-the-early-neolithic-site-of-kharaysin-jordan/FFEB57291718AF9FF216F1113844C61B

https://nazology.net/archives/64138