■宇宙で不思議な衝突が起きた。

 地球から約8億光年の彼方で、ブラックホールが正体不明の天体をのみ込んで激しく合体し、時空を波立たせるほどのエネルギーを放出した。重力波と呼ばれるこのさざ波は宇宙を広がり、2019年8月14日についに地球に打ち寄せて、感度の高い3台の重力波検出器にとらえられた。重力波に書き込まれていた情報を解読したところ、天文学者たちは謎に直面した。

 今回の衝突はGW190814と名付けられた。検出したのは、米国のワシントン州とルイジアナ州にある2台の「レーザー干渉計重力波観測所(LIGO)」と、イタリアの重力波観測所「Virgo」だ。3台がこれまでに検出してきた天体の衝突の中でも、今回の衝突は際立っている。

 2つの天体は、もしかすると数十億年も互いの周りを公転しながらじわじわと接近し、最終的に衝突して、一方が他方をのみ込んでしまったのだ。天文学者たちは、のみ込んだ方の天体は太陽の23倍の質量をもつブラックホールだろうと推定した。問題は、のみ込まれた方の天体だ。質量が太陽の約2.6倍であることはわかったが、その正体は謎に包まれている。

「このようなものは見たことがないと断言できます」と、米ノースウェスタン大学のビッキー・カロゲラ氏は言う。氏がまとめた論文は、2020年6月20日付けで天体物理学の専門誌「Astrophysical Journal Letters」に発表された。

 謎の天体は、恒星のような表面をもつ天体か、ブラックホールと呼ばれる底なしの時空の穴かの分岐点にある。質量が、既知の中性子星より重く、ブラックホールより軽い、曖昧な領域にあるのだ。

 中性子星もブラックホールも、恒星が超新星爆発を起こしたあとに残る天体だが、質量が軽ければ中性子星になり、重ければ自らの重力によって収縮してブラックホールになる。科学者たちは、宇宙で最も極端な条件下での物質のふるまいが見えてくることを期待して、中性子星とブラックホールの境界を解明しようと試みている。

 これらの風変わりな天体は、恒星進化の終着点であるため、遠い将来、すべての星が燃え尽きたとき、空っぽの宇宙を漂う天体はこの2種類だけになるかもしれない。だからこそ、GW190814で確認された奇妙な天体が一層興味深く思われるのだ。

「それが中性子星なら、中性子星としては非常に面白い質量です。ブラックホールなら、ブラックホールとしては非常に面白い質量です」とカロゲラ氏は言う。「いずれにしても、データを見た瞬間、私たちは興味をそそられました」

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