→初期宇宙で中央に穴の空いた環状銀河が発見された
→これは薄い円盤銀河の中央を、他の銀河通過したことで形成された衝突型と考えられる
→円盤銀河は初期宇宙には無いと考えられ、銀河形成に新たな理解を与える存在

約110億光年という遠く古い宇宙の領域に、巨大なドーナツのような天体が発見されました。

こうした穴の空いた銀河は環状銀河と呼ばれていて、近くの宇宙では発見されていますが、初期宇宙で見つかったのは初めてです。

初期宇宙にこうした天体が存在することは、銀河形成に関する理論に新たな理解をもたらすものだといいます。

天文学者たちは、この超希少な銀河のことを「リング・オブ・ファイア」と呼んでいます。

■巨大な星のドーナツ 「リング・オブ・ファイア」とは

今回オーストラリアのARC 3次元全天天体物理学研究センター(ASTRO 3-D)の研究員が発見したリング・オブ・ファイア銀河は、R5519と名付けられました。

R5519は太陽系から110億光年の距離にあり、中心に空いた穴は20億天文単位(太陽と地球の平均的距離(約1億5000万キロメートル)の20億倍)というとてつもない大きさです。

リングの中では、活発な星形成が行われていて、天の川銀河の50倍の速度で星が生まれており、その活動的な状態はまさに炎の輪です。

ハワイのケック天文台、NASAのハッブル宇宙望遠鏡の観測から分析したところ、この構造は「衝突環状銀河」と呼ばれるタイプのもので、初期宇宙で発見されたのはこれが初めてになります。
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ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたR5519。/Credit:Credit: Tiantian Yuan/Hubble Space Telescope
環状銀河と呼ばれる天体には、その形成方法で2種類のタイプに分類されます。内部過程型と衝突型です。

内部過程型とは、銀河の外側に活発な星形成領域ができるために、外周が明るく輝くリング状に見えるものです。
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衝突型はその名の通り、銀河の真ん中を別の小さな銀河が通り抜けることで形成されるものです。

これは衝突型のリング銀河どのように形成されたかを描いた動画です。
https://nazology.net/archives/60832


衝突と言っても銀河の内部はほとんどが空の空間でできています。激しくぶつかるようなイメージではなく、実際は通り抜けることで重力的な影響を及ぼす状態です。

そして、一般的なのは内部過程型です。

よく話題になるのは衝突型の環状銀河ですが、太陽系に近い宇宙では、内部過程型の環状銀河は衝突型の1000倍はありふれた存在だと言われています。

それがさらに110億光年もの遠い銀河の話となると、衝突型の環状銀河はさらに珍しいものになります。

■「リング・オブ・ファイア」はどうして珍しいのか?

他の銀河と衝突することで環状銀河が形成される場合、犠牲になる銀河は薄い円盤状である必要があります。

薄い円盤は、渦巻銀河の特徴的な構成です。円盤が形成される前の状態だと、銀河は無秩序な塵とガスの集まりであり、渦巻銀河と認識することはできません。

私たちの天の川銀河が薄い円盤状に集まったのはわずか90億年前のことです。

こうした銀河が誕生したのは、宇宙では誕生から時間が経過した最近のことだと考えられていたのです。

しかし、110億年前の宇宙で発見されたリング・オブ・ファイアの存在は、渦巻銀河の円盤が宇宙誕生のわずか30億年程度の時代にすでに存在していた証拠になります。

これは私たちが考えていたよりもずっと早い段階から形成されていたことを示唆しているのです。

天の川銀河のような渦巻銀河がどの様に形成されたかを理解する上で、意味のある発見だと研究者は述べています。

この研究は、オーストラリアのARC 3次元全天天体物理学研究センター(ASTRO 3-D)の研究者Tiantian Yuan氏を筆頭とする研究チームより発表され、論文は天文学全域を対象とした査読付き科学雑誌「Nature Astronomy」に5月25日付けで掲載されています。

A giant galaxy in the young Universe with a massive ring
https://www.nature.com/articles/s41550-020-1102-7

https://nazology.net/archives/60832