シリコンを発光させて半導体チップに組み込む技術の開発に、オランダの研究チームがこのほど成功した。極小のシリコンレーザーからなる光子回路を半導体チップに組み込むことで、過熱させることなくデータの高速伝送と消費電力の低減が可能になるという。大規模な実装が可能になれば、光ベースコンピューティングの実用化に向けた大きな一歩になる可能性を秘めている。

いまから50年近く前、インテルの共同創業者のゴードン・ムーアは、半導体チップに搭載されたトランジスターの集積率が18カ月ごとに2倍になると予測した。「ムーアの法則」として知られるこの有名な“予言”は、しばらくは的中した。

1970年代初頭にインテルが初のマイクロプロセッサーを発表したとき、このプロセッサーにはわずか2,000超のトランジスターしか搭載されていなかった。それが今日では、iPhoneのプロセッサーには数十億個のトランジスターが搭載されている。だが、すべての物ごとには終わりがあるように、ムーアの法則も例外ではなかった。

■光るシリコンでチップの高速化が可能に

最新のトランジスターは、コンピューターの“脳細胞”として機能するが、その大きさは原子数個分の長さしかない。トランジスターを詰め込みすぎると、電子の渋滞、過熱、奇妙な量子効果など、多くの問題を引き起こす可能性がある。

その解決策として、チップ内部のデータ伝送を電子ではなく光子に置き換えるために、電子回路の一部を光学的結合にする方法がある。ただし、問題がひとつある。半導体チップの主な材料であるシリコンは発光できないのだ。

ところが欧州の研究チームが、ついにこのハードルを乗り越えたという。オランダのアイントホーフェン工科大学の物理学者エリック・バッカーズが率いる研究チームは、発光できるシリコン合金ナノワイヤーを成長させた詳細について記した論文を、4月に『Nature』に発表したのだ。

このテーマは物理学者たちが何十年もかけて取り組んできた課題である。バッカーズの研究室では、すでにこの技術を使って、半導体チップに組み込める極小のシリコンレーザーを開発した。従来の電子チップに光子回路を組み込むことで、半導体チップを過熱させることなく、データの高速伝送と消費電力の低減が可能になる。機械学習などのデータ集約型の用途に、とりわけ有用だと考えられるという。

「シリコン合金でつくられたナノワイヤーから光の放射を実証できたことは、大きなブレイクスルーです。何と言ってもシリコンは半導体チップの製造プロセスで使ってきた材料ですから」と、マックス・プランク光科学研究所のマイクロ波フォトニクスグループを率いるパスカル・デルヘイは言う。彼は今回の研究には関与していない。「この先、光回路と電子回路の双方を組み合わせたマイクロチップの製造が可能になるかもしれません」

シリコン原子は、ウェハー内で立方結晶の格子状に配置されているので、特定の電圧条件で格子内を電子が移動できる。だが、光子はこのようには動かない。このため光はシリコン内で簡単に移動できないのだ。

バッカーズらが立てた仮説は、シリコンの格子状形状を立方体ではなく六角形の繰り返しにすれば、光子がシリコン層を伝播できるのではないかというものだ。

ところが、シリコンは立方体という結晶化構造が最も安定しているので、六方晶構造を実際につくることが信じられないほど難しいことがわかった。「40年ものあいだ、多くの人が六方晶構造のシリコンをつくろうとしてきたのですが、成功しませんでした」と、バッカーズは言う。

アイントホーフェン工科大学のバッカーズらは約10年間、六方晶構造のシリコンを作成しようと取り組んできた。解決策のひとつは、ガリウムヒ素のナノワイヤーを組立構造として使用し、目的の六角形構造をもつシリコン・ゲルマニウム合金製のナノワイヤーに成長させることだった。

シリコンにゲルマニウムを加えることは、シリコンの光の波長などの光学特性を調整するために重要になる。「予想以上に時間がかかりました」と、バッカーズは言う。「5年前にはここまでできると思っていましたが、全体のプロセスには微調整が何度も必要だったのです」

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https://wired.jp/2020/05/14/after-50-years-of-effort-researchers-made-silicon-emit-light/