北海道大学・JAXA宇宙科学研究所などの研究者からなる国際研究グループは、金星探査機「あかつき」によって取得された観測データに基づき、長年謎だった金星大気の高速回転(スーパーローテーション)がどのように維持されているのかを明らかにしました。
 金星の分厚い大気は、自転の60倍ほどにも達する速さで回転していることが知られています。これをスーパーローテーションと呼んでいます。スーパーローテーションは、何らかの加速機構がなければ維持できないことが知られていますが、それがどのような機構であるかは、わかっていませんでした。今回、「あかつき」で得られた画像と温度データの詳細な分析より、この加速機構を担うのが、「熱潮汐波」であることが明らかになりました。地球の潮の満ち干に関わる海の潮汐波は、月の引力によって生み出されますが、大気中には昼間熱せられて夜冷却されることによる潮汐波が地球にも金星にも存在し、熱潮汐波と呼ばれています。金星では、この熱潮汐波が、低緯度で大気の加速を担うことが重要であることが明らかになったのです。これまで、大気中に存在する潮汐波以外の波や乱れ(乱流)も加速を担う候補として考えられてきましたが、むしろその逆に働いていることも明らかになりました。なお、それらは赤道を離れた中緯度において重要な役割を果たしていると考えられます。

 これらの組み合わせにより、子午面循環によるゆっくりとした極向きの熱輸送と、スーパーローテーションによる速い夜側への熱輸送が両立するシステムが形成されて、太陽からの熱が効率的に分配されます。この研究により、「あかつき」計画の当初からの大きな目標が実現しました。


図 今回明らかになったスーパーローテーションの維持機構の模式図。太陽光をより多く吸収する低緯度から、より少なく吸収する高緯度にかけて、鉛直-南北のゆっくりとした循環(「子午面循環」)が存在します(白い矢印)。これは、低緯度の「角運動量」を運び去り、スーパーローテーション強度を弱めるように働きます。それに対し、熱潮汐波が低緯度にむけて角運動量を運び(赤い矢印のうち南北に伸びるもの)、スーパーローテーション強度を強めるように働きます。これによって、高速なスーパーローテーションが維持可能になり、長期間太陽に照らされる昼面から、太陽があたらず冷え続ける夜面に熱が運ばれます。なお、熱潮汐波以外の波や乱流は、低緯度の雲頂付近では弱いながら潮汐とは逆に働き(青い矢印)、中高緯度では別の重要な役割を果たします(水色の矢印。角運動量の流れを、子午面循環をバイパスするように運びます)。また、熱潮汐波は、鉛直の伝搬によっても、スーパーローテーション強度を強めるように働きます(赤い矢印のうち上下に伸びるもの)。
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