プロセッサが解釈し、実行できる命令を体系化した命令セットアーキテクチャにはいくつか種類があり、代表的なものとしてはx86やARMが存在します。そうしたアーキテクチャのひとつであり、オープンソースで開発されるRISC-Vは、x86やARMに並ぶ可能性があるとして注目を集めており、RISC-Vを採用した独自プロセッサの開発に乗り出す企業もあります。半導体に関するニュースを扱うSemiconductor Engineeringが、新しいプロセッサの独自開発についての半導体企業役員の意見をまとめています。

Why It's So Hard To Create New Processors
https://semiengineering.com/why-its-so-hard-to-create-new-risc-v-processors/

RISC-Vはカリフォルニア大学バークレー校により2010年に始められ、現在はGoogleやHPなどの大手IT企業も参加するプロジェクトです。RISC-Vについては、下記の記事を読むとよくわかります。

新しいプロセッサの開発において大きな障壁となるのが「プロセッサの検証」であるとのこと。アメリカの半導体開発用ソフトウェア企業であるケイデンス・デザイン・システムズのバイスプレジデントであるポール・カニンガム氏は「真の意味でプロセッサの検証を完了するには、そのプロセッサ上で動作する可能性のあるすべてのソフトウェアを実行する必要があり、それは事実上不可能です。プロセッサの検証は非常に難しいのです」と語っています。

エッジデバイスなどに、主に組み込み機器に搭載されるローエンドなプロセッサにおいては、構造の柔軟性や開発コスト、価格の低さが求められるため構造がシンプルであり、プロセッサの検証が比較的容易とのこと。オープンソースのRISC-Vは最小限の構成を実装するための柔軟さを持っており、組み込み領域では強みがあると語られています。

しかし、一般のPCに搭載されるようなハイエンドなCPUでは話が別。マルチコアや投機的実行といった複雑な機能が必要になり、時にはその複雑さが脆弱性につながることもあります。セキュリティにも配慮しながら、マルチコアや投機的実行、さらには仮想化機能やFPUなどを実装し、なおかつそれを検証するのは非常に難しいと、Valtrix Systemsの共同創設者であるShubhodeep Roy Choudhury氏は指摘。

検証にかかる費用も新しいプロセッサを開発する上での障壁のひとつ。大手のプロセッサベンダーは巨大な研究所をかまえ、豊富な専門知識を有しているとCunningham氏は指摘。RISC-Vはオープンソースで誰でも利用できるとはいえ、命令セットのみ規定したアーキテクチャなので、ハードウェアの実装も検証しなければなりません。ハードウェアの検証も、プロセッサに複雑な機能を追加すればするほど高コストになっていくと、Imagination Technologiesのバイスプレジデントを務めるコリン・マッケラー氏は述べています。

また、検証には専門的なノウハウも必要とのこと。20年ほど前はプロセッサを開発する企業が現在よりも多数存在していましたが、その多くが買収合併された結果、ノウハウが特定の企業に集中してしまっているとのこと。半導体検証ソフトを開発するVtoolのCEOであるHagai Arbel氏も「非常に小さく、シンプルなプロセッサでも、設計の検証には専門的な知識が必要であり、他の設計とは異なるアプローチが必要なのは間違いありません」とコメント。さらに、ノウハウが集中している企業は論文やツールの公開に消極的な傾向があり、ノウハウを外部から得るのは非常に難しいとマッケラー氏は語っています。


こうした障壁を乗り越えるには「人を雇う」ことが一番だとカニンガム氏。その上で「必要な機能を絞り込み、オープンソース精神を忘れず、新しいものに時間と努力を費やすべきです」とのこと。また、 ImperasのCEOであるSimon Davidmann氏は、「独自のプロセッサを開発せずとも優れたプロセッサが手に入る状況において、『なぜ独自プロセッサを開発する必要があるのか』を自問自答することが大切であり、興味深い構造やカスタム命令の追加が目的なのであれば、RISC-Vによるプロセッサの開発は正しいでしょう」と指摘しています。

RISC-Vのコミュニティはこうした障壁を解決するために努力していますが、大手プロセッサベンダーでさえ、長年の経験にもかかわらず、予想外のバグや脆弱性を残していることを考えると、プロセッサの開発全体がオープンソースに置き換わる可能性は低いと結論づけられています。

https://gigazine.net/news/20200419-so-hard-to-create-new-risc-v-processors/