→新型コロナウイルスには免疫系を欺くシールドがある
→新型コロナウイルスのシールドの弱点が判明し、ワクチン開発を後押し

英国サウサンプトン大学のマックス・クリスピン教授らの研究チームは、新型コロナウイルス(COVID-19)の弱点を明らかにしました。

ウイルスは「スパイク」と呼ばれる、体内に侵入するための吸盤をもっています。詳しい構造はこちらの記事で紹介しています。

新しい研究では、この新型コロナウイルスが持つスパイクの防御コーティング(シールド)が、他のウイルスに比べて弱いことが判明しました。

報告の詳細は4月8日、サウサンプトン大学の公式サイト「University of Southampton」で公開されました。

Southampton scientists reveal the coronavirus camouflage that will aid hunt for vaccine
https://www.southampton.ac.uk/news/2020/04/coronavirus-spike-glycan.page

■ウイルスには免疫系を欺くシールドがある

ウイルスの表面には、「スパイク」と呼ばれる突起状のタンパク質構造があります。
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このスパイクには吸盤のような働きがあり、対象の細胞と結合することで体内に侵入します。

そして、侵入したウイルスは体内に留まり、自身を転写・複製することで症状を悪化させます。

もちろん、免疫系は侵入してきたウイルスに反応します。「スパイク」を「異物」とみなすことで、抵抗力が働きウイルスを除去しようとするのです。発熱もこの除去作用の1つです。

では、様々なウイルスが体内に長く留まり、悪影響を及ぼし続けるのはどうしてでしょうか?

理由は、それらウイルスの「スパイク」を覆っている防御コーティング(シールド)にあります。
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「グリカン」と呼ばれる糖のシールドは、免疫系に「スパイクは無害」だと思わせて抵抗力が働かないように欺きます。

クリスピン教授によると「糖分で自分自身をコーティングすることにより、ウイルスは羊の服を着たオオカミのようになります」とのこと。

例えば、強力なウイルスであるHIVは非常に高密度なシールドを持っているので、免疫系を欺き続けます。

その結果、HIVは1人の宿主の体内で「蔓延し続ける」非常に厄介な病気となっているのです。

■新型コロナウイルスのシールドは弱い

研究チームは、新型コロナウイルスのスパイクのモデルを作成することに成功しました。
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これにより、スパイクとそれを覆うグリカン(糖)のシールドの構造が判明。新型コロナウイルスのシールドは、他のウイルスのシールドよりも「密度が低い」ことが明らかになりました。

このことは、抗体による中和ための障害が、より少ないことを意味します。

HIVが体内蔓延型のウイルスなのに対し、コロナウイルスは「hit and run」のウイルス、つまり体内に侵入し、しばらくして無くなり他へ移っていくタイプのウイルスだと言えるのです。

また、「ウイルスのワクチン」とは、「スパイク」の詰め合わせです。スパイクのみを投与して免疫学習させることで、本物のウイルスに対して素早く対応させることもできます。

そのため、「スパイクのシールドが弱い」という発見は、新型コロナウイルスのワクチン開発にとって非常に朗報だと言えるでしょう。

現在、世界中がワクチンの作成に力を注いでいます。そして、それらの研究は確実に前進しているのです。

https://nazology.net/archives/56241