2019年10月30日
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グーグルが10月、「量子コンピュータの計算能力を世界で初めて実証した」と発表し、科学界や産業界が騒然としている(下の写真)。
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 従来のコンピュータは0か1かの2進法で情報を表して計算するが、量子コンピュータは素粒子の「0でもあり1でもある」という特殊な状態を利用して計算する――と言われても大方の人は理解できないので、「最高のスパコンで1万年かかる計算が、たった3分20秒で解ける」という「超計算」の部分が強調されている。
IBMは「NYに量子コンピュータセンター開設」と発表

 これに対し、IBMが「グーグルの発表は大した成果ではない」と抗議している。

 実はIBMはグーグルより9か月早い今年1月、「世界初の商用量子コンピュータ(IBM Q System One)を開発した。ニューヨークに一般利用者も使えるIBM量子コンピュータセンターを開設する」と発表している(下の2枚の写真)。コンピュータ業界の名門として、グーグルの「世界初」という自慢が我慢ならなかったようだ。
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 写真を見て気付くのは、計算機の本体部分が、両社とも縦型の長い筒状のケースに収められ、よく似ていることだ。

 量子コンピュータにはゲート方式とアニーリング方式があり、両社はともにゲート方式を採用している。同方式は超電導(極低温で電気抵抗がゼロになる現象)を利用するので、全体を強力に冷やす必要がある。このため似た設計になったようだ。

NEC研究員だった中村氏が先駆的役割果たす

 ゲート方式は元々、NEC基礎研究所研究員だった中村泰信氏(現在・東京大学先端科学技術研究センター教授)が発明し、量子ビットが1個という基礎的なコンピュータ素子を作成した。グーグルは今回、53個の量子ビットをつなげたが、IBMは近く56個つなげると表明して競っている。

 両社以外にも、例えば米国防総省傘下の研究機関が1990年代から量子コンピュータを研究している。ところが2000年代にはいると、専門誌への論文発表がぱったり止まり、2018年には「量子情報科学の国家戦略」が策定された。

 東京工業大学の細谷暁夫名誉教授は「どんな暗号でも短時間で解読できる能力は極秘の軍事技術。開発の進展状況を知られたくないのだろう」と推測する。暗号の多くは、スパコンでも解読に長年月かかることをもって「解読不能」としており、これが破られる可能性が出て来るのだ。

 また量子コンピュータはAIとの相性がよく、軍事面だけでなく創薬、素材開発、自動運転、金融などで圧倒的な力を発揮する。日本でも危機感を深めた自民党が量子技術推進議員連盟(会長・林芳正元文部科学相)を発足させ、研究を後押しすることを決めた。
日本は基礎研究でリードするも、実用化で米国に後れ

 もう一つの方式であるアニーリング方式だが、この基礎理論を確立したのは、やはり日本人で、東京工業大学の西森秀稔教授である。

 このように日本は基礎研究でリードしながら、実用化に向けた動きで米国勢にすっかり後れを取ってしまった。

 1990年代のバブル崩壊後のエレクトロニクス産業衰退や、相次ぐ企業の中央研究所廃止などが背景にある。今や研究資金、研究者数で見劣りするため、どこまで挽回できるか楽観はできない。
自然界に溢れている「超計算」のタネ

 さて、自然界に起きる現象を利用する「超計算」(自然計算ともいう)は、量子コンピュータだけではない。現在、様々な研究が進んでいるので、いくつか事例を紹介しよう。

 まず波動計算。空間や物質(媒質という)の中を伝わる振動を波動と言い、媒質中でスピードが変わったり、重ね合わせが起きたり、干渉や屈折、共鳴の現象が起きたりするので、これを計算に使う。日本IBMの片山泰尚氏は、専門誌で波動計算を提案し、年間ベスト論文賞を受けた。

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