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大気中の二酸化炭素濃度は410ppmに近づいている。そのため、すでに地球の気温は産業革命前と比べ約1℃強も上昇し、干ばつや山火事などの自然災害が頻発するようになっている。排出量が増え続ければ、こういった危機的状況が悪化するだけだろう。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最新の評価では、地球温暖化を1.5℃に抑えるためには、今世紀末までに1000億から1兆トンの二酸化炭素を除去しなければならないという。1兆トンの二酸化炭素は、現在のペースの排出量のほぼ30年分に匹敵する。

二酸化炭素を大気から抽出する方法はいくつかある。多くの木を植える、草原など自然に土壌中に炭素を保持している地域を復元する、二酸化炭素を吸収する植物などのバイオマスを燃料とし、使用するときに排出量を回収する(このプロセスは二酸化炭素を回収・貯蔵するバイオ燃料として知られる)、といった方法だ。

だが、2018年10月の全米アカデミーズの報告によれば、こういった方法だけでは、少なくとも食料が必要ならば、温暖化による気温上昇を2℃に抑えるには十分ではないという。それだけの量の二酸化炭素を回収するのに必要な土地の広さは、大量の農業食料生産を犠牲にして実現するものだからだ。

ラックナー教授たちが開発する大気回収装置の魅力は、はるかに小さな土地面積で同じ量の二酸化炭素を吸収できる点だ。大きな問題点は、現時点では植樹の方がはるかに低コストということだ。二酸化炭素1トン当たり約600ドルという現在のコストで1兆トンを回収にするには、世界の年間GDPの7倍を超える約600兆ドルが必要となる。

ハーバード大学のキース教授が2018年夏に発表した論文では、同教授が設計を手伝った大気回収システムが本格稼働した場合、コストは最終的に1トン当たり100ドル以下になると試算している。ブリティッシュコロンビア州に本拠を置くカーボン・エンジニアリングは、試験プラントを拡張して、回収した二酸化炭素と水素を組み合わせた合成燃料の生産量を増やしているところだ。こういった合成燃料は、ディーゼル燃料やジェット燃料に転換され、化石燃料を新たに掘り出す必要がないためカーボンニュートラルとみなされる。

キース教授の方法を用いて1トン当たり100ドルで二酸化炭素を回収できるのなら、こういった合成燃料を市場で販売しても、公共政策による支援があれば利益を出せるだろう。例えば、カリフォルニア州の再生可能燃料基準や、欧州連合の新たに策定された再生可能エネルギー利用促進指令(Renewable Energy Directive)などだ。こういった類の早い機会を与えることにより、テクノロジーのスケールアップや、コスト削減、市場の開拓が促進されると期待されている。

https://www.technologyreview.jp/s/129898/one-mans-two-decade-quest-to-suck-greenhouse-gas-out-of-the-sky/