水道水の水源となる貯水池での「カビ臭」について、神戸市水道局は原因となる植物プランクトンを分解する微生物が水草に密集していることを発見した。水質汚染や温暖化を背景に国内外で水源の臭いが問題になる中、身近な微生物の力を生かして解決できる可能性があり、同局は今秋から実用化に向けた実証実験に乗り出している。(石沢菜々子)

 同局によると、カビ臭の原因は、生活排水などによる水質の悪化で増殖した植物プランクトンで、「アオコ」と呼ばれている。国内だけでなく、海外の水道事業者を悩ませ、経済発展が急速に進むアジアの新興国で特に深刻という。

 神戸市ではカビ臭の少ない貯水池から取水し、さらに活性炭による高度な浄水処理をしているため「水道水のカビ臭はほぼない」(同局)。ただ、水質の悪化が進めば将来的に対応できなくなる恐れがあり、8年前からカビ臭プランクトンの根本的な抑制の研究に取り組んでいる。

 同局は、日々の水質検査から、カビ臭プランクトンの一種「アナベナ」が晩秋に減少し、その際、微生物がアナベナに付着していることに着目。無菌培養したアナベナを使った実験で、増殖を抑制する微生物などを特定した。2016年にはアナベナを分解、死滅させる微生物が、湖沼に自生する水草の表面に密集していることも突き止めた。

 実証実験は同市兵庫区の烏原(からすはら)貯水池の一角で9月にスタート。管理がしやすい日本古来の水草ササバモを入れた容器12個をロープでつなぎ、水中のアナベナの数を毎日確認している。来年度にも同市の自主水源としては最大の千苅(せんがり)貯水池(同市北区)で実験し、効果的な配置方法などを調べる。

 実験を担当する同局水質試験所(同市兵庫区)の清水武俊係長(39)は「近年、カビ臭の問題は各地で深刻化している。水源の根本的な問題解決のため、世界初の研究を実用化につなげたい」と話す。

【アオコ】「ラン藻」と呼ばれる水中の植物プランクトンが大量に増殖する現象で、湖沼などが緑色の粉をまいたようになる。生活排水や農業排水などによる水質悪化で、窒素やリンなどの栄養物質が多く流入すると発生する。ラン藻のうちアナベナは特に異臭を放つとされる。

■異臭味被害、全国で増加傾向

 植物プランクトンの大量発生が原因とされる水源の「カビ臭」。神戸市のように、高度な浄水処理によって水道水の段階では取り除けても水源周辺で臭いが問題になることがあり、根本的な水質改善が課題となっている。

 厚生労働省の調査によると、全国でカビ臭などの異臭味被害を受けた浄水場は、ここ数年増加傾向にある。2016年度は135の浄水場から被害が報告され、前年から約2割増えた。全国の約6400浄水場の約2%に当たる。

 ただ、被害を報告した水道事業者の給水人口をみると、1990年度の約2160万人をピークに激減。16年度は約86万人だった。小規模な浄水場での被害が増えているとみられる。

 厚労省の担当者は「高度な浄水処理を導入するなどしている自治体では被害が抑えられているが、規模の小さな自治体の場合、予算や人員面で対策が追いついていないのではないか」と指摘している。

■水草を入れた白い容器を浮かべ、実証実験が始まった烏原貯水池
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■カビ臭プランクトン「アナベナ」の顕微鏡写真
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