ヨルダンでおよそ14,400年前のパンのかけらが見つかった。人類が農耕を始める4,000年も前の話だ。
いままで発見されたパンとしては世界最古なうえに、
人類は農耕文化を築き上げる前からすでにパンを食べていたことを裏付ける貴重な手がかりとなりそうだ。

ヨルダンの首都アンマンから北東の方角に130キロメートルほど離れたShubayqa 1遺跡。
そのかまどの底で発見された24片のパンはいずれも数ミリにしか満たないかけらばかりで、焦げて炭のようになっていた。
それらを強力な電子顕微鏡で調べた結果、
今でも中東やインドなどで食べられている平たい円形のパンの一部だったことが判明したそうだ。

Shubayqa 1遺跡にはナトゥフ文化と総称される狩猟採集民が暮らしていたことがわかっており、
パンが作られた時代にまだ農耕は始まっていなかった。このことから、
Shubayqa 1に住んでいた中石器時代人はおそらく野生の穀物類を採取し、脱穀してから粉を挽き、
それに水分をくわえてこねてからかまどで焼いていたと考えられる。

品種改良が重ねられた現代のパンコムギに比べたら、その祖先であるヒトツブコムギ、
カラスムギやオオムギの作物近縁野生種(crop wild relative)は穂が短く、粒も小さくて実りが少なかった。
それを野山で摘み取ってふるいにかけ、粉にしてからパンを作る一連の作業は、
おそらく現代の常識で考えたら恐ろしく手間がかかったに違いない。

これだけの手間をかけてでもパンを作りたかった背景には、おいしさや食べやすさはもちろんのこと、
なにか特別な食べ物として重宝されていた可能性が高いという。

研究に携わったコペンハーゲン大学のアマイア・アランツ=オテギ(Amaia Arranz-Otaegui)教授と
ロンドン大学のドリアン・フラー(Dorian Fuller)教授は、
パンというこの特別な食べ物をもっと容易に作りたいとの動機があったからこそ農耕が始まったのではないかと推察している。
中石器時代に始まった農業革命を読み解く大胆な新説だ。

ナトゥフ文化は狩猟採集から農耕への移行期だったことが今までの研究でも明らかになっている。

「ナトゥフ文化の後期には定住が多くみられ、
また食生活にも変化が見られたことは興味深い」と話すのはShubayqa 1遺跡での発掘調査を率いた
トビアス・リクター(Tobias Richter)氏だ。鎌のかたちをしたフリント石器や石うすが見つかっていることからも、
ナトゥフ文化の人々はすでに植物を栽培し始めていたと考える考古学者も多いそうだ。

自然の恵みを享受するだけでは効率が悪い。
そこで、自分たちで植物の世話を行うことでより実り多き秋を迎えることができないか――。
この思考の転換はまさに歴史的だ。そのきっかけとなったのが、ナトゥフの人々も愛した、
そして現代人も愛してやまないパンだったのだろうか。

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■パンが見つかったかまどの跡
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