■ニワトリやカモの祖先が、焼け野原からの復興を果たした

 今から6600万年前の白亜紀末、直径約15キロの小惑星が地球に衝突した。
爆発の威力は原子爆弾100万個分に相当し、ほとんどの恐竜を含む地球上の生物の4分の3が絶滅した。
しかし、一部の系統の恐竜は生き残り、小惑星衝突後の過酷な世界を生き抜き、繁栄して、今日の鳥類になった。

 長らく疑問とされていたのは、白亜紀の終わりの大量絶滅を生き延びられなかった鳥もいれば、
生き延びられた鳥もいたのはなぜかということだった。

 このほど研究者が学術誌『Current Biology』オンライン版に発表した論文によると、
小惑星の衝突とその余波により世界中の森林が破壊され、
先史時代の樹上性の鳥たちが大量に絶滅したからではないかという。

 生き残ることができたのは、カモ、ニワトリ、ダチョウの祖先に当たる、地上性の鳥たちだけだった。
英バース大学のダニエル・フィールド氏が率いる古生物学者チームによると、
大量絶滅を生き延びた鳥たちは短期間に爆発的に進化して、
私たちにおなじみの現生鳥類の系統のほとんどが生じたという。

「絶滅と生き残りの両方を説明する、興味深い新仮説です」と、
鳥類進化の専門家である米テキサス大学オースティン校のジュリア・クラーク氏は評価する。


米国の農場のニワトリ。小惑星衝突による大量絶滅を生き延びた鳥類は、
ニワトリ、カモ、ダチョウの祖先を含む地上性の鳥だけだったようだ。

 フィールド氏は、「最近になって、鳥類、哺乳類、顕花植物などの今日の主要な生物群の進化史が、
白亜紀の終わりの大量絶滅によってどの程度の影響を受けたかが注目されるようになりました」と説明する。

「小惑星衝突という地球規模の大災害は、こうした生物群の進化の道筋に消えない痕跡を残したため、
6600万年後の今になってもまだ識別することができるのです」

■焼け野原から生態系が復興した
 この仮説を裏付けるため、フィールド氏らは、独立した情報源から大量の証拠を収集した。
集められた証拠には、新たに作成された現生鳥類の巨大な系統樹、新たに発見された化石鳥類からの手がかり、
小惑星の衝突直後に堆積した岩石層中の胞子や花粉の分析結果などが含まれていた。

「少しずつ研究を進めました」とフィールド氏は言う。

 最初に行ったのは、進化史とともに鳥類の生態環境がどのように変化したかの分析だった。
1万種以上の現生鳥類の進化的な関係を検討した研究チームは、
初期の生き残りの鳥たちが地上性だったと見られることに気づいた。
これは、この鳥たちが生き残った当時に地球規模の森林破壊があったことを示唆している。

「分析結果は、現生鳥類の最も新しい共通祖先と、
白亜紀の終わりの大量絶滅を生き延びたすべての系統の鳥類が、地上性であったことを示唆していました」とフィールド氏は言う。

 研究者たちは以前から、小惑星の衝突によって世界中で森林火災が発生したと推測していた。
けれども今回の研究チームは、この推測をさらに進めて、森林は完全に破壊されたと主張する。
共同研究者である米スミソニアン国立自然史博物館の古植物学者アントワン・バーコヴィチ氏は、
ニュージーランドと米国を含む世界中の多くの地域から岩石中に含まれている胞子や花粉の化石の個数のデータを収集した。

米国プラシッド湖にいるカモの仲間、カワアイサ。

 小惑星の衝突から1000年ほどの間に形成された薄い岩石層では、
岩石中に含まれる胞子の70〜90%がわずか2種のシダに由来していた。

「シダの急増は、植物が一掃された土地で先駆種が急速にコロニーを再形成する『災害植物相』の証拠です。
今日でも、ハワイの溶岩流や火山噴火後に地滑りが起きた場所などでシダが繁茂する現象が見られます」とバーコヴィチ氏は言う。

 成熟した森林が回復するには数千年かかったかもしれず、植物の構成は元通りにならなかったかもしれない。

 また、白亜紀後期の最も一般的な化石鳥類(エナンティオルニス類という原始的なグループ)の分析結果は、
その多くが樹上性だったことを示唆している。エナンティオルニス類は1種も生き残っておらず、
論文ではその理由を、彼らの生息地が完全に消滅したからだろうと推測している。
関連ソース画像
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/052700185/01.jpg
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/052700185/03.jpg

ナショナルジオグラフィック日本版サイト
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/052700185/
続く)