生物が生きる上でアミノ酸の構成要素の「窒素」は不可欠の物質です。
しかし、植物は窒素を空気中から直接取り込むことはできないため、
空気中の窒素を固定化できる特殊な菌を利用することもあります。
窒素固定のために菌と共生してきた植物の遺伝子情報を調べたところ、
進化の過程で何度も共生関係を解消してきた過去があることが判明しています。

Phylogenomics reveals multiple losses of nitrogen-fixing root nodule symbiosis | Science
http://science.sciencemag.org/content/early/2018/05/23/science.aat1743
https://i.gzn.jp/img/2018/05/28/multiple-losses-nitrogen-fixing-root/00_m.jpg

Plants repeatedly got rid of their ability to obtain their own nitrogen | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2018/05/plants-repeatedly-got-rid-of-their-ability-to-obtain-their-own-nitrogen/

Plant symbioses -- fragile partnerships -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/05/180524141556.htm

他の生物と同様に植物にとってもアミノ酸などの生態に必要な分子を作るために窒素が不可欠です。
空気の約8割を占める窒素ですが、
不活性なため直接体内に取り込むことはできず「固定化」することが必要です。
植物は空気中の窒素を固定化することができないので、
基本的には肥料など水素と結合した形で土壌から窒素を体内に取り込むことになります。

これに対して、一部の菌は空気中の窒素を固定化することができ、
この菌を体内に取り込んで共生する植物がマメ類などでいくつか知られています。
この菌は「根粒菌」と呼ばれ、
その名のとおり「根粒」と呼ばれる植物の根のコブにとどまり植物とともに生活します。
これは、「根粒菌は植物のために窒素を固定化したアンモニアを提供し、
植物は光合成によってエネルギー源を作り出して根粒菌に生命維持のために提供する」という
持ちつ持たれつの関係となっています。

ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンを中心とする国際研究グループが、
根粒菌と共生する植物を含む37種類の植物のゲノムを分析しました。
研究者らは根粒菌と共生するのに必須条件とされる
「Nodule Inception(NIN)」と呼ばれる遺伝子に注目したところ、いくつかの異なる系統の変化の中で、
機能が有効化と無効化を繰り返してきたことが分かりました。
驚くべきことに、イチゴ、リンゴ、ブラックベリーの中には過去に菌と共生していたことのある品種も確認されています。

根粒菌と共生する植物は、土壌から窒素を取り込むことが難しい環境の中でも、
菌から安定的に窒素を提供してもらうことで生き残ってきたと考えられていますが、
環境の変化に応じて菌との共生を止めることが頻繁に起こっていた理由について
Maximilian Griesmannさんは「菌との共生のコスト」を挙げています。
研究者によると、根粒菌と共生する植物は菌の生命活動だけでなく
窒素固定のために消費されるエネルギーも提供しなければならず、
この合計エネルギーは非常に高いとのこと。
水やリンなどの利用条件が変わると、菌との共生コストが割に合わなくなり、
共存関係の解消を植物が選択することがあるというわけです。


農作物に窒素を効率的に与えるため化学肥料が用いられていますが、化学肥料の製造工程を含めると、
化学肥料の使用が温室効果ガスの排出を増やしてしまうというデメリットが指摘されています。
この問題を解消するために、生物の体内に窒素固定できる遺伝子を組み込もうという研究が行われていますが、
今回の研究を行った研究者は、
植物が自らの選択によって根粒菌という窒素固定能力を取り除いた過去があるという点には留意すべきだと述べています。

GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20180528-multiple-losses-nitrogen-fixing-root/