チューリッヒ大学の研究チームは、野生のネズミを飼いならした結果、ネズミの見た目が大きく変化したことを発表しました。
これまで「動物は人間によってなつきやすいよう選択的に交配されると見た目が変化していく」ことは分かっていましたが、
今回の研究では選択的な交配を行わずとも見た目が変化していったことが確認されたとのことです。

UZH - Mice Change Their Appearance as a Result of Frequent Exposure to Humans
http://www.media.uzh.ch/en/Press-Releases/2018/Self-domestication-House-Mouse.html

(PDFファイル)Madeleine Geiger, Marcelo R. Sánchez-Villagra and Anna K. Lindholm. A longitudinal study of phenotypic changes in early domestication of house mice.
http://rsos.royalsocietypublishing.org/content/royopensci/5/3/172099.full.pdf
https://i.gzn.jp/img/2018/03/19/self-domestication-house-mouse/00_m.jpg

ブタはもともとイノシシを家畜化した生き物として知られています。
また、オオカミを家畜化したことで派生した種だと考えられてるイヌは、人間になつきやすいよう選択的に交配することで、
「耳が垂れる」「牙が小さくなる」など見た目に大きな変化が現れました。
このように、飼育される動物に見られる外見の変化を「The Domestication Syndrome」(家畜化症候群)と呼ぶこともあるとのこと。
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チューリッヒ大学の進化生物学環境研究部門に所属するアンナ・リンドホルムさん率いる研究チームは、
チューリッヒ近くの納屋にいた野生のハツカネズミを捕まえて約15年にわたって飼育を続けていたところ、
10年もたたないうちに「褐色の毛皮に白い斑点が現れる」「鼻が少し短くなる」という外見上の変化を確認できたとのことです。
以下の画像は実際に研究チームが飼いならしたネズミです。
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このような家畜化症候群の研究は1959年にソビエト連邦でも行われていました。
ソ連の遺伝学者であるドミトリ・ベリャーエフさんは野生のギンギツネを飼育し観察するという研究を行いました。

ベリャーエフさんはなるべく人間になじみやすいキツネを選択的に交配しました。
すると「体格が小さくなる」「尾がくるんと巻き上がる」など、数千年かかって進化して得るはずの外見上の変化をわずか数年で得られることを発見したそうです。
そして交配開始から9世代後のキツネには垂れ耳とまだら模様が見られるようになり、
人間に対して尾を振りながらくんくん鳴いて甘えるという、野生では有り得ないような行動をとるようになったとのこと。
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なぜ家畜化症候群が見られるのかについては、まだはっきりとは分かっていませんが、
初期胚神経堤の幹細胞に原因があるとみられています。神経堤の幹細胞はメラニン細胞やホルモン産生細胞などに分化します。
神経堤の幹細胞群が小さいと、ストレスホルモンを産生する副腎が小さくなり、おだやかで人間にもおびえない性格になるとのこと。
同時に耳の軟骨の形成・皮膚の色素沈着なども抑えられるため、人間になつきやすい性格をした動物を選択的に交配させた結果、
副作用として垂れ耳や白い斑点など外見の変化が現れやすくなるのではないかと予想されています。

ただし、チューリッヒ大学の研究チームが飼育していた野生のハツカネズミは、人間に懐きやすくなるような意図的な交配を行わず、
定期的に食糧と水を与えながら観察を続けていただけでした。それにもかかわらず、まるでネズミが自分から人間に飼いならされていくように、
ネズミの外見が変化する様子が観察できたとのことで、野生のハツカネズミが人間の目にさらされながら生活することで、
「自己家畜化」という現象を見せたことが分かりました。

研究チームに所属するマドレーヌ・ガイガーさんは「ネズミが1万年以上も昔に食糧目当てで人間のすぐそばに生息し始めたのは、
この自己家畜化によるものと考えられます。イヌの起源も、人間による積極的な飼育ではなく、
野生のオオカミが人間の近くに住み始めて自己家畜化したことによるものかもしれません」と主張しています。

GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20180319-self-domestication-house-mouse/