人間の心理を研究する心理学に対しては、専門家に限らず一般人にも興味を抱く人は多いものです。
心理学の分野では多くの入門書が出版され、ベストセラーになった本も多く存在しますが、
「アメリカでベストセラーになっている多くの心理学入門書に誤りが含まれていた」という調査結果が明らかになりました。

Best-selling introductory psychology books give a misleading view of intelligence – Research Digest
https://digest.bps.org.uk/2018/03/08/best-selling-introductory-psychology-books-give-a-misleading-view-of-intelligence/

ユタ・バレー大学の研究者たちは、アメリカで最も有名な心理学入門書のベストセラー29冊について分析しました。
その結果、大学の教科書にも使用されているこれらの入門書のうち、
実に4分の3にあたる書籍に科学的誤解を招く致命的な誤りが含まれていると結論づけました。

研究グループのウォーン氏らによると問題のあった書物には、合計で43件の不正確な記述、
正確性に疑問のある129件の記述、論理的に間違っている51件の記述が含まれていたとのこと。
「これらの書物を使うことで、心理学の入門者に誤った科学的知識を植えつける可能性がある」としています。

多く見られた誤りとして、ハワード・ガードナー氏による「多重知性理論」に言及したものが93%、
そしてロバート・スターンバーグ氏が提唱した「知能の鼎立理論」に言及したものが89%にのぼったとのこと。
いずれも「知性」を複数に分割しようと試みた理論ですが、これらは学会の主流でもなければ科学的な確証もない
https://i.gzn.jp/img/2018/03/12/psychology-books-mislead-intelligence/01_m.jpg

ウォーン氏によると問題のあった書物に多く見られた誤りは、「知能は正確には測定不可能だ」というものでしたが、
ウォーン氏によると知能の測定は他の心理学的事実を証明するより簡単だそうです。
また、知能は学問的成果にしか反映されない要素だという主張もありましたが、
知能は平均余命や自動車事故での死亡リスク、キャリア成功など多くの非学業的要素にも反映されるとのこと。

また、「ヒトの遺伝子は99%が共通しており、個々の差を生み出すのは遺伝的要因ではなく環境的要因だ」とする
リチャード・レウォンティン氏の学説を支持する本もありましたが、
「ほんのわずかな遺伝子の違いが大きな変化をもたらすのは明白だ」とウォーン氏は切り捨てています。
なお、レウォンティン氏の学説はソビエト連邦で発生した反遺伝子学運動(ルイセンコの虚偽)と同様のものとして、
「ネオ・ルイセンコ主義」といわれることもあります。

ウォーレン氏は心理学入門書の分析を通して、多くの誤りが「知性とその他の要因との関連性」と、
「知性に対する遺伝的影響」に関する学問的研究を軽視した結果だとしています。
「これらの書物は、知能に対する遺伝的要因を研究したイギリスの心理学者イアン・ディアリー氏や
ロバート・プロミン氏らの研究成果を全く無視しています」とウォーレン氏は述べています。

アメリカでは毎年100万人を超える学生が、入門的な心理学の講義を受講しています。
多くの学生は必要な科目の一部として受講するだけであり、
その入門講義のみが心理学の知識として植えつけられる可能性も高いとのこと。
ウォーレン氏らの研究グループは、
学生がこれらの不正確な心理学入門書を通して誤った知識を持ちかねないと危惧しています。

「一般的な人々の心理学に対する理解を向上させるためには、
このような入門的学習段階で正確な知識を持つことが必要だ」として、
心理学入門書の質を改善する必要があると、ウォーレン氏は結論づけています。

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https://gigazine.net/news/20180312-psychology-books-mislead-intelligence/