モウセンゴケが生きた昆虫を捕らえている場面に遭遇するのは、さほど珍しいことではない。
食虫植物がやせた土壌から得られる少ない養分を補うために、昆虫から養分を摂取することもよく知られている。

 ただしそうした光景の裏側には、食虫植物の狡猾な策略があるのかもしれない。
科学誌「Ecological Research」に九州大学の田川一希氏らが発表した論文によると、
日本の湿地に生息する2種のモウセンゴケは、
近くに生える植物の花に引き寄せられてきた昆虫を盗み取っているのだという。

 これは、これまで動物でしか確認されていない「盗み寄生(労働寄生)」の例だと考えられる。
「盗み寄生」の状態にある生物は、他の種から食物を手に入れる一方で、相手には何も返さない。
たとえばグンカンドリは、アカアシカツオドリから餌を横取りする習性がある。

「わかっている限り、こうした現象は過去には確認されていません」と田川氏は言う。


■花粉を運んでもらうよりは餌に

 田川氏らは、シロバナナガバノイシモチソウ(Drosera makinoi)と
ナガバノイシモチソウ(Drosera toyoakensis)という2種のモウセンゴケが獲物を引き寄せる様子を調べた。
モウセンゴケ自体の花と、近くに生えた植物の花の誘引機能に着目し、
一方または両方の花を取り除いた状態で捕らえられた昆虫の数を比較した。

 驚いたことに、捕らえられた昆虫の数は、近くにある食虫でない植物に花がついているかどうかによって変動した。
これは奇妙なことだ。なぜなら近くにある植物にとっては、モウセンゴケと関係を持っても何の利益にならず、
ひいては自分の花粉媒介者になる昆虫を食虫植物の獲物にするために、わざわざ花を咲かせているようなものだからだ。

 授粉を昆虫にたよっている食虫植物もいる。
そうした食虫植物にとっては、昆虫を生かしておくことにも意味がある。
実際のところ、多くの種が一部の花粉を運ぶ昆虫を生かしておくよう進化しており、
たとえば花を咲かせ終えてから罠が機能し始めるものもいる。
だが、今回の研究の対象となったモウセンゴケの場合は、自らの花粉で種子を作ることができる。

「自家受粉を行うモウセンゴケにとっては、花粉媒介者を罠で捕まえて栄養にした方が得なのです」と田川氏は言う。

続きはソースで

画像:ナガバノイシモチソウの捕虫葉に捕獲されたハエの1種。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/030800107/22.jpg
画像:ナガバノイシモチソウ(Drosera toyoakensis)の花を訪れたヒメヒラタアブ。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/030800107/25.jpg

ナショナルジオグラフィック日本版サイト
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/030800107/