〈研究成果〉

金星軌道への投入成功直後の2015年12月、金星探査機「あかつき」は中間赤外カメラ(LIR)および紫外イメージャ(UVI)の観測により、
南北方向に約10,000 kmにおよぶ巨大な弓状模様が、秒速100mの風に流されることなく高度70kmの雲頂上に現れていることを発見しました。
またその成因が遥か70km直下に位置する金星の地形(アフロディーテ大陸)によるものであるとする発見は、
これまでの金星気象学の常識を覆す発見として大きな驚きをもって世界に発信されました。
興味深いことに同じアフロディーテ大陸上空を捉えた2016年1月の観測では弓状構造は確認されず、
弓状構造は常に存在するわけではなく、何か条件が整ったときに発生することが示唆されていました。
そこで本研究では2年以上にわたるLIRの観測データを詳細に調べることで、
巨大弓状構造の発生に必要な条件は何か解明することを目的に実施されました。
まず驚かされたことに、あかつきが初めて発見した巨大弓状構造の発生は決してまれなものではなく、
アフロディーテ大陸を含む金星の低緯度に存在する山脈地帯の上空に次々と発生し(2-3か月に1回のペース)、
かつ1度発生すると1か月近く存在し続けることが確認されました。
特に4つの標高の高い山脈(図1)上空での発生が多数確認され、
LIRの連続観測画像からいずれも定在する(同じ位置にとどまる)現象であることが確認されています(図2)。

つづいて各地点での地方時ごとに弓状構造の発生タイミングを調査したところ、
どの山脈上空でも正午を過ぎ夕方に差し掛かるところでほぼ確実に弓状構造が発生していることが確認されました。
金星の地面に立って考えると、
毎日夕方頃になると上空に定在する弓状構造が発生するのです(ここでいう「毎日」は金星にとっての1太陽日=116.75地球日の意味)。
地球では海風・陸風など日々発生する現象は多く知られていますが、金星では初めての発見となります。
このような観測事実から、2017年9月13日に見られた「笑顔の金星」も
標高の高い山脈がちょうど夕方に差し掛かったため発生したものと理解でき、
「笑顔の金星」は金星に毎日発生することが予想されます。次の発生が楽しみですね。
弓状構造は地表面付近の下層大気で励起され、雲層まで伝播する「大気重力波」と呼ばれる波が形作るものと理解されています。
またこのような波は伝播にともない大気のエネルギーを運び、風の強さに影響を与えることが知られています。
特に弓状構造のように定在する波はスーパーローテーションを減速する効果が予想されます。
励起メカニズムはいまだ解明されていないものの、定在弓状構造は定期的に発生していることから、
本研究はこれまで考えられていなかった「定在する波」の効果を金星大気の研究に取り込む必要があることを主張する結果となっています。
この研究成果は、Kouyama et al. "Topographical and Local Time Dependence of Large Stationary Gravity Waves Observed at the Cloud Top of Venus" として、
地球物理学専門誌 "Geophysical Research Letters" に2017年12月に掲載されました。

図1: (a)金星に見られた弓状構造と(b)その発生位置。白実線で標高3km以上の範囲を示している。
http://akatsuki.isas.jaxa.jp/study/assets_c/2017/12/kouyama-etal_2017_fig1-thumb-700xauto-2993.png

図2: 各地点におけるLIRの連続画像。秒速100mの風は12時間で経度方向に40°程度移動するのに対し、弓状構造が発生位置を変えていないことがわかる。
http://akatsuki.isas.jaxa.jp/study/assets_c/2017/12/kouyama-etal_2017_fig2-thumb-700xauto-2996.png

JAXA
http://akatsuki.isas.jaxa.jp/study/001089.html