今年も異能と天才たちにまばゆい光が当たった。スウェーデン発、ノーベル賞だ。国別受賞数では米国が断トツの345と2位イギリスのざっと3倍。7位のわが国も大したものなのだが、巷では基礎研究の足腰に陰りが見えるともっぱらの噂だ。ところが、灯台もと暗し。探せばいる、いた。21世紀のニッポンを支える天才、異能の面々が。その一人を紹介する。

物理学の中でもっとも難解な分野の一つとされる量子力学。興味を持ったのは9歳の時だった。

「スティーブン・ホーキング博士など物理学者が書いた本に出合ったのがきっかけです」

都内の私立高校1年の近藤龍一君(16)。12歳の時に、『12歳の少年が書いた量子力学の教科書』(ベレ出版)を書き上げた。専門家でも難解な量子力学の本を12歳で書いたのは最年少という。

無類の本好きだ。幼少期からあらゆる学問分野を読みあさり、例えば世界史のような遠い世界に興味があった。中でも、不可解で現実の常識がまったく通じない量子の分野は、究極の遠い世界だった。

この不可解なものを理解したい──。10歳で量子力学の独学を始めた。その過程で、入門書と専門書の間に位置する量子力学の本がほとんどないと実感。中学受験の翌日から執筆に取りかかり、夜から朝にかけて4〜5時間、220日をかけて一気に原稿用紙400枚以上にまとめた。心掛けたのは、入門書と専門書の「懸け橋」になる本、だ。

「ミクロの物質は粒子の性質と波動の性質を同時に持つなどという、量子力学のミステリー性をできるだけわかりやすくしたいと思ったのが一つ。それと、半導体やICなどのハイテク分野はすべて量子力学の産物です。量子力学が完成して100年近く経ちますが、現代科学に立脚する基礎科学として一般常識のレベルにまで普及してほしいと考えました」

本を出してくれる出版社探しに3年かかり、今年7月にようやく出版。テーマは難解だが幅広い年代に好評で、すでに5刷。受験生のため今は学業優先としながら、素粒子物理学を独学で研究している。

「素粒子物理学は量子力学の延長線上にありますが、紀元前から人間が追い求めてきた、万物の根源は何かという最終的な答えを導くものです。その点で言うと、素粒子物理学は物理学の頂点。そこに惹かれます」

将来の目標は「もちろん理論物理学者」で、重要な発見ができ、いい教科書が書けて、いい講義ができる研究者になりたいという。

「それが人材を育成し科学を発展させることにつながります」

若き頭脳はすでに、100年後を見据えている。(編集部・野村昌二)

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