2017年9月5日
理化学研究所
日本医療研究開発機構

発達期の脂肪酸不足が統合失調症発症に関連
−核内受容体を標的とした新しい治療薬へ期待−

統合失調症は、幻覚、妄想、認知機能異常などの症状が現れる代表的な精神疾患です。男女とも、主に思春期以降の10代〜20代に発症します。発症には、遺伝要因ほかに環境要因も関わってきます。

この環境要因の一つに、妊娠中の母親の栄養不足が挙げられています。というのは、20世紀のオランダと中国で起きた大飢饉の期間に妊娠した母親から生まれた子どもは、その後の統合失調症発症率が通常の2倍になったという報告があるからです。しかし、このような環境要因と精神疾患をつなぐ分子や生物学的メカニズムの手がかりはありませんでした。

今回、理研を中心とする共同研究グループは、統合失調症の臨床的・分子遺伝学的知見から、「発達期の多価不飽和脂肪酸の欠乏」が統合失調症発症に重要であると考えました(多価不飽和脂肪酸は、脂質の構成成分である脂肪酸の一種です)。共同研究グループは、マウスの脳発達期に多価不飽和脂肪酸の中でも特にアラキドン酸とドコサヘキサエン酸の摂取制限を行い、成長後にどのような異常が現れるかを詳しく調べました。その結果、アラキドン酸/ドコサヘキサエン酸欠乏食を投与したマウスでは、統合失調症に類似した@行動変化、A脳内の神経活動の変化、B脳内の遺伝子発現変化、が認められました。また、アラキドン酸/ドコサヘキサエン酸欠乏食を投与したマウスでは、@-Bの変化と並行して、核内受容体遺伝子(特にRxra、Ppara)の発現低下とDNAメチル化状態の亢進が起こることもわかりました。これらの結果は、@脳発達期の不飽和脂肪酸欠乏が将来の精神疾患発症リスク増大につながる可能性、Aそのメカニズムとして核内受容体遺伝子のDNAメチル化変化が関与する可能性(図参照)、B核内受容体作動薬が統合失調症の新しい治療薬になる可能性、という三つの可能性を示しています。

本研究により、初めて栄養と精神疾患発症メカニズムの関係を分子レベルから説明する手掛かりが得られたと考えられ、学問的に大きな意義があると言えます。また、今後、核内受容体(RXR, PPAR)を標的とした新しい創薬への応用も期待されます。

▽引用元:理化学研究所 60秒でわかるプレスリリース 2017年9月5日
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170905_2/digest/

報道発表資料
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170905_2/

図 核内受容体パスウェイと統合失調症様表現型の関連
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2017/20170905_2/digest.jpg