化学的手法でクモの糸を創る
−クモ糸タンパク質の構造を模倣したポリペプチドの合成−

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター酵素研究チームの土屋康佑上級研究員と沼田圭司チームリーダーの研究チームは、高強度を示すクモ糸タンパク質のアミノ酸配列に類似した一次構造[1]を持つポリペプチドを化学的に合成する手法を開発しました。
また、合成したポリペプチドはクモ糸に類似した二次構造[1]を構築していることを明らかにしました。

クモの糸(牽引糸)は鉄に匹敵する高強度を示す素材であり、自動車用パーツなど構造材料としての応用が期待されます。
しかし、一般的にクモは家蚕のように飼育することができないため、天然のクモ糸を大量生産することは困難です。
また、一部の高コストな微生物合成法を除くと、人工的にクモ糸タンパク質を大量かつ簡便に合成する手法は確立されていません。

今回、研究チームはこれまでに研究を進めてきた化学酵素重合[2]を取り入れた2段階の化学合成的手法を用いて、アミノ酸エステルを材料にクモ糸タンパク質のアミノ酸配列に類似したマルチブロックポリペプチドを合成することに成功しました。
また、X線散乱実験による構造解析により、合成したマルチブロックポリペプチドがクモ糸タンパク質と類似した二次構造を構築していることを明らかにしました。

本研究で確立した合成手法を用いると、微生物合成法よりも低コストで、大量のポリペプチド材料を得ることができます。
得られた材料は既存の石油由来の高強度材料の代替品として、持続可能社会の実現に大きく貢献すると期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『ACS Macro Letters』オンライン版(1月17日付け)に掲載されました。
--- 引用ここまで 以下引用元参照 ---

▽引用元:理化学研究所 プレスリリース 2017年1月19日
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170119_1/

図1 クモの牽引糸のアミノ酸配列
クモの巣の縦糸に使われる牽引糸はポリアラニン配列(図の赤い配列)とグリシンを多く含む配列(黒い配列)が繰り返し現れる構造を持ち、この特殊な配列が構築する高次構造が高強度を発現する。
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2017/20170119_1/fig1.jpg
図2 2段階の化学合成手法によるクモ糸タンパク質に類似したポリペプチドの合成
化学酵素重合により、それぞれ硬い構造および柔らかい構造を形成するポリアラニン配列およびグリシンを多く含む配列の2種類のポリペプチドブロックを合成した。
引き続き、重縮合によりこれらの配列をつなげることで、クモ糸タンパク質の持つ繰り返し配列に類似したマルチブロックポリペプチドを合成した。
二次構造を調べた結果、ポリアラニン配列由来の逆平行βシート構造が形成されていることが分かり、クモ糸と類似した二次構造を構築していた。
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2017/20170119_1/fig2.jpg