すべてが起こるべくして起こったこと、それには何の意図もないこと、
そして、すべての人は死んでしまい、すべてのものは滅んでしまうこと、
このことにも何の意味もないこと、
このことを四六時中考えていると、暗黒を突き抜けて不思議に明るい気持ちになってくる。
中島義道『観念的生活』


ある人を殺したいほど憎いのだったら、
ただちに殺人を実行するのではなく、自分の憎しみと正確に向き合うこと。
その憎しみがどういう構造をしており、どういう原因によって成立し、
殺すことによってどんな効果を及ぼすことになるか、時間をかけて冷静に観察すること。
中島義道『怒る技術』


私がイヤなのは、わかる努力をしようともしない人のところへ、
なぜわかっている人が降りていかなくてはいけないのかということです。
無知な私にわかるように学者や専門家は話すべきだ
――こうした要求を出す人が当然のようにのさばっている状況がある。
中島義道『人生、しょせん気晴らし』


「何でも質問しなさい」という言葉がじつは大ウソであることを
子どもたちは次第に全身で見抜いてゆく。そして、子どもたちは知らず知らずのうちに、
むしろ「語らないほうが得」であることを学んでゆくのである。
中島義道『うるさい日本の私』


おびただしい人々が芸術家に憧れるのは、私の考えでは、
好きなことができるということのほかに、まさに社会を軽蔑しながら
その社会から尊敬されるという生き方を選べるからなんだ。
社会に対する特権的な復讐が許されているということだね。
中島義道『働くことがイヤな人のための本』


私たちが生きるということは、他人に迷惑をかけて生きるということであり、
とすると「ひとに迷惑をかけるな」と命ずることは
「生きるな、死ね!」と命令するようなもの。
中島義道『私の嫌いな10の人びと』


本当に『嘔吐』は何度読んでも泣きたくなるほどすばらしい作品です。
「現在だけしか存在しない」こと、
過去は「自分の思想(<こころ>)の中にさえも存在しない」こと、
この驚くべき発見を日常的な場面でえぐるように描写することにかけて、
サルトルの右に出る者はいない。
中島義道『哲学の教科書』


私は確信するが、孤独とはたいそう贅沢な境遇である。
孤独な時間、われわれは存分に自分を鍛えることができる。
孤独を「紛らす」のではなく、孤独によってずっしりと与えられた時間を
額面どおり受けとめて、豪勢に使うことができる。
中島義道『孤独について』