二年ぶりの感謝祭が迫り、皆が慌ただしく動いている。
現地設営部隊や当日の顧客対応部隊に始まり多くの人が入念な仕上げをする。
直接表に出ない開発すら当日の展示の最終調整で深夜まで吉岡の檄が飛ぶ。

そんな中、「首切りファントム」の噂が立った。

真夜中に一人で働いていると鼻が曲がるような刺激臭がする
それに気が付いたら絶対に振り返ってはいけない。
背後の暗がりから
ハァハァという音が遠くから聞こえる。
ヒタヒタと濡れた足音が
次第に近づいてくる
最後には生臭い息が首筋にあたり
両肩を痛いほど強くつかみ
そして耳元で囁く
 「俺『も』今週感謝祭ですよ」
一切答えてはいけない
一切反応してはならない
しばらくすると、シクシクと泣く声が聞こえ、肩にぽたぽたと涙が落ちる
それから足音が次第に次第に遠ざかり
振り向くとそこには誰もいない
ただ激臭だけが残っているという

深夜に異臭に気が付いたら絶対に振り返ってはいけない
したが最後
落ち武者のような様相の男が近づきこちらの顔を覗き込み
親の仇でも見るような恨めしい赤い目で睨みつける
そして地の底から響くような声で呪いの言葉を吐く
 「ァジで何であんたが参加できるのよ…」
そのままふっと姿を消す…
翌朝、机の上には解雇通知が置かれ
その社員は二度と姿を見せないという…