百済神州は60の国際臨床試験を今進めている。和黄中国医薬科技が発見、開発した中国初のがん治療薬は現在、米国で臨床試験が進む。がん患者の免疫療法を使った新しい臨床試験数で中国は17年、米国を上回った。

新たなメカニズムによる医薬開発のブレークスルーはめったに起きない。欧米では大学研究機関がバイオのスタートアップのインキュベーターとなっているが、米調査会社サンフォード・C・バーンスタインのシャン・フー氏は、中国の基礎科学を大学研究機関で治療に発展させていくのは始まったばかりだという。だが中国が欧米に追いつくのは時間の問題で、米臨床試験受託のパレクセルのチャン・リー氏は、30年までに追いつく可能性があるという。

■欧米の法外な薬価に圧力かかる可能性も

中国が医薬品で技術革新を起こすようになれば、今の欧米の法外な薬価に圧力がかかる可能性がある。先進的な医薬品を欧米の同等の薬より7割安く販売している中国のバイオ企業もある。上海に新施設を開設するスイスの医薬品生産受託企業ロンザのマルク・ファンク最高経営責任者は、「(それらの中国の医薬品は)品質面で劣っていない」という。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、自国の製薬産業を早急に世界一にしたいと考えている。医薬品は中国のハイテク産業育成策「中国製造2025」にも入っている。中国のある製薬企業トップによると、政府が製薬産業の改革に力を入れるのは他の改革と同様、社会安定のためだ。米国で既に使われている有効な医薬品が中国でなぜ入手できないのか疑問視する患者の数は年々増えている。

白血病患者の実話に基づく昨年のヒット映画「我不是薬神」(邦題「ニセ薬じゃない!」)の公開2週間後、中国の李克強(リー・クォーチャン)首相は当局に安価ながん治療薬を迅速に入手できるよう求めた。

■過大評価の企業もあり、課題は少なくない

だが中国の医薬品業界は今後、壁に直面する恐れがある。第1の懸念は、がん治療に取り組むバイオ企業があまりに多い点だ。後期臨床試験の結果が出るに従い、企業の淘汰が進むだろう。競争の激しい市場では販売にこぎ着けても淘汰されるかもしれない。1社か2社失敗すれば、中国投資家がバイオから手を引く恐れもある。

中国ヘルスケア分野への投資で知られる大手VCの啓明創投のニサ・ロン氏によると、中国投資家がバイオ事業で学ぶべきことは多い。例えば、香港でいち早く上場した複数の企業は過大評価され、株価はその後下落した。和黄中国医薬科技や再鼎医薬(Zai Lab)、百済神州など中国最大手は、バイオ分野に詳しい投資家の助けを借り、ニューヨークかロンドンに上場している。だが全企業にその選択肢があるわけではない。

第2の懸念は、中国の製薬のインフラがまだ脆弱なことだ。国際基準を満たす臨床試験施設は多くあるが、満たさない施設もある。免疫療法関連の薬は製造が難しく、失敗のリスクが高い。習氏や李氏の政治的圧力が、当局や企業に無理を強いるリスクもある。成熟した欧米市場と異なり、品質問題が1件でも起きれば中国のバイオ業界全体の信用を損なう恐れもある。

経済が発展途上にある中国で、このように複雑な産業が誕生、成長していく際、困難に直面するのは避けられない。もし製薬各社が困難を克服できれば、医薬品は「メード・イン・チャイナ」から「中国で発明された」に変わっていくだろう。