・急成長する中国製薬産業(The Economist)

北京の資金が潤沢なバイオ企業、百済神州(BeiGene)の新しい研究施設には50万に上る化合物を試験するスクリーニング装置、1万匹の動物がいる動物実験センター、そして昨年、米製薬大手ファイザーの中国法人トップから百済神州の中国事業責任者に転じたウー・シャオビン氏がいる。同社は事業を急拡大しており、特に遺伝子・細胞医療など最先端研究に携わる研究者の数は昨年からほぼ倍増し、雇用も増えている。

2010年設立の同社は、急成長する中国医薬品産業を様々な意味で象徴している。ニューヨークの資産運用会社が9月5日、米ナスダック市場に上場している同社が売上高をかさ上げしていると批判したが、同社は不正を否定。投資家はそれを信じたようで、当初17%下落した株価の半分は既に回復している。

株式市場が肯定的に判断したのは、中国製薬業界の将来性を高く評価しているからだ。中国の製薬市場は16年に世界2位に浮上した。市場規模は18年に1370億ドル(約14兆円)と、この6年で倍増した。米国のまだ約4分の1だが、30年には半分に成長すると予測されている。成長の大部分は中国製薬各社によりもたらされる見込みだ。

■今や4億人が高額医療保険に加入する中国

中国製薬業界が変わり始めたのは、中国が医薬品関連の規制を国際水準に合わせ始めたことが大きい。15年以降迅速に進むようになった医薬品の承認プロセスは、米国をモデルにしている。臨床試験の進め方も欧米を基準にしている。中国政府がこれら新規制を発表すると、3000もの後発医薬品の承認申請が取り下げられ、多くの競争力のない企業は排除された。17年以降は国外で進めた臨床試験の結果に基づいて医薬品の承認を得ることも可能になった。

同時に国営病院が15年以降、医薬品を一括調達し始めたことで高額だった後発薬の値下げにもつながった。ある推計では、これで年間約300億ドルをがんの新薬など高額医薬品に振り向けられるようになった。中国では今や約4億人が高額な新薬もカバーする医療保険に入っている。

中国の製薬各社は今、研究開発と研究者に巨額資金を投じている。中国で最先端の医学分野のイノベーションを起こそうと取り組む研究者には、海外の一流大学を卒業した者や、外国の製薬大手に就職したものの「ガラスの天井」を感じて中国に帰国した者が多くいる。13年以降、海外から帰国し、生命科学の分野で働く人は約25万人に上る。

■上海開発区だけでバイオ企業1000社がひしめく

中国高額医薬品市場の急拡大は、中国製薬各社への投資でバブルも招いている。その様子を米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーのフランク・ル・ドゥ氏は「まるで(様々な生物が出現した)カンブリア紀のようだ」と言う。ベンチャーキャピタル(VC)と未公開株に投資するファンドが中国のバイオ企業に投資した額は18年、約170億ドルに達したという。その多くは中国国内の資金だ。中国有数の規模を誇る産業開発区である上海張江ハイテク産業開発区のバイオ地区には、今や10年前の10倍に上る1000社以上がひしめく。

中国のバイオの同国医薬品市場に占める比率は12%と、世界平均25%の半分以下だ。バイオ企業の多くは設立間もなく、利益も上げていないが急成長している。今年1〜6月に新規株式公開(IPO)したバイオ企業の資金調達額世界トップ10社のうち5社は中国企業で、その調達額合計は約16億ドルに上った。香港証券取引所は昨年、有望な企業にニューヨークやロンドンではなく香港で上場してもらうべく上場ルールを緩和、利益を上げていないバイオ企業でも上場できるようにした。

中国製薬企業の多くは海外で承認された薬か開発の後期段階にある薬を中国市場向けにライセンス生産、販売する形でスタートするが、多くはすぐ独自の開発体制を築く。だが最近は、設立当初から世界を見すえ、特に収益性が見込める米国市場に狙いを定めて創業する企業が多いとル・ドゥ氏は言う。中国企業数社は欧米で最終段階の臨床試験を進めている。中国企業による複数の国・地域で進める臨床試験数は13年の4つから18年は26になった。
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2019/9/30 23:00 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50383970Q9A930C1TCR000/