・太平洋諸国で存在感を強める中国 米国は「肉食獣の経済力」を懸念

日が昇る前の早朝、潮が引いたサモアのサバイー島では、米国が作った古い滑走路の残骸が姿を現す。何十年もの間、浸食やサイクロン、津波にさらされていたものだ。
この第2次世界大戦の遺構があるアサウ地区には、1960年代に作られたコンクリート製の波止場もあり、天然の入り江に守られている。サモア政府と、地区の首長を務めるマソエ・セロタ・トゥファガ氏(71)によると、この地で中国が新たな港湾の建設を検討しているという。
有事に軍事施設として利用できるこの港湾建設計画は、1945年以降、広大な海洋支配を独占してきた米国、そして地域の同盟国の懸念を呼んでいる。
自身が保有するココナツとカカオの農園で取材に答えたトゥファガ氏は、中国の影響力が拡大することは懸念しているものの、政府が中国と港湾建設に合意すればそれに従うと話した。
「政府と中国はこの場所を視察に来て、提案をしてきた」と、アサウ地区の土地利用について最終的な決定権を持つトゥファガ氏は言う。
「中国がこの土地を使いたいと言うなら、我々が政府に対してノーと言うのは難しい。職を探してる人が多いんだ。そうだ、結局はカネだよ」

・日本からの投資
米国と、その同盟国である日本やオーストラリア、ニュージーランドは、中国の影響力に対抗するため太平洋地域に配置する外交官の人員を拡充している。そして太平洋の島しょ国に対し、中国政府が資金提供するプロジェクトは、財政的に合理的なものでなければならないと警告している。
エスパー米国防長官は4日、訪問先のシドニーで、中国が「肉食獣の経済力」を用いてインド・太平洋地域を不安定化させていると批判し、米国はパートナーと共に、地域の緊急性のある安全保障上のニーズに対応していくと述べた。
ロイターはこの記事を書くに当たり中国外務省にコメントを求めたが、直接的な回答はなかった。ただ、中国による支援は、太平洋地域で歓迎されていると過去に説明した。習近平・国家首席は昨年開かれた地域フォーラムで、中国からの借款は「罠」ではないと語っている。
太平洋の島国は陸地面積こそごくわずかだが、広大で資源豊富な排他的経済水域を持ち、アメリカとアジアの境界になっている。
第2次世界大戦では、米国を始めとする連合国が南太平洋における重要な戦いで日本軍に勝利し、形勢を逆転させた。
また、太平洋諸国は国連などの国際会議でそれぞれ1票を持っている。台湾の主権を認める国の3分の1は、この地域にある。
アサウ地区や、もう1つ別のプロジェクトの候補地に挙がっているバイウス湾に中国資本の開発が入れば、世界最大のこの海で、港湾開発競争を引き起こしかねない。
日本は、サモア唯一の商業港であるアピア港の整備に数十億円を投じたほか、埠頭(ふとう)と商業地区を結ぶ橋を建設している。
在サモア日本大使館の貴志功参事官は、日本は平和と安定のため、アピア湾の整備も含めて太平洋地域に貢献していると話し、地域秩序の維持に大きな関心を持っている、と付け加えた。
米国と同盟国は太平洋地域で歴史的に主導的な立場を取ってきたが、中国も多くの国々と長期の関係を築いてきた。
サモアは1976年に中国を承認。歴史的に中国からの移民も多く、国勢調査によると、約20万人の住民の6分の1が中国人の血を引いている。
中国を強く支持するトゥイラエパ首相は昨年、太平洋諸国の債務問題はそれぞれの国の責任だと発言。中国の融資を批判するのは横柄だと表現した。
同首相はロイターに対し、地政学的な恐怖感によって、必要なインフラ開発が妨げられるのは認められないと述べ、サモアは、米国やその同盟国のものではない「独自の理屈に従う」と話した。
「彼らの敵は我々の敵ではない」──。
アピアの執務室で取材に応じたトゥイラエパ首相はこう述べ、「軍事的な話は何もしていない。我々が関心を持っているのは、必要な物資を運ぶ船や、われわれの海産物を輸出する漁船が寄港できる埠頭だけだ」と、強調した。

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2019年8月13日(火)17時30分 Newsweek Japan
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/post-12752.php