・ カトリック神父が少年に性的虐待 東京サレジオ学園で2人の元園児が被害を訴えていた

 3月9日発売の文藝春秋3月号で、私は「カトリック神父『小児性的虐待』を実名告発する」というレポートを発表した。イタリアに本部を置く世界規模の修道会が東京・小平で運営する児童養護施設「東京サレジオ学園」に50年以上前に在園した竹中勝美氏(62)が小学4年だった当時、元園長のトマス・マンハルド神父から1年間にわたって受けていた性的虐待のなまなましい実態を語った。

 男性神父が未成年の少年に性的関係を迫る性的虐待は、米国、アイルランド、ドイツなどカトリック信徒が多くいる国々を中心に十数か国に広がっているが、これまで日本では新聞の国際面のニュースと受け止められ、「対岸の火事」に過ぎなかった。だが、それは誤った認識だったのだ。

日本人として初めての告白

 今回日本人として初めて被害を明らかにした竹中氏の告白には、大きな反響があった。私の元には、カトリック信者のみならず、プロテスタントの牧師や仏教の僧侶たちからも「他人事とは思えない」という多くのメールやツイートが寄せられた。それらの反響は、同じような被害体験を抱え込んで苦しんでいる人が全国に存在している可能性があることを示唆していた。

「事実をあかるみに出してくれた竹中さんの勇気に敬意を表する」と共感を示すもの、あるいは「組織にメスを入れるときだ」という教会に厳しいもの、そして「被害にあわれた方々が癒されること、加害者が誠実に犯した過ちを認め謝罪することが必要です」というシスターからのメッセージもあった。

東京サレジオ学園からの回答

 雑誌が発売されて6日後の2月15日金曜日の夕刻、東京サレジオ学園から一通のメールが届いた。そこには「1月10日に受信した取材願いに回答する」という旨が記されていた。じつは私は取材の過程で東京サレジオ学園に質問状を送っていた。「竹中氏への虐待を認めるか」、あるいは「竹中氏以外にも被害者はいたのか(調査はしたのか)」などについて問う内容だが、締め切りまでに回答を得ることができず、今回のレポートには反映できなかった。

 今回、東京サレジオ学園側がA4判用紙3枚にわたって書き綴った回答を通じて、新たな事実が発覚した。竹中氏以外にも2人の元園児の男性が被害を申し立てていたというのだ。

性的虐待は事実なのか? の問いに対し…

 重要な内容なので、一問一答を以下に示そう。まずは竹中氏が告白したマンハルド神父による性的虐待は事実なのか、という問いにはこう回答した。

〈虐待があったとされる時期からは50年以上の年月が経過しており(略)私共がお答えするのは非常に難しく、そのような事実を確認する事ができなかった、という事しかお答えできない〉

 注目すべきは竹中氏への虐待について「事実を確認する事ができなかった」とする点だ。マンハルド神父は病のため晩年帰国し、1986年、西ドイツ(当時)ロッテンブーフの修道院でぼうこう癌のため亡くなっている(享年73歳)。事実を立証する当事者がいないため、“真実は藪の中”というのである。

 レポートでも述べたが、竹中氏は性的虐待を受けた直後から結婚して子供ができるまでの約20年間、虐待を受けたトラウマから体験した性的行為の記憶を「ないもの」として暮らしていた。

 30代半ばにふとしたきっかけから起きたフラッシュバックによって一連の記憶を取り戻してしばらくした2001年、竹中氏は学園に対して事実や被害の広がりを調査するよう申し立てたが、その際も学園は「確認できません」と返答した記録が残っている。

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2019.02.19文春オンライン
http://bunshun.jp/articles/-/10781