・中国発「アヘン」、米に大量に流入

中国北東部の河北省●(刑のりっとうがおおざと)台で1年余り前、化学品の輸出会社が入居するアパートに警察の家宅捜索が入った。そこで見つかったのは、違法薬物を外国のウェブサイトで宣伝するために採用された、英語の堪能な女性たちだった。中国の裁判所で今年11月、この会社の経営者を含む9人が、違法薬物を製造して米国へ郵送したという罪状を認めた。

米国へ送られた薬物には、強力な鎮痛作用を持つ医療用合成オピオイドの一種で、既に何万人もが過剰摂取によって中毒死している「フェンタニル」が含まれる。

中国でこの捜査が開始されたきっかけは、同社の顧客だった人物を捜査していた米国の警察からの情報提供だった。米中の当局は、両国が捜査で連携できたことで2000万回分の服用に相当するフェンタニルの海外流出を防ぐことができたとしている。

中国政府は12月1日、米国で深刻な社会問題を引き起こしているフェンタニルの取り締まりを強化することをあらためて示唆した。アルゼンチンで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議後に開かれたこの日のトランプ米大統領との米中首脳会談で、習近平(シー・ジンピン)国家主席は、中国の一部の業者がフェンタニルを無認可のまま販売するのを許している中国の法の抜け穴を防ぐことに合意したのだ。

米国を筆頭に諸外国の政府は長年、こうした中国からの違法薬物の密輸を抑える対策を中国共産党に求めてきた。習氏が対応を約束したことを米ホワイトハウスは「素晴らしい人道的な意思表示だ」と評価した。ただ、それが中国や世界各地に実際にどれだけの効果をもたらすかはまだ不明だ。

■中国は世界の「脱法ドラッグ」工場

中国は19世紀の清の時代に英国と2度戦争して敗れたが、戦争の原因はいずれも、当時、輸出入が禁じられていたインド産ケシから取れる鎮痛作用のあるアヘンを英国が密輸して売りさばいていたことだった。だが今日、世界で最も主流の危険ドラッグ(脱法ドラッグ)は、植物からではなく合成化学物質からつくるケースが増えている。

中国には巨大な製薬・化学産業が存在するため、中国の同業界はこうした流れを受け、違法薬物を生産する格好の場となってきた。中国は現在、医薬品原料の輸出では世界首位にあり、全世界の化学品売上高の3分の1を占める。

米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障再考委員会」によると、中国では規制が緩いことから、合法的に製造された医薬品が闇市場に横流しされているという。違法な形で化学物質を合成するための原料や道具、人材を見つけるのもそれほど難しくない。

覚せい剤といえばかつては「アンフェタミン」や「メタンフェタミン」の製造が長年盛んで、それらは中国の近隣諸国でも生産されてきた。これらの覚せい剤は特に中国や先進国での乱用が増え、需要が拡大していた。ところが、米国で合成オピオイドを医療目的外で乱用するケースが急増し、社会問題となったことが皮肉にも新たな"事業チャンス"を生む形となっている。米政府は、米国で販売されている違法フェンタニルの大半は中国製だとみている。メキシコやカナダの犯罪集団が、錠剤になった合成オピオイドやその原料を中国の業者から買い付け、米国に密輸しているのだ。米国にいる買い手がオンライン通販で直接注文し、国際郵便で品物を送らせる方法もある。

ヘロインの30倍という強力な鎮痛作用を持つフェンタニルは、かなりの効果が得られる量でもかさばらないため検知しづらく、密輸しやすい。様々なパッケージに同封されている乾燥剤の小袋に見せかけて送ることもできる。米司法省の2017年の推計によると、中国で3000〜5000ドル(約34万〜57万円)で買い付けたフェンタニルを米国の街中で売りさばくと150万ドル(約1億7000万円)にもなるという。フェンタニルなどの合成オピオイドの過剰摂取による米国の死亡者数は14年の5000人から17年には約2万9000人と急拡大している。

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2018/12/19 1:00 The Economist/日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3909522018122018TCR000/