・米の知財保護、国際的枠組みは拒絶(The Economist)

5億6200万人のユーザー数を誇るビジネス向け交流サイト(SNS)の米リンクトインの不思議な点の一つは、たとえ実の母親に忘れられても、赤の他人が誕生日を祝ってくれることだ。だが、決してそれに返信してはいけない。相手は中国のスパイかもしれないからだ。

ロイター通信によれば、中国がリンクトインを通して「超積極的」な人材獲得戦を展開しているとして、米防諜(ちょう)機関が懸念を強めているという。中国が求めているのは医療や自然エネルギー、高度技術の専門家だ。米国の他の情報機関も神経をとがらせている。米連邦捜査局(FBI)は中国が「前代未聞の規模で」産業スパイ活動を繰り広げていると危機感を募らせている。米国家安全保障局(NSA)は、米国は「猛攻撃を受けている」とする。

・既存の枠組みでは欧米は知財権を守れない

こうした情報機関による警告の背景には、知的財産が国外へ漏洩していることへの欧米の怒りの渦がある。欧州連合(EU)は6月1日、世界貿易機関(WTO)に対し、欧州企業が知財の正当な対価を受け取ることを中国が阻んでいると訴えた。米ホワイトハウスが3月に発表した215ページに上る中国の貿易慣行に関する報告書は、知財権侵害に関する記述で満載だ。あからさまな盗用や米企業が中国で設立した合弁事業の提携先から技術移転を強要された例が記されている。米議会は8月1日、「重要な技術」が絡む外国企業との取引について、政府に広範な監督権限を与える法案を可決した。

米企業にとって、知的財産権の問題は大きい。というのも米企業の市場価値の8割は有形資産でなく、特許やブランドなど無形資産がもたらす。しかも、世界の知財の半分を所有している。米大手多国籍企業50社では、IT(情報技術)や製薬など多くの知財を抱える事業が、国外での収益の65%を稼ぐ。最近の花形企業は、国外で無形資産を売るのが主たる事業だ。例えば、動画配信の米ネットフリックスは、国外に7300万ユーザーを抱える。人工知能(AI)の半導体を手がける米エヌビディアは、売上高の87%が国外向けだ。

だが、多くの米経営者や米政府関係者などからすれば、知財権を守るためのグローバルな枠組みは機能していない。米国では1996年に外国の政府や企業による知財権の侵害を取り締まる「経済スパイ法」が成立したが、起訴件数は少ない。国外における知財権を保護するためのWTOの規則も実効性があまりない。そのため、米国では一方的な手段を使って、国外での権利を守ることが必要だとの声が今、強まっている。

企業としては、知財権をもっと厳格に管理して利益を最大化したいということだ。米ワシントンのロビー団体、「米国知的財産権窃盗に関する委員会」の試算では、米企業が、知財権侵害で被る損害額は年間約6000億ドル(約67兆円)に達するという。

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2018年9月19日 2:00 日本経済新聞
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO35469620Y8A910C1TCR000