6月12日に予定されている米朝首脳会談と、
先週の貿易を巡る米中の対立再燃の影でほとんど注目されなかったものの、
インドが東南アジア一帯で外交・安全保障の関係強化に動いている。

中国をけん制する狙いがあることは明白だ。

モディ首相が11カ月後に控えた総選挙に労力を割かれる可能性がある上、
こうした関係強化がこれまでにも長年「約束」されていたことを踏まえれば、
インド政府がどこまでこれらの関係を進めるのかは不明だ。
また、インドがすでに中国を揺さぶっているとするなら、インドとしても事を荒立てたくはないだろう。

だがモディ首相は最近、東南アジアで具体的な外交・安全保障上の手を打っている。

同首相は、インドネシアとの間で、同国北西部サバンの港湾開発の合意文書に署名した。
世界でもっとも交通量の多い水路の1つであるマラッカ海峡の西側の入り口を監視できる位置に港が造られることになる。
またシンガポールとの間で、寄航した海軍の艦船や潜水艦、軍用機などへの供給支援協定に合意した。

モディ首相はまた、マレーシアの首都クアラルンプールに飛び、
先月の総選挙で勝利したマハティール首相と会談。
東南アジア諸国の中でもっとも有力な3カ国との関係を着実に固めた。

モディ氏は1日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で、
インドは東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力し、
インド太平洋地域でルールにのっとった秩序を後押しすると表明した。

「われわれは、安定した平和な地域構築のため、個別にまたは3カ国かそれ以上の形で協力する」と、
モディ氏は同会議の基調講演で強調した。

マティス米国防長官を含めた数カ国の代表が、支持を表明した。

同会議が閉幕した3日、シンガポールのウン・エンヘン国防相はこう話した。
「インドがこの地域への強いコミットメントを表明し、多くの国が喜んでいるに違いない」

■中国の冷視線

米国やオーストラリア、インドや日本の外交・安全保障関係者の間では近年、
「インド太平洋」という表現が頻繁に使われるようになっている。
これは、民主主義国を中心としたより広範な地域を指す表現で、
一部で「中国中心」過ぎるという指摘が出ている「アジア太平洋」に代わって使われている。

地域でより重みを増すインドの重要性を追認する形で、米軍は5月30日に開かれた式典で、
ハワイを拠点とする太平洋軍の名称を正式に「インド太平洋軍」に変更した。

対外的な中印友好関係のデモンストレーションや、強固な両国関係についてのモディ氏の発言とは裏腹に、
中国政府は同氏の戦略に明らかに冷淡な反応を示している。

中国の共産党機関紙・人民日報系の環球時報は先週の論説で、
「もしインドが戦略的に重要なサバン島への軍事的アクセスを求めるなら、
誤って中国との戦略的競争にはまりこみ、いずれ痛い目に遭うだろう」と警告した。

シャングリラ対話に出席した中国人民解放軍軍事科学研究院のZhao Xiaozhou研究員は、記者団に対し、
モディ氏が「自らがインド太平洋と考えるコンセプトについて、いくつか熱心な発言をした」と述べた。

同研究員は詳細に言及しなかったが、環球時報は、「インド太平洋戦略と、米国と日本、
インドとオーストラリアの同盟もどきは、長くは続かない」とする同研究員の発言を引用した。

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ニューズウィーク日本版
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続く)